ドバイつれづれ日誌

夢は実現するためにある~灼熱の大風呂敷~

弁護士むほん丸

ドバイは大風呂敷を広げるのが好きです。そして、それをそれなりに実現していきます。世界一高いビル、世界最大の人工島、世界一国際線利用客の多い空港、世界一の花火打ち上げ量、世界最大のレーザーショー、世界一大きな額縁。その動機は、実務的必要性でも商業的需要でもなく、単に世界一を実現したいから。単に目立ちたいから。単にそうであれば面白いから。田舎のヤンキー的発想を本当に実現してしまうドバイは、ある種のパワースポットだと思います。

夢を実現するためのコツは、とにかく大風呂敷を広げるということです。とりあえず、宣言してみる。ここ最近の大風呂敷の代表例は、去年発表された「マーズ2117」と呼ばれるプロジェクトだと思います。100年後の2117年までにシカゴほどの大きさの都市を火星に建設し、さしあたり約60万人の人類を派遣するという壮大なプロジェクトです。大風呂敷感が尋常ではありません。というかなぜドバイがそんなプロジェクトを立ち上げる必要があるのか結構意味不明です。ロケットを作ったことも、それ以前に車を作ったこともなく、ようやく(野菜工場で)野菜を作り始めたような国です。人口もUAE全体で1,000万人程度、ドバイ首長国だけでは300万人程度しかおらず、しかも、そのうち90%は外国人と言われています。自前の科学者などほぼいないのです。

しかし、世界一高いビルを背景に、白い民族衣装をまとった王様に「我が国は、人類の利益のための技術開発における国際協力の構築を志向し、科学に対する情熱を結集させて、世界が直面する急激な変化に対する将来的な解決を目指しますうんぬんかんぬん」などと言われれば、「う~ん、ちょっとよくわかんない」とか「まずは自国で科学技術持ってからでしょ!」と言いたくなる気持ちも忘れ、確かにドバイは何かやってくれるのかもしれないと思わされてしまうのでした。

※写真はイメージです。

「マーズ2117」に関連して、ドバイは火星の居住空間をシミュレートした都市「マーズサイエンスシティ(火星科学都市)」の建設を発表しています。そこでは火星における住環境が再現され、火星移住に関連する研究が行われる予定です。ドバイの不毛の砂地は、地球という惑星の肌そのものであり、そこに透明の半球がいくつも設置された図は、確かに既に他の惑星上に存在するコロニーのようにも見えるのでした。

日本ではどうでしょう。「えー、我々は、本日を持ちまして、100年後に火星への移住を目指すことになりました」などと首相が言えば、「もっと他にやることあるだろ!」「100年後とかほとんど誰も生きてないし、意味わかんないだろ!」「現実逃避感、半端なさすぎ!」「その前に病院作って!」「老人ホーム!」「保育園落ちた、死ね!」(古い)などと数多(あまた)の批判にさらされることでしょう。現代の日本は、大風呂敷を広げにくい環境にあり、広げようものなら、ビッグマウスなどと揶揄(やゆ)され、萎縮させられてしまうのでした。

日本では、2017年5月に宇宙政策委員会作成の「宇宙産業ビジョン2030」が公表されています。「世界をリードする宇宙産業大国となる」「人類を火星に送り込むための第一歩を踏み出す」などといった夢のあるビジョンが示されているのかと言えば、全くそんなことはなく、現状に照らした現実的な今後の取り組みが淡々と記されています。「課題」箇所のネガティブ具合が秀逸で、特に「宇宙利用産業の課題」という項目においては、「高頻度観測データが十分ではない」「データの所在が分かりづらく、データアクセスが容易でない」「専門性、コスト等で衛星データの加工は容易でない」「データを解析し、課題を解決するサービスとして付加価値をつけて提供するサービスが脆弱(ぜいじゃく)、エンドユーザーが宇宙を十分に活用していない」などと、「宇宙産業ビジョン2030」という語が醸すわくわく感からは到底想起し得ない否定的な文章が羅列されているのでした。この文書にも、大風呂敷を広げにくい窮屈な日本が表れているように思われます。

世界有数の大言家として、イーロン・マスク氏がいます。米国在住の南アフリカ人であるマスク氏は、宇宙ロケット事業のSpace X、電気自動車のテスラ、太陽光発電事業のソーラーシティの各要職を占め、人類の利益と存続のために、宇宙開発を推進するとともに、クリーンエネルギーの開発を目指すという神様のような男です。このマスク氏も、ドバイと同じように、地球滅亡の日に備えて、火星に人類を送ると言っています。

※hyperloop one提供

類は友を呼び、マスク氏とドバイのあるアラブ首長国連邦は、夢を共有しています。アラブ首長国連邦は、マスク氏が2013年に発表したハイパーループと呼ばれる最高速度時速約700マイル(約1,100キロ)のチューブトレインを導入しようとしているのです。実現すれば、現在、車で1時間半から2時間かかるドバイとアブダビの間をわずか12分で移動できることになり、更にはサウジアラビアともつながって、両国の首都アブダビ―リヤド間の陸上移動は8時間半から48分に短縮されるとされます。短い距離ではあるものの、このハイパーループは、2020年のドバイ万博で、世界で初めて運行を開始する予定と言われています。ドバイはそこでもまた1番を狙っているのでした。

2027年にようやく品川―名古屋間が開業予定とされる日本のリニアモーターカーですが、夢の超特急と言われてもう数十年です。21世紀も、20年が経とうとしており、平成時代もそろそろ終わり、モーニング娘。にも21世紀生まれのメンバーが加入し始めました。世界最先端を売りとして海外展開も目指すリニアモーターカーは、このままでは、ハイパーループ等の他の高速鉄道技術の進歩に押され、実用化されるケースが限られてしまうかもしれません。

灼熱(しゃくねつ)の大気の中で、砂交じりの風に、苦しげに揺れている人工的な草花。何気ないドバイの一風景ですが、思えばこれも王様が「砂地に草木を!」という夢をかたちにしたものでしょう。夢は実現するためにある。火星移住宣言は尚早かもしれませんが、大風呂敷を広げ、それを実現していくドバイから見習うべき点は、きっと少なくありません。

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