高校生や大学生、20代など若い世代の人たちにとって、「介護のしごと」に距離感を抱いている人が多くいます。ロールモデルとなる介護の現場で働く人たちを取材し、若い世代の目線で読み解いてみました。この回は、京都府舞鶴市にある社会福祉法人大樹会の協力で、3人の方を通じて「特別養護老人ホームで働く」「小規模多機能型居宅介護で働く」「デイサービスで働く」の3つの介護のしごとともに、「介護職員同士のご夫婦のライフスタイル」を紹介し、みなさんとの間にある透明の壁を低くしていきます。(年齢や肩書は取材当時)

特別養護老人ホーム・小規模多機能型居宅介護・
デイサービスのロールモデルに聞く【大樹会編】

特別養護老人ホームで働く 山口剛史さんのケース

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視点① グループホームのような雰囲気でケアができたらいい

――現在の仕事は?

山口剛史さん(31)は、2017年10月から特別養護老人ホーム(以下、特養)「やすらぎ苑」の介護職員として働き、現在はユニットのリーダーをしています。入職時には介護福祉士の資格は持っていませんでしたが、実務経験を積んで取得しました。

「ユニット型の特養なので、10人のご利用者のケアを担当しています。ユニットによってご利用者の要介護度も違いますし、ユニットリーダーによって他の職員と話し合ってどのような運営をしていくのかという点からも違いがでてきます。私のユニットでは、グループホームのような雰囲気でケアができたらいいなと考えています」

特養は、基本的に要介護度が3~5といった要介護度が高い人たちが入居する介護施設です。ユニット型の特養は、10人程度のご利用者を1つのグループとして、共有スペースにリビング、居室は1人ずつ分かれており、自宅に近い居住空間になっています。ユニットごとに専任のスタッフがいます。ご利用者のプライバシーを尊重し、かつそれぞれの生活サイクルにも配慮した介護サービスを提供することを心掛けています。

「やすらぎ苑」のユニットにはキッチンがありますが、施設内にあるユニット共通の調理施設で専門の調理員が毎食つくり、ユニットではご利用者の状態に合わせて盛りつけをしたり、服薬の準備をしたりしています。山口さんのユニットでは、現在、車いすなどを使って自力で移動できる人が多いのが特徴で、ご利用者とのコミュニケーションを大切にしています。

「自宅にいたときと同じように過ごせてもらえたらいいと思っています」

そのため、起居動作、移乗、移動、食事、更衣、排泄、入浴、整容などのADL(日常生活動作)への介助についても、過剰になって自立度が落ちないように、注意しながらケアをしています。

231120_大樹会_04山口剛史さん

視点② ネガティブなイメージも働き始めて視点が変わった

――キャリア形成は?

介護のしごととの初めの接点は、大学を卒業し、民間企業を経て京都市内でサイクルショップと児童館でのダブルワークをしていたとき、すでに介護職員をしていた高校の後輩に声を掛けられたことでした。

「当時は、あまり人と関わる仕事をしたくないと考えていました。ただ、心の中で埋められないものを感じました。それでたまたま児童館でも働く機会があって、子どもとふれ合う中で大変な仕事とは思いましたが、人とふれ合うことで自分が成長できるということに気づきました」

介護事業を展開する社会福祉法人の中には、介護事業だけでなく、保育など、地域福祉に関わる事業を展開しているところがあります。山口さんも、そんな魅力を知り、「大樹会で働きながら学びたい」と門をたたきました。配属先は特養です。

入職当時は「心理的バリア」があったといいます。説明会で法人幹部から「先輩も介助をやりながら慣れていきました」といわれましたが、内心では「慣れるわけない」と感じていました。

「働き始めて視点が変わりました。排泄介助は、お通じの状態を通じて健康チェックをするということです。お通じが出たということは、介護職員がケアをしていく中で安心感につながります。『よかった』と感じながら排泄介助をするように変わりました」

山口さんは、現在、入職6年目ですが、2年目からユニットリーダーを任されています。しかし、4年目に1度、ユニットリーダーを辞めています。

「自分の考えだけで周りの人たちがついてきてくれる訳ではありません。同僚の意見や気持ちをくみ取ることも大切です。介護技術や知識だけでもうまくいきませんし、コミュニケーション能力だけ高くてもうまくいきません」

上司に当たる主任が交代し、現在、ユニットリーダーに再チャレンジしています。山口さんは、将来のキャリアプランについてこう考えています。

「一緒に働く職員たちに認められたら、(介護現場のマネジメントをしていく)主任や課長といった仕事をしたいと思っています。地域包括支援センターの仕事にも興味があります。最初は保育の仕事も頭の中にありましたが、今は子どもか高齢者かといった形で線引きせず、広く地域福祉に関わる仕事をしていきたいと考えています」

231108_大樹会_05山口剛史さん

視点③ 生き生きとして前向き感があるトーンや
言葉づかいができているか

――続けるためには?

山口さんは、高校生や大学生などが実習やインターン、見学を通じて就職先を選ぶ際、働いている職員たちの表情を五感で感じることが大切だとアドバイスします。態度だけでなく、言葉のトーンも大事だといいます。裏を返せば、働きやすい職場、働き続けたいとみんなが思えるような介護の職場の条件の一つは、この職員のマインドです。

「職員同士で話すときも、ご利用者と話すときも、ご家族と話すときも、生き生きとしていて前向き感があるトーンや言葉づかい、態度が、自然と出てくるような職場です」

山口さんにインタビューしていると、もう一つ大切なことが分かりました。介護の知識も技術もない中で介護職員として働き始めたとき、「同い年だけど尊敬できる先輩職員」がいたことでした。

「同い年だと話しやすく、思っていることをぶつけやすいのがいい点です」

それが、後に結婚する山口未由利さんでした。キャリアの差は、現在、剛史さん6年目に対し、未由利さんは13年目です。剛史さんは「同い年でも、上司感があったら、そんなに話せなかった」と振り返ります。

介護の現場では、経験に差がある職員同士の配置や話しやすい雰囲気づくりやきっかけも、介護職員の定着促進に大切な視点の一つといえます。

231108_大樹会_06山口剛史さん

小規模多機能型居宅介護で働く 山口未由利さんのケース

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視点① ご利用者のやりたいことを実現に向けて取り組む

――現在の仕事は?

山口剛史さんの妻、未由利さん(31)は、2014年4月、地元の高校を卒業した後、大樹会に介護職員として入職しました。特養に勤務し、ユニットリーダーを経て、現在は小規模多機能型居宅介護「引き土の家」で介護職員をしています。夫と同じように、入職時には介護福祉士の資格は持っていませんでしたが、実務経験を積んで取得しました。

小規模多機能型居宅介護は、施設への通いのサービスを中心にご自宅への訪問や宿泊を組み合わせた機能を持っています。ここでは、ご利用者本位で日中を過ごし、時には職員と一緒に料理をしています。ご利用者の要介護度も比較的低い人が多いため、特養と比べると活動的な人が多いです。

「特養より、『ああしたい』『こうしたい』というご利用者が多いです。私たちはそういう人たちのやりたいことを実現できるように努力しています。例えば、『買い物に行きたい』という人には、いつ、どこに行こうかと話しながら実行に移していきます」

一見、大変そうに見えますが、山口さんは現在の上司からこんな言葉をもらい、胸に突き刺さったそうです。

「認知症の人は、今しかないんや」

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視点② 新人教育担当になって自分の経験が人のためになったらいい

――キャリア形成は?

山口さんは、美容に興味があったものの、都会での就職ではなく、地元で暮らし続けたいという想いが強かったため、求人票から給料をものさしの一つにして大樹会を選びました。小学生低学年のころ、ヘルパーをしていた母親に連れられて仕事を見学したという介護との接点もありました。

「小学生低学年のときのことですが、母がご自宅にうかがって食事を作ったり、ケアをしたりする様子を見ていました。そういうこともあって、高校3年生で就職を考えたとき、『介護はありかな』と思いました」

特養で経験を積み、ユニットリーダーを経て、現在の職場へ異動になりました。取材時、2人目の産前産後休業や育児休業に入る前でしたが、復職後のキャリアプランについてこう考えていました。

「みなさんに必要とされるなら、再びリーダーとして働きたいです。働く場所も再び特養で働けたらと思っています。新人を育てるのが好きですし、新人が独り立ちしていく姿に充実感を感じます。自分がこれまで経験してきた介護のしごとの知識や技術、マインドを新人に伝えていきたいのです。自分の経験が人のためになったらいいですよね」

231030_大樹会_08山口未由利さん

視点③ 柔軟性やコミュニケーション能力が大切

――続けるためには?

山口さんは、仕事を続けていくうえで重要なのは柔軟性とコミュニケーション能力だと考えています。

もう一つのコミュニケーションについては、特養のユニットリーダーのとき、ユニットの職員にはプライベートの話もして和気あいあいとするようにしたそうです。

「意見をいいやすい環境づくりって大切です」

231106_大樹会_09山口未由利さん

日勤のみと夜勤ありの夫婦は
「1人の時間もほしい」から壁にならない

介護職員同士のご夫婦のライフスタイル 山口さんご夫婦のケース

大樹会では、介護職員同士が結婚し、出産・育児休業を経て働き続ける若い世代が多くいます。子どもも、2人や3人という夫婦が多く、山口さん夫婦もいずれは3人の子どもを育てながら、介護のしごとを続けたいと考えています。

山口さん夫婦は近くに子育てを頼れる人がいないため、保育園を利用しながら、基本的に日中の勤務の職場である小規模多機能型居宅介護で未由利さんが働き、夜勤のある職場である特養で剛史さんが働いています。

「夫婦のどちらもが深夜の勤務がある職場だと、『子どもはどうすればいいのかな』と考えてしまうでしょう。でも、介護の職場は、私たち夫婦のように多様な働き方ができるところもあります」(剛史さん)

「子どもが幼いと病気になりやすいので、すぐ帰れる職場はありがたいです。小規模多機能型居宅介護は日勤帯の仕事なので帰りやすいし、私が帰ったとしても他の人が残業になることはないので」(未由利さん)

介護のしごとは変則勤務が多いため、すれ違いがちになってしまうことを懸念する人もいます。これについても山口さん夫婦は少し違った感想を持っていました。

「夫に夜勤があると、自分の時間を作れるのでありがたいです。1人でゆっくりしたい時間もあります」(未由利さん)

「変則勤務ですれ違いがあるからこそ、妻や子どものことを大事にしないといけないと思いました。家族と一緒にいたい時間もあるけど、どんなに愛していても私も1人の時間がほしいと思っています」(剛史さん)

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新居でくつろぐ山口さんご家族

1人目の子どものとき、剛史さんは育児休業を3カ月、未由利さんは1年を取得しています。

「育休は夫婦で話して決めましたが、最初は2週間と考えていました。ところが、上司から『もう一度考えてみたら』と促されました」(剛史さん)

剛史さんは、インターネットで出産後の女性の心身の状態を調べたところ、精神的にまいってしまう母親もいることを理解しました。

「妻とズレが生じるといけない、自分の子どもなんだから何でもしたい、と思いました」(剛史さん)

大樹会では残業がほぼないという。

「入職したてのころは夜勤が嫌でしたが、今は、『夜勤明けは日中フリーになれる』と考えています。つまり、(マイナスに感じていたことも、ライフスタイルが変わればプラスに感じるようになることもあるため)考え方次第だと思います」(剛史さん)

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子どもは3人ほしいという山口さんご家族

認知症対応型デイサービスで働く 足立滉平さんのケース

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視点① 上司の適切なサポートで時間内に解決できるから残業がない

――現在の仕事は?

認知症対応型デイサービス「いろり」の介護職員、足立滉平さん(26)は、京都市内にある大学で公共政策の一つとして福祉政策を学んできました。そのため、入職時に「社会福祉士」の資格を取得していましたが、介護福祉士の資格取得は入職後です。

「介護福祉士の試験が近づくと、職員共通のメッセージアプリに『(試験対策の)勉強会を開きます』といった感じで呼びかけがあります。手続きのサポートもあります。そもそも介護職員は、介護福祉士の資格がなければできない仕事ではありません」

現在は、大樹会に限らず、入職時に「介護職員初任者研修」を受講してから業務を始める介護事業所も多く、その後、実務経験を積む中で、介護福祉士の受験資格の要件になる「介護福祉士実務者研修」を受講する環境を整えているところもあります。介護の質を上げるため、現場ではこれ以外にもさまざまな研修や勉強会を設けています。「介護」といっても、今は「サービス」という視点も重要な時代です。

「いろり」での仕事は、認知症のご利用者と一緒に庭で野菜を育て、そこで育った野菜を使って昼食の一部に活用しています。もちろん、送迎や入浴介助、季節の行事なども行っています。

「上司や他の職員からサポートをしてもらって分からないことを解決していくことが、うまくいっています。ストレスなく仕事ができています。決まった時間内で業務を達成することができています。だから、家に帰ってから仕事のことを引っ張ることもないので自分のやりたいことができています」

趣味である釣りやサイクリング、読書などに費やしています。オンとオフを上手に切り替え、ワークライフバランスを整えています。

231120_大樹会_01足立滉平さん

視点② 今後は自分で地域に「足りないサービス」を作れたらいい

――キャリア形成は?

足立さんは大学生のとき、「社会福祉士」の資格を取得するため、各地の事業所で実習をしてきました。大樹会もその一つです。

「ご利用者と密度の濃い体験ができる観点から、介護の仕事をやってみたいと思いました」

逡巡もありました。夜勤で生活リズムが崩れて体調を崩さないか、生活できる給料をもらえるか、この先に自分のやりたいことができるのか、といった不安です。この3つの不安を解決してから入職しました。

「学生時代に夜勤的なことは経験していたので、特養での勤務が合わなければ別なタイプの介護事業所に異動して働けばいいと思いました。学生時代から一人暮らしをしていたので、今の自分の生活観だと無理はないかなと思いました。自分のやりたいことについても入職前に法人幹部とじっくり話をして大丈夫だろうというメドが立ちました」

介護職員としては、特養勤務からスタートし、現在は認知症デイとともに認知症カフェ「みんなの家」を担当しています。認知症カフェは、地域に密着した多様な人の共生の場です。今まで、特定の対象者に特定のサービスを提供することをしてきましたが、地域に向けた対象が決まっていない中での介護や地域福祉に関わる業務をしてみたいと考えるように変わってきました。

「ここまで仕事をしてきて、専門的ケアの難しさを知ったし、今あるケアだけでは足りないことにも気づきました。今後は自分で『足りないと思うサービス』を作れたらいいなと考えています」

231019_大樹会_02足立滉平さん

視点③ 「戦略的に諦めて」ワークライフバランスと挑戦を両立する

――続けるためには?

足立さんは、特養でユニットリーダーをしていたとき、理想を追求し、あれも、これもしようとして残業をしていたことがありました。理想を追求することは大事ですが、一方で自分も含め、ユニットの職員のワークライフバランスも大切です。行き詰まってしまい、退職することも考えましたが、法人幹部の勧めで現在の職場に異動しました。そこで上司から学んだのが「戦略的に諦める」ということです。

「(介護は)人による人への支援なので、勉強好きな職員ほど、あれもできる、これもできると見えてきます。これを1人で全部やろうとすると時間が足りなくなります。今の職場ではそれを全部やろうとすると残業になって心身が持たないと判断してくれて、『これは後でもいいんじゃない』と整理してくれます。これを私は前向きにとらえています」

一方で地域との関わりである認知症カフェの運営を任されるまでになりました。

「『できないことがあるのは嫌だわ』と思う学生がいるかもしれませんが、私も就職して初めて気づいたのですが、何かを始めることも重要だけど、何かをし続けることも大事です」

231120_大樹会_03足立滉平さん

取材:岩崎賢一 写真:岡田晃奈 インフォグラフ:須永哲也

おことわり
本事業は、「令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。