受賞者スピーチ 2019年度 朝日賞

 

朝日賞を受賞した(左から)多和田葉子さん、柳家小三治さん、斎藤通紀さん、東山哲也さん、朝日賞特別賞の田沼武能さん
=2020年1月29日、帝国ホテル

  2019年度朝日賞と朝日賞特別賞の贈呈式が1月29日、東京都千代田区の帝国ホテルで開かれました。
 受賞者のスピーチ(要旨)を紹介します。

 

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受賞者のスピーチ

◆こつこつ努力し、すいすい  小説家・詩人、多和田葉子さん


 

 1月1日の新聞に受賞のニュースが載りました。受賞者の顔写真も載っていて、私の頭の上に2千万円と書いてある。これは賞金ではなく、汚職の記事です。漢字は目を通して人間の心に訴えかけてくる。「汚職」という字はいかにも汚い。言葉は私に元気や考える意欲を与えてくれる素晴らしいもので、でもその言葉で表される世界の状況は大変なことになっています。
 おめでたい席なので、オノマトペおめでたいバージョンで、擬態語の非常に短いテキストを読んでみたいと思います。
 《ぱちぱち拍手で/堂々登場/はればれ舞台で/どんどん活躍/こつこつ努力し/せっせと働き/すいすい進むよ……》 。
     ◇
 たわだ・ようこ 日本語とドイツ語で創作活動を行う。著書に「犬婿入り」「献灯使」など

 

 

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◆もっとやれ、ということか  落語家・柳家小三治さん


 

 すいませんけど私ね、朝日新聞とってないんです。でも毎日何十年となく通っている近所の喫茶店で朝日を読むのを楽しみにしています。内緒ですけど、明日から朝日とろうかなと。
 この賞を何でもらったんだか、よく分かりません。ただそういう順番がきたのか、他に適当な人がいなかったのか分かりませんが、「これからもっと一生懸命やれよ」という言葉の代わりとも受け取れます。私はつい昨年末に70歳になりました。え、80歳? いくつであろうと言葉はしゃべるし、お仕事があって喜んでくれる人がいればおはなしをするし、そんな暮らしをしています。このブロンズ像、一体いくらで売れるのかね?
     ◇
 やなぎや・こさんじ 59年入門。落語協会会長を務めた。重要無形文化財保持者(人間国宝)

 

 

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◆医学に新しい可能性、示す 京都大教授・斎藤通紀さん


 

 生殖細胞は精子や卵子になり融合し、新しい命が生まれます。私は、「死」という現象への小さな小さな「抵抗」の一端として、極論すれば死なずに生命情報をつなぐ、この細胞の解明をめざしてきました。
 私の研究は、生殖細胞が作られるメカニズムをマウスで明らかにし、iPS細胞などから生殖細胞を作ることができると証明したものです。サルやヒトにも展開し、ヒトのiPS細胞から卵子のもとの細胞を作れるようにもなりました。研究を通じて、ヒトや霊長類の進化機構を明らかにし、医学に新しい可能性を提示することをめざしています。より一層、研究に邁進(まいしん)していきます。
     ◇
  さいとう・みちのり 生殖細胞の発生機構を解明し、試験管内での作製に成功

 

 

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◆真理にこだわり、基礎研究  名古屋大教授・東山哲也さん


 

 植物はなぜ実るのか。受精の仕組みを研究してきました。植物にとっては次世代に命をつなぐ、人類にとっては食糧を供給してもらう重要なテーマです。  生きたまま、植物の受精を見ることに徹底的にこだわり、花粉から花粉管が卵に向かい、受精する映像を捉えました。
 花粉管を引き寄せる誘引物質も見つけました。この物質は、他の植物との受精を妨げる「種の壁」としても働いていました。これまでは偶然に起こってきた、違う種同士の交雑による新種の誕生を、効率よくデザインして行えるようになるかもしれません。真理の探究にこだわった基礎研究に今後も挑戦し続けたいと思います。
     ◇
  ひがしやま・てつや 植物の受精の仕組みを解明。花粉管を正しい方向に導く物質を発見

 

 

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【朝日賞特別賞】


◆原点は、空襲で死んだ子供  写真家・田沼武能さん


 

 私と同い年の91年になる朝日賞で写真家の受賞は土門拳先生1人。ほしいなと思ったが、「静観」していました。
 1945年3月の東京大空襲。米軍機による焼夷(しょうい)弾でわが家の周囲が燃え上がりました。隅田川の川べりで一夜を明かすと川いっぱいに水死体が浮かび、電車通りにも焼死体がごろごろ。自宅は焼失し、家の前の防火用水槽の中で3歳くらいの子供が直立の姿勢で焼け死んでいました。その姿が地蔵さまにそっくりで、以来、地蔵さまは子供の化身と思うようになり、それがきっかけで報道写真の世界に入り、ライフワークとして子供を撮っているのです。
     ◇
  たぬま・たけよし 長く写真の著作権保護活動に携わる。文化勲章受章者

 

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主催 朝日新聞文化財団