ドバイつれづれ日誌

プライベートジェットと出稼ぎ労働者

弁護士むほん丸

みなさん、はじめまして。私は中東のドバイで弁護士をしているむほん丸です。ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)にある都市で、私は4年前からここで暮らしています。このコラムでは、中東のお金の話などをさまざまな角度から書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします!

ドバイにいる本当のお金持ち

ドバイというと、「お金持ち」を連想するかもしれません。確かに、お金持ちもたくさんいるのですが、ドバイの人口の約90%は外国人。その多くは貧しい出稼ぎ労働者で、特に多いのはインド人、パキスタン人、バングラデシュ人、フィリピン人です。インド、パキスタンなど南アジア系の人たちの多くは、肉体労働やドライバー業務に従事。フィリピン人は飲食業に多く従事し、アフリカ系の人たちの多くはセキュリティー業務など、それぞれことなる職業に多くついているのが、興味深いところです。

ドバイでは基本的に、エリアごとに富む人とそうでない人の住み分けがなされています。世界一の高さを誇るブルジュ・ハリファや、世界最大級のショッピングモールであるドバイモールのあるダウンタウンと呼ばれるエリアには多くの富裕層が住んでいます。ヨットがひしめく世界最大級のウォーターフロントであるドバイマリーナにも、西洋人ら豊かな人々が居を構えています。

そのドバイマリーナで、「ドバイには本当にお金持ちがいるのだ」と驚かされた出来事がありました。

ドバイマリーナ

以前、UAE人の王族とマリーナのホテルでお会いする機会があった際、友人を紹介されました。その方はカンドゥーラと呼ばれるアラブの民族衣装を着ていなかったため、現地人ではないと思われ、ただの友達のおじさんに見えました。

2人でお茶を飲みながら話すことになり、今晩、この後何をするかという話になりました。

「タイに行きます」
彼は言いました。
「遅い時間から大変ですね。エミレーツ航空でしょうか。タイ航空でしょうか」
話を膨らまそうと、彼が利用するエアラインを聞きます。

「いや、私の飛行機で」
「え、プライベートジェット?!」

そんな世界があるのか、と思いました。変哲もないただのおじさんだと思っていた相手が、まさかプライベートジェットを持っているとは……

ところが、話はそこでは終わりませんでした。
「違いますよ。私の会社の飛行機で」
「え、航空会社のオーナー? 1機どころか、たくさん飛行機を持ってるんですか?!」

彼は泰然とほほえむだけでした。隣に座ってお茶を飲み、SNSのIDも交換して、自分と対等のように錯覚していた彼は、まったく別世界の人間。まさに雲の上の人(航空会社のオーナーだけに)だったのです。
ドバイには、桁外れのお金持ちが確かにいるのです。

労働者と御徒町

他方で、多くの出稼ぎ労働者がドバイの街では働いています。特に、夏場の工事現場は過酷。気温が50度にも達する中で、汗水を垂らしながら限界の中で働く出稼ぎ労働者は、必死以外の何物でもありません。ブルジュ・ハリファを始めとする超高層ビル群も、それだけを取り出せば、絶対的な富の象徴のようにも見えますが、華やかさの裏には彼らの努力があり、その栄華を支えているのです。

観光地の中でそうした出稼ぎ労働者と身近に触れ合える場所として、オールドスーク(テキスタイルスーク)という場所があります。スークとは、アラビア語で市場という意味。古い市場ということですが、日本の地方都市にあるアーケード商店街のアラビア版とも言えそうなオールドスークには、少し怪しげな布地屋や雑貨屋が左右に軒を連ねています。

ここで物を売っているのは、現地人ではありません。裕福なUAE人は、こんなところで観光客にびへつらって、怪しい雑貨を売ったりはしないのです。インド、パキスタン、アフガニスタンといった国の人たちが、本場インドのカシミール地方産(と彼らが言い張る)カシミヤ、ラクダの毛でできている(と彼らが言い張る)布、アラブの民族衣装、ラクダの置物、中東風陶器、中東風クッション、中東風スリッパ、中東風ぬいぐるみなど、雑多なものを売りつけようとしてきます。

オールドスークのもうひとつの見どころは、御徒町です。オカチマチです。

オールドスークに行って少し歩けば、ほとんど確実に「オカチマチ」と声をかけてくる店員がいます(ただし、日によって出現率は変わります)。「え?なぜ御徒町?」そう思うと、すぐにまた右から左から「オカチマチ」「オカチマチ」です。

「コニチハ」「オニイサンコレヤスイヨ」「スゴーイ」「ニーハオ」(中国人と間違えられる)「ジャパンタカイ、ドバイヤスイ」「カワイイ」「ナンデヤネン」(いやこっちのセリフだ)

誰かが教えたのであろう日本語が次々聞こえてくる中で、また右から左から「オカチマチ」「オカチマチ」。客引きの言葉としては、到底、意味を成しておらず、効果も不明。恐らく世界史上これほど言っている人自身が意味をわかっておらず、客観的にもナンセンスな客引き言葉はないと思われます。

ドバイには確かに大富豪もいますが、こうして毎日オカチマチオカチマチと言いながら生計を立てている人たちもいて、割合で言えば、彼らが属する出稼ぎ労働者の方がずっと多いのです。

なお、オールドスークに行く際には、アブラと呼ばれる現地船に乗ることをおすすめします。運賃わずか30円程度の古びた木製のほとんどイカダのような小船。水につかっているうちに朽ち果ててしまいそうな船体、屋根は布、明かりは裸電球……。オンボロ船と呼ぶにふさわしいアブラですが、それがUAE国旗をはためかせ、耳当たりの良いエンジン音を立てながら、さっそうと風と水を切って進むさまは、すがすがしく格好良い。近づく景色と遠ざかる景色のいずれもが、味わい深い古き良きドバイなのです。ドバイで最もすべきことは、ブルジュ・ハリファに上ることでも、人工島パーム・ジュメイラに行くことでもなく、このアブラに乗ることだと言う人も少なくありません。

渡し船「アブラ」

一部にあふれるお金と、その一方での富まぬ人々の素朴な営み。その著しい対比がドバイの面白さの一つです。

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