Cashless Insight #3

日本の非接触決済のポテンシャル

START!編集部

佐藤 元則
NCB Lab. 代表

吉富 才了
株式会社電通 新産業開発部
電通キャッシュレスプロジェクト 主宰

「コロナ禍での生活者のキャッシュレス意識に関する調査」をベースに、世界のキャッシュレスに事情に詳しいNCB Lab.の佐藤元則(さとう・もとのり)さんと、電通でキャッシュレスプロジェクトを推進する吉富才了(よしとみ・まさのり)さんが、対話形式でわかりやすく答える「Cashless Insight」。今回のテーマは「日本の非接触決済のポテンシャル」です。

世界に見劣りする日本の非接触決済利用

佐藤:決済手段の中で衛生的安全性が高いのは、非接触決済です。現金のようにお金のやり取りがありません。磁気カードは、レジ係に手渡し、スワイプしてもらわなければならない。暗証番号入力方式のICカードは、多くの人が触っている端末機に挿入し、暗証番号を入力する必要があります。これらはいずれも、人の手や決済端末に触れるというリスクがあります。非接触決済は、文字どおり人や端末に触れないので安全です。非接触決済ツールは3種類。モバイル非接触決済(NFC タイプ)、モバイルQRコード決済、そしてカード非接触決済です。

吉富:今回の調査では、直近3カ月でどの非接触決済方法を使う頻度が増えたかを聞きました。その結果、「とても増えている」という回答が最も多かったのは、モバイルQR コード決済(11.8%)でした。NFC タイプのモバイル非接触決済(7.5%)やカード非接触(4.8%)より高い利用となっています。「やや増えている」を加えた数値でも、モバイルQRコード決済が35.9%でトップでした。

佐藤:世界はコロナ禍で一気に非接触決済に向かいました。しかし日本はこの程度だったということですね。英国では、カード取扱件数に占める非接触決済の比率が高い。21年9月単月の実績では、デビットカードの69%、クレジットカードの53% が非接触決済でした。両方あわせた非接触決済件数は1億2,600万件。前年同月比30.5%増、19年同月比では70.3%も伸びています。金額では150億ポンド(約2.25兆円)で、前年同月比30.1%増、19年同月比では114.6%と飛躍しています。英国の数値は実績値、日本の数字は感覚値です。清潔好きな日本人なのに、決済における衛生上の安全にはうといようです。

日本人が耐えられるレジ待ちの限界点

佐藤:衛生という観点からいうと、レジでの密も避けなければなりません。日本人のレジ待ちにおける忍耐力はどれだけあるのでしょうか。レジでの支払いをキャッシュレスにすれば、レジ処理のスピードはあがります。あるコンビニエンスストアでは、キャッシュレスレーンを設けたところ、処理スピードが1.5 倍になったそうです。

吉富:スーパーやコンビニエンスストアと、カフェなどの飲食店のレジで、何人並んでいれば離脱するかについて聞いてみました。まず、スーパーやコンビニエンスストアについての回答をみると、一番多かったのが、「待ち人数が3 人までなら並んで待つ」人で40.1% 。ついで「待ち人数が5 人までなら並んで待つ」が30.1%でした。「10人までなら待つ」は6.4%、「11 人以上でも並んで待つ」という忍耐強い人は13.8%に減少します。
全体の79.8%を占める「5人まで」が待ち時間の限界点ということになるでしょうか。中には、「待ち人数が1 人でもいたら、買うのをやめる」というせっかちな人も1.1%いました。

佐藤:米コロンビア大学の調査によると、レジ列が10人から15人になると、購買率で30%から、ひどい場合には70%も減少するといいます。スーパーやコンビニはほぼすべてのショップでキャッシュレス決済を受け付けている。支払いをキャッシュレスにすることによって、レジ待ちのストレスをなくすことができます。

レジ待ち解消のカギは非接触にあり

佐藤:カフェなどの飲食店のレジ待ちは、スーパーやコンビニエンスストアにくらべてストレスが多いようですね。

吉富:はい。「待ち人数が1人でもいたら、買うのをやめる」という人が7.7%もいました。「1 人までなら待つ」という人も13.5%と高い。両者あわせて21.3%、5人に1人の忍耐力は1人まで、ということがわかりました。スーパーやコンビニエンスストアでは9.6%、10人に1人という結果でした。最も多かったのは「3人まで」で36.2%、ついで「5人まで」が31.4%でした。カフェなどの飲食店でも、やはり5人までが限界。それ以上になると11.2%に激減します。

佐藤:CapitalOne Canadaの調査によると、カナダ人の38%は、自分より前に人が並んでいたらイライラすると回答しています。待ち時間が長い場合、24%の人が買うのをあきらめて店を出る。ただし、71% のカナダ人は、「忍耐は美徳」という格言を思い出してフラストレーションを回避するそうです。
新型コロナの感染症対策として、レジが密になるのは避けなければならない。日本人のレジ待ちの限界は、スーパーやコンビニエンスストア、カフェなどの飲食店でも5人です。であれば、現金の支払いをやめて、一人ひとりがキャッシュレスで支払えば、レジの待ち時間を減らせます。店舗オペレーションとしても、キャッシュレスでレジの処理スピードを上げれば売上が増えます。キャッシュレス決済で最もスピードが速いのは、非接触決済。非接触決済の推進がレジ待ちのストレス解消に繋がります。

頻度使いでクレジットカードを抜いた非接触決済

佐藤:「どのキャッシュレス手段を利用しているか」という質問をすれば、たいがいクレジットカードがトップにくるのが、これまでの結果でした。今回の調査でも、クレジットカードが81.9で最も多かった。ついでモバイルQR 決済が63.7%でした。以下、カード型一般電子マネ(39.3%)、カード型交通系電子マネー(39.1%)、モバイル非接触決済(24.4%)という結果でした。

吉富:しかし、質問の仕方を<頻度利用>に変えると、違う側面がみえてきました。「週2回から3 回以上使う」決済手段のトップは、モバイルQR決済で57.8%。ついでモバイル非接触決済が44.6%、カード型一般電子マネーが42.7%。クレジットカードは4位で41.8%でした。毎日1回以上に絞ると、トップはモバイル非接触決済(19.6%)となります。2位はモバイルQR 決済(17.7%)、3位はデビットカード(14.8%)でした。クレジットカードはここでも4位(12.4%)という結果でした。

佐藤:ほう、モバイルQR決済の頻度利用はすごいですね。クレジットカードを超えているとは。カード対モバイル決済というカテゴリーでみると、頻度利用しているのはモバイル決済ですね。モバイル決済の利便性が、カード決済より高いということでしょうか。

吉富:そうなんです。たしかに、モバイル決済であれば、他のアプリとの連携や、オンラインとオフラインの両方で簡単に使えます。カードは自宅に忘れても、モバイルは常に個人の行動に寄り添っている。カードというメディアは拡張性が低い。カードにこだわっていては、いずれ時代遅れになってしまいます。

店頭とオンラインのボーダーをかき消したモバイル決済

佐藤:「コロナ禍によって、世界では事前注文決済Order & Pay、あるいは店頭・オンライン連動決済という決済スタイルが伸びています。日本での利用実態はどうなのでしょうか。

吉富:コーヒーショップやレストランなどの飲食店で、事前オーダーして支払いも済ませ、店頭でピックアップする、という人は23.4%でした。レジに並ばなくてもいい。決済も事前に済ませているので、支払いの時間も不要です。自分でピックアップするのではなく、コーヒーショップやレストランで事前に注文してデリバリーしてもらっている人は18.1%でした。スーパーやデパートで事前注文してピックアップするという人は11.1%でした。まだ少数派ではありますが、売り切れる前に事前購入したいという欲求を満たそうとしている表れでしょうか。店頭・オンライン連動決済が最も多かったのは、美術館や動物園、映画館などのエンターテイメント施設での利用でした。オンラインで事前にチケットを購入するという人が31.5%もいました。感染予防のために、予約制にしている施設が多いこともあるのかもしれません。

佐藤:事前注文決済というスタイルはコロナ禍で広がりましたが、この習慣はアフターコロナでも着実に増えそうですね。

生活者のキャッシュレス推進に欠かせない2つのこと

佐藤:今回の生活者を対象にしたキャッシュレス意識調査で、キャッシュレス推進を阻む頑固な障害がみつかりましたね。それは、少額決済での低いキャッシュレス比率とキャッシュレス決済の効用に対する意識の低さでした。

吉富:今やキャッシュレス利用者は93.3%もいます。緊急事態宣言後にキャッシュレス利用が増えた人は57%にも上りました。キャッシュレス利用が増えた場所のトップ3 は、コンビニエンスストア、スーパー・ショッピングモール、そしてドラッグストアでした。しかし、これらの場所での現金利用率は依然として高い水準でした。コンビニエンスストアでは46.9%、スーパー・ショッピングモールでは54.7%、ドラッグストアでは49.2%が現金も利用している。この数字には開いた口がふさがりません。

佐藤:これは、500 円以下の少額決済のキャッシュレス化が進まないというカベに起因しています。店舗への気兼ねはまったく不要です。店舗がキャッシュレスでの支払いを望んでいるのですから。

吉富:もうひとつの問題は、キャッシュレスの効用に対する意識の低さです。清潔好きな日本人にもかかわらず、現金への抵抗が低いこと。日本人のレジ待ち忍耐力の限界は5人でした。にもかかわらず、決済スピードの遅い現金を使っています。

佐藤:生活者に対してキャッシュレスの効用、非接触決済の効用について、もっと繰り返し訴求することが必要だということがよくわかりました。ここまでは消費者のキャッシュレス行動でした。街のお店ではキャッシュレスの受付が進んでいるのでしょうか。

吉富:はい、中小のお店でもキャッシュレスをはばむカベがみえてきました。

次回は『Cashless Insight #4: 中小店舗のキャッシュレスが進まない!』というテーマを取り上げます。

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