テキスト版 朝日新聞あすへの報道審議会パブリックエディター(TXT:1KB)

 だれもがSNSで情報を発信でき、さまざまな情報があふれる時代、ニュースメディアの存在意義が問われています。朝日新聞が報じるニュースは読者に届いているか。どんなニュースをどう伝えるべきか。パブリックエディター(PE)を今月いっぱいで退任する高村薫さん、山本龍彦さん、小松理虔さんが2月14日にあった「あすへの報道審議会」で、読者や記者らと意見を交わしました。

パブリックエディター (PE)。内容はテキスト版に記載。

     テキスト版 パブリックエディターの紹介(TXT:1KB)

政治 自分で何ともできず興味持てぬ 読者

高村薫PE PEになった3年前、新聞の立場がこれだけ厳しくなるとは考えもしなかった。時代や価値観、情報環境が大きく変化して読まなくても生きていける世界が普通になり、全国紙の立ち位置が失われた。

山本龍彦PE テーブルにある新聞を何となく読む生活習慣が変わり、プラットフォーム企業のデザインする画面が生活の一部に組み込まれた。だが、そこで表示される情報は個々の関心を得ようとする「アテンション・エコノミー」に傾き、社会の全体像をバランスよく伝えるような機能を十分に果たしていない。

小松理虔PE 福島で地域の課題に取り組む若者も新聞を読まない。ここ数年、「多様性」や「社会包摂」への関心が薄まって朝日が伝えたい価値観が「行儀のいい正論」に映り、読者とずれが広がっていないか。

田中愛奈さん(読者)   私は大学で、昼休みに30分、朝日新聞デジタルの紙面ビューアーを読む。多様な意見に触れられるオピニオン面が好きだ。でも首相の発言や政策、世界経済など政治や経済記事は興味が持てない。「進展がない」と感じるから。自分で何かを考えようとしても何にもならないなと思う。

石松恒・政治部記者   お話に胸が痛む。私たちの代表である政治家の動きは予算や政策などの政治決定のすべてに影響し、田中さんの生活にもつながっている。複雑で深い背景がある政治ニュースを苦心して伝えようとしているが、思うように届いていない。デジタル上の閲覧数を見ても非常に厳しい。

難しさ・もどかしさ 距離作っている 小松PE

小松PE 真摯に説明して頂いたが、正直、政治記事は難しい。田中さんが言うように「自分で何ともしがたい」ニュースはなかなか胸に落ちない。そんな難しさやもどかしさがまさに新聞と読者の距離をつくっているのでは。現場の感覚だけでニュースを報じても届きにくい。

山本PE 政治報道が「テンプレ(テンプレート=ひな型)化」している部分もある。政党は特定のイデオロギーに基づき政策をパッケージとして示すが、現代社会では利益が個別化され、特に若者は政党単位で政治を見ていないところもある。

高村PE 若い人と政治記事に距離があるのは当たり前だと思う。政治はいつも少しずつ進むもので、若い人には面白くない。私も大人になって読めるようになった。多様化する読者のニーズに合わせるより、自らターゲットを定めて記事を充実させる必要がある。むしろ政治・経済記事はもっとあっていい。特に国会答弁を伝える記事は足りないと思う。非常に不満だ。

野村周・ゼネラルエディター(GE)兼東京本社編集局長 一昨年末に国土交通省の統計不正を特報した。社会全体に影響しうる非常に大切な問題で広く伝わってほしいと願ったが、思うようにはネット上で読まれず、じくじたる思いを感じた。

田中さん 社説も「じゃあ、こうしたらいい」と前が見える感じや、「何かを得られた」という実感を持てない。何のために毎日、あるのだろうか。

山中季広・論説主幹 政治権力を持つ人が好き放題できないよう「見ていますよ。税金を払い、投票もしている私たちを無視していませんか」と言う役割は世の中に絶対必要だと思って書いている。海外紙の社説を研究し、昨年末、社説欄に論説委員の顔写真つきコラム「序破急」を新設した。読者の反応も上々で、手応えを感じている。

境貴将さん(読者)  高校教諭で担当は歴史。個人的に国際情勢や政治に興味があり、授業でも時事問題を取り上げるので朝デジを読む。読んでいて気になるのは、批判に走りすぎ、揚げ足取りに思えるときがある点。いいものはいいって言った方がいいのでは。生徒には、ニュースは遠い世界の問題じゃなく、目の前に広がる世界の話なんだよと具体的に伝えたい。

安田桂子・コンテンツ編成本部記者 デジタル記事を配信しているが、田中さんと境さんの話はグサグサ刺さる。私の出身地、沖縄の記事も「遠い世界じゃなく自分たちの世界だよ」と伝えたいが、見出しに「沖縄」「辺野古」を入れると、読まれない。「きっと、こういう内容だよね」と読む前に思われたり、遠い世界の話と見られたりしてしまう。キーワードを見出しから隠さないと伝えられないのか、というジレンマがある。

小松PE ぼくも原発事故や被災地復興で同じ経験をした。読んでもらうために見出しからキーワードを外しても「導線」が入ればいいのではないか。おいしそうなゴーヤーチャンプルーの写真から「チャンプルー文化」や基地問題につながるような。どれだけ読まれるかを追求するのはメディアの宿命だ。

山本PE 導線は工夫すべきだが、限界も考えておく必要がある。なりふり構わずとなると、プラットフォームにあふれる「こたつ記事」(独自取材せず、テレビやSNS上の情報などでつくる記事)やゴシップ記事との差分が失われる。

意見を交わした読者や記者たち。内容はテキスト版に記載

         テキスト版 意見を交わした読者や記者たち(TXT:1KB)

ニュースと自分事 とりもって 読者

海東英雄・PE事務局長 そもそも、読者のお二人が新聞を読み始めたきっかけは。

田中さん コロナ禍で高校が休みになり暇になったので、家にあった新聞を読み始めた。いろんな考え方に出会えて、すごく面白いと思った。興味あることもないことも一つにまとまっているのも好きな理由だ。

山本PE ネットで自分好みの情報だけに包まれる「フィルターバブル」の問題をみても、多様な情報をまとまりのある形で見られる新聞の機能は重要だ。実は「タイパ」(タイムパフォーマンス=時間あたりの生産性)もいい。

境さん 通勤時間が1時間半と長くなり、毎朝、電車内でスマホで読むようになった。ニュースを生徒に伝えていて感じるのは、自分ごとに思える「小さな主語」と、政府や企業など「大きな主語」で語られるニュースをとりもつ必要性だ。埼玉でクルド人が多く暮らす地域から通っていてもクルド問題に興味のない生徒に、両者のつながりを話してあげると「あー、確かに。何で分かんなかったんだろう」と。がぜん興味を持つ。

田渕紫織・デジタル機動報道部記者 子育て世代向けニュースサイト「ハグスタ」の編集長をしている。当事者視点の「小さな主語」の記事は確かに読まれるが、関心が長続きしないこともある。手応えがあるのは「中ぐらいの主語」。各分野の専門家に知見を借り、半歩先の政策変更や意識の変化を促す記事を出したい。

過程開示 信頼につながる 山本PE

山本PE できあがった料理をどんと出すだけではなく、どのような素材を使って、だれがどんな狙いでどう作ったのか。オープンキッチンとまでいかなくても、記事が出るまでの「ブラックボックス」を開くべきだ。それが分かると、お金を払う気になるし、信頼にもつながる。

石松記者 政治部内で「円陣」と呼ぶ毎日の打ち合わせを公開してもいいかもしれない。ファクト追求や権力監視は第一義だが、政治に関心ある層の期待にこたえる深掘りをし、その外側の層にもファンを広げるため、伝え方も含めて工夫したい。

小松PE 自らの悩みも含めて開示し、読者を巻き込みながらメディアに何が必要とされているかを考えていければいい。

「伝えたい」 原点大事に 小沢PE

安田記者 3年前に始めた音声配信サービス「朝日新聞ポッドキャスト」ではツイッター上でリスナーとコミュニティーをつくり、要望や意見を聞いている。

海東事務局長 音声で伝えてみて、リスナーの反応はどうか。

安田記者 昨年5月、沖縄復帰50年企画として現地に入り、私の両親を含めていろんな人に話を聞いて音声ルポを配信した。何も起きず、結論もない取材で番組になるか心配したが、「関心がなかった沖縄のことを理解できた」「スパッと割り切れないことが肌でわかった」というリスナーの声に驚いた。私の悩み、戸惑い、いらだちがすべて声に乗ったので追体験できたのだろう。逆に言えば、これまで私たちは無意識に「これはこういうもんだよ」「こう読むのが正解」という報道をしていたのかもしれない。

小松PE 記者が「読者に求められているものを返せているな」と思えたら何よりだ。閲覧数などの「数字」の先に何を届けたいのか、議論してほしい。

小沢香PE 何が読まれるかという発想は大切だが、本当に読者が求めているのは、耳に心地よい情報や刺激的な情報ばかりではないだろう。記者一人ひとりが「時間をかけてもこれだけは伝えたい」と思う原点に立ち返るのが大事なのだと思う。

田渕記者 当事者だから、暮らしに密着しているからではなく、自分、家庭、地域より少し大きなところを考え始めた人たちに何が届けられるかを考えたい。

新聞は「俯瞰するメディア」で 高村PE

高村PE 新聞は社会や世界、時代を俯瞰するツールだが、読むには時間も手間もかかり、努力も必要となるので避けられてしまう。しかし時代が変わっても、新聞は「俯瞰するメディア」であるべきだし、それ以外に存在理由はない。

山本PE 課題解決のための公共的プラットフォームになるといい。公共的な視点から読んでほしい記事を読んだら「ポイント」を得られ、それを課題解決に尽力している人や団体に「寄付」できるような仕組みを考えてはどうか。

野村GE 我々は長年続けたやり方を変えようとしていて、変わらなきゃいけないが、変わった先に何を成し遂げたいのか、多様な情報をいかに届け続けるか、も考えねばならない。

角田克・常務取締役編集担当 メディアに押し寄せる大きな構造変化によって、私たちの存在価値そのものが問われている。えりすぐりの記者たちによる記事・コンテンツにさらに磨きをかけたうえで、デジタル技術も駆使してトライ&エラーを重ねながら読者・ユーザーの皆様と広く接点を持たせていただき、私たちの価値を十分に感じてもらえる状況にしたい。

(司会は海東事務局長、参加者は撮影時のみマスクを外しました)