重度訪問介護サービスを展開する株式会社土屋が、2023年1月、47都道府県での事業展開を達成しました。岡山県井原市に本社を置くこの会社は、毎月約1000人の応募があり、約200人の採用内定を続け、事業拡大をしています。さまざまな介護サービスの中でも、訪問系は特に人材確保が難しいという事業所が多いのに、なぜ、土屋は働きたいという人を集めることができるのでしょうか。深掘りしていくと、課題解決のポイントが見えてきました。

課題:介護人材不足が叫ばれる中で、働きたいという人が集まる事業所はどこが違うのか

株式会社土屋

設立:2020年8月19日
本社:岡山県井原市
従業員:2184人(2022年12月末現在)
事業内容:障害福祉サービス事業及び地域生活支援事業、介護保険法に基づく居宅サービス事業、訪問看護事業、研修事業、シンクタンク、出版事業
代表取締役兼CEO:高浜敏之
HP:https://tcy.co.jp/

インタビューに答えてくれた株式会社土屋の幹部3人。左から星敬太郎執行役員兼ホームケア土屋GM、高浜敏之代表取締役兼CEO、大庭竜也管理部長兼CHO
インタビューに答えてくれた株式会社土屋の幹部3人。左から星敬太郎執行役員兼ホームケア土屋GM、高浜敏之代表取締役兼CEO、大庭竜也管理部長兼CHO

経営者は変われるか~事業のスケールアップと効率化で社会課題を解決する

土屋が注力している重度訪問介護は、重度の障害で行動上著しい困難があって常時の介護が必要な障害者に対して、居宅にうかがい、身体介護、家事援助、相談支援、外出時の移動中の介護などを行います。介護保険サービスの高齢者の訪問介護と違い、訪問した利用者の居宅にいる時間が長く、利用者や家族との関わりも深いのが特徴です。

2020年8月に株式会社土屋を設立してから代表取締役兼CEOである高浜敏之さん(50)、採用を取り仕切る本社管理部長兼CHOの大庭竜也さん(32)、重度訪問介護の「ホームケア土屋GM」を担当する執行役員の星敬太郎さん(47)を訪ねてインタビューをしていくと、採用の手法だけでなく、事業所のマネジメント自体に人を引きつけるポイントがあり、かつ介護や福祉の世界で陥りやすい罠(わな)が見えてきました。

この会社を経営する高浜さんは、慶応義塾大学文学部を卒業後、介護や福祉に係る市民運動家として活動してきました。同時に、障害者の介助者を経験した後、前の会社となる介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験しつつも、路線の違いから独立し、現在の土屋を立ち上げました。

「私が30代のころ、ケアの仕事をしていたときは、ボーナスなんて1回ももらったことはありませんし、社会保険もなく、時給1000円ぐらいで働いていました」(高浜さん)

その高浜さんは今、介護や福祉の世界でも、昇給があったり、キャリアアップしていけば年収800万円や1000万円の収入が得られたりするような経営を目指すことが重要だと指摘します。

「福祉に関わる人たちの中には、反ビジネス主義みたいなところがあります。私もそのど真ん中でケアの仕事をしていましたので、株式会社での経営なんてとんでもないと思っていました。しかし、志やモラルだけで集まれる人間は少数です。それでは社会課題の解決はできない。私自身がこのままではダメだと思って変わったのです」(高浜さん)

加えて、高浜さんの妻が交通事故に遭遇し、仕事ができなくなってしまったことが背中を押しました。時給1000円で「武士は食わねど高楊枝」では、家族の扶養義務を果たせません。介護や福祉は、志も大切ですが、ボランティアの延長線上にあるようなマネジメントでは職員を維持できないという現実を身をもって感じたことで、自身の考え、スタンスから見直し、事業として成立するための改善にかじを切ることができたわけです。

「私も昔は『小さいことはいいことだ』と思っていました。しかし、事業をスケールアップ(規模拡大)と効率化することで、昇給やキャリアアップができるようになるだけでなく、今まで手が付けられなかった社会課題にも取り組むことができるようになります」(高浜さん)

利用者とケアする職員(提供写真)
利用者とケアする職員(提供写真)

求人広告の使い方~求人サイト任せにしない

土屋の介護事業部の平均年齢は、42歳です。女性と男性の比率は、6:4です。介護福祉士の資格を持つ職員は、33%です。

土屋は2023年1月現在、47都道府県に事業所を展開し、毎月約1000人の応募があり、約200人の採用内定を繰り返してきていますが、求人票を出す採用グループは5人で行っています。面接は全国の事業所の管理者やエリアマネジャーなど約50人が対応しています。また、人材紹介業者は利用していません。自社のホームページからの応募と民間の求人サイトへの求人票掲載を中心に人材が確保できています。そのメソッドについて、大庭さんは次のようなポイントを挙げます。

  1. 民間の求人サイトもそれぞれ特徴があり、介護業界に強いサイトを見極め、特徴に合わせて使い分ける
  2. 民間の求人サイトの担当者に対して、「お金を支払って任せる」ということではなく、サイトの担当者が積極的に協力したくなるような関係性を築く
  3. 自社のホームページを通じて応募してくる人は、自社の取り組みに共感して応募してくる人なので相対的に意欲が高く、ミスマッチが少ない

人材不足の課題解決を求人サイト任せにしないことが重要だと指摘します。大庭さんたちはそこに出す求人票の文言や画像など、見た人がどうすれば応募したくなるのか、一緒に突き詰めて改善を繰り返しています。各求人サイトの費用対効果も見極めています。そして何よりも、求人サイト担当者に土屋に協力してあげたいという気にさせて、同じチーム感で採用プロジェクトを進行していくことだといいます。

これは「ステークホルダー・マネジメント」(*)で、採用活動のみならず、土屋の経営自体がそこを上手にこなしていることがあります。ソーシャルビジネス・カンパニーとしての土屋の存在意義は、社会の小さな声に応える、悲鳴に応答するということが軸です。その実現のためには、ステークホルダー、例えば銀行や行政機関に深く共鳴してもらい、良好な関係を築くことで無駄なコストを費やさないようにすることです。

*ステークホルダー・マネジメント
ステークホルダーの期待と影響を分析して、ステークホルダーがプロジェクトの意思決定や実行に効果的に関与できるようにするマネジメント戦略。

求人と一言でいっても、土屋では介護人材に強いサイトの見極めのほか、PPC広告(表示された広告が1回クリックされるごとに料金が確定)を多用しています。

画像でも、求職者目線、求職者が知りたいことを意識して各地の現場を撮影しています。更新も重要です。

利用者と会話する職員(提供写真)
利用者と会話する職員(提供写真)

効果的なリクルート手法~ワーク・エンゲージメントが高い人材へリーチする

細やかな求人広告戦略とともに、高浜さんが効果的だというのは、「リファラル採用」(*)です。採用になり、一定期間働くと、紹介した社員にリファラル手当が支払われるインセンティブもあります。

*リファラル採用
自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう採用手法。 

「500人応募のうち100人が入社まで至るような感じで、効果的です。介護人材に強い求人サイトであっても、そのホームページを訪ねてきている人は『バイトや仕事が何かないかな』といった感じの人たちです。リファラル採用の場合、『土屋で働きたい』と思って応募してきている人が多いからです」(高浜さん)

このためには、現在、土屋で働いている社員が、「ここで働くといいよ」という感じで知人や友人に勧めるためには、現社員の満足度が高くなければ実現しません。自分の職場や介護という仕事を嘆くことがないようにマインドセットすることも同時に重要だということです。

もう一つ土屋が効果的だと判断し、力を入れているのが、「オウンド・メディア・リクルーティング(OMR)」(*)です。

*オウンド・メディア・リクルーティング(OMR)
自社のホームページやSNS、社員を通じて、自社が必要としている人材に対して深いメッセージを直接発信して共感を喚起することで高付加価値な人材獲得につなげていく能動的リクルーティング。

自社のホームページから応募してくる人は、ワーク・エンゲージメント(*)が高いことが特徴です。

*ワーク・エンゲージメント
仕事に対して、ポジティブで充実した心理状態。

リファラル採用とOMRは、離職につながる入り口段階でのミスマッチを少しでも防げることにつながっています。逆に言えば、土屋にマッチする人材採用につながっていくということです。

また、求職者サイドに立った細かな取り組みも実施しています。応募しても採用面接に至らない人がいます。それは、都合が悪かったり、何らかの理由があったりする人たちです。そういう人たちにも、月に1回や週に1回、こういうことをしているから参加してみませんか、というメールを出します。そこから「土屋って、いい会社だな」と感じてもらえるかもしれませんし、再度、採用面接につながることもあるからです。

オンライン説明会も週1回実施しています。こうした施策を組み合わせることで、たまたま日程が合わなかったために土屋との縁が途切れてしまうことを避けるためです。

このほか、コロナ禍の第7波のとき、人は外出したくないというマインドに注目しました。自宅でスマートフォンがあれば、応募からオンライン面談、採用内定までできることを前面に押し出すようにしました。

「求職している側に立って考え出すと、いろいろアイデアがでてきます。そうすると応募者がグッと伸びたことがありました。もちろん、それ以前もオンライン面接はしていましたが、打ち出し方を求職者目線に立って徹底的に突き詰めていったわけです」(大庭さん)

利用者と外出する職員(提供写真)
利用者と外出する職員(提供写真)

離職率の捉え方~在宅でのサービスで一番重要なのは信頼関係

こうした土屋の離職率を尋ねると、会社設立から2年間で平均30%だという。公益財団法人介護労働安定センターが2022年8月に発表した令和3年度の「介護労働実態調査」によると、訪問介護員の1年間の離職率は、有期雇用職員で12.9%、無期雇用職員で13.9%です。これを単純比較すると、とても高いように感じますが、そこには理由があるといいます。

「採用でマッチしたとしても、重度訪問介護への想像と現実の乖離があり、現場に行くと想像していたのと違う雰囲気があったり、人の命を預かったりすることに直面すると『ちょっと無理だ』という人がいます」(大庭さん)

大庭さんによると、介護保険サービスでの訪問介護と障害福祉サービスでの重度訪問介護の大きな違いの一つは、利用者の自宅に長時間滞在してサービスを提供していく点です。1日8時間同じ利用者と過ごすということを考えたとき、信頼関係が重要になってくるという。

「他人と8時間一緒に過ごすことって、ストレスがたまりますよね。利用者とのコミュニケーションも重要で、いろいろ厳しいことを指摘されることもあります。それに耐えられないという人が多いです。そこに医療的ケアが入ってきます。だから離職率がある程度高いという現実があります」(大庭さん)

しかし、その改善に向けて効果的だとみているのが、リファラル採用です。かつ、土屋は自社内に研修部門を持っているため、現場に入る前から現場に入った後までさまざまな研修を組み合わせています。先輩社員の同行研修もあれば、地域を担当するコーディネーターが相談を受けたりする体制も整えています。

「いろいろな努力をした結果、30%は辞めるけど、70%は残ると考えています。この努力がなければ、30%が残って、70%が辞めるということになると思います。人的資本経営ということが言われていますが、社員をコストとして考えるのではなく、資産として捉え、それぞれの活かしどころがあると思うので、『合わない』『無理だ』といって離職して別業界に人材が流れてしまうのを見ているだけでなく、その人たちも活躍できるように『トータル・ケア・カンパニー』として関連事業をグループで広げていきたいと考えています」(高浜さん)

もう一つ見えてきたことは、実務経験のある人の方が実務経験のない人より離職率が高いという点です。

「実務経験者で離職をしてしまう人は、自分を変えられない人だと思います。私も別な事業者で通算17年ほどの経験がありましたが、自信や自負を持っている経験者が多いです。そこがプライドになってしまうと、先輩に合わせられない、利用者に合わせられないということが起き、離職につながっていくケースが特徴だと思います」(星さん)

応募者の平均年齢は44.5歳です。一番多いのが、40代です。30代後半から50代前半の応募が多いのが特徴です。

「施設介護は、施設のルールに基づいて働くことが重要ですが、在宅でサービスを提供する場合、利用者のルールや要望に基づいて働くことが重要だという点です。だから、効率が悪いこともありますし、専門的な知識を持つ人にとってみれば躊躇するようなことを言われたりもします。だから柔軟性が必要なのです」(高浜さん)

利用者をケアする職員(提供写真)
利用者をケアする職員(提供写真)

多様性とリーダー育成~重要なのは志が合っているか

土屋にも課題はあります。現場で働く人材も、半数近くが非常勤職員という。非常勤職員には、ダブルワークの人が多くおり、夜勤帯の仕事だから成立している部分もあります。資格を持つ人は、同業者とのダブルワークが多く、資格がない人のダブルワークは、専門学校の講師、営業パーソン、接客業、大工などさまざまです。

重度訪問介護というと、日中夜間問わず長時間滞在型のサービスが多いよね、というイメージが世の中には強いと思います。しかし、日中の短時間のニーズもあります。1人の利用者に対して他の事業者とも協力し合いながら切れ目ないサービスを提供しているケースもありますが、理想はさまざまなサービスを組み合わせて24時間365日サポートできるように人材を確保することです。そのためには事業拡大による効率化と、それを支えていくリーダー育成が重要になってきます。

「将来土屋の事業で活躍できそうなリーダーを育てるということを念頭に、現場でも人材育成をしています」(星さん)

つまり、人材育成の幅を利用者の満足度が高いケアやサービス、コミュニケーションの提供だけにとどめないということです。

土屋のマネジメントを支える人材は多様です。

「副社長は元営業パーソン、専務は元金融機関勤務、常務は元不動産管理会社勤務、他にも役員には元オークション会社勤務、元花屋、元キックボクサーなどがいます。大庭も、元は世界的なスポーツ用品メーカーの社員で、介護の現場を経験して今に至っています。重要なのは、志が合っているかなのです」(高浜さん)

株式会社土屋(インフォ)

取材:岩崎賢一 写真:阿部章仁 インフォグラフ:須永哲也

*本事業は、「令和4年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。

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