Cashless Insight #5

キャッシュレス導入が進まない理由は手数料にあらず

START!編集部

佐藤 元則
NCB Lab. 代表

吉富 才了
株式会社電通 新産業開発部
電通キャッシュレスプロジェクト 主宰

「コロナ禍での生活者やお店のキャッシュレス意識に関する調査」をベースに、世界のキャッシュレスに事情に詳しいNCB Lab.の佐藤元則(さとう・もとのり)さんと、電通でキャッシュレスプロジェクトを推進する吉富才了(よしとみ・まさのり)さんが、対話形式でわかりやすく答える「Cashless Insight」。今回のテーマは「キャッシュレス導入が進まない理由は手数料にあらず」です。

なぜキャッシュレス決済は現金より遅いのか

佐藤:キャッシュレス導入店で、依然として現金の利用が4分の3を占める原因には、オペレーションの問題もあるのではないでしょうか。

吉富:はい。そういう仮説から、キャッシュレス決済が増加することで感じる業務上のストレスについて質問してみました。一番多かったのは、「決済が完了するスピードが現金より遅い」(26.6%)でした。

佐藤:えっ、そんなはずはないですよね。キャッシュレスのほうが、現金決済よりはやいはずです。それが現金より遅いとは。

吉富:その理由は、後につづく回答が原因となっているように見えます。つまり、「レジ業務が煩雑になった」(18.4%)、「お客さまのやりとりが増えた」(12.3%)、「端末機が増えてレジ周りが狭くなった」(12.2%)、そして「お客さまが使い方をわかっていない」(12.2%)です。

佐藤:なるほど、現金より遅いという問題点は、従業員へのキャッシュレス受け付けに関するする教育・訓練が不十分だということですね。現金のレジ受け付けでも従業員の教育・訓練を実施していますよね。なぜキャッシュレスでは同様に習熟するまで訓練を徹底しないのでしょう。お店の問題もありますが、講習会や実地での教育・訓練を実施するのは、サービス事業者の責務です。生活者がキャッシュレス決済の使い方を知らない。だからやりとりが増える。これは、店舗と決済サービス事業者が共同で解決すべきことですね。

キャッシュレス導入が進まない理由は、本当に手数料が原因なのか

佐藤:大手モバイルQR決済事業者が、これまで無料だった加盟店手数料を値上げしました。もし導入しているモバイルQR決済の手数料が値上げとなった場合、店舗は、どんな行動をとるのでしょうか。

吉富:今回の調査で、モバイルQR決済を導入している店舗は200件ありました。中小店舗の3分の1がモバイルQR決済を導入しているという結果です。

佐藤:モバイルQR決済が本格的にスタートしたのは2018年。わずか3 年で、中小店舗の3件に1 件が導入しているということになります。初期導入も無料、加盟店手数料も無料、というのがこの浸透力の要因となっています。

吉富:値上げに対してどのような反応を示すのか。「今後も継続したい」という店舗が89%と多い結果となりました。「今後解約したい」と回答した店舗は10%。すでに解約したところは1%のみでした。

佐藤:へぇ、これは驚きです。加盟店手数料がハードルになっているわけではない。

吉富:そうなんです、手数料がかかっても継続したいと思っている。その理由は「決済サービス会社に期待すること」の結果 Cashless Insight #4:「中小店舗のキャッシュレスが進まない!」 にあります。「決済アプリで特別特典提供」(23.4%)、「決済アプリで店舗紹介」(19.2%)、「決済データの分析機能」(9.6%)、「業務効率化サービスの提供」(9.2%)を店舗は期待しています。モバイルQR決済事業者は、すでにこれらのうちいくつかを提供していて、店舗はそれらに満足しているので、加盟店手数料が上がっても「継続したい」のではないでしょうか。

佐藤:売上アップにつながるとか、業務効率が上がるとかという決済プラスアルファの付加価値があれば、手数料がかかっても使い続けるということですね。これはいい示唆です。

現金が一番衛生的!?

佐藤:今回の中小店舗を対象にしたキャッシュレス意識調査で、最も驚きだったのは、決済手段の衛生的な意識の低さでした。生活者の意識も低かったのですが、店舗はそれに輪をかけて低かった。というより、 認識のズレが大きすぎる。

吉富:そうですよね。決済において衛生面の懸念が浮上しているのですが、衛生的な抵抗があるかについて、中小店舗600件に質問しました。結果、「とても抵抗がある」と「やや抵抗がある」の合計でトップは、カード<署名方式>で22.3%でした。モバイル非接触決済が21.8%、カード<暗証番号入力方式>が21.2%、電子マネー<タッチ方式>が19.3%、モバイルQRコード決済が18.3% でつづく。そしてなんと現金が18.1%で、最も衛生的抵抗が少ないという結果でした。「とても抵抗がある」に絞っても、現金は2.9%で、他の決済手段に比べ半分以下の抵抗感となっている。

佐藤:現金はウィルスの媒介になるといわれ、世界ではキャッシュレスを国家として推奨しているところもあります。日本も厚生労働省は、できるだけキャッシュレスを使うようアドバイスしています。顧客あっての商売であるはずなのに、顧客の衛生的安全を守る意識の低さはどこからくるのでしょう。日本でキャッシュレスが進まない頑固な弊害は、この点にあると思います。頑固な塊を溶解するには、消費者と店舗の両方に、キャッシュレスの効用を忍耐強く教育啓蒙することしかないようですね。

吉富:キャッシュレス噺は尽きませんが、そろそろこのへんで終わりにしたいと思います。次のシリーズではまた違う視点からおもしろいトピックスをお届けします。ご期待ください。

【調査概要】

◇調査手法:インターネット調査
◇調査時期:2021年12月13~16日
◇調査エリア:全国
◇調査対象 :① 一般生活者、② 中小企業※経営者
①20~69歳男女500人(人口構成に基づきウェイトバック集計を実施)
②20~69歳男女600人
※従業員数100名以下、資本金5,000万円以下の飲食もしくは小売業の中小企業

Cashless Insight #5

キャッシュレス導入が進まない理由は手数料にあらず

START!編集部
Cashless Insight #4

中小店舗のキャッシュレスが進まない!

START!編集部
Cashless Insight #3

日本の非接触決済のポテンシャル

START!編集部
Cashless Insight #2

それでも日本人の現金利用が多い謎

START!編集部
  • ライフ
Cashless Insight #1

ここまで進んだ日本のキャッシュレス

START!編集部
  • ライフ

あなたにおススメの記事

pagetop