ロシアによるウクライナ侵攻の開始から、2024年2月で2年になります。日本財団はこの間、日本で暮らす約2000人のウクライナ避難民を支援してきました。侵攻が長期化するなか、いま必要な支援とは何か。避難民が働くウクライナカフェ「クラヤヌィ」(東京都武蔵野市)で、ウクライナ避難民支援に携わる佐治香奈さん、川上萌さん、ウクライナ人スタッフのカルジリオ・リュボフさんの3人に、お話を伺いました。

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日本で暮らしていくために日本語を学ぶための支援は重要と訴える佐治さん

「自立」に向けた支援、まずは日本語習得から

──侵攻開始から2年。現場で今求められている支援とは。

佐治 戦争が長期化するなか、多くの避難民の方々が中長期的に日本で暮らすことを見据え、就労を望んでいます。そのための最初のステップが日本語の習得です。日本財団は皆さまから寄せられたご寄付から、日本語学校に通うための奨学金を支給してきました。多くの人がウクライナで培ってきたスキルや資格を生かせる仕事を希望していますが、日本語が壁となり、悩まれているのが現状です。

川上 日本財団では、希望の仕事ではなくても、まずは働いてみることも一つの方法だと考えています。日本の職場の雰囲気に慣れることもできるし、働きながら日本語の力もつきます。その後、より希望に近い仕事を目指していく。そのようにステップを踏んでいくという考え方です。

カルジリオ 日本語の習得には、仕事を見つける他にも大きな意義があります。同じウクライナ人として避難民に接していると、避難民の多くが「ずっと支えてもらうのは申し訳ない」と感じていることがわかります。自立することは、本人にとって大きな自信になります。ですから、日本語習得のサポートは、避難民の人生を大きく変えてくれる支援策だと思います。

大切なのは地域で支える仕組み、ウクライナカフェもその一つ

──そのほかに、日本財団はどのような支援に取り組んでいますか。

佐治 私たちは日本財団が目指す「みんながみんなを支える社会」を実現するため、「両輪」で支援を続けています。一つは、避難民への直接的な経済支援です。日本に避難する際の渡航費や、日本における生活費などを継続して支援しています。避難生活が長期化し、ウクライナへ帰国することを決意した方もいらっしゃることから、新たに帰国支援も始めるなど、ニーズに合わせて支援を検討、実行しています。

両輪のもう片方が、避難民を地域で支える仕組みづくりを支援すること。この観点から、様々な非営利団体を助成しています。このウクライナカフェ「クラヤヌィ 」を運営するNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY」も、その一つです。このカフェでは、避難民の方々がボルシチなどのウクライナ料理を提供するほか、地域の日本人も参加できるイベントを開いています。雇用、そして交流の機会を創出しているのです。

──日本財団が支援を打ち出したのは侵攻開始の1ヶ月後、2022年3月でした。

カルジリオ 侵攻が始まり、私も含め世界中のウクライナ人が大変なショックを受けました。ましてや、被害が特に大きな南部や東部出身の避難民は私よりも100倍くらい不安だったと思います。そんな中、日本財団が具体的な支援策を発表したことで、暗いトンネルの向こうに少し光が現れた思いがしました。

佐治 わたしたちは国内外で人道支援や社会課題の解決に取り組んできました。ウクライナのためにも、自分たちにできることがあるのではないかと考えていた中で、当時、日本には約1900人のウクライナ人が住んでいることから、その方々が家族や友人を呼び寄せたいのではないか、そうであるならば避難のお手伝いをできるのではないかという議論から始まりました。

ただ、当初は避難先として日本の需要がどの程度あるのか分からなかったので、このカフェを運営するKRAIANYさんにも相談に乗っていただきました。日本財団の強みは、国や自治体、企業、専門家、NPO団体等、さまざまなプレーヤーとのネットワークです。今回も、政府や在日ウクライナ大使館、自治体、そして在日ウクライナ人コミュニティ、専門家などと情報交換をしながら「ハブ」となり、支援の輪を広げるように意識してきました。支援を通じて得た知見を報告書にまとめ、先々につなげていく包括的なサポートを続けています。

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避難民と触れ合い、思いをシェアできることが大切と語るカルジリオさん

──日本財団は定期的に避難民へのアンケートを実施しています。

佐治 お金や物資以外で必要な支援を尋ねると、多くの方が心の安らぎを求めていることがわかります。多くの方が夫や父親を国に残し、毎朝電話で無事を確認するような日々を送っています。

川上 特に子どもたちは、大きな不安を抱えています。事情も十分に飲み込めないまま、家族と離れ、住み慣れた所から異国へ避難し、日本語がわからない状態で、日本の学校に通い始めました。時には自然と戯れたり、アミューズメント施設に行ってみたり。ニーズを把握しながら、そんな機会を提供することで、ほんの一時でも不安を忘れ、日本にも楽しいことがたくさんあるということを知ってほしいのです。

──侵攻開始から時間が経ち、ウクライナ情勢への関心が薄れているように感じます。

佐治 まず伝えたいのは、世の中の関心が高かった2年前よりも、日本に暮らす避難民の数は増えているという事実です。居住エリアは北海道から沖縄まで全国各地に及びます。つまり、避難民はどこか遠くの存在ではなく、皆さんと共に暮らしているということです。

カルジリオ 今も戦争が続いていることに何ら変わりはありません。国の現状を、いかに日本の皆さんとシェアできるか。それには、交流会やワークショップなどを通じて人々が触れ合う機会が大切です。「クラヤヌィ」で開かれたウクライナ刺繍のワークショップもその一つです。講師を避難民が務めることもあります。

言葉の壁があっても、刺繍という共通項があれば、刺繍を通して、「ご出身はどちらですか?」といったさりげない質問から始まり、やがて「ウクライナの現状は?」とやりとりが始まる。現地の様子を日本の多くの方々とシェアできるだけで、避難民の心は安らぐと思います。

──クラヤヌィで働く皆さんも、社会とつながることの大切さを感じているようです。

カルジリオ その通りです。彼女たちは日本に来た当初、「働く場所もなく、自分は必要とされていない人間なのでは」と落ち込んだといいます。料理やイベントを通じて日本の皆さんと交流ができ、「自分にもできることがある」と思うと気持ちが楽になったそうです。

 「日本は素敵な国」・・・気軽な交流から広がる共感

──日本がウクライナを支援する意義をどう考えますか。

佐治 今回は戦争という不幸な出来事を機に、ウクライナの人々を受け入れました。しかし、今回のような有事に限らず、日本は今後も多様な人々を受け入れていくことになるでしょう。異なる文化、背景の人々を受け入れられる社会を作っていかなければなりません。ですから、表現は大変難しいのですが、今回の支援で得られる経験は日本にとって大変意義深いと思います。

川上 私たちが定期的に実施しているアンケートで、多くの避難民の方々が「日本は何て素敵な国なんだ」と書いてくれています。今後、ウクライナに帰ったとしても、こうした気持ちを周りに広げてくれるといます。それから、これまでの支援を通じて、日本の社会に何らかの疑問や課題が見つかったとすれば、海外から人を受け入れるためのより良い制度や仕組みを考える機会になると考えています。

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大きな不安を抱える子どもたちへのケアが大切と訴える川上さん

──日本財団で支援活動に携わることで、どんな気づきがありましたか。

佐治 私は元々、雑誌の編集をしていましたが、伝えるだけでなく、社会をより良くするために、世の中の流れを大きく変える力があることに魅力を感じ、日本財団に入りました。昨今、社会貢献がしたいと考える若い方も少なくないと思います。ここでの仕事は、国内外におけるあらゆる分野での活動を通じて、多くの人と関わり、多様な視点を得られることも魅力の一つです。そして、困難に直面する人々へ思いを寄せられる視野の広さが身につくと思っています。

川上 私はちょうど2年前大阪府箕面市から日本財団に出向してきました。今回の支援を通して感じたのは、これまでの活動によって日本財団は市町村と比べて企業やNPOとの強いつながりを持っているということです。また、行政だけでは動きにくい部分、足りない部分に対して、先んじて取り組むスピード感があります。これは今回のウクライナ避難民支援の中でも活きていたと思います。

──避難民への支援は今後も続きます。

佐治 緊急的な支援から、共に暮らしていくための支援へとシフトしていく時期に入っています。避難民の支援基金には、すでに2億円近いご寄付が寄せられています。これだけの人たちが想いを寄せてくれている──。それ自体が、避難民の方々にとって心強く感じられるものだと思います。

川上 支援というと何か大それたことのように感じてしまいがちですが、ウクライナにまつわるイベントや交流会に参加してみることも支援の一つの形だと思います。「支援しなきゃ」という気持ちが強すぎると、いわゆる支援疲れにも繋がってしまうと思うので、できる範囲で支えていただくことが一番だと思います。

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カフェでウクライナ料理を提供する避難民のみなさんと日本財団のスタッフ
ウクライナカフェ「クラヤヌィ」

 住所:東京都武蔵野市西久保3-2-5(JR三鷹駅北口から徒歩15分)
営業時間:10:00~18:00(定休日なし)
2023年2月にオープン。NPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY」が運営し、ウクライナからの避難民たちがボルシチやワレヌィキ(水餃子)、ペリグ(ケーキ)などの郷土料理を提供。交流イベントも開催される。

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