高校生や大学生、20代など若い世代の人たちにとって、「介護のしごと」に距離感を抱いている人が多くいます。ロールモデルとなる介護の現場で働く人たちを取材し、若い世代の目線で読み解いてみました。この回は、社会福祉法人すこやか福祉会の協力で、3人の方を通じて「ケアハウスで働く」「エリアマネジャーとして働く」「訪問介護で働く」の3つの介護のしごとを紹介し、みなさんとの間にある透明の壁を低くしていきます。(年齢や肩書は取材当時)
ケアハウス・エリアマネジャー・訪問介護のロールモデルに聞く
【すこやか福祉会編】
ケアハウスで働く 菊池あゆみさんのケース
視点① 自宅での一人暮らしが不安な高齢者を支える
――現在の仕事は?
菊池あゆみさん(36)は、2011年にすこやか福祉会のデイサービスで採用。2021年4月に軽費老人ホーム(都市型)「ケアハウスかねがふち」へ異動し、介護職員や生活相談員として働き、2023年4月から所長をしています。
「ケアハウスは自立している高齢者の方が多くご利用されています。食事の支度が難しくなってきたり、一人で入浴することが不安だったりして、自宅で一人暮らしを続けることが難しくなってきた人たちです。ここなら24時間、職員がいますし、困ったことがあれば相談できます」
入所者の平均年齢は約85歳で、平均要介護度は1.3程度です。基本的に要介護度3以上の人が入所する特別養護老人ホーム(特養)とは、入所者の状況が違うため、介護職員の業務の内容も変わってきます。
日々の業務は、健康チェック(検温、体調確認)、困りごとの確認、食事の配膳と片付けといったことから、クリスマス会、意見交換会などを催しています。デイサービスへの送迎時も含め、見守りに重点が置かれています。
視点② 高齢社会を支える介護のしごとを知らずに
実のある相談業務はできなかった
――キャリア形成は?
介護のしごととの接点は高校生のときにありました。
「高校は普通科ですが、当時、授業の中で『ホームヘルパー3級』(現在は廃止)を取得できる講座がありました。特養で高齢者の方とお話しましたが、そのとき『こういう仕事もいいのかな』と思いました」
しかし、社会福祉系大学の授業や就職活動では、医療機関での相談業務を行うMSW(メディカルソーシャルワーカー)を目指しました。
「白衣を着て仕事をしたいなという憧れからでした」
菊池さんは、大学4年生のとき、「社会福祉士」の試験を受けて資格を取得。学生時代に「ホームヘルパー」(現在は廃止)の講座も受講しており、社会に出て実務経験を積みながら「介護支援専門員」(ケアマネジャー)などの資格も取得していきました。
「介護福祉士」の資格がなくても介護職員になれます。最近は、大学の一般の学部を卒業したり、介護系以外の業種から転職してきたりする人も多く、こういう人たちは介護職員として実務経験を積みながら、数年後に「介護福祉士」の資格を取得しています。
では、なぜ、菊池さんは介護のしごとをしているのでしょうか。
「病院に就職してMSW(メディカルソーシャルワーカー)になりましたが、(高齢者が多い)患者の状況や介護の現場をしっかり知らないまま相談業務をしていました。しかし、うまくいきませんでした。私自身が介護職員や訪問介護員が現場でどういうことをしているのか実体的に知らなければ、患者や家族に寄り添った退院支援はできないのではないかと思いました。まず、特養など介護の現場を知ってからMSWのような仕事をした方がよりいいと思い、半年後、特養の介護職員に転職しました」
のちに社会福祉法人すこやか福祉会に入職してからは、介護職員として、デイサービス、特養で働き、一時グループ内の病院にMSWとして出向した後、再び介護職員や生活相談員としてケアハウスで働いてきました。
菊池さんは、これからのキャリアプランをどう考えているのでしょうか。
「地域包括支援センターや介護老人保健施設で勤務できれば、介護全般のしごとをしたことになると思います。若いうちに、いろいろな介護のしごとを実体験して吸収したいからです」
視点③ 見学、実習、インターンを改善して
就職後のギャップを埋めたい
――続けるためには?
菊池さんのケアハウスでは非常勤で夜勤専門職員を雇用しているため、菊池さんや他の介護職員は日中の勤務です。所長になると、介護職員のフォローのほか、生活相談員の業務に加え、ケアマネジャーとの連絡、入退院の対応、入退所の調整の業務もあるため、残業は所長になってから少し増えたそうです。
「ほぼ自立している人が生活する施設ですが、平均85歳ぐらいの高齢者なので、いつ何があるか分かりません。私が休みの日、認知症の人が部屋にいなくて職員が探し回ったことがありました。探すと近所のおすし屋でランチを食べていたそうです。体調の急変もあります。こうした突発的対応もあります」
「介護の現場は、答えが一つではないので、そのときそのときで対応が変わってきます。そこは(介護・福祉系の学校で学ぶ)教科書にも書いていないところだからです」
介護職員の定着促進のポイントを聞きました。
「長くご利用者と関わることができ、その人を知ったうえで仕事ができるところが介護のしごとの醍醐味(だいごみ)です。私たちも、見学や実習、インターンの機会を通じて、学生がここに就職したいと思えるような内容を提供していくことと、就職した後にギャップを感じないようにすることが大切だと思います」
エリアマネジャーとして働く 中野一仁さんのケース
視点① 介護職員としての経験があるからできる「司令塔役」
――現在の仕事は?
介護の現場でキャリアを積み重ね、現在は複数の介護施設のマネジメントをする湾岸エリアマネジャーとして働く中野一仁さん(40)は、高校サッカーの部活の顧問に憧れ、社会福祉系大学では『福祉科』の教員免許取得を目指していました。
そんな中野さんが、介護のしごとを選び、介護職員として実務経験を積む中で「介護福祉士」の資格を取得し、デイサービスの所長、エリアマネジャーとキャリアアップしてきました。
「すこやか福祉会が運営する介護施設が多いので、6年前、地域ごとに『エリアマネジャー』を置き、多様な介護サービスが連携しながら事業を行えるようにマネジメントの仕組みも変更してできた役職です」
具体的には、東京都の湾岸エリア(港区、江東区、江戸川区)で各事業所の経営、人事、管理の責任者をしています。いわば、この地区の介護のしごとの「司令塔役」です。
視点② 介護現場で経験を積んでから
「福祉科」の教員になってもいいんじゃないか
――キャリア形成は?
中野さんの高校生のときの介護のしごとのイメージを尋ねると「具体的にはありませんでした」という答えが返ってきました。
大学時代はアルバイトで生活費等を稼いでいたため、「福祉科」の教員免許取得のカリキュラムの受講で精いっぱいとなり、「社会福祉士」の資格取得のカリキュラム受講との両立は無理だと判断してしまっていました。ところが、大学4年のとき、疑問が湧いてきたそうです。
「自分は一度も介護のしごとをしたことがないまま『福祉科』の教員免許を取得しても、生徒に教えることが難しいのではないかと思いました。介護現場で経験を積んでから、『福祉科』の教員になってもいいんじゃないかと考え方を切り替えました」(中野さん)
中野さんの介護のしごとの始まりは、デイサービスです。約2年半ずつ、2カ所のデイサービスを経験しました。
「デイサービスで働いてみるとすごく楽しいし、何より自分の性格に合っているなと感じました。レクリエーションを考えることや一緒にやることが好きで、やりがいを感じました」
介護の現場を取材していくと、このレクリエーションが「苦手」という介護職員もいますが、中野さんは自分の「強み」がマッチしたということです。介護の現場では、多様な人たちが「苦手」と「得意」を補完し合っています。
その後、特別養護老人ホーム(特養)に異動し、幅広い介護技術を身につけていきました。
「特養は同世代の20代の職員が多かったので、大変なことを同僚に話したり、プライベートを一緒に楽しんだりすることでストレス解消になりました。介護技術の修得でも、紙パンツの交換がきれいに当てられていたかなど、個人的にですが『チャレンジする楽しみ』に変えるようにして仕事をしていました」
視点③ 毎日変化する状態をみながら最適なケアをチームで探る
――続けるためには?
中野さんは、現在、すこやか福祉会で「ケアワーカー魅力発信委員会」の委員長をしています。次世代の介護職員確保のための取り組みです。
「介護のしごとを文章にすると、毎日、『排泄介助』『食事介助』『入浴介助』……といったことになるので、同じことの繰り返し、作業的と見えてしまうかもしれません。しかし、介護職員からすると、同じご利用者でも表情や状態が毎日違います。排泄物の状態や食事の摂取量が違うこともあります。うまく歩ける日もあれば、そうでない日もあります。ご利用者の安全を考えながら、どこまで自立支援をするか、しないかを介護職員同士が話し合って対応しています。これがやりがいなんじゃないかと思います」
訪問介護で働く 山﨑加奈さんのケース
視点① 自宅で生活できるように
「身体介護」や「生活援助」を提供する
――現在の仕事は?
「ファミリーケアみさと」で働く山﨑加奈さん(28)は、2013年4月にすこやか福祉会に介護職員として入職し、特別養護老人ホームで働きながら介護福祉士養成の専門学校に通いました。卒業した2015年4月からは、現在の訪問介護事業所で訪問介護員として働き、出産や育児に伴う休業を経て、2021年4月から所長をしています。
ここでは、主に「身体介護」(入浴介助、食事介助、排泄介助、着替え、デイサービスへの送り出しなど)と「生活援助」(洗濯、掃除、買い物、ゴミ出しなど)を提供しています。ご利用者は、要支援1から要介護5まで幅広く、1人のご利用者に30分や1時間といった単位で向き合えるのが施設での介護のしごととの違いです。
「掃除だけだったり、買い物だけだったりする人もいます。ただ、訪問介護員が行うサービスを一つでも提供することによって、ご利用者が自宅で生活できるようになるのが私たちの仕事だと思っています。コミュニケーションの中で、体調や通院の状況、困りごとなどにも耳を傾けるようにして、在宅介護に関わるさまざまな職種の人たちとも連携しています」
視点② 2人目の子どもを産んでも離職せず、
キャリアを積み重ねていける
――キャリア形成は?
介護のしごととの接点を振り返ると、小学生のときの二つの経験がありました。
一つは、保健の先生に助けてもらう機会があり、「人と関わる仕事をしたい」と思うようになりました。もう一つは、授業の一環で地元の特別養護老人ホームを訪ねた経験です。お話をしたおばあちゃんが楽しい人で、介護のしごとに対してもいい印象が残っていました。
高校生の就活の際、「介護のしごとは、人の人生のお手伝いができる」と思い、進路選択につながりました。高校の同級生で介護のしごとに就職した人は、約200人中2人。ところが10年経ってみると、意外ともいえる変化に気づきました。
「今、同級生たちに会うと、介護職についている人が多くいました。介護施設だけでなく、障害者施設も含めて、私の周りにこんなに多くの人が介護のしごとをしているんだと感じました」
山﨑さんは、近く2人目の子どもの出産・育児のため休業します。法人では、多様な介護サービスを展開し、多様な働き方ができるため、離職をせず、キャリアを積み重ねていく選択をしました。
視点③ 「チームケア」だからこそ
「1対1で支える」プレッシャーを乗り越えられる
――続けるためには?
同居する母のサポートを得ながら、幼稚園に通う子どもの子育てと仕事の両立をしています。
「ファミリーケアの訪問介護員の勤務時間は基本的に朝から夕方までです。常勤だけでなく、非常勤という働き方もできるので多様な働き方を選択できます。職場には子育て世代の職員がとても多くいますので、子どもの具合が悪くて早退するときも、残った業務を他の職員が快く引き受けてくれます。こういう職場の自然な声かけができるようになっています」
こうしたことがやりやすい背景には、1人のご利用者に対し、複数の訪問介護員が関わる「チームケア」に取り組んでいるからです。客観的な評価をしたうえでの対応もしやすくなり、「1対1で支える」というプレッシャーや依存、孤独感を和らげることにもつながっています。
「(介護のしごとだからといって初めから)シャットアウトするのではなくて、わずかな選択肢しかなくてもいいので、(介護事業所を)見に来てくれるとイメージが変わるんじゃないかと思います」
取材:岩崎賢一 写真:岡田晃奈 インフォグラフ:須永哲也
おことわり
本事業は、「令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。