2025年4月13日から10月13日まで大阪湾にある人工島・夢洲(ゆめしま)で開催される大阪・関西万博。日本では1970年大阪万博、2005年愛知万博に次いで三回目の大規模博覧会で、今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。会場内には、テーマをもとに8つのゾーンが広がり、世界各国のパビリオンや企業・政府関連のパビリオン、国内のトップランナーがプロデュースするパビリオンなどが並ぶ。そのなかでも企業の規模など関係なく参加でき、来場者にとっては参加者との対話を気軽に楽しめるエリアが「フューチャーライフゾーン」のなかにある「未来の暮らし」を体感できる「フューチャーライフエクスペリエンス」。中小企業からスタートアップ、自治体、NGO・NPOまで多様な主体が参加するエリアで、参加者と来場者の交流・対話ができるエリアだ。本記事ではこのエリアの魅力を、万博の会場運営プロデューサーをつとめる石川勝(まさる)さんに話を聞く。
「世界」と「未来」に必要とされる万博へ
「万博開催は世界各国と競って日本がつかんだものです。だからこそ、世界と未来にとって意義ある万博にすること、そしてこれからの時代に必要とされる万博をつくることが責務だと思っています」
こう話すのは、大阪・関西万博会場運営プロデューサーの石川勝さん。2005年愛知万博ではチーフプロデューサー補佐として万博事業全体にかかわり、2010年上海万博 日本政府館ロボット出展事業は実行委員長をつとめるなど、多くの大規模博覧会や展示会を手掛けてきた。
今回の万博では会場運営プロデューサーとして、世界各国の出展や政府、企業の出展のプロデュースから会場の管理、来場者に向けたサービスや広報、入場券販売方法まで万博全体の運営を担当する。さらに今回の万博のコンセプト「未来社会の実験場」に基づいた最先端の技術を会場運営に活用する未来社会ショーケース事業も手がけ、全体をプロデュースしながら俯瞰してみるのが石川さんだ。
1970年大阪万博では、太陽の塔をはじめ文明の象徴として外部に主張するシンボルが中心だったが、「今回は思考をリセットしていくような人の心に沁み込んでいく万博です」と石川さんは話す。
暮らしの未来を拓く「フューチャーライフエクスペリエンス」とは
今回の万博には「コネクティングゾーン」「エンパワーリングゾーン」「セービングゾーン」「シグネチャーゾーン」「静けさの森ゾーン」「フューチャーライフゾーン」「東ゲートゾーン」「西ゲートゾーン」の8つのゾーンがあるが、それぞれの魅力はどのようなものなのだろうか。
「万博のもっとも華やかといえるゾーンが世界各国の公式参加パビリオンなどが立ち並ぶ『コネクティングゾーン』『エンパワーリングゾーン』『セービングゾーン』になります。『シグネチャーゾーン』は、各界のトップランナー8人がプロデューサーとして手掛けるパビリオンが並びます。東西のゲートゾーンには民間パビリオンや日本政府や大阪府などのパビリオンが並び、政府や自治体、企業が描く未来像を体験できるゾーンになっています。『静けさの森ゾーン』は、それぞれのゾーンが交わる結節点として、万博会場のシンボルになります」
そのうちのひとつが未来社会を体験的に理解できる「フューチャーライフゾーン」。このゾーンに包括されるのは「フューチャーライフエクスペリエンス」や「TEAM EXPOパビリオン」。暮らしにかかわるあらゆる分野の最先端と未来の技術と思考に触れられる「フューチャーライフエクスペリエンス」は、「未来の暮らし」を体感できるエリアであり、参加者と来場者が対話して共創して未来を思考するエリアだ。このエリアの展示領域は、食やヘルスケア、医療、福祉、住居、文化など多岐にわたる。
「たとえば食の展示ですと食の課題を解決する最新テクノロジーやフードロスを解消する取り組み、ヘルスケア領域ではパーソナルヘルスデータを活用したデータ連係サービスの展示などが見られることになるかと思います。展示手法も最新技術の動きをそのまま見せる動態展示やステージでのプレゼンテーションスタイルまでさまざまです。参加者が技術やサービスをもっとも魅力的に表現できる方法を柔軟に選べるようにして、私たちもサポートしています」
分野の幅広さだけでなくこの展示を通じて接点をもてる多様な参加者、そして多様な展示形態も「フューチャーライフエクスペリエンス」の魅力のひとつだ。
テクノロジーを“リアル”で魅せる動態展示
今回の万博の展示方法の核ともいえるのが動態展示。この展示方法は、ただ完成した製品を置いて見せたり、ロボットであれば動きを事前に撮影した映像をモニターに写したりする展示とは一線を画す。たとえば、開発段階のロボットでもその場でリアルに最新テクノロジーの動きを見せる展示方法が動態展示だ。石川さんが2005年愛知万博からこだわり手掛けてきた展示方法で、その当時の展覧会では異端の見せ方ともいわれた手法だった。
「私が展覧会にもこの方法を取り入れたきっかけは、北海道の旭山動物園の行動展示が大きく影響しています。行動展示は動物の本来の生態を見せる手法で、動物の日常のひとつでもある道具を使って器用に餌を取る様子や、高い場所で暮らす様子をリアルに見せたことで動物への理解がいっそう深まりました。この行動展示を、展覧会に昇華したのが動態展示です」
旭山動物園も行動展示により多くの来場者を集めたように 、石川さんもこの手法を愛知万博の「プロトタイプロボット展」をはじめとした展覧会で取り入れたことで、大きな反響をよんだ。ロボットをはじめとした技術領域においても、どのような動きをするかを目の前で見て感じる展示手法に人は惹きつけられるのだ。
「研究開発段階のロボットをお客様の目の前で動かすことにはリスクもあります。途中で止まってしまったり、想定外の動きをしたり。だからロボットの成功事例を撮影してモニターで流すことが主流なのですが、それでは伝わるメッセージが中途半端になってしまう可能性も高いです。たとえ失敗しても、その姿を含めて見てもらうことが、来場者にとっては最新テクノロジーを、未来のリアルを感じてもらうことにつながります。今回の『フューチャーライフエクスペリエンス』のエリアでも参加者すべてに動態展示を求めていないですが、積極的に活用したいと考えています」
さらに石川さんがこだわるのは、動態展示とあわせた参加者や開発者のリアルな言葉だ。「商品説明や開発秘話のプレゼンテーションをプロのMCにお願いするのではなく、動態展示の前で現場の開発者が自分の声で商品について説明するという試みも大切にしています」
すなわち、万博という世界的規模の博覧会でも、開発者と来場者が直接コミュニケーションを取れる。それにより、「未来の暮らし」にひとりで思いをはせるだけではなく、参加者と来場者がともに未来に対して、想像と共創ができる場となる可能性が詰まっていているエリアということだ。
展示期間の柔軟さもある「フューチャーライフエクスペリエンス」
万博の展示というと、資金力や人材が豊富な大企業が出展すると思われがちだが、未来の暮らしを作っていく産業領域には、中小企業やスタートアップも多くある。そこで「フューチャーライフエクスペリエンス」エリアでは、どのような規模の企業であっても参画できる場を提供しようと万博の期間中常設で展示できる枠もあれば、1週間単位の展示、ステージのみの発表を可能にするなど、参加者にとって柔軟な参加方法を取り入れている。
「フューチャーライフエクスペリエンスは、課題解決のための“問い”と“アイデア”が集まる場所と位置付けています。スタートアップや地方の中小企業の方から、自治体、NPOやNGOまで、“未来の暮らしはこうなっていく”と示してくれるような企業や団体に、ぜひ展示を検討いただきたいと考えています。未来の暮らしを考えるたくさんの同士が集まる場では、それぞれの専門性が混ざり合い、相乗効果が生まれていくはずです。新たなビジネスパートナーとの出会いや、コラボレーションの機会も期待できるのではないかと思っています」
企業規模を問わず誰でも参加しやすいように常設展示、期間展示、ステージ展示と3つの参加方法に分けられている「フューチャーライフエクスペリエンス」。参加者にとっては、たとえば万博開催期間中のステージ1枠2時間だけ、期間展示で1週間~だけでも参加可能で世界各国の来場者とも参加者ともコミュニケーションが取れる。ほかのゾーンには各国のパビリオンや日本政府や地元自治体のパビリオンも並ぶが、そのなかでも参加内容や期間、金額含めハードル高くなく参加できるのが「フューチャーライフエクスペリエンス」の特長でもある。だからこそ、まだアイデアの成長段階のプロジェクトやプロダクトでも展示ができ、来場者やほかの参加者とのコラボレーションによりさらに成長して未来社会の一端を担うプロジェクトになることもある。このように誰にでも可能性が詰まったエリアが「フューチャーライフエクスペリエンス」だ。
万博が人を育て、ビジョンを持った社会へつながる
来年に迫った万博は、日本にとって三回目の万博。そして、大阪にとって二回目の万博。石川さんが考える万博が社会にもたらす価値とは――。
「万博は世界に触れられる場であり、人が育つ場でもあります。今回の万博によって未来社会が変わるきっかけに十分なると思います。未来を切り開くために参加者の方も来場者の方も“思い”を形にするスキル(技術)を育くんで欲しいと思っています」
万博は世界中の人が6か月もの長期間集まる、ほかにはない場だ。石川さんはこの機会を参加者にも来場者にも活かしてもらい、楽しんでもらうこと、そして会場運営プロデューサーとして支えることに、今すべての情熱を傾けている。
「各国の大臣や元首、王族などのVIPも来場しますし、そうした方が展示を見ることでビジネスチャンスが広がる可能性もあります。また、普段接することのない世界の課題や意見に触れることで、視野が広がっていくはずです。万博を通じて、新しいことに取り組むことで、どうすればいいのか自分で考え対応する力が育まれます。前例がない取り組みに向けて、何らかの判断をするときは、一人ひとりが自分の価値観に基づいて考えていくことが大事になります。それができる人材、文化が育っていくことが、万博にかかわる私の願いです。未来を切り開くには、思いとビジョン、それを実現するためのスキルが必要になります。万博はまさに、そうした思いや技術に触れられる場所。参加者でも来場者の方でも、万博に参加して、見て、触れることで、ビジョンを持って動いていこうと思う人が増え、世の中が少しずつ変化していけたらと思います」