“幸せの、チカラに。” 創業から100年を経たパナソニックグループが昨年、新たに掲げたブランドスローガンだ。その言葉を体現しようと、神奈川県藤沢市でこの夏、通常とは少し異なるECサイトの運営に乗り出した。サイト名は「ハックツ!」。出品者は地元の農家や飲食店などで、購入者もおのずと地元限定になる仕掛けを施した地産地消モデル。「コミュニティ消費」を合言葉に、藤沢の街づくりに前向きな変化をもたらそうという試みだ。

「地元で三代。頼れる『かかりつけ』農家 井出農園」「五右衛門風呂の跡地で自家焙煎 HOMEROASTING 7325COFFEE」……。ハックツ!には、そんな気の利いた紹介文とともに農園やコーヒーショップ、みそ蔵など21の出品者が並んでいる(8月末時点)。いずれも藤沢市に根を張り、商売を営んでいる人たちだ。

 おすすめ商品として目を引いたのがパン祭りセット。「ムギナミベーカリー」のベーグルや「パンとエスプレッソと湘南と」のエラーブルなど、ハックツ!に出品するパン屋の人気商品の詰め合わせで税込み990円。「調査記録」と題したページには、農園の独特な栽培手法や飲食店主の食材への愛着など、出品者の「こだわり」を深掘りしたインタビュー記事が掲載されている。

ハックツ!
ハックツ!のサイトには、多種多様な商品が並んでいる

「自律分散」が発想の原点、ハックツ!で「地域」の再発見を

表向きは、一般的なECサイトと変わらず、インターネット上で注文から決済まで完結する。ハックツ!が他のECと異なるのは、藤沢市内の指定場所(スポット)まで、購入者に商品を受け取りに来てもらう点だ。

 その場所は、「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」の一角にある。パナソニックの工場跡地に造られた街区だ。受け取り日は週1回。ハックツ!のサイト上かLINEの公式アカウントから日曜日までに注文すると、次の水曜日にタウン内のスポットに商品が届き、購入者に受け取りに来てもらう仕組みだ。有料で宅配も請け負うが、その範囲はタウンからわずか半径2キロ圏に限られている。

 スポットでの受け取りが原則となると、サービスの対象エリアはおのずと藤沢市内が中心になりそうだが、それも狙いがあってのこと。モビリティ事業戦略室でこのプロジェクトを推進する芦澤慶之さんは、「ハックツ!を、藤沢という地域がつながる『起点』にしたいんです」と話す。背景にあるのは、「自律分散型社会」と呼ばれる発想だ。

芦澤さん
芦澤さんは通信会社や航空会社での勤務を経て、パナソニックホールディングスへ。マーケティングの担当者として、世の中を見つめてきた。

地域に暮らす人々が、地域の課題を理解し、共働して解決に取り組むことで実現する持続可能な社会――。芦澤さんは言う。

「地域で活動する人と知り合って学びを得たり、地域で取れたものを食べて環境問題について考えたり。地域とつながった方が、暮らしが豊かに感じる時代がきっとくる。ハックツ!は食を通して、コミュニティ内の消費を喚起し、地域を再発見してもらう取り組みなんです」

 商品をあえて受け取りに来てもらう仕組みにしたのは、「交流」を促すため。スポットでは今後、サイトに出品する農園主らを招いてイベントを催したり、子どもに食育体験する場を提供したりする計画という。

EC出品者の負担を極力軽減、農園主らも共鳴

プロジェクトに込めた思いは、出品者にも伝わっている。

 「地域活性って、口で言うのは簡単だが、実際は手間も時間もかかる。過去にも企業が参入してきたことはあったが、売り上げありきですぐ撤退。けれど、このプロジェクトはこれまで以上に地域の事業者に寄り添おうとしてくれてるな、と」

 藤沢市西部で「にこにこ農園」を営む井上宏輝さんは、そう話す。 

(井上さん)
「『ハックツ!』との出会いは、新たな販路を得た以上の価値がある」と語る井上さん

農作物を売ろうとしたら、通常は生産者が自ら商品を袋詰めするなどして、集荷場や販売所に持ち込む必要がある。ハックツ!では、その手間が不要で、パナソニックが手配した車両が出品者のところを回って集荷し、スポットで袋詰めして購入者に手渡してくれる。注文があった分だけ出荷すればいいので、在庫を抱え込む必要もない。

 飲食店などもメリットが大きい。デリバリーサービスを利用すると、おおむね売り上げの30%以上の手数料を運営会社に取られるが、ハックツ!ではそれより低い手数料で済む。

 「我々が作物に向き合う姿勢にも共感してくれて、サイトを通じて情報発信してくれる。自分たちも頑張らなきゃと思うよね。お客さんと会話するだけでなく、栽培体験をしに農園にきてもらう機会も作っていきたい」(井上さん) 

ハックツ!が育む「共感」の輪、街づくりの原動力に 

野菜やパン
スポットの受け取りカウンターに並べられた野菜やパン

サイトの運営開始から約3カ月がたち、注文数は週に20件を超えるようになった。芦澤さんは「農園や飲食店の皆さんが、どれだけ作物や売り物にこだわりを持っているか。その想いや価値観への『共感』がこのサービスの軸。賛同してくれるお客様が、一人またひとりと増えていってほしい」と話す。

 共感の輪が広がったとき、地域にどんな変化が生まれると思いますか? 

 「食に限らず、自分たちの街・藤沢がどうあるべきか、より良い暮らしのために何をすべきか、市民の方々が率先して考えるようになる社会。ハックツ!がそのきっかけになれていたら、うれしいですね」

 芦澤さんはそう力を込めた。

 

「ハックツ!」について詳しくはこちら