ドバイつれづれ日誌

恐るべき「ドバイフレーム」

弁護士むほん丸

2018年1月1日、ドバイでまた、恐るべき建造物が誕生しました。2013年から4年以上の歳月を要し、総工費6800万ドル(日本円で約75億円)をかけて誕生した建造物。世界で一番高いビル、世界最大の人口島、世界最大のショッピングモール、世界最長の運転士不在のメトロシステム……。世界一の人工建造物を数多く作り出してきたドバイの次なる偉業は、その名も「ドバイフレーム」でした。

そのコンセプトは……。

「世界最大の額縁」

が、額縁?!

「物理的驚愕(きょうがく)」を伴う建造物を、センセーショナルに作り上げてきたドバイの次なる世界一は、意外にも「額縁」だったのです。

世界最大の額縁は、さほど大きくなくて良いはずです。絵画を縁取るそれの大きさは、絵画の大きさに限界づけられます。どんな大きな絵でも、おそらくは数十メートル。世界最大の額縁の規模も、それに相応するサイズとなるはずだからです。

しかしドバイは、高さ150メートル、幅93メートルという、あまりにも巨大な額縁を作り上げました。ゴジラ史上最大となる118.5メートルの威容を誇るシン・ゴジラでさえも、この額縁なら悠々と通り抜けられます。体長が50メートルしかない1954年から1975年までのゴジラの場合、ドバイフレームに比して小さすぎて客観的な迫力が失われてしまうため、決してくぐらせてはいけないレベルです。
その衝撃は、茨城県牛久市にある世界一のブロンズ立像、全高120メートルを誇る牛久大仏(巨体を誇る自由の女神像の約3倍もあり、奈良の大仏をそのたなごころの上に完全に乗せ切ることができるという、もはや仏の域を超えて鬼なのではないかというまさに大仏)に相当するとも言えるでしょう。

ドバイフレームが巨大なのは、それが縁取るのが、絵画ではなく風景だからなのです。1990年代から急激に発展したドバイは、それまでの古いエリアと、超高層ビルが立ち並ぶ新しいエリアに大別されます。ドバイフレームはその新旧二つのエリアの間に建っており、フレームを通して見える景色は、一方から見れば古いドバイが、他方から見れば新しいドバイが、それぞれ絵画のように美しく収まるということになっているのです。もっとも、フレームの中の風景を絵画のように捉えるためには、一定の距離と高さが必要であり、ドバイフレームを「ああ、本当に絵画を縁取るように景色を縁取っているなあ」という感慨と共に見られる人はほぼいないでしょう。

風景を縁取るための額縁は人類に馴染みがないため、予備知識のない通常人が見た場合、その建造物の趣旨はほとんど理解不能でしょう。ドバイの建造物は途中で建設が止まってしまい、そのままになってしまうことが少なくありません。この額縁もそうした類の、枠組みだけできたところで野ざらしになってしまった志半ばの遺構なのだ、と思う人もいることでしょう。
しかしながら、仏像であることが一目瞭然である牛久大仏に比して、直感的な分かりにくさにおいて全く追随を許さない不思議な構造物は、それを額縁だと理解して見ると、中々趣深いものです。近づいた時に目の当たりにする金箔(きんぱく)に覆われた大きな額縁が、中東の強い日差しを全面に浴びて空に向かってそびえ立つ様は、確かに荘厳なのでした。

全く関連性がない牛久大仏との比較をあえて続けると、ドバイフレームと牛久大仏には他にも共通点がありました。「中に入ることができる」ということです。世界最大の額縁は、有史以来初の、人間が中に入れる額縁でもあったのです。
せっかくですので、約1500円(子供は4歳以上約600円)を払って、中に入って下さい。額縁の中も決して悪くないことに気づくでしょう。入ってしばらくすると、小さな漁村時代から始まるドバイの歴史が現れます。「へー、これが昔のドバイなんだ」という感慨を得た後、エレベーターで最上層まで行くと、スカイデッキという展望室があります。両側に広がるドバイの景色は、確かに異なる二つの街なのでした。北側には、オールドドバイと呼ばれる街並みが広がり、砂色をした5階建てくらいの低層の建物が整然と立ち並びます。遠方に見えるクリーク沿いには、当時にしては高層だったのであろう中層のビルが見えます。夏が来る前の程よい夕日を浴びて心地よさそうな街は、ところどころにそびえるモスクの尖塔によってイスラム世界の趣を付加されています。

ふと振り返ると、中東随一の近代都市ドバイを誇示するように、828メートルのブルジュ・ハリファを中心に個性的な超高層ビルが立ち並んでいました。その風景の違いは、タイムスリップしたとも思える瞭然とした差なのでした。
夕暮れ時、徐々に日が落ち、眼下の街にも薄闇が広がっていきます。その先には漆黒の闇が訪れ、そして、次の朝が。そうした日々の繰り返しの速度をはるかに超越し、通常あるはずの歴史的いざこざを一切経ずに、ただ急速に発展することを宿命づけられたのがドバイだったのです。

ドバイフレームは、まだそれでは終わりません。エレベーターで下まで降りると、最先端のスクリーン仮想化技術を駆使して作り上げた50年後のドバイがそこに現れます。360度のスクリーンで展開される未来のドバイは、既にある未来都市感を一層増しており、緑豊かになって車も空を飛び、ロボットが人々の営みを支えています。革新と発展への想いは、宇宙にまで至ります。果てを知らない大スケールのその映像の終わりには、満場の拍手が待っていました。
世界最大の額縁を作るだけにとどまらず、その中にさらに完全なるアトラクションを成立させてしまうドバイ。やはりただならぬ都市なのでした。現在にたたずむドバイフレームですが、そこには確かに、過去であり、未来があるのです。

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