
両親は、いつも私の選んだ道を応援してくれた。
一人ひとりの心を動かした「人、モノ、コト」に光を当て、賞状とエピソードにして讃える、三井住友信託銀行主催の『わたし大賞』。今年も第3回の作品募集が始まった。アマチュア競技引退後もプロフィギュアスケーターとして活動を続ける荒川静香さんが讃えたい『わたし大賞』は、人生において大きな存在である両親。いつもそばで見守ってくれた両親への思い、そしてフィギュアスケートを通じて得た学びについて語ってくれた。
※このインタビューは2025年7月に撮影いたしました。
奥深いフィギュアスケートの魅力
私がフィギュアスケートと出会ったのは、幼い頃、家族と訪れたスケートリンクでのことでした。そこで目にしたのは、コスチュームをまとった女の子がリンクの上を華麗に舞う姿。スカートをひるがえしながら、美しく回る様子に、「私もやってみたい」と強く心を惹かれたのが、フィギュアスケート人生の始まりでした。
子どもの頃、さまざまな習い事にチャレンジしましたが、結果的に一番長く続いたのはフィギュアスケートでした。その理由を考えてみると、フィギュアスケートには難しさや奥深さ、そして飽きのこない魅力があったからだと思います。1回転のジャンプがやっとできるようになっても、すぐに2回転、3回転と次の課題が目の前に現れます。新しい曲や振り付け、新たな表現に挑戦する日々は、刺激に満ちていました。
私が選んできたのは、いつも「挑戦する道」
気がつけば35年以上、フィギュアスケートと共に人生を歩んできました。この競技は単に技を競い合うだけではなく、自分の特徴を知り尽くし、それをどう表現するかが問われるスポーツです。だから私は常に「今の自分はどんな状態にあるのか」「どんな個性を持っているのか」を問い続けてきました。自分と向き合い続ける姿勢は、フィギュアスケートに限らず、人生のさまざまな場面でも大切だと感じています。
人生には「挑戦するか、しないか」という選択を迫られる局面があります。私がその度に選んできたのは、「挑戦する道」でした。なぜなら、挑戦して失敗する後悔よりも、挑戦しなかったことへの後悔の方がずっと大きいと、フィギュアスケートを通じて何度も実感してきたからです。
競技から引退した後も、プロフィギュアスケーターとしての活動を続ける中で、結婚や出産といった人生の転機にも直面してきました。その度に「このまま続けるべきか」という選択を迫られましたが、あえて挑戦を続けてきました。想像以上に大変なこともありましたが、「やらなければいけない」という責任感が私のエネルギーとなり、前へと進む力を与えてくれました。

念願のアイスショープロデュースを実現
プロに転向してからは、滑る目的が「自分のため」から「観ていただく方々のため」へと大きく変わりました。ファンの方々の活力になれるように、そして想像の上をいくような新しい刺激や魅力を届けていきたい――そんな思いを胸に、自らプロデュースしたアイスショーを19年前に立ち上げました。
最初は戸惑うことばかりでしたが、小さな積み重ねが実を結び、今では次世代の現役フィギュアスケーターたちが「このショーに出たい」と言ってくれたり、競技から引退した国内外のプロスケーターも参加してくれています。夢をあきらめず続けてきて本当に良かったと思っています。
日々の準備の大切さを教えてくれたコーチ
フィギュアスケートを通じて、これまでたくさんの人々と出会い、さまざまな影響を受けてきました。中でも印象に残っているのが、現役時代の最後に指導を受けた佐藤久美子コーチです。試合前の公式練習で手応えを感じている私に、佐藤コーチはいつも「その時のコンディションよりも今まで準備してきたことを信じなさい」と、日々の積み重ねの大切さを繰り返し教えてくれました。
「その日が来たら頑張るのではなく、それまでにどれだけ頑張ってきたかが結果を左右する」――この教えは、私の人生の軸になっています。今では私自身が、子どもたちに「テストの日に頑張るのではなく、そこに向かうプロセスが大事なんだよ」と伝えています。

自分で選ぶ機会を与えてくれた両親
今までさまざまな出会いに恵まれてきましたが、人生において、最も大きな存在は誰かと考えると、やはり両親が思い浮かびます。
私は一人っ子でしたが、両親はいつも「自分の進みたい道を進みなさい」と言ってくれました。進路で悩んだ時も、学校について熱心に調べてくれましたが、最終的な判断は私に委ねてくれました。そして、その選択を尊重し、困った時にはそっと手を差し伸べられる距離で私を見守ってくれました。
両親のことを知っている人は、「あれしなさい」「これしなさい」と口を出しそうな印象を持つかもしれません。実際、普段は何かと声をかけてくるタイプです。けれども、人生の大きな選択の場面では黙って、私に自分で選ぶ機会を与えてくれたのです。
親であればつい「こうした方がいいんじゃない」と口を出したくなるものです。私自身、親になってからというもの、子どもに対して、ついつい口を出してしまっています。今、その姿勢がどれほど難しいことだったかを実感しています。
決断には自分自身と向き合うことが大事
一度だけ、引退について両親に相談したことがあります。その時も「引退してもいいし、続けてもいい。どちらを選んでも、私たちは変わらずサポートするだけだから」と言ってくれました。当時は「答えをくれないんだ……」と戸惑いました。でも今振り返ると、「自分で選んだ道を、責任を持って進んでほしい」と私に伝えたかったのだと思います。
もしあの時、両親が答えをくれていたら、うまくいっても、いかなかったとしても「あの時、言われた通りにしただけだから」と自分に言い訳をしていたかもしれません。何が正解かなんて、誰にも分からないものです。だからこそ、自分自身としっかり向き合い、悩み抜いたうえで決断しなければ、本当に納得できる答えにはたどり着けない。そのことを教えてくれたのが、両親でした。
両親に感謝の言葉と共に贈りたい「人生の援護賞」
私が今回のテーマである『わたし大賞』を贈るとしたら、いつも私の挑戦を信じ、一緒に歩んでくれた両親に贈りたいです。普段の私は両親に対し、ささいなことでつい文句を言ってしまうこともあります。けれど、こうした機会でもなければ、改めて両親に感謝の気持ちを伝えることは、なかなかありません。
そんな両親に贈る『わたし大賞』の賞の名前は――「人生の援護賞」。両親は、いつも私の後ろからそっと援護射撃をしてくれるような安心感を与えてくれます。そして、その安心感の裏には、いつも深い信頼と愛情があります。だからこそ、心から伝えたいです。「ほんとにありがとう」と。

『わたし大賞』を通じて、改めて気づいた両親への思い
今回の『わたし大賞』という企画を通じて、自分の人生を改めて振り返ることができました。正直、最初は何を話していいのか迷っていました。でも話しているうちに、心の奥底にあった感謝の気持ちが、自然と言葉になってあふれてきました。私の中に、こんなにも両親への思いがあったんですね。
思いを言葉にすることには、不思議な力があります。これからも「ありがとう」と感じた時には、その気持ちを素直に伝えていきたいです。その一言が、誰かの力になったり、心の支えになるかもしれないから。










