赤いパッケージを開くと漂う甘い香り、ひとかけ口に含めば広がるやわらかで濃厚なコク……。ロングセラーの「ガーナミルク 」をはじめ、数多くの名菓を生み出しているロッテは、チョコレート菓子でも存在感を放ってきた。チョコレート事業60周年の節目となる今年、商品開発にとどまらない新たな挑戦をスタートさせたという。「お口の恋人」がチョコレートと歩んだ道、そして今チョコレートを通して伝えたい思いとは。バレンタインムードが高まる2月、株式会社ロッテのマーケティング本部ブランド戦略部部長・古市丈二さんに聞いた。

「あたたかな思い」の象徴になった定番ブランドのこだわり

チョコレートを制するものは、製菓業界を制する──。誰もがその可能性を感じ取っていたという。戦後の復興と発展で日本の食事情が変化する中、チョコレートはいよいよ製菓の中心に。チューインガムに注力していたロッテも、チョコレート事業に参入した。今から60年前の1964年、創業16年目のことだ。参入時に世に送り出した商品は、「ガーナミルクチョコレート」。すでに他社が板チョコレートを 発売して50年近く経っており、圧倒的な後発だった。だからこそ、既存のチョコレートと明確に差別化して理想を追った。古市さんは伝え聞く当時の状況について、こう語る。

「その頃の日本のチョコレートは子ども向けの駄菓子のようなものが多かったようです。主流は砂糖の甘さが強くカジュアルな味が特徴のアメリカタイプでした。しかしチョコレートの本場スイスではミルクのコクが感じられてまろやかな味わいのチョコレートが楽しまれていたんです。『こういうおいしさを身近なものにしたい』というのが、創業者・重光武雄の思いでした」

そんなロッテのチョコレート事業は、ヨーロッパ中をめぐる現地調査から始まった。そして本場の味わいとヨーロッパでの工場生産に造詣が深い、製造技師のマックス・ブラックとタッグを組むことを決めた。そして数年の試行錯誤を経て、あの幸せな甘い風味が誕生した。

こだわりは味わいだけではない。芳醇で高品質なカカオを前面に出すため、商品名は豆のメインの産地である 「ガーナ」とした。社名を押し出さない、当時としては珍しいネーミングだ。パッケージも主流の茶色を避けて赤に。「挑戦する情熱、やさしさ、ワクワク感を表す色として選ばれました。発売直前に出した朝日新聞の広告には、『誇りと信念をもってお届けいたします』という一節があります。愛してもらえるお菓子を届けよう、皆さんとおいしさを分かち合おうという志を今に至るまで受け継いでいます」

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「ガーナミルクチョコレート」の広告(1964年朝日新聞掲載)

発売前から消費者の期待を高めた商品は、瞬く間にヒット。安定的な人気を得る中、80年代以降は「コアラのマーチ」「パイの実」「クランキー」などのチョコレート菓子が続々と誕生して板チョコレートは下火に。しかし90年代後半からの手づくりチョコレートブームで大きく巻き返した。01年には「母の日ガーナ」がスタート。お馴染みの赤いカーネーションにガーナを添えて、日頃の感謝の気持ちを伝えることを提案するキャンペーンで、多くの人に愛される味わいや子どもでも手に取りやすい価格帯など、ガーナの特徴が 存分に生かされる風物詩になった。バレンタインに母の日。ガーナは単なるチョコレートをこえて、手渡したい温かな思いを象徴する名菓として育った。「我々はお客様の立場で思考した高品質で独創性に富んだ商品づくりを大切にしてきました。おいしさはもちろん、ロッテのものづくりを代表する商品です」

ニーズに応えつつ新たな可能性を追求していく

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マーケティング本部ブランド戦略部部長・古市丈二さん

国内でのチョコレートに対するニーズは多様化している。子どもや若年層が憧れた甘い板チョコレートに始まり、大人向けのシュガーレスやリフレッシュタイムに少しだけ口にするような小袋などのちょい食べ需要が拡大。さらに健康志向の高まりやソーシャルグッドへの関心から、今や幅広い世代がシーンに応じてチョコレートを選ぶようになった。

新しい味わいと価値を求める声に応え、まだ誰も出合っていないチョコレートを世に送り出したい──。そこで、ロッテは15年にカカオそのものの探究とアップサイクルなどの実験・創造のため「LOTTE DO Cacao」というプロジェクトを立ち上げた。今では産地と連携しながら生産した希少なカカオを用いたチョコレートのアソートボックスをはじめ、製菓以外の商品も販売している。

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LOTTE DO Cacao STORE(東京・渋谷)ではカカオバターを使用したハンドクリーム、チョコレートとしては利用しないカカオ豆の皮を取り入れて誕生した衣類やアルコールなどを販売している。

「知られざるカカオの魅力と出合う場所として、オンラインショップに加えて渋谷にストアを開いています。実店舗ではぜひ、寒い時期にうれしいチョコレートドリンクの飲み比べセットなどで、カカオの個性を楽しんでいただきたいですね。プロジェクトも含めて、ここで得た知見を次なる商品開発に生かしていきます」

長く愛される名菓ぞろいのロッテ。その理由はガーナを皮切りに挑戦し続けて新たな価値を提供していること、進化し続けていることにあると言えるだろう。これを下支えしているのが、丁寧な市場調査やユーザーインタビューだ。開発や改良のため、頻繁に実施している。

近年は消費者の声に耳を傾ける中で、今後の取り組みに深く影響する気づきを得たそうだ。それは「チョコレートに求めるものは、精神的価値が大きい」というもの。古市さんは「ウェルビーイングの条件としてよく身体的、精神的、社会的な充足などが挙げられますが、調査をひも解くと、『口にするとホッとする』とか『癒やされる』といった精神的な部分がチョコレートを手に取る要因になっていました。ガーナでは日頃の思いを伝える心の交流なども含めた取り組みを意識してきましたが、おいしさに加えて、今後は特にウェルビーイングにつながるアプローチを取り入れていきたいと考えています」と熱を込める。

憧れを大衆化し、人々に届ける ロッテの新たな挑戦とは

チョコレート事業60周年を迎えたロッテは「もっとチョコのこと Sweet at Heart」をテーマに新たな取り組みを始めた。それはチョコレートがもたらす心の幸せを科学的に解明し発信する、「ちょこっと幸せ研究所」の開設だ。チョコレートが秘める精神的価値などをテーマに据えた研究でエビデンスを取り、積極的に情報を発信していく予定だという。

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チョコレート事業60周年の特設サイトでは、チョコレートはもたらす「メンタル的効果」に関する様々な情報が発信される。

研究テーマ第1弾は、「シェアコミュニケーション」で、チョコレートがコミュニケーションを活発化させることについて検証。ウェルビーイング分野の第一人者である慶応義塾大学の前野隆司教授や、集団での意思決定など、心理学を研究する帝塚山学院大学の中村早希講師ら識者の視点も取り入れて深掘りする。古市さんは、おいしさと有益な情報がセットになることでシーンや目的に応じたチョコレート選びの一助になることを願っている。

「日本も世界も不安が多く大変な状況にありますが、心を癒すアイテムとしてチョコレートが役立ってくれれば、こんなにうれしいことはありません。チョコレートを口にする意味や幸せをより感じてもらえたらと思っています」

心をほどいてゆったり過ごしたい時、前向きな気持ちのスイッチを入れたい時、私たちが何気なく手に取って味わっていたひとかけのチョコレート。そのひと時に生まれる「ちょこっと幸せ」という身近さを大切に、チョコレートのまだ見ぬ価値を届ける壮大な取り組みが始動した。チョコレートを送り出して60年目を迎えたロッテの挑戦が、私たちの日常に新たな彩りを添えてくれそうだ。

株式会社ロッテ マーケティング本部ブランド戦略部部長・古市丈二さん
ふるいち・じょうじ/2001年入社。営業を経験した後、マーケティング部でキシリトールブランドMGやガム・チョコレート・ビスケットのカテゴリーMGを経験。イノベーションチーム、グローバルマーケティングの責任者を歴任し、2019年から現職。