2024年3月30日、電気自動車(EV)最高峰レース「ABB FIA Formula E(フォーミュラE)世界選手権」が日本で初開催される。欧州をはじめ、世界的なスポーツカーのメーカーが参戦する中、国内から唯一挑むのは「EVのパイオニア、日産」。母国開催だけに、念願の優勝となるか、勝負の行方に熱い視線が注がれる。そしてレース同様、チャレンジスピリッツと、高い技術力から生まれたのが日産の市販EV。SUVの「アリア」は、3月に全グレード販売開始(発売3月19日)。軽自動車「サクラ」、ハッチバックの「リーフ」と、ラインナップ豊富な日産EVの実力に迫る。
東京の市街地で競うフォーミュラE。国内からは唯一、日産が参戦
3月30日、15時03分、ついに熱戦の火ぶたが切られる。
フォーミュラEの東京大会決勝レース。すでに話題は沸騰。チケットは初販・再販、ともに数分で完売した。市街地(公道)を高速のフォーミュラカーが駆け抜ける、世界でもまだ珍しいエキサイティングな光景が国内で味わえる機会であり、世界中から注目が集まっている。
舞台は有明・東京ビッグサイト(東京国際展示場)周辺。東京の公道で初めて開催されるFIA(国際自動車連盟)認定モータースポーツ世界選手権となる。
出場するフォーミュラカーはすべてEV。走行中に排ガスも爆音も発生させないため、コースはエンジン車のレースのようなサーキット場ではなく、都市部やリゾート地の市街地に特設される。これには、車から有害ガスを出さない「ゼロエミッション」をアピールする意味もあり、環境に配慮したサステナブルな未来を体現するレースといえる。
フォーミュラEに参戦する電動マシンの最高速度は時速322キロメートル。全チームが共通のバッテリーを使い、最大出力も350キロワットに統一されているため、バッテリーの電気をいかに効率良く使うか、という各社のバッテリーマネジメント経験と技術力、そしてドライバーテクニックが勝負を分かつ。世界の自動車メーカー各社が最先端のEVテクノロジーを駆使して熱い戦いを繰り広げる。
日本の自動車メーカーとして唯一参戦するのが、日産だ。今シーズンすでにサウジアラビア開催の第3戦、ブラジル開催の第4戦でともに3位表彰台を獲得しており、第5戦となる有明では念願の優勝に期待が高まる。日本を象徴する桜を取り入れたデザインのマシンから眼が離せなくなりそうだ。
市販車の開発とモータースポーツとの関係は深い。日産のフォーミュラEマシンには、世界中で販売してきた累計走行距離約260億キロにもおよぶという「リーフ」のデータから得られた知見がいかされている。そして、レースで鍛えられた技術は、市販車の開発にフィードバックされることになる。レースで、市販車で、品質と性能を高めあうEVは、日産の代名詞と言っても過言ではないだろう。
加速がすごい。レースで鍛えた技術がここに
そんな日産の技術力を肌で感じる機会となったのが、初めて「アリアe-4ORCE(4WD)モデル」のアクセルを踏み込んだときだった。
加速が、すごい。
筆者は普段ワンモーターの「アリアB6(2WD)」に乗り、その愛車の走行距離はそろそろ1万キロを刻もうとしている。アリアの高い性能をよく知っているつもりだったが、前後にモーターを積むアリアe-4ORCEに乗ってみると、格の違いを実感することとなった。二つのモーターによって強力に4輪で路面を蹴る走りは、スポーツカーの次元にある。
特に高速道路での追い越しなど、時速80キロ前後からアクセルを踏み込むと、二つのモーターが生み出すパワーで一気に加速する。あたかも、SF漫画(アニメ)へのワープというか、時空を超えていくような感覚をe-4ORCEモデルはもたらす。
環境に配慮しながらハイパワーを達成する――。そんな難題に対して、日産が出した答えがここにはある。これまでエコカーといえば、走りの醍醐(だいご)味を削(そ)がれた「つまらないクルマ」というイメージが強かったと思うが、その常識を覆す、日産の英知が凝縮されている。
パワーだけを高めたかといえば、そんなことはない。4輪を巧みに制御するe-4ORCEモデルは、ハンドルを切ったときにもワクワクする感動的な瞬間が訪れる。
日産の4輪制御の技術といえば、「アテーサE-TS(電子制御トルクスプリット四輪駆動システム)」がある。「日産スカイラインGT-R」をはじめ、多くの日産ファンに走ることの楽しさや興奮をもたらしてきたモータースポーツから生まれた技術のひとつ。そのアテーサE-TSによる高次元の走りを革新させ登場させたのがe-4ORCEだ。そこには、エンジン車と比べものにならないレスポンス速度を可能にする電動化技術の恩恵がある。
アリアe-4ORCEは、コーナーではタイヤの向きを変える操作に的確に応じ、その許容範囲が広い。クルマを信頼してハンドルを握ることができる。あたかも高性能スポーツカーをドライビングしているような操ることの楽しさ。それをSUVのボディーをまとうアリアで味わえるのだ。滑りやすい路面でも安定感にあふれるから安心して走れる。
そして4輪のちみつな制御は、快適性も高めている。アリアe-4ORCEは、前後輪が一緒に沈み込み、車体がフラット状態のまま加速していく。減速時も同様で、結果として、乗員は前や後ろに揺すられる度合いが極端になくなり、運転者も同乗者も実に快適だ。
「他のやらぬことを、やる」。アリアe-4ORCEモデルにも、創業以来、継承してきた日産のものづくりへのチャレンジ精神が生きているのだろう。日産の歴史のなかで、多くの名車が生まれているが、アリアもその歴史に名を刻むモデルとなるに違いない。
全グレード発売開始した「アリア」。輸入車と肩を並べる美しさ
アリアが、ただ単に走りの性能を磨いただけではないことは、「アリア2WDモデル」に乗れば明らかだ。特にアクセルを踏んだ瞬間から分かる、実にナチュラルなパワー特性や意のままに走れる気持ち良さは、特筆に値する。
プレミアムな雰囲気の外観は、高級車が多く並ぶ場所に、アリアで訪れても大きな利点となる。日本の伝統美を取り入れた上品なデザインや質感は、インポートプレミアムブランドのクルマと並んでも、オリジナリティーにあふれ、アリアなら自身の愛車を誇らしく感じるものだ。
外観だけでなく、内装も含めた、国産メーカーのパッケージングの素晴らしさにも、EVをリードしてきた日産だからこそ磨きあげた匠の域を感じる。運転席から眺める街のドライブも、これまで以上にすてきな景色となる。
静かで、リラックスできる快適性にも日産の心配りが生きている。排ガスを出さず、騒音もないから、筆者は、ガレージで、アリアをオーディオルームや、オンラインミーティング含めたオフィススペースとして活用することもまれにある。100%電気だから、エアコン(冷暖房)を停車させた状態でも使用できる。静かさが必須のバードウオッチングや、時間とともに変化する夕日も、空調のきいた快適な車内でじっくりと楽しめる。そこには、カーライフならぬEVライフがある。
アリアには、2種類のバッテリーサイズが用意されている。B6のほかに航続距離のより長いB9があり、それぞれに2WDモデルとe-4ORCEモデルをラインアップする。日産は3月8日にB6(2WD)の受注を再開するとともに、B9やe-4ORCEを含む新たなグレードを発表。3月19日には五つのグレードすべてが販売開始となった。高速道路でのハンズオフドライブを可能にする、先進運転支援システム「プロパイロット2.0」を装備するモデルが筆者のおすすめだ。
軽自動車にEV技術を投入、多くのユーザーを魅了する「日産サクラ」
日産のEV開発について語るのであれば、日本の車市場の4割を占め、最大セグメントとなる軽自動車の領域に高い完成度で挑戦したことも忘れてはならない。 2023年EV販売台数ランキングで圧倒的な1位*を獲得するなど、EVユーザーの裾野を一気に広げた日産の「アイドル車」が、「サクラ」だ。
小さいエンジンで懸命に走るという軽自動車の固定概念は、モーターで走るサクラには皆無だ。パワーに余裕のあるモーターは、低速域から非常に力強く、高速でもその頼もしさが続く。もちろんエンジンのうなるような音もない。
毎日、サクラを使いたくなるのは、ドライブが快適で、運転がしやすいから。アクセルペダルだけで思いのまま加速・減速のできる「e-Pedal Step」も魅力。子どもの送り迎えや日常の買い物など、毎日の足として活躍する軽自動車だからこそ、労力少なくペダルが扱えるのは、メリットが意外と大きい。さらに、家で充電ができ、ガソリンスタンドに行く手間が省けることは、時間的にもうれしい。
ユーザーが重視する維持費においても軽自動車のEVは非常に優れている。EVの充電にかかる電気代の方がガソリン車の燃料代よりも安い傾向にあり、ガソリン車なら定期的にやってくるエンジンオイル交換も不要と、トータルコストがおさえられる。
室内は広く、大人4人の乗車をこなすパッケージングの良さに加え、荷物の多さによって変化させられるシートアレンジも使い勝手がいい。
※一般社団法人日本自動車販売協会連合会及び全国軽自動車協会連合会公表資料に基づく日産調べ
EVといえば「日産リーフ」。多くの人に、驚きと新たな体験を
最後に、EVの先駆者「リーフ」にも触れておきたい。その魅力は、運転席に乗り込んだ瞬間から実感できる。セダンなどのモデルから迷いなく乗り換えできるスタイルだ。
走り出すと、力強い動力性能に、同クラスのガソリンモデルでは味わえないような頼もしさがある。特に、航続距離とともに動力性能を高めた「e+」のモデルは、あふれるパワー面で鋭い加速も可能だ。ハンドリングも良い。走りを磨き上げて、フィーリング面でもアップデートしている。いつもより遠くまで走りたくなるのは、リーフの運転が素直に楽しいから。
そして、ジャストなサイズ感。小回りが利き、軽快感のある走りが街なかのドライブにフィットする。ボンネットの低さやウインドー構成の巧みさによる視界の良さは、運転が楽に感じることだろう。縦方向と横方向のゆとりのある室内は、快適でセダンライクなものだ。
ラゲッジスペースも、想像以上にたっぷりで、ためらわず旅行に出かけられる。
オールマイティーさが、リーフの魅力。EVの先駆者として存在感を示しているが、クルマとしての素性の良さのたまものだ。
クルマで、人生の楽しみがひとつ増えるとは…
自動車産業は「100年に一度の変革期」にあると言われるが、これからのEV普及や自動運転を含めた交通システムの発展は想像を超えるものになるかもしれない。今回は、私たちがすでにその大きな転換期の中にいることを実感した。フォーミュラEの観戦は、よりそれを実感するものになるだろう。
かつてEVでワクワクした走りを手に入れるのは夢物語だった。それを現実のものとさせた技術者の並々ならぬ苦労に敬服すると同時に、感動さえ覚えた。これはただの試乗記ではない。日産へのラブレターだ。
アリア、サクラ、リーフは、三者三様の魅力を備える。そしてどのモデルも、一度、EVを体験すればエンジン車には戻れないと感じるほどだ。
いつものドライブが上質なものになるEVの新たなドライビング体験。走れば走るほど好きになる日産EVは、乗り手の人生の楽しみを、ひとつ増やしてくれる。
TEXT:伊藤治彦
【日産アリア】
航続距離(WLTCモード):640km(B9の場合)/610km(B9 e-4ORCEの場合) ※他3グレードあり
(B6グレードは国の補助金85万円支給対象 ※その他グレードは現時点で未定となります)
【日産リーフ】
航続距離(WLTCモード):322km/450km、急速充電時間:約40分/約60分、普通充電時間:約8時間/約12.5時間(6kw充電器)、メーカー希望小売価格:4,081,000円~(さらに国の補助金最大85万円支給対象)
【日産サクラ】
航続距離(WLTCモード):180km、急速充電時間:約40分、普通充電時間:約8時間(2.9kw充電器)、メーカー希望小売価格:2,548,700円~(さらに国の補助金55万円支給対象)