レアメタルを人工的に生み出すことに成功
京都大学の強みを学生や教員に尋ねると「ユニークな研究が多い」という答えが返ってくる。iPS細胞を作製した山中伸弥教授をはじめ、ノーベル賞受賞者が数多く輩出する京都大学。独創的な研究が生まれるのはなぜなのか。
そのヒントが、北川宏・大学院理学研究科教授の言葉にある。
「京都大学には、0から1を生み出す『問題発掘型』の研究を大切にする文化が根付いているのです」
北川教授の研究もその文化を体現している。二つの金属元素をナノレベルで融合させて別の金属を作る「元素間融合」という、新たな分野を切り開いた。
H(水素)、He(ヘリウム)で始まる周期表は、誰しも学生時代に見た記憶があるだろう。元素間融合とは、ある元素と一つ飛ばして隣り合う元素を合成し、その間にある元素に似た物質を作る、というものだ。2010年、従来「混ざらない」とされていたロジウム(原子番号45)と銀(同47)を融合させ、パラジウム(同46)の性質を持った〝人工パラジウム〟を作り出すことに成功。希少資源であるレアメタルを人工的に生み出す技術として、当時、全国紙の一面でも報じられた。
「現代の錬金術」として世界的にも注目される技術だが、発見のきっかけは偶然だった。
「約10年前、パラジウムの周囲に白金をつけ、黄身のまわりに白身がある卵のような形の物質を作りました。ところが実験の過程で、混ざらないはずの黄身と白身が偶然融合したのです」
パラジウムと白金が混ざらないというのは、教科書にも書いてある〝常識〟だった。
「教科書が正しいとは限らない、常識にとらわれてはいけないんだということを学びました。だったら他の金属も混ぜてみようと考えたのです」
自動車の排ガス浄化低コストで実現へ
二つの金属の混合液を霧吹きでアルコールに吹きかけ、元素間融合が実現(写真は北川研究室・草田康平特定助教)
研究は、さらなる進化を遂げている。14年、今度はルテニウム(同44)とパラジウムから、人工ロジウムを合成することに成功した。
この成果は社会的に大きな意義を持つ。ロジウムは自動車の排ガスであるNOx(窒素酸化物)を浄化できる唯一の金属で、自動車製造に欠かせない。だが、大半が南アフリカなど限られた国でしか採掘されず、値段は高価だ。これに対し、北川教授の人工ロジウムは、天然のロジウムと比べ3分の1ほどのコストで製造できるうえに、NOxを浄化する性能では、天然ロジウムをも上回る。
「戦争の多くは資源の奪い合いが原因で起きています。いいものを見つけて社会に還元し、困っている人を助けられるなら、研究者としてこれほどうれしいことはありません」
民の視点を重視する京都大学の建学精神
北川宏教授。京都大学理学部卒。筑波大、九大などを経て、09年に京大に戻った
現在、日本の科学技術分野では、国が旗振り役になり、大学、民間企業が連携して新たな産業を創出する動きが盛んだ。しかし、北川教授は、研究の成果を市民が共有できることこそが大切だと力説する。
「産官学に加え『民』の視点が必要なのです。社会に余裕がなくなると市民の立場が意識されなくなります。京都大学は建学当初から市民に寄り添ってきた大学。民の視点で物事を考える人材を育てる役割があります」
冒頭に述べたように、京都大学は独創的な研究で知られる。大学には、それを育む土壌があるようだ。
「ゆったりしたアカデミックな雰囲気が人を育てます。世界で誰もやっていない独創的な研究に挑戦するには、道に迷っても、遠回りをしてもいい、というゆとりある環境が必要です」
伝統的に尊ばれてきた京都大学の「自由の学風」。その息吹を受け継ぎ、世の中を変える数々の研究が生み出されている。











