脳卒中を起こすと日常生活に不自由を生じる「後遺症」を残すことがあります。脳卒中にならないこと、万が一脳卒中を起こした時は、1分1秒でも早く治療を開始することが大切です。毎年10月の一カ月間は日本脳卒中協会が定めた「脳卒中月間」です。 そして 10月29日は世界脳卒中機構が提唱する「世界脳卒中デー」です。

脳卒中の一番の治療は予防
そして症状が出たら一刻も早く治療を開始する 

峰松先生_450_450

峰松一夫
日本脳卒中協会 理事長、厚生労働省 循環器病対策推進協議会 委員、医療法人医誠会 法人本部 常務理事(臨床顧問)

  脳卒中は人口10万人あたり83.5人が亡くなる病気で、2020年の調査では悪性新生物(がん)、心疾患、老衰について日本人が亡くなる原因の4番目になっています。さらに問題なのは、寝たきりになってしまう原因の第1位であることです。だから脳卒中にならないことが一番大切です。今年の脳卒中月間の標語「脳卒中 予防に勝る 薬なし」をぜひ覚えてください。

 万が一、脳卒中を起こされた時は一刻も早い治療が必要です。脳や頚(くび)の動脈がつまっておこるタイプの「脳梗塞(のうこうそく)」は、劇的な症状の改善が見込めるrt-PA静注療法や機械的血栓回収療法という、つまった動脈を再開通、すなわち再び血液が流れるようにする治療があります。しかし、これらの治療は脳梗塞を起こしてからの時間の制限があります。rt-PA静注療法は症状が出現してから、または発見されてから4.5時間以内でないと治療ができません。機械的血栓回収療法も治療可能な時間は伸びてきましたが、それでも症状が出現してから6時間以内が一つの目安です。まさに「Minutes can save lives:迅速な受診が人生救う!」です。もちろん脳の中に出血するタイプの脳卒中、「脳内出血」や、脳の表面に出血する「くも膜下出血」でも1分1秒でも早く血圧を管理する、手術の適応を見極める、などが必要です。

 脳卒中を起こさないための予防、万が一脳卒中を起こした時にすぐに救急車を呼ぶこと、この2つがとても大切です。

 脳卒中経験者だからこそ言えること

川勝様_450_450

川勝弘之
日本脳卒中協会 副理事長、厚生労働省 循環器病対策推進協議会 委員

脳卒中克服十か条

1,生活習慣  : 自己管理 防ぐあなたの 脳卒中
2,学ぶ    : 知る学ぶ 再発防ぐ 道しるべ
3,服薬    : やめないで あなたを守る その薬
4,かかりつけ医: 迷ったら すぐに相談 かかりつけ
5,肺炎    : 侮るな 肺炎あなたの 命取り
6,リハビリテーション : リハビリの コツはコツコツ 根気よく
7,社会参加  : 社会との 絆忘れず 外に出て
8,後遺症   : 支えあい 克服しよう 後遺症
9,社会福祉制度: 一人じゃない 福祉制度の 活用を
10,再発時対応 : 再発か? 迷わずすぐに 救急車

(脳卒中克服十か条:http://www.jsa-web.org/patient/242.html

220906脳卒中克服

 私は48歳の時に脳卒中(脳梗塞=のうこうそく)になりました。朝4時ごろに喉(のど)が渇いて起き上がろうとすると、左手足に力が入らずに倒れ込みました。言葉もうまく話せず、言葉が消えていく感覚でした。一瞬立ち上がれたため一時は治ったと私も家族も思いました。しかしその後、家族がやはりおかしいと感じて救急車を呼び入院しました。リハビリテーションのおかげで今は自分で歩いて過ごすことが出来ています。

 今から思えば発症時の対応がすべてでした。人は『正常化の偏見』と言う意識を持ちがちです。つまり自分だけは大丈夫、脳卒中なんかにはならない、と信じ込んでいて、危険な症状が出ても軽視してすぐに病院に行くとは考えないのです。ほとんどの患者にとって脳卒中は初経験ですから、本人も家族もゆっくり寝ていればそのうち良くなる、という楽観的な考えを持ち、様子見してしまいがちです。

 この様子見は、私たちが脳卒中についての知識、情報が乏しいから起きます。脳梗塞を素早く見つけるためのチェック法が『FAST』です。FはFaceで顔の麻痺(まひ)、ゆがみが起きていないかです。AはArmで腕の麻痺(まひ)です。両目を閉じて手のひらを上にして両腕を水平に約10秒伸ばしたままにします。もし片方の腕が下がったら脳梗塞が疑われます。そしてSはSpeechです。例えば「りんご、たろう」と声を出してみて、ろれつが回らないようだと危険信号です。最後にTはTimeで時間です。発症した時刻を治療に備えてメモして、すぐにマイカー、タクシーではなく救急車を呼んで病院に向かってください。これらのチェックと行動が皆さんのこれからの人生、生活を守ります。

 そして一家の大黒柱が脳卒中になったら、家族は入院費のみならず住宅ローンの返済、子供の学費や生活費などお金の心配ものしかかってきます。家族全員が精神的・体力的・経済的に本当に大変な毎日を過ごすことになります。

 つまり脳卒中はならないことが大切で、まずは予防、そして発症時の対応が重要です。仮に脳卒中になったとしてもすぐの治療とリハビリテーション、そして「脳卒中克服十か条」(日本脳卒中協会)を心掛けていただきたいです。

 日本脳卒中協会は脳卒中患者・家族に対して自立支援を促進する情報の提供などを行っています。加えて、日本脳卒中学会が行っている「脳卒中相談窓口」や厚労省モデル事業の「脳卒中・心臓病等総合支援センター」によるサポートも一部府県ですが開始されましたので活用していただき、患者さんは希望を持って過ごしてもらいたいです。

 脳卒中は生活習慣の改善と危険因子の早期治療で
発症リスクを下げられる

岡村先生_450_450

岡村智教
日本脳卒中協会 理事、啓発委員会 委員長、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授

脳卒中予防十か条

1,手始めに 高血圧から 治しましょう
2,糖尿病 放っておいたら 悔い残る
3,不整脈 見つかり次第 すぐ受診
4,予防には たばこを止める 意志を持て
5,アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
6,高すぎる コレステロールも 見逃すな
7,お食事の 塩分・脂肪 控えめに
8,体力に 合った運動 続けよう
9,万病の 引き金になる 太りすぎ
10,脳卒中 起きたらすぐに 病院へ

(脳卒中予防十か条:http://www.jsa-web.org/citizen/85.html

220906脳卒中予防

  脳卒中の原因となる生活習慣は、塩分のとり過ぎ、喫煙、お酒の飲み過ぎ、運動不足、肥満などがあります。日本人は塩分過多の方が多いです。目標は1日男性7.5gまで、女性6.5gまで、血圧が高い方は6gまでです。塩分を控えるためには、汁物などを全部飲まない、かけ醤油(しょうゆ)をしない、塩分ではなくだしや酢などいろいろな味付けを楽しむ、などの工夫が重要です。また喫煙されている方はきっぱりと禁煙する、お酒はビールなら中瓶1本、日本酒なら1合までに抑えるのが良いでしょう。目安となる運動は1日30分以上、できれば1時間、軽く息が弾むウォーキングが良いとされています。もちろんこの時間に足りなくても、たとえ10分でいいので少しでも体を動かした方がいいです。またBMIという肥満の指標「[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]」で求められる値が22 kg/m2より多い人は、減量を試みてください。まず2kgくらいを目標にできる範囲から始めてください。

 健診で見つかる脳卒中の原因を「危険因子」といいます。危険因子としては、高血圧、心房細動、糖尿病、脂質異常症が代表的なものですが、特に高血圧が重要です。健診時や診察時の血圧が140/90mmHg以上(上か下のいずれか)だと高血圧なのでかかりつけの先生に相談が必要です。なお血圧の理想値は120/80mmHg未満です。この間の値であっても減塩や減量などの生活習慣の改善が必要です。また家で血圧が高い場合も要注意です。家庭では、朝食・服薬前と就寝前の血圧を測定すると良いでしょう。血圧を測る時は座って1~2分待ち、落ち着いてから測定してください。家で135/85 mmHg以上でも高血圧です。たとえ健診時の基準に該当しないからといって安心しないようにしてください。

 心房細動というは不整脈の一種です。動悸などの症状を伴うこともありますが、多くの方は自覚症状がありません。しかし重篤な脳梗塞を起こす危険性が非常に高くなります。心房細動は自分で見つけることもできます。ぜひ、検脈にチャレンジしてください。検脈のやり方は日本脳卒中協会ホームページ(http://www.jsa-web.org/citizen/84.html)などから見ることができます。最近は脈がおかしいかどうかがわかる血圧計、心電図が測れる血圧計に加え、ウェアラブルデバイスに心電計がついているものもあります。「脈がおかしい、不規則だ」「心房細動と表示された」時は、ぜひ、医療機関で心電図検査を受けてください。

 糖尿病や脂質異常症も健診でわかります。それぞれに応じた生活習慣の改善や早期治療によって脳卒中の予防に繋げることが可能です。日本脳卒中協会は「脳卒中予防十か条」を提唱しています(http://www.jsa-web.org/citizen/85.html)。この十か条を守って、脳卒中を予防しましょう。