幼少時に全身に現れる「カフェ・オ・レ斑」と呼ばれる濃い褐色のしみ・あざが特徴的なレックリングハウゼン病(神経線維腫症1型、NF1)。日本での患者数は推定4万人とされ、遺伝性と子どものNF1遺伝子が偶然変化して発症する孤発性があります。末娘の紬乃(ゆの)さんがレックリングハウゼン病と診断され、患者・家族会である「To smile」の代表を務める大河原和泉さんに、レックリングハウゼン病を持つお子さんとともに暮らす日々を聞きました。

「神経線維腫症1型で間違いないですね」

2017年4月15日、6児の母である大河原和泉さんは病院の診察室でそう告げられました。診断を受けたのは、大河原さんの末っ子、生後3カ月ほどの紬乃さんです。大河原さんは初めて聞いた病名に「え? どんな病気なんですか?」と耳をそばだてました。医師からは「ゆっくり見ていくしかない病気です」と告げられ、「インターネットでは絶対に検索しないように」という忠告を繰り返し受けたことをよく覚えています。

現在はこの「神経線維腫症1型」に関する患者・家族会である「To smile」の代表を務める大河原さんは、続けて診断に至るまでのことを振り返ります。

「生後すぐに眉間に白斑があったのは気づいたんです。それほど気にしていなかったのですが、生まれて2カ月くらいたって、5ミリから2センチくらいの茶色い母斑が体全体で増えていったんです。それでも、『メラニン色素が豊富な子なんだろう』程度にしか思っていませんでした。3カ月健診でも『健康です』と言われたのですが、近所のかかりつけの病院に次女のニキビの薬をもらいに行ったとき、紬乃の母斑に気づいた先生が病気を疑って、大学病院の先生に紹介状を書いてくださったんです」

大河原さんが「どんな病気なんですか?」と聞き返した「神経線維腫症1型」は、1882年に初めて症例を報告したドイツの病理学者フリードリッヒ・ダニエル・フォン・レックリングハウゼン氏の名にちなみ、「レックリングハウゼン病」とも呼ばれています。

この病気について、名古屋大学医学部附属病院のリハビリテーション科で科長を務め、日本レックリングハウゼン病学会の理事長としても活動する西田佳弘教授は次のように説明します。

「神経線維腫症1型は遺伝子の変化を両親のどちらかから受け継ぐ家族性と、子どもの遺伝子が偶然変化する孤発性の二つがあります。代表的な症候の一つは、生後から皮膚にあらわれている茶色のしみやあざで、これらはその色から『カフェ・オ・レ斑』と呼ばれています。また、十代以降に多く見られるのが皮膚神経線維腫で、主に顔や四肢にイボのように見える腫瘍ができます。NF1という遺伝子の変化によって起こる病気で、疾患自体をNF1と短縮して呼ぶこともあります。日本では出生約3000人に1人の割合で生じ、およそ4万人の患者がいると推定されています」

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名古屋大学医学部附属病院リハビリテーション科・西田佳弘教授

ネットにあふれる誤情報と悪意にショックを受ける

医師から「インターネットでは検索しないように」とくぎを刺された大河原さんでしたが、診察室を出てすぐスマートフォンで「神経線維腫症1型」という疾患のことを調べ、言葉を失いました。当時を振り返り大河原さんが話します。

「ネガティブな情報ばっかりだったんですよ。そのときは、正しい知識もあまりなく、ショックを受けました。ネットの中には、『私はレックリングハウゼン病なんですが、子どもを妊娠しました。同じような経験をした方はいらっしゃいますか?』という質問に対して、『不憫な子を産むなんて無責任だ』といった心ない言葉もあって、この子はこれから、こんな偏見とも闘わなければならないのかと暗い気持ちになったことは忘れられません」

ただ、大河原さんは落ち込んだのは少しの間だけで、「本当に悩むのは私ではなくこの子なんだから、私は一番悩んではいけない人間だ」とすぐに前を向いたと言います。「こういう疾患だと私が悩み、落ち込みながら育てたら、この子はたぶん自分が生まれてきたことすら後悔してしまうんじゃないかと思ったんです。だったら、まず私が思いっきり子育てを楽しもうと」。翌日からは自身のブログを通じ、かわいい服を着た紬乃さんの写真や毎日の様子を発信し、「逆にやる気すらみなぎっている」と感じていたと言います。「やる気」のなかには、この病気に関する誤った情報発信や社会が持つ認識を変えたいという気持ちがあったそうです。

 覚えておきたい神経線維腫症1型の症状

西田教授によれば、臨床的な診断基準は以下の7つで、2項目以上が当てはまる場合は神経線維腫症1型と診断されるとのこと。「皮膚科や小児科の先生であれば見逃すことは少ないでしょう。臨床的な様々な症候が出ますが、年齢ごとにあらわれやすい症状が異なるので、何歳ごろにどんな症候が出るのかを知っておくと、早めに対処できる可能性が高いと思います」と話します。

  1. 6個以上のカフェ・オ・レ斑
  2. 2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫
  3. 腋窩(えきか)あるいは鼠径部(そけいぶ)の雀卵斑様色素斑
  4. 視神経膠腫
  5. 2個以上の虹彩小結節
  6. 特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形、四肢骨の変形、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)
  7. 家系内(第一度近親者)に同症
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参考 : ・神経線維腫症1 型診療ガイドライン改定委員会(編). 日皮会誌 128(1): 17-34, 2018・Gutmann DH. et al.: Nat Rev Dis Primers 3: 17004, 2017・愛知県がんセンター: 神経線維腫症 1 型(レックリングハウゼン病)https://cancer-c.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/3108.pdf

なお、「雀卵斑様色素斑」はそばかすのような斑点、「視神経膠腫」は視力の低下や眼球が揺れるなどの症状、「虹彩小結節」は瞳の茶色い部分にあらわれる小さな粒のようなものを指します。虹彩小結節が視力に影響を与えることは基本的にありません。

発達障害も症状のひとつ

神経線維腫症1型の症候には学習障害や注意欠陥多動性障害といった発達障害も含まれており、西田教授は「発達障害にも注意が必要です」と指摘します。

「我々医師は、カフェ・オ・レ斑や神経線維腫、または骨が曲がる側弯症に特に注目しますが、神経線維腫症1型に伴う発達障害に気づかない場合があります。カフェ・オ・レ斑があるのに神経線維腫症1型と診断されず、単に発達障害だけだと思っていたのに実は神経線維腫症1型が背景にある場合があります。思春期以降に顔や体にたくさんの皮膚神経線維腫が出てきて驚く患者さんもいらっしゃいます。その際は、皮膚科や小児科を受診してしっかり診断してもらうのがいいでしょう」

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アレクシオンファーマ合同会社提供(※実際には脊椎の変形は30%程度に見られ、悪性末梢神経鞘腫瘍は8~15%に発症するとも報告されています)

「私がブログで情報発信をしてから3カ月くらいで『神経線維腫症1型』や『レックリングハウゼン病』の検索結果は変わりました。私のブログや紬乃の写真が検索上位に来るようになったんです」と大河原さんは明かします。

紬乃さんに関してポジティブな発信を続けると、ほどなく同じ病気の患者やその家族から質問や連絡、励ましの声が届きました。大河原さんはLINEなどのSNSを活用して、医師や仲間たちから正しい情報を得て、ブログを書き続けました。大河原さんのもとに届く悩みはそのころも今もほとんど同じだと言います。

「遺伝性の親御さんは『自分のせいで』と自分を責め、孤発性の親御さんは『健康に産んであげられなかった』と落ち込んでいることが多いです。子どもに病気のことを話せない親御さんも多いですが、『大きくなってから自分の病気を知ったときのほうが子どもにとってつらいこともありますし、親も後悔しますよ』とか『子どもを不憫にするのは親の言動ですよ』と伝えています。いずれにせよ、不安を抱えている親御さんが多くて、そうした社会を変えたいと思っているんです。この病気のことを知らない人の無知や偏見によって大切なわが子の人生が暗くなるなんて悔しいじゃないですか」

正しい認識を持ってもらうために声をあげる

診断を受けたご家族の多くが絶望に近い感覚を一度は抱いてしまいがちなのは、神経線維腫症1型が一生付き合わなければならない病気だからかもしれません。また、根本的な治療方法が確立しておらず、厚生労働省によって「指定難病」と位置づけられています。完治することは難しく、とりわけ顔や首にたくさんのイボや大きなコブができると、学校でのいじめや、結婚や就職活動の壁になり得る「見た目問題」につながってきます。まだまだ「生きにくさ」が伴う病気ですが、西田教授はこう話します。

「神経線維腫症1型の症状は多岐に渡り、腫瘍や骨の弯曲等が出る年齢も人によってさまざまなので、医師の指示に従って定期的に受診、あるいは検診を受けたり、必要に応じた治療を受けることが大切です。神経線維腫症1型の患者さんは、悪性末梢神経鞘腫瘍と呼ばれる肉腫や脳腫瘍、あるいは乳がんなどのがんを含めた腫瘍を発症するリスクが高く、健常の方と比較して寿命が短くなるという報告もありますから、早期発見のためにも定期検診は不可欠です」

大河原さんは自身が立ち上げた「To smile」の存在意義を実感しています。神経線維腫症1型はまだまだ多くの人に知られていません。そうした人々に病気の存在を知らせ、正しい認識を持ってもらうには声を大きくする必要があります。大きく通る声にするには患者とその家族がまとまることが大切で、「To smile」が団結の役割を果たしています。大河原さんの言葉に熱がこもります。

「この世の中で紬乃だけを救うなんて、無理なんです。紬乃ひとりだけを社会から守るより、4万人の患者たちとその家族たちでつながって助け合うほうが現実的だというのが私の考え方です。4万人を巻き込んでお互いに救い合って、広く情報を発信したほうが社会に変化が起こせる可能性が高いと思いませんか? 4万人がまとまれば、今まで肌を露出したくなくて長袖を着ていたのに半袖を着て出られるようになったなど小さな一歩を踏み出せる。『たった一歩で何かが変わるのか』と言う人もいるかもしれませんが、その一歩は二歩目のためにあるんです。患者とその家族が着実に前に進んでいけば、無知や偏見も減っていき、この病気の人たちが誇りを持って夢や思いを実現できる社会や、生きやすい世の中がつくられていくはずです」

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患者・家族会「To smile」代表・大河原和泉さん(アレクシオンファーマ合同会社提供)

人生のチャンスをつかむために前向きに生きてほしい

「根っからポジティブな性格」の大河原さんは、「誰にでもチャンスが来るんです。この病気の患者も例外ではありません」と話します。ただし、神経線維腫症1型を抱えて生まれたことを不幸に感じたり、世の中を恨んだりするネガティブな感情は、すぐ前にあるチャンスを見つけるべき目を曇らせてしまうと感じています。前向きに生き、自分の人生を豊かにしてくれるチャンスをつかむためには、ただただ悲観的になるのではなく、助けてくれる人や味方をしてくれる人とできるだけ多くめぐり合うことが大切だというのが大河原さんの考え方です。さらに、大河原さんは、より広い視野を持っています。

「私が最初に出合った情報や写真のように、まだまだ間違った認識が少なくありません。私たちがめざしているのはこの病気について多くの人に知ってもらうこと。知ってもらうことが第一歩であり、知ってもらうことが受け入れてもらえることにつながるはずです。拒絶されず、普通に接してもらうことが、この病気の人たちが意欲的に夢や思いを叶えられる社会や、生きやすい世の中をつくっていくと信じています」

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参考 : 神経線維腫症1型診療ガイドライン改訂委員会(編). 日皮会誌 128(1): 17-34, 2018

大河原和泉さん
おおかわら・いずみ。レックリングハウゼン病学会理事長補佐、レックリングハウゼン病患者会To smile代表、ブログ「★レックリングハウゼン病と共に歩む事★生きやすい世の中へ…1男5女のママブログ」で発信中。

西田佳弘さん
にしだ・よしひろ。名古屋大学大学院医学部医学研究科卒。名古屋大学医学部附属病院リハビリテーション科教授。日本レックリングハウゼン病学会理事長。主な研究テーマは、骨軟部腫瘍、デスモイド腫瘍、神経線維腫症1型、変形性関節症など。