公立諏訪東京理科大学 Suwa University of Science

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AIを使いこなし、社会で
活躍するスキルを獲得する
諏訪から世界へ ×
Suwa University of Science

精密機械を中心とする工業が盛んな長野県諏訪地域。1990年、この地に東京理科大学諏訪短期大学として開学、大学への移行を経て2018年に公立化した公立諏訪東京理科大学は、AIを軸とした先進的な教育・研究で知られる。「AIを使いこなし、最新技術を常に自ら学び続ける能力を養う。それが、変化の激しい社会で活躍するためには必要と考えます」と小越澄雄学長は語る。
企業の研究経験を
大学での教育・研究に
自動車会社で車の振動騒音や安全性能の実験、さらに出向先の交通事故総合分析センターで交通事故分析の経験を積んだ國行浩史教授(工学部機械電気工学科)が、諏訪東京理科大学に着任したのは2017年のこと。交通事故の分析と自動車安全を研究テーマにした大学の研究室は全国的にも珍しく、「自分の思うようなかたちで研究を深められる」と、期待に胸を膨らませたという。
國行教授は長野県で発生した交通事故の特徴分析、事故要因の解明のため、長野県警の協力もいただき、学生たちと一緒に事故現場を調査。ドライビングシミュレーターや、事故再現シミュレーションソフトを使って、ドライバーの視線の動き、相手側からの見え方、死角などから事故を検証、分析している。また、事故現場周辺の道路を一定間隔で撮影し、3次元マップを作成。カーブの曲率や勾配のデータから事故率を算出したハザードマップを作ってホームページに公開している。

モノとデータに裏付け
られた真実の探求
いま力を入れているのが、自動運転時、あるいは自動運転から手動運転への切り替え時に懸念される事故の研究だ。自動運転には5つのレベルがある。1が自動ブレーキなどの運転支援、2が高速道路など特定条件下での自動運転(ハンズオフが可能)、3が高速道路などでの条件付自動運転、4が限定地域など特定条件下における完全自動運転、5が完全自動運転だ。運転主体は1・2が人、3~5がシステム(車)となっている。
「5は、極端に言うとハンドルが必要ない車です。2030年頃の実現が目標とされていますが、どうでしょうか。いまはレベル3まで来ていますが、一般道路では手動運転になるので、運転主体が車から人に変わる。この切り替え時の事故が懸念されているんです。そもそも交通事故の9割は人的要因と言われ、自動運転になれば事故が減ると期待されているのですが、一方で想定外の事故が起こる可能性もあります。交通事故ゼロの実現にはまだまだ課題が多いと思いますよ」と國行教授は言う。
実際に起きた交通事故の分析と異なり、自動運転はレベルが上がるほど未知の領域となる。現在、國行研究室では、ドライビングシミュレーターのほか、カメラやセンサーを搭載した自動運転のAI模型を走らせ、事故リスクの評価をしている。
「事故現場の調査などのフィジカルなアプローチと、それをシミュレーターなどのサイバー空間で再現・評価するアプローチ。両面を融合させながら、自動車の安全に対する研究を今後も進めていきたいと思います」
古くて新しい
ホログラフィの技術
「レイア姫のホログラム」。立体映像の研究者の間でこう呼ばれる主題がある。1977年公開の映画「スターウォーズ 新たなる希望」で、R2-D2が空中に映し出した立体映像(レイア姫)を今日の技術で実現しようというものだ。工学部情報応用工学科の山口一弘准教授もその虜(とりこ)になったひとりである。
ホログラフィは1947年にハンガリーの物理学者ガーボル・デーネシュ(1971年ノーベル物理学賞受賞)が発明した立体表示技術。光の波動を利用してモノの3次元情報を記録するものだが、発明から75年経つ現在も基礎研究の段階にある。
ホログラフィは記録と再生(表示)という2つのプロセスにより立体表示を実現する。記録は、物体に当てたレーザー光の反射(物体光)と、写真乾板などの記録媒体に当てた光(参照光)が、記録媒体上で干渉し、光の強度や位相情報を含んだ「干渉縞(かんしょうじま)」として記録される。これがホログラムだ。再生時は、このホログラムに参照光を照射する。すると、ホログラム上で光の回折という現象が生じ、そこに記録されている物体光が再現される。この光が目に届くことにより、物体の立体像が空中に浮かんで見えるのである。
山口准教授は、この原理をコンピューター上でシミュレーションする「計算機合成ホログラム」の研究を進めている。CGH(コンピュータージェネレイテッドホログラム)を作成し、空間光変調器という特殊なディスプレイ上にホログラムを表示、レーザー光で立体映像を浮かび上がらせるのだ。この研究が目指す先にあるのは、究極の3Dテレビである。
「3Dテレビの実現にはいくつもの課題があります。空間光変調器はまだすごく高価だし、今の技術ではごく小さな映像しか再現できません。伝送方式も今のテレビのやり方ではだめで、ホログラフィに特化した方式を考える必要があります」
ホログラムはすでにクレジットカードや紙幣の偽造防止に用いられている。しかし、3Dテレビやデータを3次元に記録するホログラフィックデータストレージ、超高解像度のホログラフィック顕微鏡などの実現にはまだかなりの時間を要する。
「3Dテレビは、私が生きているうちは無理だと思います(笑)。しかし、この研究は何をやるにしても新奇性がある。やりがいのある研究ですね」
公立化1期生が卒業
今後の活躍に期待大
「この大学の学生は素直でまじめ」と國行教授、山口准教授は口をそろえる。「その半面、大きな夢を持つのが苦手なところがある。もっと視野を広げて、日本で、世界で、どうすれば自分が活躍できるかを考えてほしいですね」(國行教授)。「もっとはちゃめちゃやっていい。盛大に失敗してもいいんですよ。受け身ではなく主体的に、自由な発想でやってもらいたいと思います」(山口准教授)
昨年3月、公立化第1期生が社会に巣立った。私立時代と比べて、有名企業への就職、難関大学の大学院への進学が増えたという。より高みを目指そうという意識は、一歩ずつ着実に、学生の中に芽生えてきているようである。

PRESIDENT’s MESSAGE 学長メッセージ
あなたたち若者です
小越澄雄 学長

「AI技術を修得するためのカリキュラムはすでに提供しており、また県下でも有数の計算能力を誇るAI用高速計算機や、大学単体としては全国初のローカル5G基地局の導入など、環境面も整えています。AI技術の進化は速く、プログラミングも簡単にできるようになりました。本学では『SUS-AIコンテスト』を毎年夏に開催していますが、昨年、最優秀賞をとった学生の一人は1年生でした。AIの勉強をまだ本格的にしていないのにです。つまり、AIのプログラミングはそれくらい簡単なものになり、エクセルのように誰もが道具として使える時代になったということです」
学生の腕を磨くコンテストには、地域の企業の課題を社員と一緒に検討する「IoT・AI-DXコンテスト」や、インターンシップの成果を評価する「GROWTH CHALLENGE」もある。また学生を応援する制度としては、国の修学支援新制度による授業料減免に、本学独自の支援を加えて全額減免する制度(新制度対象外で要件を満たす場合は2分の1減免)などもあり、さらに今後は研究・教育の効率化、質の向上を図るためDXを推進していきたいと小越学長は言う。
「AIを自らの能力を拡張する道具として使うスキルを身につけてほしい。そして成長の限界にある社会を変革し、新しい扉を開いてほしい。それができるのは、あなたたち若者です」