「脳梗塞(のうこうそく)」や「心不全」の原因の一つである「心房細動」。最近では「認知症」との関係も示されています。「脳梗塞」「心不全」「認知症」を起こすと、寝たきりになってしまう可能性があります。でも「脳梗塞」や「心不全」を予防するための飲み薬やカテーテル(細い管)などの治療法があります。「心房細動」は「脈が不規則になる不整脈」で、特に高齢の方で起こりやすいことが知られていますが、若い方にも出現することがあります。しかし症状のない人も多いため、日頃から自分の「脈」に触れて脈が不規則になっていないか、もし不規則なら「心房細動」ではないか医療機関を受診することが大切です。(公社)日本脳卒中協会(所在地:大阪市阿倍野区)と(一社)日本不整脈心電学会(所在地:東京都千代田区)は、皆さんに「心房細動」のことをよく知ってもらうため、2014年に「脈の日(3月9日)」を、またそこから1週間を「心房細動週間」とすることを提唱し、啓発活動を始めました。
3月9日は「脈の日」 9日〜15日は「心房細動週間」
「寝たきり」になる原因の病気は?
不整脈の一種である「心房細動」で、なぜ「寝たきり」になる可能性があるのでしょうか?
それにはまず「寝たきり」の原因として多い病気を知る必要があります。
令和元年(2019年) 国民生活基礎調査1)によると、「要介護5(寝たきり)」の原因は「脳卒中」が24.7%、「認知症」が24.0%と、2つの病気で約半数を占めています。また、割合は高くはありませんが心臓病も原因の3.3%にみられています。
「心房細動」は「脳卒中」2)の原因となり得る不整脈で、さらに「認知症註1)(血管性認知症、アルツハイマー型認知症)」との関係が考えられており3)、「心臓病」の一種である「心不全」も合併することが多いとされています4)。このため、「心房細動」の早期発見が寝たきり予防のために重要です。「心房細動」では動悸、めまい、息切れなどの症状が知られていますが、実は半数前後の方は、自覚症状がないと考えられています5)。
註1)認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症のほか、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの神経変性疾患によるものなど様々な原因が知られており、アルツハイマー型認知症が最も多く、次に血管性認知症が多いとされています 6)。
正常な心臓のリズムは、安静時に規則的に1分間で60回~100回拍動します。しかし心房細動になると心房が痙攣した状態となり、心拍は不規則で速くなります。
心房細動は年齢が上がるにつれて発生率が高くなり、また女性よりも男性に多く発生します7)。日本では100万人以上が心房細動を持っていると推定されています8)。
心房細動は健康な方でも発生しますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞・弁膜症などの心臓病や慢性の肺疾患のある方、肥満や過体重の方に発生しやすく、またアルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレス時に発生しやすくなります。
心房細動自体は、直接には命に関わるような重症な不整脈ではありません。しかし動悸、息切れ、疲れやすいなどの症状が現れ、また脳梗塞や心不全の発生率が高くなるため適切な治療が必要です9)。
心房細動は「脳卒中」の原因の一つ
「脳卒中」は脳や頚部の動脈が詰まることで起こる「脳梗塞」、主に脳の中の細い動脈が破れて起こる「脳出血」、主に脳の表面の太い動脈にできた瘤(脳動脈瘤)が破裂して起こる「くも膜下出血」に分類されます。
このうち、日本人の疫学調査をみると「脳梗塞」が約7割を占め最も多いタイプになります。「脳梗塞」は主に動脈硬化が原因で起こるタイプのものと、心臓病が原因で起こるタイプがあります。「心房細動」は心臓病が原因で起こるタイプの代表的な原因の一つです10)。
「心房細動」があると心臓の中(左心房)に「血の塊(血栓)」ができやすくなります。この血栓が心臓から脳や頚(くび)の動脈に流れていき、これにより動脈が詰まると「脳梗塞」が起こります。このようにしておこる脳梗塞は「心原性脳塞栓症」と呼ばれ、脳梗塞全体の2割以上を占めています10)。
さらに「心原性脳塞栓症」は生活に影響が出やすく、「寝たきり」になりやすいことが知られています。また「命を落とす危険性」も高い脳梗塞です11)。
「脳梗塞」を起こしても原因がわからない方がいますが、このような患者さんの4割以上は心房細動が原因である可能性があります12)。本人も気が付かないうちに心房細動を起こし、心臓の中に血栓が出来て、それが原因で「心原性脳塞栓症」を起こしてしまったと考えられます。
このため、日頃から自分に「心房細動」が起こっていないかどうか、チェックすることが大切です。
心臓の働きが悪くなる「心不全」の原因にも
息切れやむくみ、そしてこのような症状がだんだん悪くなって命を縮める状態が「心不全」です。「心不全」はいろいろな心臓の病気で起こりますが、「心房細動」は心臓の心筋細胞に変化を起こすため、「心臓の働きを弱くする」ことがあります4)。
心臓の働きが弱くなると「心不全」を起こす可能性があります。「心不全」を患っている方は、日常生活の活動が制限されたりすることに加え、寿命が縮まったりする危険性が高まると考えられています13)14)。
また、「心房細動」がある方は心臓に血液、栄養を送っている動脈が詰まって起こる「心筋梗塞」の危険性も高まることが報告されています14)。「心筋梗塞」も心臓の働きが悪くなる原因の一つであり、その結果、「心不全」を起こす可能性がさらに高まります。
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「認知症」を起こす可能性も
様々なことを正しく理解して適切に実行する能力を「認知機能」と呼び、この能力に問題が起こることを「認知機能障害」、「認知症註1)」と言います。「心房細動」は「脳卒中」「心不全」の原因の一つですが、「認知症(血管性認知症、アルツハイマー型認知症)」を起こす可能性も指摘されています3)。
「心房細動」がある方は年々増加していますが、「認知症」を患っている方も同じように年々増加しています15)。「心房細動」で心臓にできた「血栓」が脳や頚の動脈を詰めて「脳梗塞」を起こすことで「認知症(血管性認知症)」になることがあります。
「血栓」が動脈に詰まっても、言葉の障害や手足の運動障害がなく、普通と変わらない状態のこともありますが、このようなことを繰り返すことも「認知症(血管性認知症)」になる可能性があります。また、「心房細動」では、心臓の最も重要な働きである「血液を全身に送るポンプ」としての機能が悪くなるため、脳を養う血液が足りなくなったり、脳が痩せたりすることが知られています16)。
註1)認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症のほか、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの神経変性疾患によるものなど様々な原因が知られており、アルツハイマー型認知症が最も多く、次に血管性認知症が多いとされています 6)。
心房細動の治療には
生活習慣の改善と、飲み薬、カテーテル治療がある
「心房細動」の治療には生活習慣の改善が大切です。肥満、運動不足、 喫煙などは「心房細動」を起こす原因になり得ます。また高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療で 「心房細動」の症状が軽快する可能性も報告されています17)。
また「心房細動」による「脳梗塞」や「心不全」の予防には飲み薬やカテーテルという細い管を血管の中を通して行う治療があります。
一般的に「心房細動」が原因で起こる「脳梗塞」の予防は、「抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)」という飲み薬が使われます9)。抗凝固薬には様々な薬があり、患者さんの状態に合わせて治療が行われます。
一方、カテーテルという細い管を使った治療には「カテーテルアブレーション」、「経皮的左心耳閉鎖術」があります。「カテーテルアブレーション」は心臓のなかで「心房細動」の原因となっている部分を焼灼したり、冷凍したりして心房細動を治す治療で、「脳梗塞」を予防する効果があると言われています18)。この治療は「心不全」を起こしている方の寿命を伸ばすという研究報告もあります19)。
また、「血栓」は心臓の「左心耳」にできやすいことがわかっていますが、この「左心耳」をカテーテルで閉塞させる治療(脳梗塞予防)が「経皮的左心耳閉鎖術」です。体質や合併症のために抗凝固薬による治療が難しい方への治療の選択肢となります20)。
このほか、「心房細動」の治療には、「脈を規則正しくする」飲み薬や、「脈の回数を調整する」飲み薬があります。このような様々な治療を適切に行うことで、「脳梗塞」の予防だけでなく、「心不全」の予防や「心房細動の症状」を緩和することが可能と考えられています17)。
医師に飲み薬、カテーテルアブレーション、経皮的左心耳閉鎖術について相談を!
まず脈に触れることから始めましょう
心臓の動きと一致して血管は脈を打ちます。「心房細動」は脈の間隔が不規則になる不整脈なので、自分の指で脈を触れることで「心房細動」を疑うことができます。
「脈の測り方」=下の図の左側=のように親指側の手首のしわの部分に指3本(人差し指、中指、薬指)をあてることで脈を測ることができます。この時、指先を少し立てると分かりやすいでしょう。また自動血圧計で脈の不整を検知するもの(不規則脈波検出機能付き家庭用血圧計)や、心電図の計測が可能な血圧計(心電計付き血圧計)、家庭用心電計のほか、一部の着用型デバイスでも心電図を記録することができますので21)、これらを活用するのも有用な方法です。
1分くらい自分の脈を触ってみて、不規則だったら「心房細動」かどうか、お医者さんに相談して是非心電図検査を受けてださい。
一方、「心房細動」が発作的に起こっている方では、「心房細動」が生じている時に心電図検査を受けないとわからない場合があります。現在では、皮膚の下に小さな心電計を植え込んで心房細動が隠れていないか調べることも可能で22)、原因不明の脳梗塞(潜因性脳梗塞といいます)の原因として心房細動が隠れていないかを調べる場合に保険が適応されることがあります。
もし「心房細動」がみつかったら、「抗凝固薬」、「脈を規則正しくする薬(抗不整脈薬)」、「脈の回数を調整する薬」、「カテーテルアブレーション」、「経皮的左心耳閉鎖術」などで、「脳卒中」「心不全」「認知症」、そして「寝たきり」になるのを予防しましょう。
詳しくはYouTube動画「脈とりで寝たきり予防」や「心房細動週間」のウェブサイト(http://www.shinbousaidou-week.org/selfcheck.html)をご覧ください。
■2023年「心房細動週間」啓発事業
「脈の日・心房細動週間」のポスターを作成し、日本脳卒中協会および日本不整脈心電学会会員の所属する医療機関を中心に掲示しています。「心房細動週間」のウェブサイト(http://shinbousaidou-week.org)では、一般の方向けの情報を掲載し、自分で脈をチェックする方法の動画も掲載しています。この動画については、より多くの方に見ていただくためにインターネットの動画サイトにも投稿していますので、是非ご覧ください(YouTube「脈とりで寝たきり予防」)。
脳卒中に関する正しい知識の普及および社会啓発による予防の推進ならびに脳卒中患者の自立と社会参加の促進を図り、国民の保健、福祉の向上に寄与することを目的とし、1997年3月に任意団体として設立されました。2005年3月に社団法人として認可後、2012年10月1日に公益社団法人に移行しました。2023年3月現在、本部事務局と48の支部(46都道府県、2政令指定都市)があり、脳卒中を発症した患者さんやご家族を始め、医療従事者、行政・福祉関係者、一般の方々への情報提供や調査研究活動などを行っています。本協会は、一般社団法人日本循環器学会とともに「脳卒中・循環器病対策の成立を求める会」の共同事務局を務め、2019年12月1日に施行された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」の国会での成立に貢献しました。日本脳卒中協会に関する詳細は、ホームページ(http://jsa-web.org)をご参照ください。
1986年、心臓ペースメーカー等に関する調査・研究事業を目的とし、日本心臓ペーシング学会として設立されました。1995年に日本心臓ペーシング・電気生理学会に改称され、2005年9月に特定非営利活動法人日本不整脈学会として認可、2015年に日本心電学会と合併して一般社団法人日本不整脈心電学会となり、現在に至っています。心臓病、とくに不整脈に関する研究・発表および講演・研修・セミナー等の開催、不整脈を中心とした出版等の啓発普及事業、不整脈に関連する学術調査・研究事業、そして心臓病の診断・治療に係わる人材育成を行うとともに、学術文化および医療の発展に寄与することを目的とし、鋭意活動を行っています。日本不整脈心電学会に関する詳細は、ホームページ(http://new.jhrs.or.jp/)をご参照ください。
協賛社
【参考文献】
1) 厚生労働省. 2019年国民生活基礎調査の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html
2) Wolf PA, et al. Stroke 1991;22:983-988.
3) Papanastasiou CA, et al. J Gen Intern Med 2021;36:3122-3135.
4) Carlisle MA, et al. JACC Heart Fail 2019;7:447-456.
5) Yamashita Y, et al. Circ J 2017;81:1278-1285.
6) 厚生労働省.知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト「認知症」. https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
7) Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009;137:102-107.
8)Ohsawa M, et al. J Epidemiol 2005;15:194-196.
9) 一般社団法人日本不整脈学会. 心臓の病気について―不整脈―心房細動. https://new.jhrs.or.jp/public-site/lecture/lecture-2-a-1/
10) Takashima N, et al. Circ J 2020;84:943-948.
11) Toyoda K, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis 2016;25:1829-1837.
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18) Kirchhof P, et al. N Engl J Med 2020;383:1305-1316.
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20) Li J, et al. Cardiovasc J Afr 2020;31:153-158.
21) Lopez Perales CR, et al. Europace 2021;23:11-28.
22) 日本脳卒中学会. 脳卒中医療向上・社会保険委員会 潜因性脳梗塞患者診断手引き作成部会.植込み型心電図記録計の適応となり得る潜因性脳梗塞患者の診断の手引き. https://www.jsts.gr.jp/img/tebiki_noukousoku.pdf