高校生や大学生、20代など若い世代の人たちにとって、「介護のしごと」に距離感を抱いている人が多くいます。ロールモデルとなる介護の現場で働く人たちを取材し、若い世代の目線で読み解いてみました。この回は、北海道札幌市にある社会福祉法人渓仁会の協力で、5人の方を通じて「デイサービスで働く」「介護老人保健施設で働く」「作業療法士として働く」「言語聴覚士として働く」といった視点で介護のしごとを紹介し、みなさんとの間にある透明の壁を低くしていきます。(年齢や肩書は取材当時)
介護老人保健施設のロールモデルに聞く
【渓仁会編】
① デイサービスで働く 原田麻由さんのケース
② デイサービスで働く 大谷愛さんのケース
③ 介護老人保健施設で働く 四十栄将来さんのケース
④ 作業療法士として働く 渡瀬剛右さんのケース
⑤ 言語聴覚士として働く 魚住仁美さんのケース
⑥ 動画「信頼できる仲間がいる職場」(5分02秒)
デイサービスで働く 原田麻由さんのケース
視点① 大変なことがあっても楽しく仕事をしている
――現在の仕事は?
原田麻由さん(28)は、2016年6月からデイサービス「円山ハーティケアセンター(円山渓仁会デイサービス)」で働いています。実務経験を積み、2019年に「介護福祉士」の資格を取得しました。
デイサービスでは、要介護認定された人を対象に、送迎、健康チェック、入浴、昼食の準備と片付け、趣味の活動、レクリエーションなどを同僚職員とともにしています。
「友だちからは『大変だね』『つらくない?』と聞かれますが、大変なことがあっても楽しく仕事をしているので『そんなことないよ』といっています。みなさん、排泄介助をできないと思っているかもしれませんが、みんなが出すものなので抵抗はないし、レクは自分も楽しんでやっています。これでお給料をもらっていいのかなと思うときもあります」
視点② 別なタイプの介護サービスで
もう一度チャレンジしてみようと切り替え
――キャリア形成は?
原田さんは高校時代、部活でバドミントンに打ち込み、インターハイの団体戦でも全国8位になりました。介護のしごととの接点は、訪問介護員をしていた母親です。
「自分が介護のしごとをするとは、まったく考えていませんでした。バドミントンに携わる仕事をしたいなと漠然と考え、短大のライフデザイン科でもスポーツコースでした」
そんな原田さんが短大に通っているとき、一人暮らしの祖母が倒れたことが転機になりました。高齢者の一人暮らしの現実を知り、「支えになりたい」という気持ちと、尊敬している母親の仕事でもあることから、別法人の有料老人ホームに就職しました。
「母も介護のしごとにやりがいを感じていました。家事との両立もしていて、生き生きしていました」
しかし、原田さんは、一度、挫折しています。1年強で退職しました。
「ご利用者に『原田ちゃん』と名前を覚えてもらい、介助しながら何げない会話で笑い合ったり、『あなたのおかげだよ』という感謝の言葉をもらったりしていました。この感謝の気持ちにやりがいを感じていました」
「現場職員同士は仲よく話ができ、しっかり休みはとれていました」
しかし、社会人1年目で、生活のリズムがつかめませんでした。
原田さんは、介護以外の業種に転職するのではなく、別な介護サービスで介護のしごとをもう一度チャレンジしてみようと考えました。転職先は、日中勤務となる現在のデイサービスでした。
これからのキャリアについて、こう考えています。
「結婚、出産してもここで仕事をしていきたいと思っています。周囲には育休をとっている職員もいるので両立できるのかなと思っています。仕事の面ではみんなの仕事が円滑にいくように裏方業務もする職場の『リーダー』になりたいと思っています」
視点③ サードプレイスを持つことで
「また明日から頑張ろうと思える」
――続けるためには?
デイサービスで働き出して8年目になる原田さんは、現在、「介護を究めたい」と考えています。こう考えられるポイントの一つが、サードプレイス(自宅と職場以外の居場所)があるからです。バドミントンのサークル活動や、大会で知り合った人たちとの交流といった、職場とまったく関係ない人たちと過ごすことで、リフレッシュできています。
「仕事でミスをしてしまったりしたとき、一人でいると塞ぎ込んでしまいます。職場以外の人と会うことで、リフレッシュして、また明日から頑張ろうと思えています」
また、職場の他の職種の職員からの一言も前向きにさせてくれます。
「看護師から『私たちとみるところが違うので、すごいことに気づくよね』といわれるときがあります。介護職員は他の専門職よりご利用者に接している時間が長いから気づけることもあります。『介護福祉士でないとできないことあるよね』といわれるとうれしいですし、もっとがんばろうという気持ちになれます」
デイサービスで働く 大谷愛さんのケース
視点① 一般企業を経験したことで
「サービスを提供している」気持ちに変わった
――現在の仕事は?
「円山ハーティケアセンター(円山渓仁会デイサービス)」の副主任、大谷愛さん(46)は、原田麻由さんの上司になる介護職員です。大谷さんも転職組です。短大卒業後、別法人の特別養護老人ホームに勤務し、一時、一般企業での勤務を経て、現在の職場に就職しました。
現在のしごとは、デイサービスでケアを提供しつつ、勤務シフトを作成したり、業務が円滑にいくように調整したりする業務です。
「今、ポジティブに働けています。一般企業で一度働いてみたことで、『介護サービスを提供している』という気持ちに変わりました。施設で働いているときは、心の中で『介護をやってあげている』という気持ちもありました。年金の中から自己負担して来てもらえているのはありがたいことです。転職は私の中で大きかったです」
視点② 受け身ではなく
自分の中で考えて仕事をするからこそ成長する
――キャリア形成は?
大谷さんは、新たに入職した介護職員の教育も担当しています。原田さんもその一人でした。
「原田さんは、教えたことのそしゃくが早かったです。記憶力がすごくよく、分からないことはすぐ確認して消化していくので、教えやすかったです。原田さんのいい点は、ポジティブで、精神的にもフラットなところです」
「『介護福祉士』の資格を取得したあとは、職場でも責任を持ってできる仕事が増えました。だんだん自分の中で考えて仕事をするようになったと思います。現在は、新しい職員が入ったら的確な言葉で指導できています。私の確認がなくても自分で切り開いていけるように成長しています」
大谷さんは個人的にもスキルアップをしています。
「認知症対応型のデイサービスには興味があります。『認知症介護実践者研修』を受けたので、アセスメントしていく仕事が楽しみです。現在の法人では研修も多く、学ぶ機会があります」
視点③ 介護の職場に「居場所」をつくってあげる
――続けるためには?
大谷さんは、介護のしごとの経験がない人が就職先を選ぶ際のアドバイスをしてくれました。
一つは、新人職員の教育に関わる先輩職員や管理職の職員が、できることとできないことを確認する「チェック表」で技量を見極めているかです。介護福祉士を養成する専門学校や大学をでていない介護職員が増える中で、個人ごとに何カ月かけて育てていくかを検討し、それを他の介護職員に共有できているかです。
「見学や実習、就活での面接のときには、どう指導しているのか、きちっと尋ねた方がいいと思います。できることを伸ばし、できないことはステップを踏んでいけばいいと思います。その中で、他の介護職員が、新人職員ができることを積極的に振ってあげることは、介護の職場に『居場所』をつくってあげることになります。できることが見つかると自信につながります」
介護老人保健施設で働く 四十栄将来さんのケース
視点① 利用者さんの日常生活動作の改善や維持をしていく仕事
――現在の仕事は?
四十栄将来(よとえ・まさき)さん(26)は、2017年4月から介護老人保健施設「コミュニティホーム白石」で介護職員をしています。専門学校の介護福祉科で学び、卒業時に「介護福祉士」の資格を取得して入職しています。
介護老人保険施設(老健)は、介護が必要な高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すための施設です。一時的に入院した高齢者が、老健に移り、看護や介護といったケアのほか、作業療法士や理学療法士などによるリハビリテーション、栄養管理・食事・入浴などの日常サービスも併せて提供される施設です。ご利用者は、状態が安定している要介護認定を受けている人で、リハビリテーションを必要とされる人です。
「老健はいろいろな状態のご利用者に出会え、お手伝いができる職場というのが魅力です。身体状況に合わせて、リハビリの職員と連携して、リハビリでは機能訓練を行っています。こういうことをやって、介護では機能訓練で出来るようになったことを実際のどうやって生かしていくのかを考えていきます。利用者さんのADL(日常生活動作)の改善や維持をしていく仕事をしています」
入職して7年目。仕事を始める前に必ず他の職員が記入した記録の確認が重要です。
「命を預かっているので、(前の勤務帯の人の)記録を見ないとこっちが不安になっちゃいますね。だから介護のしごとを知らない人たちがよくいう『作業的な仕事』ではないんです」
視点② 介護のしごとをすれば介護技術を身につけられる
――キャリア形成は?
四十栄さんと介護のしごととの最初の接点は、高校1年生のとき、祖母が股関節を痛め、階段の昇降に手助けが必要になったからです。
「(3人兄弟の2人の兄は別の道に進んでいるので)両親が祖母と同じようなことになったら誰がみるのだろうと思ったとき、俺が介護のしごとをすれば介護技術を身につけられるので一番いいのかなと思いました」
さらに、高校の社会科見学で、リハビリテーション施設を訪問しました。そのとき、「ちょっとやってみたいな」と思ったのが「介護福祉士」を目指すきっかけでした。
「(排泄介助、入浴介助、食事介助の)三大介助には抵抗感があまりありませんでした。どちらかというと抵抗感より、例えば入浴介助だと滑って転ばないように緊張感の方が大きかったです」
夜勤は月5~6回あります。
「仕事で老健内を動くので身体的な疲れはありますが、精神的な疲れはあまりないし、落ち着いて仕事ができています」
これからのキャリアプランを聞くと、「現場で働き続けたい」と話してくれました。短期的な目標は、レクリエーションで企画から実施までを中心的に担う「まとめ役」です。レクは「自分の得意な部分」だからです。フロアの「リーダー業務」や課題ごとに設けられる委員会の「委員長業務」も経験を積みたいと考えています。「リーダー業務」は一番他職種と連携する機会が多く、「委員長業務」は視野を広げてご利用者をみられるからです。
視点③ 成長の実感はご利用者の状況に合わせた
コミュニケーション術
――続けるためには?
離職を防ぐポイントに「成長の実感」をあげます。
「毎日繰り返している業務でも、周りの状況を見られるようになった、他の職種と連携がよくなったなどと実感できるかだと思います」
同時に、ご利用者に対する向き合い方も過剰にならないように気をつけています。
「施設に入って落ち込んでいる人を無理やりONにする必要はないですし、普通に話し、普通に接し、普通の生活のペースで暮らしてもらえればと思っています。そういう人から笑顔が見られるとすごくうれしいですね。自分で食べられるようになったり、ちょっと後ろで支えれば立ち上がれるようになったり、トイレに行けるようになったり、しゃべるようになったり、そうした瞬間はすごくうれしいですね。ご利用者が落ち込まないようにすることが大切。傾聴だけでもいいです。コミュニケーションをとることが大切なのです」
作業療法士として働く 渡瀬剛右さんのケース
視点① 「前より生活しやすくなった」
「前より動きやすくなった」を目指す
――現在の仕事は?
介護老人保健施設(老健)の「コミュニティホーム白石」の渡瀬剛右さん(32)は、老健の通所リハビリテーションで作業療法を担当しています。
通所リハビリテーションは、基本的に要支援や要介護の認定を受けた人たちができる限り自立した日常生活を送ることができるように、食事や入浴、趣味活動などの日常生活上の支援のほか、リハビリの専門職による機能訓練などのサービスを日帰りで提供します。
「入職当初は、老健からご自宅に帰る方たちのリハビリを担当していました。家に帰れるといったときのご利用者の笑顔や感謝の言葉をもらい、やっていてよかったなと思いました。現在の通所リハビリテーション(デイケア)では、『前より生活しやすくなった』とか、『前より動きやすくなった』とか、老健がご利用者の活力になっていることを聞くと、やりがいがある仕事だなと感じています」
視点② 母親のアドバイスから
「高齢者施設でのリハビリで貢献したい」と思った
――キャリア形成は?
渡瀬さんは就職先を考える際、介護職員だった母親のアドバイスから「高齢者施設でのリハビリで貢献したい」と思ったそうです。
渡瀬さんの高校生時代は、「介護福祉士より看護師になりたいと思う人が多くいました」と振り返ります。
「ニュースで介護が取り上げられるときは、大変そうな場面が多いです。介護の現場を見る機会がない人は、どうしても『大変そう』というイメージを持ってしまうのだと思います。夜勤なら看護師だってありますからね」
視点③ 専門はそれぞれの「強み」と考え
カバーし合うコミュニケーション
――続けるためには?
(公財)介護労働安定センターが実施している「介護労働実態調査」によると、介護職員の離職理由で多いのが、職場の人間関係です。「介護福祉士」も専門職の一つです。老健で働き続ける中で大切な点は、専門職がチームケアをうまくできる環境であるかです。
「個人プレーになってしまうとうまくいきません。そうならないためにはコミュニケーションが大切です。専門はそれぞれの「強み」と考え、それぞれの「得意」や「苦手」を互いに受け入れた上で、カバーし合うように心掛けています」
言語聴覚士として働く 魚住仁美さんのケース
視点① みんなで取り組めるのがチームケアのよさ
――現在の仕事は?
魚住仁美さん(37)は、介護老人保健施設「コミュニティホーム白石」の通所リハビリテーションを担当しています。大学の卒業時、「言語聴覚士」の資格を取得し、入職しました。
言語聴覚士は、言語障害や聴覚障害、声や発声の障害に対応していく専門職です。検査、評価を実施し、訓練や指導などの援助を行うほか、医師や歯科医師の指示のもと嚥下訓練も行います。
「全然言葉が出てこなかった人が、他の職種の職員からこんなときに言葉がでてきたよという話を聞くと、すごくみんなでうれしいと思います。ご家族からも『食事のとろみが必要なくなりました』とか、『おかゆでなく、普通のご飯が食べられるようになりました』とかと聞くと、みんなで喜んでいます。みんなで喜べるところが、チームで取り組むよさです」
視点② 老健では介護職員に聞けばすべて分かるぐらいの存在
――キャリア形成は?
魚住さんの姉は作業療法士をしています。姉が養成校に通っているとき、練習のモデルになっていました。そこから「作業療法士はなんて大変な仕事だろう」という印象を受け、大学進学では「言語聴覚士」の養成校を選びました。
魚住さんは、病院と老健の違いについてこう振り返ります。
「私が実習をした病院では看護師がメインにいて、介護職員はすごく少ない印象でした。老健に就職すると、介護職員がメインで現場が回っているのが分かりました。分からないことは介護職員に聞けばすべて分かるという感じです。この違いは昔も今も変わりません」
視点③ 他の人に聞く、他の人をまねることから始めればいい
――続けるためには?
老健で働き始めて16年目になる魚住さんは、介護職員との関係性についてこう考えています。
「経験豊富な介護職員が多くいるので、発想も豊富でアイデアを出してくれる人が多いです。家族に説明して納得してもらわなくてはいけないとき、介護職員の人たちがうまくコミュニケーションを取ってくれてスムーズに話が進むので助けられています」
「初めはコミュニケーションが苦手だった」四十栄さんの入職当時を知る魚住さんですが、人は変われるといいます。
「『苦手だ』といっているだけでは何も変わりません。自分でも『ちょっと頑張る』ことが大事なのかなと思います。他の人に聞く、他の人をまねることから始めればいいと思いますよ」
取材:岩崎賢一 写真:岡田晃奈 インフォグラフ:須永哲也
おことわり
本事業は、「令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。