途上国で培ってきた信頼をSDGs推進の「触媒」に

若い世代のSDGsに対する関心の高さに期待を寄せる西野さん。

関西の企業やNPOなどがSDGsを軸として連携する「関西SDGsプラットフォーム」。
地域単位でのセクター横断的な枠組みとしては全国で最初の存在だ。

文=江口絵理 写真=祐實とも明(西野さんのみ)

国際協力機構 関西センター所長 西野 恭子 さん

国際協力機構(JICA)のミッションは、開発途上国の一人ひとりに目を向け、持続性のある、質の高い成長を支援すること。見事なまでにSDGsの方向性と一致しているように見えるが、それもそのはず、「JICAは外務省とともに、国連におけるSDGs策定の議論に関わっていたのです」。JICA関西の所長、西野恭子さんがそう教えてくれた。「ですから、SDGsを軸に途上国支援の具体的な動きを日本で生み出すことも、私たちの大事な仕事です」

JICA関西は2017年末、関西地域の産官学民と共にSDGs達成に向けて連携する枠組みとして「関西SDGsプラットフォーム」を立ち上げた。セクターを問わずさまざまな立場の組織が参加し、知見や情報を共有するための「場」となることを狙っている。2025年の大阪・関西万博の誘致に際して“SDGs万博”が掲げられていたことも認知を高める追い風となり、創設時にはおよそ150もの組織が参加。会員数はいまや670を数える。

「大企業から中小企業まで企業の参加は非常に多く、ほかにもNPOや自治体、学術機関、政府関係機関と、実に多様な顔ぶれが集まっています」

設立記念のシンポジウムには300人が参加。SDGs関連のセミナーなどを開催するほか、関連イベントなどを通して啓発活動も行っている。
「関西SDGsプラットフォーム」は、JICA関西、近畿経済産業局、関西広域連合本部事務局が事務局を担当。

関西と途上国の結節点としてつなぎあわせる

JICAといえば現場は途上国だろうと思われがちだが、実は日本国内にも多くの拠点がある。「JICAでは途上国の行政官などに一定期間日本に滞在してもらい、日本がこれまで蓄積してきたノウハウや仕組みを学んで自国に持ち帰ってもらうという、ユニークな支援を行っているのです」

たとえば環境モデル都市といわれる京都での環境教育のあり方など、関西には関西の、途上国の社会課題解決にも活用できる財産が山ほどある。JICA関西は、関西と途上国の「結節点」となって両者をつなぎあわせる存在でありたい、と西野さんは言う。

近年では、関西企業の海外展開と途上国の課題解決を結びつける取り組みに力を入れている。「たとえば、アジアでは工場排水による水質汚染が深刻化しているが、対策には多大なコストが必要です。一方で関西には、活性炭自動再生技術を核にした、極めて低コストな浄水装置を開発し、海外展開を考えている企業がありました」

日本の中小企業にとって途上国での事業展開は現地の市場調査、人脈構築、資金などのハードルがきわめて多く、途中で諦めてしまうケースも少なくない。しかしJICAには長年の途上国支援で培ってきた途上国の各機関との信頼関係やその国への深い理解、最新の情報がある。その蓄積と政府開発援助(ODA)の資金を活用すれば、中小企業の海外展開を支えることができるのだ。

「ODAを使ってJICAが単体でプロジェクトを動かすだけではなく、企業を含めさまざまなアクターから支援のリソースが動員されるように、ODAを『触媒』として使いたい。JICAの仕事は、触媒をうまく働かせることにあると考えています」

「シャーレ」で異質な者が出会い イノベーションを生む

関西SDGsプラットフォームは、多様な要素が混ざりあったシャーレに等しい。関西において、異なるセクター、異なる業種……すなわち「異質」な者同士が出会うことでイノベーションが生まれれば、それが途上国支援のリソースになる。シャーレに集まったアクター同士の化学反応を促すのが、触媒となるJICA関西の役割だ。

「さまざまなテーマでシンポジウムを企画したり、会員の相談にのり分科会の立ち上げを働きかけたりしています。分科会はビジネス、環境で作られていて、ほかにも検討が始まっており、これからの展開が楽しみです」

西野さんは関西の高校や大学を訪れるたび、生徒や学生のSDGsへの認知が高いのに驚くという。「若い世代の関心が高いのは心強いですね。自分たちが社会を変える力になれる、という希望を持ってもらえたらと思います」次世代もまた、イノベーションを生み出す「異質」の一つだ。触媒であり結節点であるJICA関西の動きは、もしかしたら華やかな成果として表に出てくるものではないかもしれない。しかし触媒は水面下で、将来生まれる大きな成果を支えている。

Profile

西野 恭子 Nishino Yasuko

国際協力機構 関西センター所長

1963年千葉県生まれ。東京外国語大学卒業(ドイツ語)。1985年国際協力事業団(現国際協力機構)入団。ベルリンの壁崩壊後の東欧諸国への支援や、スリランカ事務所次長、JICA本部でのジェンダー平等・貧困削減推進室長、広報室長、評価部長などを経て2017年より現職。

Our GOAL

西野さんが個人的に関心のあるゴール

SDGsはカバーする領域が広い上に、野心的ともいえる高い目標を掲げています。その達成に不可欠なのは、何よりもパートナーシップだと思うのです。もちろん、SDGsの前身であるMDGsでもパートナーシップは含まれていました。しかし多くの課題が相互に影響を及ぼしあい複雑になってきた今、パートナーシップの重要性は比較にならないほど高まっているように思います。関西SDGsプラットフォームで多様かつ異質なアクターが出会うことによって、技術や仕組みのイノベーションが生まれることを強く期待しています。

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