
UAEの日本食シェフ、豊洲の魅力を味わう
アラブ首長国連邦(UAE)に店を構える日本食レストランのシェフ5人と現地商社の担当者が3月15日、東京都江東区の豊洲市場を訪れました。競りの様子を視察した後、仲卸から気に入った食材を買い付けるなど、「日本の台所」を味わいました。日本貿易振興機構(JETRO)による招聘ツアーで、日本の食の魅力を知ってもらい、中東への販路を広げるのが狙いです。
歴史・伝統 受け継ぐ市場 世界も注目
一行は午前5時半ごろから生マグロの競りを見学。ドバイに出店する「ROKA」のシェフ、リボー・ドビスさんは「新鮮なマグロがこんなに多くそろう市場はほかにない」と驚きました。威勢のいい掛け声が響き、手指を動かす独特のサイン「手やり」で取引が成立していく様子に「歴史ある市場らしい」と話しました。
ドビスさんは移転前の築地市場を訪れたことがあり、魚市場の歴史にも関心を寄せていました。
東京の水産市場は、江戸時代初期に始まった日本橋の魚河岸が発祥とされます。その後、関東大震災(1923年)の被災で築地に移転。築地も老朽化に伴い、2018年に豊洲へと生まれ変わりました。
「古くから日本人に愛され、多くの物語・歴史があることが世界有数の市場にしている」とドビスさん。豊洲はそのブランド力を受け継いでいると高く評価しました。
おいしさに感激 仕入れを即決
競り見学の後、シェフたちは実際に仲卸との商談を行いました。
仲卸売場棟は、競りが行われる広々とした卸売場棟とは違い、各業者が所狭しと商品を並べています。
小型運搬車のターレット(ターレ)がせわしなく行き交う狭い通路。「歩行者よりターレが優先だから」と説明されると、シェフたちは周囲を気にしながら、新鮮な魚介類に見入りました。
「ZUMA」のジョルト・シキさんは、「普段見かけないユニークな魚が多い。見ただけじゃ分からない」と、その場で切り分けられた数種類の刺し身を試食。あまり食べたことがないという生のカジキマグロに感激し、毎週仕入れることを即決しました。
また、今回の来日中に天ぷらで食べたというホタルイカも試しに仕入れることを決めました。「ドバイでは天ぷら以外の食べ方を見つけられそうだ」と、早くも頭の中には新メニューが。「ここの魚介類は味が抜群によく、種類も豊富。質・量ともすべて解決してくれる」と満足した様子でした。
高まる日本食人気 「鮮度と旬」で素材を味わう
日本食は近年、世界中で人気が高まっています。「MIMI KAKUSHI」のウラジミール・キムさんは「特に欧州人には、スパイスやシーズニングをあまり使わず、素材のピュアな味がウケている」と分析しています。UAEは人口1千万人のうち9割が外国籍。多様な食文化に対応するには、素材の良さが欠かせないといいます。
豊洲では、アオリイカやホタルイカなど様々なイカやマグロの鮮度を入念にチェック。「魚介類そのものを味わうには鮮度と旬が命。ここはそういう食材にあふれている」。提供する料理をイメージし、ドバイに戻ったらシェフ仲間と何を仕入れるかを検討したいと語りました。
伸びる水産物輸出 課題は脱・中国依存
日本の水産物の輸出額は、リーマン・ショック(2008年)、福島第一原発事故(11年)、新型コロナ感染拡大(20年)などの特殊な時期を除き、右肩上がりの傾向にあります。
水産庁の「水産白書」によると、22年の輸出額は3,873億円で、02年の1,365億円の2.8倍を上回ります。
一見すると好調ですが、輸出先の多様化は喫緊の課題です。
23年夏に始まった原発処理水の海洋放出。これにより、中国が日本産の、香港が10都県産の水産物の輸入を禁じました。日本の水産物輸出は、金額ベースでこの2カ国・地域で42%を占めます。品目別で最も金額の大きいホタテ貝(911億円)は同じく57%に上ります。一部の国の動向が、売り上げを大きく左右する事態となっています。
経済成長、日本食レストラン急増 JETROが招聘
こうした状況を踏まえ、JETROは輸出先の分散を図るため、世界各地でプロモーション活動を行っています。今回は、経済成長が著しく、日本食の人気が急上昇しているUAEからシェフを呼び寄せました。
JETROによると、UAEの日本食レストランは2016年の200店から23年には330店に急増。ラーメン店やうどん店などの専門店も増えています。
シェフらを案内したJETROドバイ事務所の太田尭久さんは「まだ認知されていない商品を広めていくため、トレンドの発信地となる一流レストランを入り口としていきたい」と意気込みます。日本での商談を一気に成立させるため、現地のシェフと商社を同時に招きました。
一行は豊洲訪問に先立ち、北海道紋別市でホタテ加工場、岩手県大船渡市でアワビ養殖業者と特殊冷凍技術を持つ販売業者、三重県熊野市でマグロ養殖業者をそれぞれ訪問しました。施設の視察や各食材の試食をし、その場で商談も行いました。
良好な治安 MENAへの玄関口 世界一のフードショーも
UAEは、他の中東地域で見られるようなテロや紛争がなく、世界経済フォーラムの安全度ランキング(2019年)は7位で、日本の10位より上です。中でもドバイは、国際線旅客数が世界一のドバイ国際空港を擁し、人口5億人の新興市場であるMENA地域(中東・北アフリカ21カ国)への玄関口として、世界中から人と富が集まっています。
こうした立地の良さから、ドバイでは毎年2月、世界最大級の食の見本市「Gulfood」が開かれています。29回目となる24年は、190を超える国と地域から5500社以上が出展、5日間の日程で15万人以上が訪れました。国内からは水産物、和牛、加工食品、お茶などを扱う29の企業や業界団体が出展しました。


































































