東京都は、東京に暮らし働く全ての人が輝き、活躍できる社会の実現に向けて、ソーシャルファーム(※)の裾野を広げていく「TOKYO SOCIAL FIRM ACTION(東京ソーシャルファームアクション)」に取り組んでいます。

※「ソーシャルファーム」とは、自律的な経営を行いながら、様々な理由により就労に困難を抱える方々が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働く社会的企業です。

パラアスリートとして活躍する谷真海さんが、2023年11月に東京都認証ソーシャルファームとなった社会福祉法人つくしの郷(さと)の経営するジェラートカフェ「あまーの あまーの(A mano a mano)」を訪問しました。

つくしの郷_プロフィール用①

社会福祉法人つくしの郷 理事長 米山 泰志さん
足立区議を経て、2011年に一般社団法人つくしの郷、2020年に社会福祉法人つくしの郷を設立(社会福祉士)。

つくしの郷_プロフィール用②

あまーの あまーの店長 出口 志峰美(しおみ)さん
社会福祉法人つくしの郷の就労移行支援事業所職員を経て現職(ジョブコーチ・保育士)。

つくしの郷_プロフィール用③

リポーター・パラアスリート 谷 真海さん
走り幅跳びで3大会連続パラリンピック出場後、パラトライアスロンへ転向し、東京2020パラリンピック出場。開会式で旗手も務めた。

社会福祉法人が考える「中間的な就労の場」とは?

北千住駅から歩いて6分の住宅街にあるジェラートカフェ「あまーの あまーの」は、社会福祉法人として初の東京都認証ソーシャルファームです。

差し替え_つくしの郷⑨
ジェラートカフェ「あまーの あまーの」外観

米山理事長はどのようなきっかけで、ソーシャルファームに挑戦されたのでしょうか。

「当法人は、これまで障害のある方に職業訓練を行ってきました。しかし、訓練を頑張って一般企業に就職しても、辞めてしまう方が多かったんです。仕事が難しいから、というわけではありませんでした」

障害者雇用枠での採用の場合、職場は一定程度の理解がありますが、それでも正規雇用と変わらないほぼ8時間の労働をこなすのは大変なこと。また、つらいときになかなか相談がしづらいなどの理由から、だんだん心身の負担が大きくなってしまう人が多かったそうです。

福祉的な教育現場でのトレーニングと一般就労では、まだまだ大きな差がある。しかし、働き方の工夫をすれば、よりスムーズに一般就労への移行ができるのではないか。そこで、働く場に福祉職がいて、専門的なサポートを受けながら一般就労として働ける環境、両者の「中間的な就労の場」を作ることはできないか――。米山理事長はそう考えていたときに東京都のソーシャルファーム認証制度について知り、チャレンジすることにしたそうです。

「中間的な就労の場」とはどういうことなのか。谷さんが問いかけると、米山理事長が説明してくれました。

「ここで働く方は、一般就労なのでもちろん東京都の最低賃金以上の時給が得られ、やる気を持って力を発揮していただける。一方で、職場には福祉に関する有資格者など専門性のあるスタッフがおり、一人ひとりの事情に応じて、働く上で必要なサポートも受けられる。『両者の良いとこ取り』をした職場です」(米山理事長)

従業員の皆さんには、このカフェで働く喜びを体感し、社会に飛び出していってほしい――。米山理事長はそんな思いを胸に抱いています。

つくしの郷⑮差し替え
(左から)米山泰志さん、出口志峰美さん

働きたくても働けていない人はたくさんいる

「あまーの あまーの」では、現在カフェのスタッフとして精神疾患を有する方3名と、難病の方1名が調理や接客を担当しています。出勤が難しい難病の方には、自宅から分身ロボットを遠隔操作してフロアで接客をするといった新しい働き方も導入しています。

カフェで働くスタッフについて、出口店長はこう話します。

「皆さん、働くにあたってどんなハンディを抱えられているのかわからないぐらいしっかりと活躍してくださる戦力です。スタッフの皆さんは、体調さえ整えば他の人たちと何も変わらない。飲食店などでの経験が豊富な方が来てくださったので、逆に、飲食店の運営に初めて挑戦している私たちが支えてもらっています」(出口店長)

差し替え2_つくしの郷⑩

「皆さんがこれまで抱えているハンディについて周囲に理解を得られなかったために家に引きこもっていなければならなかった、ということに驚きました」と出口店長。

スタッフを採用する際に求人情報誌に情報を掲載したところ、応募が殺到。米山理事長は、働きたいと思っている方、高い能力を持っている方はたくさんいることを実感したそうです。

「自宅に引きこもっていた方がこの職場ではこんなに活躍できるわけですから、このカフェだけでなく、もっと活躍する場が増えてほしいと思っています」(米山理事長)

つらいときに「少し休みたい」と言える環境を

「あまーの あまーの」では、スタッフに活躍してもらうために、どのようなサポートを行っているのでしょうか。

出口店長は、障害者の職場適応を図ることを目的に障害特性を踏まえた専門的な支援を行う「ジョブコーチ」の資格を持ち、以前は就労移行支援事業所で一般就労を目指す方のサポートをしてきたという経歴の持ち主です。これまでの経験を活かして、主に「心のケア」に重点を置いたサポートをしていると言います。

「精神的に不安定な方ですと、心に寄り添ったケアが必要です。例えば、勤務時間中に元気にしていても、帰宅すると一気に疲れが出たり、気持ちが落ち込んで不安定になったりすることがあるんです。夜中に『明日は行けないかもしれない』と連絡せざるを得ない気持ちになり、メッセージが届くこともありますが、話を聞いたり、『大丈夫ですよ』と一言返したりするだけで安心してもらえることも少なくありません。不安な気持ちに寄り添うことで、翌日以降もとても活躍してくださっています。そのためには、支援する立場としては、病気や障害の特性や接し方を理解しておく必要があると考えています」(出口店長)

谷さんも「職場の理解や接し方が変わるだけで、活躍できるようになる方がいらっしゃるんですね」とうなずいていました。

出口店長は、従業員が体調の波について打ち明けやすい雰囲気を作るよう、心がけています。それだけでなく、店舗の上の階には休憩室があり、必要なときに休むことができる環境を整えていると話します。

「例えば忙しい日、たくさんのお客様に対応した後に『接客で疲れてしまったのでちょっとだけ休みたいです』というその一言が言える環境であれば、翌日も元気に来てくれるんです」(出口店長)

差し替え_つくしの郷⑪

補助金に頼らず事業収入で経営を成り立たせる「自律的経営」に向けて

東京都認証ソーシャルファームとして運営する「あまーの あまーの」。ソーシャルファームの特徴の1つは、社会的な取り組みを行いながら、行政の補助金に頼らず事業からの収入で経営を成り立たせる「自律的経営」です。

一般のお客様と接する店舗を運営するという意味での緊張感は、法人としてこれまで運営してきている福祉事業所とは全く異なるものだそうです。自律的経営を目指す以上、社会的な取り組みを行うから、と甘えは許されないと考えています。そのため、カフェの運営にあたっては事業計画を作り、その達成状況を把握するため、毎日売上を確認し、分析しています。また、分析結果は新メニューの開発や広報に反映するなど、米山理事長と出口店長はスタッフとともに、工夫を重ねていると言います。

つくしの郷⑧
看板商品のジェラート

経験や意見を尊重してもらえることがやりがいに

このカフェでスタッフとして働く方に、お話を伺いました。

主に調理を担当している40代後半のYさんは、レストランの支配人など飲食関連の仕事を数多く経験。働きすぎからうつ病を発症し、病状が落ち着いてからは就労支援事業所で働いたりアルバイトをしたりしてきました。

「あまーの あまーの」で働き始めてからソーシャルファームという言葉を知りましたが、今までの職場にはなかった働きやすさを実感しているそうです。

「ここには高圧的な雰囲気や『上から目線』はありません。一人ひとりの病気や障害の特性を理解し、一緒にやりましょう、と言ってくれます。僕に店舗の運営経験があったことを尊重し意見を聞いて、ある程度決定権も与えてくれるので、とてもやりがいを感じます」(Yさん)

料理を教えたり、自分が調理したものをお客さんをはじめスタッフにも食べてもらったりしたときに、達成感があると言います。

調理だけでなく、接客も大好きだというYさん。「『あまーの あまーの』が収益を上げていけるように、集客に繫がることを一緒に考えていきたい」と目を輝かせました。

「ソーシャルファームは『障害があっても働きたい』という人にとって、すごくありがたく、僕自身は特にオープンで(雇用主に開示して)働けることが安心に繋がっています。ソーシャルファームのような形態が、いろんな業種でどんどん増えたらいいなと思っています」(Yさん)

差し替え_つくしの郷⑫
調理作業をするYさん

分身ロボットを通した接客で、社会との繫がりを実感

接客を担当するちふゆさんは、慢性疲労症候群という難病を抱えています。10年前に病気を発症して以来、働きたくても出勤ができないため、一日中自宅で生活。「社会から隔絶されていると感じたこともありました」と振り返ります。その問題を解決してくれたのが、自宅にいながら分身ロボットを遠隔操作して接客する、「あまーの あまーの」での働き方でした。

「様々なお客様と新しい出会いがあり、会話ができることで、自分の世界が明るく広がったような気がしています」(ちふゆさん)また、職場の人間関係の心地よさも大きな魅力だと言います。「皆、本当に温かくて分身ロボットでできることを提案してくれたり、一緒に新しいメニューを考えたり……お店の仲間にしてもらえているという感覚はすごくあります」。

採用が決まってから米山理事長が慢性疲労症候群に関する本を取り寄せ、スタッフ間で病気の理解を深めようとしてくれたことも、とてもうれしかったそうです。

「同じ病名でもできることとできないこと、必要なこと、してほしいことは人によって違うんですね。いろいろなニーズがあると思うので、ソーシャルファームの取り組みがさらに広がって、それぞれ働く場を選べる世界が来るといいなと思っています」(ちふゆさん)

差し替え2_つくしの郷⑬
ちふゆさん(左、あまーの あまーの提供)と、ちふゆさんが自宅から操作する分身ロボット(右)

社会福祉法人としてソーシャルファームに挑戦して得た手応え

米山理事長は、「ソーシャルファームという仕組みは素晴らしいです」と力強く話します。

「福祉の事業所だけでは解決できないことが、ソーシャルファームという仕組みを活用することで解決できることもあると思います。他の社会福祉法人の皆さんにも知っていただき、この取り組みが増えればいいなと思います」(米山理事長)

出口店長は、これまで何年も引きこもっていた方が「自分の力を活かして働き、様々な人が訪れる場で接客を通じて社会と繋がる実感を得られて、生きる希望が湧きました」と言っていきいきと働き、また一緒にカフェの目標達成に向けて取り組んでいる様子を見ると、ソーシャルファームの取り組みの成果を実感する、と言います。

「この挑戦に自分が関わることができて本当に良かった、と励みになります」(出口店長)

谷さんも「今日お二人の話を聞いて、福祉のサポートがある中で一般就労として働ける『中間的な就労の場』の重要性を感じました」と応えました。

つくしの郷④
(左から)リポーターの谷真海さんと、米山泰志さん、出口志峰美さん

いろんな人たちがいきいきと働き、活躍できる場へ

最後に、谷さんがカフェとして、そしてソーシャルファームとして目指す方向性について聞きました。

出口店長は、「このカフェのコンセプトは、『Café for All』。『誰にでも優しいカフェ』をテーマに店舗運営しています。ジェラートや料理は、栄養士など専門家の力も借りつつ、スタッフともアイデアを出しながらメニューを考えていて、アレルギー食材を使わず全ての素材を厳選し、丁寧に作っています。店内でジェラートを作る関係上、肉は扱えない制約がありますが、結果としてビーガン対応となりました。」

また、米山理事長は「店舗を開設するにあたって周辺の状況を調べたところ、オストメイト対応トイレのある施設がまだ少ないように見受けられたので、カフェのトイレはバリアフリー対応としました。車椅子での来店を想定して設置したスロープは、ベビーカーで来店するお子様連れのお客様のご利用にも繋がり、様々なお客様に楽しんでいただけるようになっていると思います」と言います。

「障害がある人が働いていることで評価されるのではなく、まずは味や雰囲気、接客など、一つのお店として評価されるようになりたい。その上で、障害や難病のある人が活躍できている場であることが広まってほしい」(出口店長)。

米山理事長が「実は、このカフェのコーヒーや砂糖、コースターなどは、周辺の福祉事業所で障害のある方々が丁寧に作ったものを使用しており、今後も取り扱う種類を増やしていく予定です。ソーシャルファームとして運営するカフェを通じて、スタッフとして働く人はもちろんのこと、より多くの障害のある人たちが、いろいろな意味で活躍できるような店にしたいと思います」と話すと、谷さんも「私もまた来たいなって思える素敵なカフェですね。応援しています」とエールを送りました。

差し替え_つくしの郷⑭
店頭のショーケースには、季節の味覚など様々なフレーバーのジェラートが並んでいる
東京ソーシャルファームのロゴ

東京ソーシャルファームアクション
令和5年6月。東京都は、東京に暮らし働く全ての人が輝き、活躍できる社会の実現に向けて、ソーシャルファームの取組の裾野を広げ、社会に根付かせていく取組「TOKYO SOCIAL FIRM ACTION」を開始しました。 特設サイトを是非ご確認ください