2024年、朝日新聞社が中心となり実施する「地域事業イノベーションアワード」(特別協賛:三菱商事)。人口減少や少子高齢化、経済縮小など、さまざまな課題を抱える地域と、それらの課題解決に取り組む大学生・大学院生をつなぐことで、よりよい循環を生み出すことを目指したプロジェクトだ。

今回は、地方創生に見識が深く、このプロジェクトの企画にもかかわる株式会社LRN(ラーン)代表の菊池紳さん、YET代表、株式会社リ・パブリック ディレクターの内田友紀さんに、地域社会の現状と今後の展望、アワードへの期待を語ってもらった。

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コロナの時期を越えて、
地方創生は新たなステージへ

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菊池紳さん(右)と内田友紀さん(左)

菊池 私は、主に農林漁業や食関連産業に携わる仕事の中で、日本中を回り、地方創生や地域活性化の現場を数多く見てきました。内田さんは、株式会社リ・パブリックやご自身の活動を通じて、地元の方々やクリエイティブパーソンとともに事業やプロジェクトを作る取り組みを続けていらっしゃいますね。

内田 はい。2013年にリ・パブリックを共同代表らとスタート以来、地域とかかわりながら、持続可能な社会へのトランジションに向けて研究し、実践しています。

私自身、自治体としての規模があまり大きくない福井市の出身で、学生時代に都市計画を専門的に学んだこともあり、どうしたら地域が自律的で創造的な状態を得られるのか、それをどうデザインしていけばよいのかということは、かねてからの問いでもありました。

菊池 振り返ってみると、地方創生や地域の社会課題解決について、若い世代の当事者意識が特に高まったのは2000年代に入ってからのように思います。高齢化、過疎化が進む地域に、政策や補助金主導で若い働く力を送り込もうと。人の流れを生むための施策、いわゆる「地域おこし」が行われました。これが、地方創生・地域の社会課題解決のフェーズ1といえるでしょう。

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その後、ここ10年間くらいは「地域おこし」も一段落して、中心となっていた若い世代が地域に残り、様々な事業を立ち上げるケースも散見されるようになりました。特に増えてきたのが、自治体が投資した箱物や廃校、空き家など、地域の遊休資産の活用です。古民家などは「民泊」として、観光業にも利活用されています。

また、地域の農林水産物や、その加工品を都市部の人にまで広く知らしめて、販売するということも、当たり前に行われています。「6次産業化」や「ふるさと納税」は、まさにその象徴ですね。このような地域の資産、物産のリブランディングの取り組みは、地方創生・地域の社会課題解決のフェーズ2といえそうです。

ただ、そのフェーズ2も、コロナの時期を挟み、観光業が一時停止したことで民泊が軌道に乗らずに廃業し、元の空き家に戻ってしまったりする現状を見ています。コロナ以前にも、地方物産の飽和感みたいなものは徐々に表れ始めていました。だからといって、地方創生や地域の社会課題解決をこのまま衰退させてしまってよいわけがありません。次の「フェーズ3」に向けての新しい力や、注目すべき最近の動きについて、あらためて2人でお話しできたらと思います。

新しい提案をして、
課題解決に取り組むプレーヤーが増加

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内田 私はデザイン領域から地域を見ることも多いのですが、菊池さんのおっしゃる、地域のリブランディングが広がったフェーズ2においては、デザイナーが地域と関わる土壌が広がりました。若いデザイナーたちが実際に町に入り、その地域の人と共にデザインを手掛けていくことが増えたように思います。

菊池 地域にデザイナーがかかわり始めた当初は、「デザイナーって、何をするの?」という雰囲気が地域の人の間には少なからずありましたよね。「ロゴやパンフレットを作るんでしょ」「商品のパッケージを変えるんでしょ」って。

内田 確かに最初はそこから始まることが多いですし、その役割も重要です。デザイナーという存在が町にいることで、コミュニケーションのツールが増えていくので、そこにも価値があると感じます。

そこからさらに現在では、発注されたグラフィックを作るような狭義のデザインに限らず、より広義のデザインにどうかかわるか、というフェーズに来ています。そもそも、デザイナーが地域でものづくりに臨むときには、その地域を深く知ろうとします。産業やものづくり、さらには、それらの誕生に影響を与えた資源や風土について学んでこそ、その地に根づくデザインが生まれます。あるいは、働き方や後継者問題に目が向くこともあるでしょう。そうして学び、知り、考え、行動する中で、デザイナーはたくさんの地域の人と交流するはずです。地域の人たちも、デザイナーとかかわることで、考え、行動する機会が増え、地域住民同士の交流も促されます。 

このような過程を経て、地域への知見を深めたデザイナーは、福祉や教育など、その地域社会の仕組みのデザインにまでかかわるようになり、地域での活躍の場を広げつつあります。

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北海道砂川市にあるコスメティックブランドSHIROの「みんなの工場」。内田さんはプロセスデザインを担当。
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コンセプト作りから住民と幾度もワークショップや対話を行った。地域の“みんなの居場所”になるよう、その内容が建築デザインにも反映された(写真提供:内田友紀さん)

菊池 最近では「デザイン」を「課題解決」と訳したりもしますが、その理由や可能性が見えるお話ですね。 

地域の産業や物産に関しては、先代、先々代から作ってきたから、という理由だけで続いているものも多く存在します。ただ、大根が地域の物産だとしたら、大根は日本中にあるわけです。それでは、他地域の物産と差別化できず、需要減退に伴って衰退に向かってしまうかもしれません。気候変動に伴って急に生産適地でなくなってしまう、などの事態も起きています。

その一方で、興味深いのは、マーケティング視点を持つ生産者が現れ始めていることです。例えば、レストランのシェフの求めに応じて、特定の野菜を作る工夫をしている生産者がいます。また、一年中需要のあるトマトのような野菜を自分の地域だけで作ろうとするのではなく、南から北まで日本全国から、旬の時期に応じて他の産地とリレーで出荷する連携システムを作った生産者もいます。顧客視点やつながりの仕組み化など、新しい提案をして、課題解決に取り組むプレーヤーが増えているんです。

内田 それは、生産者、デザイナーに限らず、地方創生や地域の社会課題解決にかかわるすべてのプレーヤーに当てはまりますね。生産の現場に近いということは、その課題の要因が見える場所にも近いということ。実際に生産の現場に足を運んで、五感をフル活用して情報を得ることで、社会課題解決につながる新しい提案ができるようになるのではないでしょうか。

社会課題を明らかにし、
解きほぐす現場が地域にある

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内田 例えば、私の知人に、広島県の牧場にかかわっているデザイナーがいます。彼らは牧場に何度も足を運んで牧場主と歩きながら、牛乳の需要や生産量の変化、牛の健康や土地の状況など、さまざまなことを対話するところから始めました。生き物である牛から採れる牛乳が1年を通して同じ味を保つ必要があるのか、人、牛、地球にとって望ましい生育環境はどういう状態なのかなど、今まであたり前に取り組んできた方法をあらためて考え直したそうです。

これはリジェネラティブ(環境再生)やアニマルウェルフェア(動物福祉)の問題ともかかわりますが、デザイナーと牧場主は、人も牛もより健やかな環境で生きるべきであるという課題提案から、牛舎でつながれる飼育だけでなく放牧型を取り入れ、産業だけでなく地域のための牧場へと変革し、さらには夏期と冬期の味の変化を楽しむことを前提として牛乳をリブランディングしました。

こうしたことも、やはり生産現場の近くにいたからこそ、社会課題により深くリーチして、本質的な問題の特定と解決のデザインにつなげられるのだと思います。

菊池 戦後の約70年間で進められてきた農産物の標準化・均質化は大切な取り組みでしたが、産業モデルの限界も起きていますし、環境・資源などの多様な視点からデザインし直す時期に来ていますね。環境への影響や資源コストの問題など、現在の農業が抱える課題も、やはり実際に生産の現場に足を運んで詳しく学ばない限り、おそらく見えてきません。 

内田 地域の生産現場と向き合うことによって、課題の背景が見えてくるんですよね。大量生産・大量消費の社会システムの非効率や不具合を明らかにし、解きほぐす現場が、まさに地域にある。地域は、社会的、環境的なインパクトをもたらす可能性が眠る宝庫であるともいえます。

その土地を深く読み込むことで、
未来への展望が開けていく

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菊池 最近、気になっていることの一つが、地域の見方についてです。今、地域に行くと、高齢化、空き家や放置された畑、現存しているが苦しい産業などが目につくかもしれません。しかし、それらは、その地域のここ数十年の姿にすぎない可能性があるわけです。地域を捉えようとする際には、もう何段も深い見方をする必要があると考えています。

日照や風向き、水の流れ……、気候や地形などにまでしっかり踏み込んで、その地域にどんな産業が向いているのかをあらためて検討する。実は、本来その地域の風土にマッチしないことを、過剰なエネルギーやコストをかけて物産、産業として来てしまったケースもあるんです。

気候や地理的環境などにもひも付けて、その地域にマッチする物産や産業の「持続的な将来像」を提案できるようになれば、それぞれの地域資源と私たちの生活がより接続されていくのではないかなという気がします。

内田 その考えにとても共感します。私は、福井市で開催してきた「XSCHOOL(エックススクール)」というデザインスクールに携わりましたが、そこで大事にしていたのが、その土地の背景をどう掘り返していくかということです。

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福井市で開催したデザインスクール「XSCHOOL」でのワークショップの様子。福井の文化風土や産業を探索し、事業化も視野に入れながら議論と試作を重ねる。
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「XSCHOOL」でのフィールドリサーチの様子(写真提供:内田友紀さん)

土地の風土、歴史、文化などは、そこで今を生きる人々の習慣や気質、精神性にも息づいていますし、古くからの地場産業が生まれた必然性にもつながります。それを理解しないで、新しいものをポンと持ってきても、日本中、世界中、どこでもできるものにしかならず、地域の持続可能な成長・発展に寄与することは難しい。その土地を深く読み込むことで、初めて未来への展望が開けていくと考えています。

地域事業イノベーションアワードを契機に
「オンリーワン」の存在に

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内田 そうした点からも、今回の地域事業イノベーションアワードに参加する学生の皆さんには、まず現地に足を運んでほしいですね。今や、インターネットでどんな情報でも調べられると思うかもしれませんが、実際に現地を訪れ、五感も含めて得られる情報量には圧倒的なものがあります。フィールドリサーチなくして、地域のことを本当に理解することはできません。例えば、現地の歴史館や資料館に行って、そこの学芸員さんに話を聞くのも、地域について理解を深める上では大きな助けになるはずです。 

菊池 インターネットから得られる情報は、実はごくわずかですよね。どんなテーマを扱うにしても、大切なのは、明確な視点を持って現地に行くこと。ただ行って目につくものを眺めるだけではなく、気候、地理、歴史、産業、物流……、多様な観点から、その土地を深く知るように心掛けることです。

内田 年末年始に帰省する機会があれば、そういう視点を持って、自分の地元を見てみるといいですよね。例えば雪の多いところに帰省したら、「そうか、人はこんな理由で動きづらいのか」など、観察していると何かしら人の心理が見えてくると思うので。一つでも視点を持ちながら、町を見て、人の話を聞くことで、きっと新たな気付きがあるはずです。 

資源、ネットワークやテクノロジーの活用の余地からも、地域は考えるべき課題も可能性もあふれています。そこに思い切り飛び込んで、頭だけではなく、五感全部を使って、思考し、仮説をどんどん更新しながら表現する。そのプロセスのなかで、皆さんの今後の人生を形づくるような様々な出会いも生まれるでしょう。地域事業イノベーションアワードをそんな場にしてもらえるといいですね。

菊池 地域には、非常に多くの資源があって、行く場所も、見つけ方、生かし方も、デザインの余地が無限にあります。しかも、自分1人で孤軍奮闘する必要はなくて、様々な人の視点を組み合わせて、一緒に取り組むことができる。

ポイントは、何をしたい、何を変えたいなどの思いをきちんと形作って、その実現に突き進んでいけるかどうか。それを続けているだけで、オンリーワンの存在になれます。地域事業イノベーションアワードをそのための入り口、チャンスだと考えて、ぜひ多くの学生の皆さんに参加してほしいですね。

菊池さん、内田さんのお話は<後編>に続きます。