近年、企業を途中で退職した人々を指す「アルムナイ」という言葉が注目されています。人材の流動化がますます進む中、企業と退職者はどのような関係になっていくのでしょうか。人材大手のマイナビは今夏、企業とアルムナイのつながりを支援する新たなサービス「YELLoop」の提供をスタートしました。開発担当者でマイナビ新領域開発室BusinessCreation部の部長、松井徹哉さんに想いと狙いを聞きました。

そもそも「アルムナイ」って?
変化する労働市場・人材戦略

「アルムナイ」という言葉があります。まだ聞き慣れない方も多いかもしれませんが、実は欧米では広く浸透しています。ラテン語由来の単語で、その意味は日本語で「同窓生」「卒業生」「OB・OG」などと呼ばれる、ある組織の出身者たちをすべて含んだ言葉ですね。

 この言葉が人材戦略の分野で、少しずつ国内でも広がってきています。キャリアの途中で自主退職した人々を指す言葉として注目されています。経産省の検討会でも話題に上るなど、新たな潮流を生み出しつつあるという状況です。

 なぜアルムナイが注目されているかというと、背景には雇用環境や働き方の変化があります。かつての日本では新卒で入社して終身雇用が前提でしたよね。そうなると会社を辞めた場合は、企業も退職者もお互いに関係が断絶して、シャットアウトしてしまう。

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 しかし現代は人材の流動化が進んでいます。働き方も時短やフレックス、リモートワークなど多様化してきました。実際のところ、今の20~30代の若い世代の間では、転職を「キャリアの断絶」だと捉える人は多くないと思います。むしろ、人生の1つのステップだと考えることが当たり前になってきていますね。

 そうであれば、企業とアルムナイが良好な関係を保つことには、むしろお互いにメリットがあるということ。実際に欧米企業だとアルムナイがネットワークを作り、企業も含めて交流を続けていくことは当たり前に行われてきたそうです。私たちは国内でも生まれつつあるこの潮流をサポートしたいと考えて、企業とアルムナイとのつながりを支援するサービス「YELLoop」を開発しました。「応援」のYELLと、人材交流の輪や循環を示す「Loop」を掛け合わせたサービス名です。

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「YELLoop」のパンフレット

戻って来たら「即戦力」
協働や仲介も 活躍の場さまざま

企業側にとってみると、アルムナイとのつながりには期待できる点が多くあります。まず最も代表的な形は、一度自主退職した人を「アルムナイ採用」として再び雇用することですね。「カムバック採用」とも呼ばれます。最も利点だと言えるのは、教育コストがかからないこと。もともと働いていた会社ですから、仕事内容はもちろん社内のルールや文化もよく理解してくれています。そこを教える手間を省くことができることは大きい。戻って来たら“即戦力”ですよね。

 採用だけではなくて、他の形でも仕事につながります。働き方が多様化して、アルムナイがフリーランスだったり、副業可能な環境にいたりする場合も増えています。そうなれば、業務委託などの仕事を企業側から発注することもできる。採用と同じように、仕事の勝手をわかっている状態です。一から説明しなくても事業の流れをイメージしてくれる、企業が望む成果を理解してくれる相手に発注できるのです。専門的な人手が不足しがちな現場ってどうしても多いので、現場的にもこれはとてもありがたいことだと思います。

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 こうした採用や発注について、アルムナイ本人はもちろん、時には「あの人なら合うかも」「こういう人がいますよ」と企業への紹介者になってくれるケースもあり得ます。当然、アルムナイ自身で事業をしていれば、取引や販路開拓につながるビジネスチャンスも生まれる。他にも関係が良好であることの意外な効果があって、会社から飛び出して活躍するアルムナイたちが社会に向けてポジティブな発信をしてくれることですね。企業のイメージ向上など、ブランディングにもつながります。

期待が高まる企業、本格化はこれから

 では実際、どれだけの企業がアルムナイ活用に取り組んでいるかと言いますと……。2021年のマイナビの中途採用状況調査では、過半数の52.7%の企業が「アルムナイ採用を導入している」と答えています。何らかの形で「カムバック」を受け入れているということです。一方、「直近1年間で実際にアルムナイ採用をした」と答えている企業は、わずか17.1%ほど。大企業を中心にアルムナイが人的資本であるということに気付き始めて、期待や取り組みはしている。だけど、本格的な活用はまだ進んでいないという、そんな段階だと思います。

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「嫌いで離れたわけじゃない」
働き手も企業もメリット大

一方で、働き手の側から見るとどうでしょうね。やっぱり、どうしても「気まずい」という空気感がありますよね。「前にいた職場に戻るのはハードルが高いなあ」と感じている人がまだまだ多いと思います。

 でも働き手にとっても、以前の勤め先とつながっていくメリットは大きいはずですよね。最近の20代や30代の退職理由は昔とは違い、「会社が嫌いになってしまった」というものばかりではないです。もともとキャリアステップとしての転職を予定していた、出産や介護などライフイベントで致し方なく、という人も多いのではないでしょうか。

 「いい会社だったけど……」と思うし、また働いてもいいかなと思っても、なかなか言い出せないですよね。それに企業側から見るのと同じで、副業やフリーランスの受注先としても、仕事内容のわかっている以前の勤め先から受注できるならば非常に助かるという人たちも多いでしょう。でも、今は窓口がありません。

コミュニティづくり 導入後も伴走

企業にも働き手にもメリットがあるけど、なかなか踏み出せないという状況ですね。そこで、企業も個人も支援したいという想いで「YELLoop」を開発しました。企業に導入してもらう形のコミュニティづくりの支援ツールとなっています。

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「YELLoop」の操作画面。シンプルで見やすく、使いやすいように設計を工夫

 コミュニティはSNSのような形で、登録者はそれぞれがポートフォリオや職歴、個人的な活動などのプロフィールを掲載することができます。そしてアルムナイと企業、アルムナイ同士、あるいは自由に作られたグループ間などで、それぞれがメッセージをやり取りして交流できるようになっています。近況の投稿や、協働相手やイベント参加の募集もできるようにしました。

 一部の日本企業でも、アルムナイ同士が有志で結びつきを持っていることはあるのですが、会社が公式にネットワークを持つことが大切だと考えました。会社としてもその場限りのカムバック採用の取り組みではなく、「あの人、今どこにいるのだろう」と見失っていた多くの人材とつながり直すことができる。アルムナイも公式な形なら、参加しやすいはずです。

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「去る者は追わず」が変わる時代へ

社外の人たちとのやり取りなので、企業には不安もあるかもしれません。ただマイナビは常に採用情報などを扱ってきていて、厳しい情報セキュリティ基準を満たしたシステムを採用しているので、安心してお使いいただけるのは当社ならではの強みです。外部の既存SNSとはあえて連携させておらず、企業にとってはセキュリティ上の安心感を持っていただけるように、働き手たちに取っても「プライベートに踏み入られない」という心理的安全性のあるコミュニティになるようにと工夫して設計しました。

 単にシステム導入で終わりではなく、より活発な交流や参加者の反応を促すためにどう運用していくか、経過観察をして、どのような取り組みが必要かを提案していきます。定着するまでの伴走をさせていただくイメージで、そこまでがこのサービスのパッケージです。

 世代が変わっていく中で、人材の流動化が進むことは避けて通れないと思います。アルムナイの分野は、これまで「去る者は追わず」の企業にとっていわば「ゼロ」だった部分。そこから思い切ってアルムナイとのつながりを資産に変え、「プラス」を生み出す大切なきっかけを、私たちが全力で支援していきたいと思います。

まつい・てつや
2013年中途入社。就職情報事業本部を経て、2016年より事業企画部門へ異動し、新卒採用領域サービスの開発に従事。2021年4月に同部門内に新規事業開発部署を立ち上げ、第1号案件として「YELLoop」の開発をスタート。2022年7月に単独事業室化し、「YELLoop」の成長とともに新たな事業開発もミッションとしている。 

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