介護の現場には、今、ケアテック(介護とテクノロジーを合わせた造語)と呼ばれる介助をサポートするロボットや異変を知らせるセンサー、記録入力やデータ活用を簡便化するデジタル機器の導入が進んでいます。介護職員の働く姿も変わってきています。高校生や大学生、20代など若い世代の人たちのロールモデルとなる介護の現場で働く人たちを取材し、介護のしごととの最初の接点やケアテックを活用して働く現場の介護職員の姿を聞きました。この回は、社会福祉法人善光会の協力で2人の方を取材し、「ケアテックやデジタル機器の導入が進んだ特別養護老人ホームで働く」「介護職員を経て介護系の研究職として働く」の2つのケースを紹介します。みなさんと一緒に介護の未来を考えていきましょう。(年齢や肩書は取材当時)

ケアテックやデジタル機器の導入が進んだ
特別養護老人ホームで働くロールモデルに聞く【善光会編】

ケアテックやデジタル機器の導入が進んだ
特別養護老人ホームで働く 和田真央さんのケース

【PR】介護のしごと・20代、30代のロールモデルを追う 和田真央さん

視点① ちょっとしたご利用者の変化に気づけたときに
自分の成長を感じられる

――現在の仕事は?

和田真央さん(26)は、東京都内の専門学校を卒業し、介護福祉士の資格を取得。2019年4月に善光会に介護職員として入職しました。グループホームでの勤務1年を経て、羽田空港近くにある複合施設「サンタフェガーデンヒルズ」内の特別養護老人ホーム(特養)「フロース東糀谷」に異動しました。2021年から10人のご利用者が生活するユニットのリーダーになり、ご利用者へのケア、家族への連絡、相談に携わっています。2023年からは4つのユニットを統括するフロアリーダーとして、介護職員のシフト作成や新しく入職した職員の教育、職員のマネジメントも担っています。

特養は、基本的に要介護度が3~5といった人たちが入居する介護施設です。ユニット型の特養は、10人程度のご利用者を1つのグループとして、共有スペースにリビング、居室は1人ずつ分かれており、自宅に近い居住空間になっています。ユニットごとに専任のスタッフがいます。ご利用者のプライバシーを尊重し、かつそれぞれの生活サイクルにも配慮した介護サービスを提供することを心掛けています。

「日中は1人で10人、夜間帯は1人で20人を担当しています。特養だと要介護3以上であることが入所の原則です。支援が必要な人が多く、いつもと違う様子か、いつもと違う歩き方かといったことなどを常に観察しています。例えば、変な咳(せき)をされているようだというとき、看護師に伝えます。ちょっとした変化に気付けたとき、自分が成長したと感じています」

231211_善光会_01和田真央さん

視点② 自分のやりたいことを整理したら
看護師ではなく介護福祉士だった

――キャリア形成は?

高校生の就職活動前は「看護師になりたい」と漠然と考えていた和田さんですが、就職活動で看護のことを少しずつ勉強したとき、「私が本当にやりたいことは医療面より生活面を支えていきたい」と整理されたそうです。そう思った背景を尋ねると、認知症の祖父と日々接していた経験があることが分かりました。

「母は仕事をしながら祖父の世話をしていました。小学生や中学生だった私は何もできなくて、その後、もう少しできることがあったんじゃなかったかなと感じていました。祖父との経験もあって、今も介護をすることや認知症の人と接することは楽しいと思っています」

ユニットでの仕事は、家庭で祖父と1対1で話しているのとは違い、1人のご利用者と話していたとしても、他のご利用者の様子も同時に気に掛けていなければなりません。また、車いすを利用したり、ベッド上で生活したりしている人への話しかけは少し変わります。認知症の人でも状態によって関わり方が違います。

「一人一人へのアプローチが違うので、それが分からなかったときは少し大変でした。排泄介助や入浴介助、食事介助といったケアは、専門学校で学んできたので抵抗感はありませんでした」

231211_善光会_02和田真央さん

視点③ 人間ができないことを少しロボットやセンサーに
手伝ってもらっているイメージ

――ケアテックとの向き合い方は?

介護の現場では、ロボットやセンサー、ICT(情報通信技術)などケアテックの導入が進んでいます。

善光会では、介護職員の足腰に負担がかかる移乗は、握力があるご利用者なら立位をサポートする移乗サポートロボット「Hug」(ハグ)が肩代わりしてくれます。介護職員は事故がないように「Hug」を操作し、個室内のトイレ等にご利用者を移乗させたいときに活用しています。

ベッドのマットレスの下に敷かれたセンサーを通じた見守り支援システム「眠りSCAN」は、ご利用者の眠りの状態や変化を知らせてくれます。和田さんのところでは、介護職員の夜間の巡回頻度が1時間に1回から、センサーを活用することで2時間に1回に巡回頻度が減りました。センサーにより介護職員の負担軽減と巡回によるご利用者のストレス軽減、そして状態の変化を早期にキャッチして対応することができます。

個室内のカメラやマイク、スピーカーは、介護職員の待機場所のモニターやスマートフォンのアプリと連動し、どこに居ても状況を確認することができ、迅速な初動につながっています。

「私たちの仕事は、こういうロボットを一生懸命動かすことでもありませんし、パソコンのキーボードを叩くことでもありませんし、センサーのモニターを見続けていることでもありません。私たちは介護職員としてこの仕事をしているので、常にご利用者のことを第一に考えていますし、ご利用者の生活と私たち介護職員の仕事がうまく両立することが大切なのです。ご利用者はいつまでも自分でトイレに行きたいでしょうし、自分で食事を食べ続けたいと思っているでしょう。そういう人たちへの介助であり、私たち人間ができないことを少しロボットやセンサーに手伝ってもらっているイメージで私はいます」

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ご利用者と会話する和田さん

視点④ 自宅と職場以外のサードプレイスを持つことが重要

――続けるためには?

リーダーをしている和田さんも、かつて辞めようと思ったときがありました。

「ユニットリーダーは、他の職員と協力して、家庭にいるときのような雰囲気で生活できるようなフロアづくりを目指しています。しかし、ご利用者に理解してもらえないときもあります。そういうとき、メンタル的にしんどくなり、『私はこの仕事が向いていないのかな』と考え込んでしまうことが2~3回ありました」

ご利用者は自由に外に出られるわけではありません。そういう状況下で生活している気持ちを理解しつつも、うまくコミュニケーションができないときがあります。

「私も落ち込むと2~3週間続いてしまいます。ただ、他のご利用者から『ありがとう』といわれたり、『和田さんでないといやだ』という言葉を聞いたりすると、やっぱりこの仕事を続けようと思い直します」

和田さんは、介護職員のストレスの原因の中には夜勤やユニットでの1人勤務による孤独感もあるといいます。和田さんはそこをうまくコントロールしています。

「オフタイムは十分休養をとっています。それだけではなく、夜勤明けは午前9時30分に仕事が終わるので、銭湯やサウナでリフレッシュしたり、(介護職以外の)友だちに会っておしゃべりしたりしてリフレッシュしています。善光会の同期入職の職員で食事や遊びに行くこともあります。介護施設と家の往復になってしまうと心身共に疲れてしまいます。自宅と職場以外のサードプレイスを持つことが重要です。少し人と話すだけでも全然違ってくると思います」

231211_善光会_03和田真央さん

介護職員を経て研究職として働く 山中裕太さんのケース

▼善光会・本文2・山中さん

視点① 誰かの役に立っている、人に喜ばれている、
ということをダイレクトに感じられる仕事

――現在の仕事は?

山中裕太さん(31)は、2021年4月に善光会に入職しました。善光会では、介護系の研究職として介護データの収集と分析に関する調査研究をしたり、介護機器メーカーの製品開発支援や実証試験などをしたりしながら、介護現場の生産性やご利用者のQOL(生活の質)の向上に関連するケアテックの開発に携わっています。

山中さんは東京都内の大学の哲学科を卒業した後、1年間、タイで難民の教育支援活動をしていました。帰国後、知人に誘われ他の法人のグループホームに就職し、介護職員として4年間勤務した経験があります。2022年には介護福祉士の資格を取得しました。

「(介護職員の仕事は)楽しかったです。非常にやりがいがありました。目の前の困っている人に生活支援をして喜んでもらえます。その人の生活が変わっていくことで、自分の貢献が分かりやすく把握できます。介護をした経験がなかったので、どうやって介護したらいいのかと思いましたが、介助の方法は先輩職員から教わりました。独り立ちまで半年ぐらいかかりました」

介護のしごとのどこに魅力ややりがいを感じたのでしょうか。

「誰かの役に立っている、人に喜ばれている、ということをダイレクトに感じられる仕事をしたいと考えていました。難民支援と介護で携わり方は違ってもそれは同じです」

グループホームで働きながら、現場が抱えている介護の人手不足を日本社会はどう解決していくのかということに興味を持ち、大学院にも通って研究をし、知見を深めていきました。

「介護の生産性を上げながら介護職員が少なくても成り立つ世界をつくるため、自分たちがどう変わっていかなければいけないかということに関わりたいと思いました。善光会は、介護部門と研究部門の両方を持っており、ケアテックの活用や介護研究の最先端を担っています」

現在、介護職員ではありませんが、介護現場と連携しながらケアテックの実証をしたり、介護データの活用方法を考えたりしています。

「善光会の介護職員は、ケアをもっとよくしていきたいというモチベーションが高いと思います。職員も若い人が多いです。どうやって介護現場のオペレーションを効率化していくか、どうやってご利用者にもっと喜んでもらうかといったことを考えている幅の広い介護職員が多い印象です」

231206_善光会_04山中裕太さん

視点② 余裕を持って接し続けていられることが
ご利用者のQOL向上に寄与

――介護における人の役割は?

山中さんは、ケアテックが進歩することで介護職員とご利用者のコミュニケーションが円滑にできるようになることを支援するツールが出てくる可能性があるといいます。その一方で、ご利用者が喜んでいる状態をつくるには、コミュニケーションツールの開発も必要ですが、より介護職員のモチベーションの方が(喜んでいる状態をつくることに)影響を及ぼす部分が大きいと考えています。

「介護職員の人たちは時間に余裕をもって仕事をできるから、ご利用者と笑顔で接することができる側面があります。ケアテックは、介護職員の人たちの仕事に余裕をもたらすため、様々な場面で活用されるとよいと思います」

こうしたことを考え、検証していくうえで、介護職員の経験が大きく役立っています。

「介護職員としての経験があるので仮説を立てるときに役立ちます。善光会は介護施設を運営しているので、その仮説を現場で検証することができます。私は介護職員としての経験を積んでいてよかったと思っています」

善光会では、研究部門と介護現場が一体となり、質の高い介護を切り開こうとしています。

231206_善光会_05山中裕太さん

取材:岩崎賢一 写真:岡田晃奈 インフォグラフ:須永哲也

おことわり
本事業は、「令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。