【わかる!暗号資産】

【前編】ブロックチェーンがあったからこそ生まれた。まったく新しいブラウザ「Brave」とは

聞き手(ライター・編集者)武田 篤典

「Brave」をご存じでしょうか? ブロックチェーンの技術があればこそ実現できた、まったく新しいインターネットブラウザなのです。
開発したのはJavaScriptや、ウェブサイトの表示スピードを格段に速くしたブラウザ「Firefox」の生みの親であるブレンダン・アイク。共同創業者の一人としてCEOを務めたMozilla Corporationを離れ、新しいインターネットの世界を実現するために「Brave」を手掛けました。

ユーザーが許可しないかぎり広告が表示されることはなく、かわりに「Brave」から表示される広告を見れば独自の暗号資産「BAT」をユーザーが謝礼として受け取れる仕組み。そしてそれを原資に、お気に入りのサイトやコンテンツに“投げ銭”ができるのです。ユーザーとウェブサイト側だけでなく、実は広告主にも大きなメリットがあり、まさに現状のインターネットの課題解決につながるという非常にユニークな構造のブラウザ。

日本国内だけでなくアジア全域においてこのブラウザを展開する「Brave Software Asia株式会社」の嶋瀬宏CEOに話を聞きました。前編ではそもそもの「Brave」の仕組みや思想についてお話しいただいています。

現状のインターネットの問題点とは

――そもそも「Brave」はインターネットのどんな課題を解決するために開発されたのですか?

嶋瀬さん:インターネットって、基本的にはページに広告が表示されてコンテンツが無料で見られるという構造ですよね? この広告のあり方のシステムがすでに壊れているんです。ここには二つ課題があります。

まず、広告の表示回数が増えれば増えるほど広告料の収益が上がるという点。たとえば、非常に丹念に取材して作られた有意義なコンテンツと人気女優のスキャンダル記事があったとして、残念ながら多くの人によく見られるのは後者でしょうね。結果、クオリティーよりも訪問者数を稼ぐためのセンセーショナルなコンテンツが増えてしまいます。

――インターネットの収益の構造が、インターネット全体のコンテンツの質の低下につながっていると。

嶋瀬さん:そうですね。その部分とも関わってくるのですが、もう一つの課題は、コンテンツに対する広告料のはずなのに、適切に制作者に支払われていないという点です。
インターネットでは誰しも最近検索したことがらや興味のある商品に関する広告に出くわしますよね? サイトを訪問した時点で、ユーザーの情報は広告主に筒抜けなのです。「こんな場所からこんな仕様のブラウザで閲覧して、こんなサイトを過去に訪れ、こんな検索履歴があるユーザーです」と。それでその人に対して広告を出したい人を募る。1/1000秒レベルでオークションが開催され、最高値を提示した広告主の広告がユーザーのブラウザに表示される仕組みです。そして、そのようなユーザーデータを収集・分析し、やりとりするような数千もの企業が、サイトを掲載しているメディアと広告主のあいだに入っているのです。

メディアによってまちまちですが、介在している企業が40~70%程度の広告料をとるのでコンテンツクリエイターのもとには十分なお金が落ちていかないんですね。“テック・タックス”と呼ばれる問題です。

――作り手のモチベーションは削がれますね。

嶋瀬さん:作り手だけではありません。結果、ユーザーも搾取されているのです。ニューヨーク・タイムズが「モバイルでウェブサイトを訪問した際、1ページのダウンロードにかかるコスト」を調査したのですが、メインコンテンツ以外の広告表示のためだけの通信料が35~40円かかったサイトもあったそうです。こうなると「インターネットは無料である」とはもはや言えませんよね。しかもこれらの広告表示はユーザーが意図したものではありません。
さらに大きな問題は、広告が表示される前提としてユーザーのプライバシーがインターネットを通じてすべて吸い上げられているという点です。

Braveが旧来のインターネットとの関係を変える

――ブレンダン・アイクはそうしたインターネットの現状に危機感を覚えていたわけですか?

嶋瀬さん:そこはブレンダン来日時にぜひお聞きいただければと思うのですが(笑)。ともあれ「Brave」はこれらの課題を払拭するブラウザであることは間違いないです。

――機能を説明してください。ウェブ上のすべての広告が表示されなくなるのですか?

嶋瀬さん:そうではありません。表示されないのは、まずユーザーの意図していない情報流出につながる広告。あとはなにかしらのマルウェアを含めた危険な広告。これらはブロックします。逆に、プライバシーを吸い上げた結果表示するのではない、メディアのファーストパーティーの広告に関しては旧来どおり表示します。また、ルールとしてユーザーの許諾がとれている広告もブロックしません。また、「世界初のグローバルベースのプライバシー重視型広告」として、Brave独自の広告を表示するようになっています。

――それはどういう仕組みですか?

嶋瀬さん:ユーザーの趣味嗜好に合った広告を表示するのですが、従来のプラットフォームのようにユーザーがサイトにアクセスした瞬間にユーザーの情報を吸い出すようなことは一切ありません。すべてはブラウザ内で完結する設定になっています。
具体的にいうと、ユーザーが「Brave」を使用すると、軽いテキストファイルをダウンロードします。それは「こんなウェブの閲覧傾向・検索傾向があるユーザーにはうちの広告を見せたい」という条件設定がされたカタログのようなものです。ユーザーがその条件とマッチしたときにだけ、それがトリガーとなってシンプルな広告の通知が現れるんです。ここまでは大したデータ量を使いません。そこで通知をクリックしたら初めて広告のダウンロードが行われるんです。

ですので、ユーザーが見たくもない広告のためにデータ通信量を支払う必要がなく、広告がない分、ウェブサイトの表示も速くなります。一般的なブラウザのChromeやSafariと比べると、現時点で、2〜8倍表示スピードは速くなるという報告があります。

Braveのトップページ

――どのようにしてユーザーの興味・関心を判定しているのですか?

嶋瀬さん:「IAB」(Interactive Advertising Bureau:インターネットの広告業界団体)が設定している広告のカテゴリーが二百数十あります。Brave側のAIでブラウザの履歴に基づいて機械学習を行って「このユーザーはこのカテゴリーに興味がある」と判断し、そのカテゴリーにマッチする広告だけを提案する仕組みになっています。

たとえばGoogleはウェブの検索履歴だけでなく、GmailやGoogleマップなど、ユーザーがGoogleを通してインターネットで行った様々なアクションをもとにデータを吸い上げてユーザーの人物像をツギハギで作り上げていくのに対し、Braveはその個人のブラウザでのアクションと完全に向き合って一対一で広告を提案します。ユーザーが何を検索して何のページを何秒見て……というデータが全部リアルタイムで取れ、しかも決してブラウザから外に出ないかたちで処理しているので、ユーザーのプライバシーは保持したまま、よりユーザーの要望に近い広告を提案することができるのです。

Braveで広告を見ればユーザーが儲かる?

――Brave独自の広告はどのように表示されるのですか?

嶋瀬さん:ポンと通知が出ます。「自動車メーカーTさんからの広告です」というダイアログとともに。その通知をクリックすれば広告が表示され、「BAT」による報酬が発生する仕組みになっています。

このように通知が出る

日本では現状まだトライアルで流し始めている段階ですが、海外でのパフォーマンスをもとにお話しすると、広告の通知がきたときにクリックする率が平均的に14%ほど。高いものでは30%以上あります。検索広告のクリック率は通常2〜3%ですから、これは相当なものですね。

――なぜユーザーはクリックしちゃうんでしょう?

嶋瀬さん:一つの理由としては、個人向けにセレクトされたアドが表示されることが珍しいから。たしかにBraveに期待しているユーザーが多いこともあり、いわばご祝儀市場みたいな側面はあります。ただ一方で、そうして表示される広告がユーザーに対して非常に親和性が高いから。Braveを使い始めるとインターネット上で意図しない広告にほとんど触れることなくブラウジングができるようになります。そうしたなかで1日に数回しか出てこない広告は、ある意味希少ですよね。かつ、それは自分の行動に基づいて出てきた興味のある広告になっているので、クリックしたくなるんだと思います。

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聞き手(ライター・編集者)武田 篤典
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