介護人材の平均離職率が20%を超える沖縄県で、社会医療法人葦の会が運営する介護老人保健施設「オリブ園」では職員の定着が進んでいます。介護職員の役職は主任止まりでしたが、介護福祉部を創設して部長や課長といった役職を新設して、介護スキルだけでなくマネジメント能力も身につけていくようにキャリアパスを導入して改善を繰り返してきているからです。老健ではこれまでの介護職員の業務のやり方の見直しにも踏み込み、介護職員と看護職員の連携も進んでいます。改革をリードしてきた介護福祉部長や現場を担う主任に改革のプロセスを聞くと、課題解決のポイントが見えてきました。

課題:人材定着のためにオリブ園はどのような改革をしたのか

社会医療法人葦の会・介護老人保健施設「オリブ園」

設立:1990年3月
所在地:沖縄県那覇市
病床数:81床
事業内容:介護保険法に基づく介護老人保健施設事業(入所、通所リハビリ、ショートステイ)
老健局介護福祉部長:仲宗根哲也
HP: https://oribuyama.jp/ashinokai/other-department/oribu-en/

オリブ園/写真⑤
介護福祉部長の仲宗根哲也さん

離職者・入職者の素顔~少しでも給料が高いところ待遇がいいところに流れる

オリブ園を経営する葦の会は、精神科医療や老人医療、終末期医療に力を入れてきました。現在は病院、クリニック、介護老人保健施設、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、訪問サービス、デイサービスといった医療や介護の事業所のほか、障害福祉事業にも取り組んでいます。今回は、介護人材の定着や質の向上に向けて改革を続けている介護老人保健施設「オリブ園」に着目しました。

キーパーソンは、新設された介護福祉部長(介護福祉士)の仲宗根哲也さん(50)です。

「沖縄県は、介護業界から介護業界に転職する人が多いです。人間関係が原因ということもありますが、少しでも給料が高いところ、待遇がいいところというような話があって移っていっているようです。このように採用も多いですが、離職も多いというのが沖縄の介護の特徴です。私たちの施設でも、過去5年間で10人が離職しましたが、10人とも別な事業所に再就職しています」(仲宗根さん)

これに加え、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの増加も影響を与えているとみられています。また、仲宗根さんの分析によると、家族との接触によるコミュニケーションや「ありがとう」という言葉は、職員の承認欲求につながり、やりがいになっていたという。しかし、コロナ禍での面会制限で職員と家族の接触が極端に減ってしまったことも離職に影響しているのではないかと考えています。もう一つは、キャリアパス制度のもとでファーストステップ研修をクリアして職場のリーダーになっていくと、自分の介護観が明確になり、自分のやりたい介護を求めて転職するケースがあるという。

一方、採用環境も限られています。オリブ園の場合、新卒での求人は、介護福祉士などを養成する専門学校3カ所、高校2カ所に求人票を出していますが、大学には出していません。2019年に1人、2020年に4人の新卒採用をしています。このほか、大学からの新卒採用では、社会福祉士の資格を持つ人を相談員として2020年に2人採用しています。中途採用は、2019年に3人、2020年に3人、2021年に1人、2022年に2人です。中途採用のうち1人以外は介護福祉士の資格を持つ実務経験者です。年齢は30代が中心です。

職員の平均年齢は、老健が一番若くて40歳ですが、他の部門が統括する通所介護は48歳、小規模多機能型居宅介護は51歳と48歳、グループホームは47歳、通所介護は50歳となっています。

「老健が一番若くなっています。老健は多様な職種や業務があるので、今後は老健で新人育成を担っていくということも考えられます」(仲宗根さん)

オリブ園/写真③
利用者の介助をする職員

キャリアパスはなぜ必要か~離職防止にはキャリアやスキルと手当や給料の連動が必要

仲宗根さんが外部研修をきっかけに、キャリアパスを作っていった大きな理由として、離職防止がありました。

「介護の職場は、経験がある人もない人もやることは同じ仕事というようなイメージや慣習がありましたが、初級、中級、上級などのキャリアを新設して、手当や給料も連動させて、がんばった職員は給料が上がっていくようにしたのです」(仲宗根さん)

「キャリアパスの研修では、介護福祉士会の研修やキャリア段位制度も利用しています。キャリアパスを定着させて目的を達成するには、技術の評価だけでなく、職場のリーダーや評価をするアセッサーを養成していかなくてはなりません。介護の現場では、いろいろ経験を積んでくると、自分たちの価値観や経験でルールを作ってしまいやすいですが、外部の研修を組み込むことで客観視できるようにしています」(仲宗根さん)

改革の第一歩は、仲宗根さん自身が熊本県菊池市にある介護老人保健施設「孔子の里」で受けた研修体験です。3日間でしたが、職員一人ひとりが「介護のプロフェッショナル」であるという意識と仕事への取り組みに刺激を受けたそうです。これをきっかけに、コロナ禍前までオリブ園から孔子の里に次々と職員を研修派遣して、中堅職員のマインドセットをしてきました。

また、キャリアパスを作り、ケアの質向上だけでなく、主任クラス以上の職員へのマネジメント研修や労務管理研修にも力を入れています。

「以前は、『自分ができるからみんなもできるだろう』と思っていた主任クラスの職員も、外部講師による研修を受けた後、『みんなの意見は大事だ』『みんなの考えを聞いてからにしよう』と変わりました。現場もうまく回るようになり、離職率の低下にもつながる効果があったと思います」(仲宗根さん)

こうしたキャリアパスを軸とした改革を実践に移しているのが、今回、取材に協力してくれた人たちです。生活支援課長の佐伯尚樹さん(48)以外は転職組です。入所課長(介護福祉士、介護支援専門員)の桑江貴英さん(48)は、病院の介護職員を経て外部でケアマネジャーや介護人材の教育に携わっていたころから、キャリアパス制度の導入による研修充実のためにオリブ園に招かれて入職しました。主任(介護福祉士)の仲順梓さん(40)は、飲食店やホテルで働いた後、オリブ園に入職しました。主任(介護福祉士)の鬼塚智弘さん(46)は、別の法人の老健を経てオリブ園に入職しました。

養成校卒業で資格取得、新卒で入職して終身雇用のみで介護現場を運営したり、改善できたりする時代ではないことを示しています。

オリブ園/インフォ
出典:オリブ園の資料を改編

科学的介護への一歩~書き込む習慣化でモニタリングが正確になり連携がしやすくなった

老健は、利用者の在宅復帰を目指す施設のため、現場では介護職員だけでなく、看護職員やリハビリテーションに関わる職員など多様な職種の人が働いています。職種による業務範囲が明確なため、職種の壁ができてしまう事業所もあります。

オリブ園では、看護職員と介護職員の記録やアセスメントに関する情報システムを統一していましたが、仲宗根さんによると、介護職員には記録作成が苦手な人が比較的多い傾向があったそうです。

「システムを導入しても、介護の部分だけ記載が抜け落ちていることもありました」(仲宗根さん)

鬼塚さんによると、「普段と変わりがない」「その人らしく1日を過ごしていた」という意味で記録をしない人もいたという。食事、排泄、入浴に関してはチェック方式で記録し、体調の変化があれば文章で記入しているというケースもあったという。佐伯さんも、「食事やバイタルの記録は残っていますが、どう過ごしたかの記録がなかった。そういう変化を細かく書く、記録に残すという習慣がなかった」と感じていました。

仲宗根さんは、介護職員に対し、生活支援の観点からもどのような取り組みにどのような反応や変化があったのかといったことなどを中心に記録していきましょうと伝えていきました。佐伯さんは書く習慣がない介護職員に、まずは利用者1人から1日の変化や様子を紙に書いて提出するようにしました。その後、2人、3人と増やしていき、慣れてきてから情報システムに記録を書き込むようにしました。

「介護はその人たちの生活を支えるものなので、何もないということはありません。介護の専門性として、アンテナを張って、共有していくことが大事だからです」(仲宗根さん)

「利用者ごとに記録が積み重なっていくと、モニタリングが正確になっていくことが分かります。その深いモニタリング情報をもとに職員がケアマネジャーとやり取りすることになります。外部との関係性も上手にできるようになり、モチベーションアップにつながっています」(佐伯さん)

「書くことで整理されるので、日々の介護にも根拠が見えてきます。それが自信につながります。介護職員と看護職員がともに見られるシステムを導入してからは、看護職員から何か言われて、何となくやってきたケアから、介護の視点から看護職員に意見が言えるような雰囲気がでてきました。仲が悪かったということではなく、利用者の変化や様子を介護職員が観察していてくれることで、看護職員も大いに助かっているという声ももらいます」(仲宗根さん)

細かすぎるという意見もありましたが、徐々に慣れていき、慣れない職員は異動することもありました。

介護の世界では今、介護報酬改定で「科学的介護推進体制加算(LIFE加算)」が設けられるなど、介護事業者が増収を得るためには、記録やデータ、PDCAサイクルによる改善が欠かせなくなっています。「介護職員処遇改善加算」でも、キャリアパスが要件に入っています。オリブ園に限らず、好事例の介護事業所は、さまざまな加算による増収によって、余裕のある人員配置ができたり、給料を上げたりしています。

オリブ園/写真②
利用者の介助をする職員

働きやすさとは何か~「1人」にしない職場環境と余裕を生む職場の雰囲気

全国各地の介護施設では、さまざまな業種から転職して介護職員になっていますが、研修を受けたとしても、やはり配置職員数が減る夜勤帯での勤務に不安を覚えたり、離職につながったりする人が少なくないとされています。そのため、介護職員と看護職員の連携も、職員定着のポイントとされています。

オリブ園は、1階が40床、2階が41床あります。夜勤帯は、看護職員1人と介護職員3人での勤務になります。仲宗根さんによると、職種の壁を越えて、互いの職員の表情を見ながらフォローに入るようにしているという。声の掛け合いだけでなく、疲れていたり、煮詰まっていたりする職員がいれば、「1人夜勤」という状態を避けるように心掛けています。

「勤務内でも勤務外でも、介護職員だけでかたまらず、栄養やリハビリの職員などともコミュニケーションを取るようにしています」(鬼塚さん)

「体調が悪いようなときは、看護職員たちが『残るから帰っていいよ』と言ってくれて、カバーしてくれる環境にあります」(仲順さん)

また、病院を併設している老健のため、看護職員や医師が身近にいて相談しやすい関係性にあるという点は、経験が浅い介護職員の安心感になり、それが働きやすさにつながっているという。日々の業務のカバーだけでなく、メンタル的に体調が悪そうな職員には、すぐ面接をして対処するようにしています。

このように、それぞれの職員が「代わりがいない」という負担感ではなく、「代わってくれる人がいる」という安心感をどうつくれるかが重要です。オリブ園は、週2日の休みのほか、祝日、年末年始休、クリスマス休などを合わせると年間120日の休みがあります。このほか有給休暇が20日あり、有休消化率は90%を超えています。夜勤明けの残業もほぼないそうです。

「時間になったら『もうあがって』とみんなで声を掛けるので、何か仕事をしていたとしても『代わるよ』『お願いします』といえる職場の雰囲気があります」(仲順さん)

このほか、桑江さんによると、外部研修も勤務時間内で受けられ、費用の支給もあるという。

「私も含めて、オリブ園は休みが多くて働きやすいという評判で転職してくる人が多かったと思います。そこにキャリアパスを設け、ポストも設けることで、次の世代に『これからの介護』を学んでいってほしいし、そういう人材に集まってきてほしいと考えています」(仲宗根さん)

毎年、7~8人来る専門学校からの実習生には、「ここで働きたい」と思ってもらえるように、関係性づくりからクレームまで丁寧に対応しているという。

「介護といっても職種によって業務内容や役割が違います。特に在宅復帰を支える老健の役割を説明しています。また、一般論ではなく、老健で働く私のやりがいと、利用者にとって一番いいことは何かを考えながら仕事をしていることを、できるだけ具体的に話しています」(仲順さん)

主任クラスに権限を持たせて現場のリーダーとなり、介護職員一人ひとりが考えながら、連携しながら、ケアをするオリブ園の改革は、ケアの質の向上とマネジメント能力の向上が両輪であることを物語っています。

オリブ園/写真④
右から、仲宗根さん、桑江さん、佐伯さん、仲順さん、鬼塚さん

取材:岩崎賢一 写真:岡田晃奈 インフォグラフ:須永哲也

*本事業は、「令和4年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。

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