東京都立大学 Tokyo Metropolitan University

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東京から世界の未来へ向けて
新たな可能性に挑む
学問の力で、東京から世界の未来を拓く × Tokyo Metropolitan University

研究力の強化が
教育の質の向上に
2021年4月に東京都立大学の新学長に就任した大橋隆哉学長は、「研究力の強化が本学の最大の目標」と話す。
「現代社会は、環境問題や格差の解消など、多くの課題があり、さらにはデジタル化など、大きな生活様式の変化も進んでいます。これらのことに大学として貢献することは大切です。しかし、すぐには成果が出ないかもしれない基礎研究は、応用することで技術の進歩や発展へも寄与する人類の文化であり、そのような研究も支援していくことが大学の一つの使命であると考えています」
そのために東京都とも協力し、学長裁量枠による教員採用のほか、トップクラスの研究者を招いたりするなど、研究と教育の幅を広げている。
「研究を強化するというメッセージを打ち出すことが大事だと考えています。研究の強化が教育の質の向上にもつながっていくはずです」(大橋学長)
19年から国際センター長を務める綾部真雄副学長は、コロナ禍で海外での実地学習がオンラインに置き換わっている現状でも、研究と教育はしっかり守っていきたいと話す。
「『百聞は一見にしかず』で、見ないとわからないことは確かにあります。しかし、見えていないからこそわかることやできることもあるはずです。想像をたくましくしていくことで学ぶ力を増幅できると確信しています。文理の融合や分野を越えた自由な学びを実現するなど、さまざまな支援や仕掛けをいくつも用意しています」
コロナ禍が研究と教育にプラスに作用したケースもある。人間の健康や公衆衛生に関する国家間の連携や政治を研究するグローバルヘルス・ガバナンスを専門とする詫摩佳代教授が教鞭(きょうべん)を執る国際政治の授業がそのひとつだ。
「この授業は、もともと実験や実地での体験学習がないのでオンラインになった後も授業自体に大きな変化はなかったのですが、チャットで質問を受け付けたところ、学生の意見や質問が飛び交い、活発に議論が繰り広げられるようになりました」
これまでは恥ずかしくて直接質問できなかった学生たちが、オンラインなら顔を出さなくていいので積極的になったのが要因ではないかと分析する。さらに、授業のテーマが議論を後押しした。
「グローバルヘルスがテーマということで、コロナが広がる前より授業の反応がかなりよくなっています。期末に提出してもらった学生のレポートも、現状をしっかり分析し、優れているものが多くありました」
コロナ禍であってもコミュニケーションをしっかり保てたことで、成果をあげることができたと詫摩教授は目を細めた。
変化する学びのかたち
求められる国際化を
同大学は09年に国際センターを設立。また現在は海外の約200の大学と協定を結ぶなど、国際化を促進している。大橋学長は17〜18年には国際センター長を務めていたこともあり、さらなる国際交流の強化を進める。
「これまでは数値目標を設定していましたが、これからは質を重視、つまりしっかり身につく国際交流をめざしたいと考えています。例えば、海外協定大学のうち、英国のレスター大学、マレーシアのマラヤ大学など交流重点校の4大学とは、研究交流や学生交流などを通じてより密度の濃い交流を図りたいと考えています」
現国際センター長の綾部副学長は、コロナ禍で大学のグローバル化の功と罪が見えてきたという。コロナ前までは留学は「英語を学ぶ」「現地での経験を積む」などのさまざまな要素を詰め込んだものだった。しかし、コロナ禍を経ることで、オンライン英語学習や短期のインターンシップの持つ可能性などがこれまで以上にクリアになり、留学の在り方は総合パッケージ型から個々のニーズをくんだオンデマンド型に変わろうとしているという。
「そういう意味でコロナはグローバル化を変革させた触媒だともいえますね。私のような研究者だけでなく、学生も身をもって国際社会が緊密な相互依存関係にあることを学び直したと感じます」
留学に関しては、確固たる目的を持って臨む傾向が強まったことを、綾部副学長は学生と接するなかで、日々実感している。自分が関わっているのが人類学を専攻する学生ということもあるが、学生のグローバル化に関する意識がかなり高まっているという。
「学生たちは今、国内で語学を学んだり、現地に行ったときのための事前学習をしたりと、コロナ禍で生まれた時間を有効に使う努力をしています」と綾部副学長。都立大はそうした学生たちを積極的に支援し、学びの継続性を確保したいという。
緑豊かなキャンパスで
共に成長する
一部授業のオンライン化、海外研修の停止……。コロナ禍にあってさまざまなことが停滞している。そんな状況にあっても、都立大の学生は学習に、研究にと、前向きに取り組んでいると大橋学長も感じている。
「学生たちのポテンシャルはかなり高いと自負しています。首都・東京にあるため、学生も研究会や学会に参加する機会があり、刺激を受けることも多いですし、大学生活を送る上での素晴らしい環境がそろっています」
自身も同大学の大学院で学んだ綾部副学長はこう話す。
「学生の求めに対応できる環境がそろっていますし、大学スタッフが学習や生活をサポートしますので、大学生活を謳歌できます。バランスの取れた大学だと感じています」
詫摩教授は、同大学の「良さ」をこう説明する。
「優れた研究をし、それを教育に還元する教員たちがいて、これはとても誇れることです。学生も落ち着いていてまじめですね。都心から離れ、キャンパスが広く自然が豊かなことも影響しているかもしれません。じっくり学べる環境があるともいえますね。また、東京都の公立大学なので、都庁や都政のしくみを直に学べる機会もあり、本学の強みだと思います」
大橋学長は、同大学への進学をめざす若者たちに次のようなエールを送る。
「東京都立大学には、可能性を広げ、成長できる環境がそろっています。共に未来を拓いていきましょう」

COLUMN
学ぶ意識を大きく変え、
成長させる海外研修プログラム
「以前から将来は海外で仕事に就きたいと考えており、コロナ禍で先行きが不透明になったなかでも、新たなことにチャレンジしたいと参加を決めました」と話すのは、都市環境科学研究科博士前期課程2年の東しおりさん。
「このプログラムで、私は『高齢者の移動という課題解決』というテーマでマレーシアやシンガポールの大学や企業にプレゼンテーションをしました。そこで私が専門とする機能性高分子材料を生かした小型モビリティの導入を提案したのですが、先方から指摘されたのは『シンガポールでは公共交通網が発達しているので、わざわざ小型モビリティを利用する人は少ないのでは』ということ。マレーシアでは好評であった提案がシンガポールでは根本的な部分で通用せず、『これが対象とする国が変わったときの難しさか』と思い知らされました」
当初は戸惑いもあったが、共に参加した学生と協力し合い改善を重ねることで、最終日には英語で納得のいく発表ができ、自信につながったという。
「海外の研究者に自ら英語でメールを送ってアポイントメントをとり、水素エネルギーに関わる自分の研究についてディスカッションできたことは大きな経験になりました」
同じく、都市環境科学研究科博士前期課程2年で、博士後期課程への進学を予定している野本賢俊さんは、海外の研究者と交流したいなどの理由から参加を決めた。
野本さんは当初、英語での会話にためらいがちだったが、「これでは参加した意味がない」と、間違いを気にせず、自分の研究について積極的に議論するようにした。
「伝えるという意識や努力が大事だなと痛感しました」と野本さん。東さん同様、海外の研究者と直接議論できたことも将来につながる大きな成果だったと話してくれた。
