真・お金の常識論

【第2回】給与天引きが王道なわけ

経済コラムニスト大江 英樹

サラリーマンがお金持ちになるための王道が「給与天引き」であるということは、前回お話した通りです。では、なぜ給与天引きが、ベストな方法と言えるのでしょう。これには人間の心理が大きく影響しています。

心理学に「現在バイアス」という概念があります。人は誰でも多かれ少なかれ嫌なことや面倒なことを先延ばしにしたい、という気持ちを持っているということです。例えば一ヶ月後までに仕上げなければならない資料があった場合、十分な時間があるにもかかわらずなかなか手に付かなくて、締め切り間際になっても完成せずに困った、という経験はサラリーマンなら一度や二度はあると思います。かくいう私も、いつも原稿がぎりぎりになってあたふたします。早くやる方が大きな利益になるとわかっていても、つい目先のことを優先させてしまう傾向です。

サラリーマンの場合、この「現在バイアス」がどんな影響を与えるのかを考えてみましょう。収入にはあまり関係ありませんが、支出の方はこの現在バイアスによって大きな影響が出ます。どういうことかと言うと、本来は資産形成のために計画的に貯蓄や投資をすべきなのですが、どうしても目先の旅行や食事などの楽しいイベントにお金を使ってしまいがち、ということです。しかし、あらかじめ給与天引きすれば、確実にお金を残すことができます。

さらに、給与天引きではもう一つ心理的に不思議な効果があります。最近ノーベル経済学賞受賞で話題になった行動経済学における概念の一つ「メンタルアカウンティング」と呼ばれているものです。本来はトータルで合算して管理すべきお金について、心の中では別の勘定として認識してしまうことを言います。最初から引かれてしまったものは、心の中では「無かったもの」と認識されます。一定額を強制的に積立て、残ったお金で生活するようにすれば、残りのお金はどんなに無駄遣いしても問題ありません。結果として天引きされた分は別勘定として残ることになり、気が付くと結構な残高になっているのです。

※写真はイメージです。

これらの心理的な効果に加え、「給与天引きされるものは、会社の制度として利用できるものが多い」というのも、メリットの一つです。会社の制度には、貯蓄や保険、投資など様々なものがあります。いずれも会社が運営主体となっているものなので、営利目的ではなく、社員の福利厚生がその目的です。したがって、その多くが低コストで利用できるメリットがあります。さらに会社で制度として運営されている貯蓄や投資の場合、会社から一定割合の利子補給や奨励金などが付く場合もあります。加えて、資産形成で重要なことは「入」を簡単にし、「出」を困難にすることですが、まさに会社の制度はこれにあたります。なぜなら加入は申込書を一枚書けば簡単であるのに対し、いざ引き出す際は、所属部署の長の印鑑が必要となる場合があるからです。

“会社の制度”を、“給与天引き”を使って利用することで、極めて合理的に資産形成が可能になります。私自身、40年近くサラリーマンをやっていて、多少なりともお金が貯まった秘訣は、給与天引き以外にはありませんでした。さらに昔は、上司が半ば強引に加入を勧めたこともありました。現代ではそんなことはできませんが、それだけに自分で自覚を持って給与天引きを始めることの重要性は昔よりも増してきているのではないか、という気がします。

一定のルールに基づいて資産形成をすることで、特別な能力や大変な努力を必要としなくても確実に資産形成はうまくいく。これは大原則です。ぜひ、若いうちから知っておいてください。

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