代々木ゼミナール Yoyogi Seminar

INFORMATION
変化の時代、
大学はいかにあるべきか
対談│長谷山彰さん × 髙宮敏郎さん

理事長 長谷山彰さん
共同代表
(代々木ゼミナール副理事長) 髙宮敏郎さん
変化が激しく、不測の事態が次々と起こる現代社会。そんな時代に大学はいかにあるべきか。
どのような教育を行うべきなのか。前慶應義塾長で、4月に北海道国立大学機構理事長に就任した長谷山彰さんと、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)の髙宮敏郎さんが語り合った。
社会の要請に応える
国公立大学の改革
髙宮 長谷山先生は長年、私学で教育研究、経営に携わった後、北海道国立大学機構の理事長に就任されました。現在、国公立大学についてはどのような印象をおもちですか。
長谷山 今、国公立大学では社会のニーズに応えた改革が、非常に速いスピードで進められています。国公立大学は税金で運営されているのだから、国民のニーズに応えなくてはならない。そのような強い意志を、文部科学省や大学関係者のみなさんから、ひしひしと感じています。
髙宮 北海道国立大学機構は帯広畜産大学、小樽商科大学、北見工業大学の経営統合によって誕生しました。このようなドラスティックな改革は、私立大学では難しいと思います。
長谷山 私立大学の場合、建学の精神に始まる伝統があるので、それを簡単に変えるわけにはいきませんし、大学において伝統は非常に重要です。しかし、英国のオックスフォード大学は900年以上、ケンブリッジ大学は800年以上、米国のハーバード大学は約380年という歴史のなかで培ってきた伝統を大切に守りながら、現代社会のニーズに応える改革をバランス良く行っています。
髙宮 何でもかんでも時代に合わせて改革すればいい、というものでもないわけですね。
長谷山 大学は本来、世俗から距離を置き、時代を超えて真理を追究する学問の府です。その本質的な価値はどんなに時代が変わっても、大切にしなくてはなりません。でなければ100年後、200年後の未来を切り開く知を生み出すことはできません。同時に時代の変化に合わせて、新しい人材教育やイノベーティブな研究を進める必要もあります。
髙宮 両者のバランスが大事なんですね。ただ近年は、過去から蓄積してきた人類の英知や文化を守り、継承するといった大学の役割が軽視されている気もします。
長谷山 ええ。今、ラテン語を母語とする国がないからといって、ラテン語で書かれた古典が不要なわけではありません。現代の視点で古典に光を当てることで、新たな鉱脈が見つかることもあります。例えば今、古民家が若者に注目され、起業や地域おこしの拠点として活用されています。古民家は時代遅れだからとすべて壊してしまっていたら、あのようなイノベーティブな取り組みは起こらなかったでしょう。

異文化と向き合う力
倫理観を育むべき
髙宮 現在、世界ではコロナ禍やウクライナでの戦争など想定外なことが頻発しています。このような変化と危機の時代に、大学はどのような教育を行うべきなのでしょうか。
長谷山 一言で言えば“多様な教育で、多様な人材を育てる”ことに尽きます。高度経済成長を目指す時代には、大学は平均的に優れた能力をもつ人間を、大量に社会に送り出せば使命を果たせました。ところが現代のように複雑で、想定外のことが次々と起きる時代には、均一的な人材を育てることは、むしろ社会にとってリスクとなります。
髙宮 組織に同じような人間しかいないと、想定外のことが起きたり、環境がガラリと変わったりすると、対応できません。
長谷山 環境にうまく対応し、変化できる生物は、普段は役に立たない遺伝子をたくさんもっていると言います。一見、無駄に見えるものが、変化に対応するうえでは重要なのです。
髙宮 社会にイノベーションをもたらす研究も同じですね。研究している時点では役に立つかどうか分からないからこそ、革新的なわけで……。
長谷山 その通りです。日本でもノーベル賞を受賞している方々は、その研究が役に立つかどうかなど考えず、ただ面白いから、好きだから続けてきたという人が多いですね。研究者の純粋な好奇心、探究心を無視し、こういう研究が必要だと押し付けるようなところからは、独創的な研究は生まれません。結果はどうなるか分からないけれど、長い目で温かく見守り続ける。研究に対しては、そのような姿勢が絶対に必要です。
髙宮 近年、日本の研究から独創性が失われていると言われるのも、その辺に原因があるのかもしれませんね。教育においても多様な人材を育てるには、学生の主体的な興味や関心を引き出し、伸ばす取り組みがもっと必要だと思います。
長谷山 大学教育では何より、目の前の課題の本質を見極め、流行に惑わされず独自の視点から解決を試みる思考力を養うことが大事です。さらにグローバル化が進むこれからは、異文化や自分とは異なる価値観を理解する力をつける必要があります。もっと言えば、理解するだけでは足りず、衝突が起きても、なんとか平和なかたちで解決に結びつける。そのために自分の考えを的確な表現で伝え、粘り強く交渉し、妥協点を模索する。そのような力はこれからの時代、どのような分野に進んでも必要となるでしょう。
髙宮 米国の高校・大学ではそのようなディベートやディスカッションを徹底的に行っていますよね。
長谷山 英国の名門高校や大学でも、古典や文献を十分に読み込んだうえでの議論を徹底して行っています。そこではただ自分が思いついたことを言うのではなく、発言に必ず文献に基づく根拠が求められます。日本の若者にも、このような訓練が必要です。もう一つ、日本の高等教育でもっと力をいれるべきなのが、倫理観を養う教育です。
髙宮 残念ながら、一流大学を卒業したエリートによる不祥事や事件が後を絶ちません。私もそのような教育は絶対に必要だと思います。
長谷山 コロナ禍の中でも差別や中傷、暴力がありました。特別なカリキュラムで道徳教育を行うというより、すべての学問・授業に倫理的な観点を盛り込むことが大事です。小説の中の話ですが、「医者が犯罪を考えると恐ろしいよ」というシャーロック・ホームズのせりふがあります。医学に限らず、大学で高度な専門知識を学んだ者には、その分、高い倫理観と責任感が必要なのだという自覚を、学生にもたせなくてはなりません。

地域で分野横断的な
教育・研究を推進
髙宮 長谷山先生は大学では法学部を卒業した後、文学部に再入学して史学も学ばれています。これからの時代、ダブル専攻や文理融合、分野横断的な教育で、複眼的な視点を養うことも非常に大事だと思います。
長谷山 法学と史学の二つの視点をもっていることは、案件に関するルールを確かめ、かつその背景を知る姿勢につながり、私が大学関係の仕事をするうえでも非常に役立っています。さまざまな分野で従来の枠組みが壊れていくこれからの時代、“分野横断”は教育でも研究でも、重要なキーワードです。
髙宮 その点に関しても、北海道国立大学機構は先進的な取り組みをされていますね。
長谷山 私どもの機構では、三つの大学の科目を横断的に履修できます。帯広畜産大学と北見工業大学が連携し、AIやIoT、ロボティクスを活用した次世代スマート農畜産業の研究も進めています。さらにそこでの生産品の販売や流通を、小樽商科大学がサポートする。そんな3校の強みを生かし、新たな付加価値を生み出す取り組みを、教育と研究の両面で行っています。このような分野横断型のプロジェクトを、地域の企業と連携して推進している国公立大学は、全国にたくさんあります。
髙宮 他に国公立大学で学ぶことのメリットを教えてください。
長谷山 一番大きなメリットは、一人の学生に対する教員の数が、私学より圧倒的に多いことでしょう。授業も実習も、まさに教員とひざをつき合わせて行えます。さらにその地域ならではの課題を解決するために、産官学が連携した独自の教育・研究プロジェクトに関われることも、国公立大学の大きな魅力だと思います。
秋からの共通テスト対策で
高い目標への挑戦を
座談会│船口 明さん × 福崎伍郎さん × 佐藤雄太郎さん

教育総合研究所
主幹研究員 船口 明 氏
教育総合研究所
主幹研究員 福崎伍郎 氏
教育事業推進本部
本部長 佐藤雄太郎 氏
大学入学共通テスト(以下、共通テスト)も2回実施され、ある程度方向性が見えてきました。そこで2022年1月実施の傾向を踏まえ、23年実施の共通テストの予想と対策について、代々木ゼミナールの佐藤雄太郎氏、福崎伍郎講師(英語)、船口明講師(国語)が語り合いました。
英語は問題が求めている
読み方をすることが大事
佐藤 22年実施の共通テストの国公立大学の出願状況は、前年から大きな変化はありませんでした。今は社会情勢への不安も重なり、地元安全志向、文低理高の傾向は23年も変わらないでしょう。一部の旧帝大では、地元エリアの志願者が増える傾向も見られました。ただ若干ですが、大都市圏の大学では回帰現象も見られます。22年実施の共通テストは全体的に難易度が上がり、とくに数学や理科などは平均点が低くなりました。その影響で、23年はもう少し難易度が下がり、解きやすい問題傾向になるのではないかと予想しています。
福崎 英語のリーディングでは設問を含めたワード数が全体で6千語ほどと、約500語も増えています。にもかかわらず、平均点は3点ほど上がっています。難問が減り、解きやすい問題が増えた結果だと思います。次の共通テストの難易度も、22年実施と大きく変わらないだろうと思います。
船口 国語は共通テストが本来目指している方向へ、少しずつシフトしている感じです。良問だったセンター試験のベースは受け継ぎつつ、複数の文章を比較・関連づけたりするようなタイプの設問も増えてきました。
福崎 共通テスト英語のリーディングは、大問によって問われる力が異なります。ウェブサイトやブログから必要な情報を素早く探す力、事実と意見を判別する力、アカデミックな文章を要約する力など、その問題が求めている力に応じて、臨機応変な英語の読み方をする必要があります。また大問は順番に難易度が上がっていくので、過去問などで自分が得意とするタイプの問題と苦手とするタイプの問題を見極めて効率のよい対策をすることをおすすめします。

国語は「大意の把握」プラス
「緻密(ちみつ)な読解」
船口 限られた時間内で問題文と選択肢を吟味する必要がある共通テストタイプの問題では、受験生はどうしても「ざっと本文を読み、選択肢を素早く照合する」という〈解くための読み〉になりがちです。生徒たちはよく「大意はわかっている」と言うのですが、入試問題は本来、そのような「大まかな理解に留まる人」と「緻密に理解できている人」を区別するためのもの。大意の理解に留まっていてはダメなのです。緻密な理解のためには、やや複雑な文の主述関係が指摘できたり、指示語の指示内容を簡潔にまとめられたり、文の係り受けが整理できたりするような力が不可欠です。これらは、そのまま2次試験に通用するような本質的な〈読解力〉と言えます。
佐藤 共通テストから全科目、設問で読むべき文章量が多くなり、そこから的確に必要な情報を読み取り、学習内容と結びつけて解答を導き出す思考力、応用力が問われています。普段の勉強から、このような点を意識しておくことが大事ですね。そのためにも、各教科の基礎知識を正確に定着させることが、ますます重要になってきています。
福崎 そのような読解力、思考力は英語の2次試験にも役立ちますね。2次試験は8割ほどが長文読解の記述式問題です。それも評論文や論説文が中心なので、日頃からニュースや社会の出来事にも関心をもち、長文の文脈や論理展開を丁寧に読み解き、根拠をもって説得力のある解答をする力を養う必要があります。

佐藤 今の模試の結果が悪くても、秋からの勉強で十分に成績を伸ばすことができます。受験生のみなさんには模試の判定や志願者の数に左右されず、ぜひ自分が心から行きたいと思っている大学に挑戦してほしいですね。
船口 受験は自分の夢や目標をかなえるために、限られた時間のなかで何をすればいいかを考え、努力を積み重ねる経験ができる絶好の機会です。そのような力は、その後の人生において非常に重要です。
福崎 合否が気になるのは当然ですが、あまり気にしすぎるとプレッシャーに押しつぶされてしまいます。せっかく勉強を積み重ねてきたわけですから、本番は「発表会」なんだととらえて、持てる力を出し切ろうという気持ちで臨むと、きっと良い結果につながると思います。
