心弾む春の新生活シーズン。健やかなカラダで毎日を過ごしたいですね。そこで注目したいのが、腸内細菌が生み出す「タンサ(短鎖)脂肪酸」。基礎代謝を向上させ、脂肪がつきにくく太りにくいカラダづくりをサポートし、人生100年時代とも言われる健康長寿社会に重要な役割を果たしてくれます。その効果と、日々の生活での取り入れ方について、腸内環境に関する数々の研究実績がある福田真嗣氏(慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授/株式会社メタジェン代表取締役社長CEO)にお聞きしました。
タンサ脂肪酸がバトンをつなぐ 腸内環境と健康の良い関係
腸内で生み出されて 健康に多様な良い働き
人間の腸にはおよそ千種類、40兆個にも及ぶ腸内細菌が生息しています。私たちの健康に深く関わっている腸内細菌ですが、その代表例として知られるのがビフィズス菌。そしてビフィズス菌などの腸内細菌がエサとなる食物繊維やオリゴ糖を食べて生み出されるのが、いま注目されているタンサ脂肪酸になります。
大腸で暮らす腸内細菌は、小腸までで消化・吸収できなかったものをエサに様々な代謝物質をつくり出します。中でも体に良い効果を与えることが多数報告されているタンサ脂肪酸は食物繊維やオリゴ糖といった成分を腸内細菌が分解することによって生まれます。
タンサ脂肪酸は主に「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」の3種。「短鎖脂肪酸」という名前が表すように、短い脂肪酸であるため水に溶けやすく、腸から吸収されて血流に乗り、全身に運ばれて、さまざまな良い作用をもたらします。タンサ脂肪酸の働きは、学術研究の分野では古くから注目されていましたが、その後の技術革新によって、ここ15年は特に盛んに研究されるようになりました。
※1 米国国立生物工学情報センター(NCBI)による生物学・医学研究を中心とした論文データベース Pubmedにて、タンサ脂肪酸を示す「Short-chain fatty acid」 「SOFA」に関する論文を検索した件数のこと。
交感神経を活性化し基礎代謝の向上に効果
食生活の偏りや運動不足など健康面で課題を抱える現代人にとって、タンサ脂肪酸に最も期待したい効果が「基礎代謝の向上」です。
基礎代謝とは、体温の維持や内臓の機能など、私たちが生命活動を維持するために最低限必要なエネルギーを指します。そのエネルギーを数値化したものを基礎代謝量と言い、年齢や性別、体格などのほか、運動習慣やホルモンなど様々な因子の影響を受け、一人ひとり異なっています。基礎代謝が高い状態は摂取した栄養素をしっかりとエネルギーに替え、体が活発に活動できる状態。基礎代謝が低いと、摂取した栄養素をエネルギーに替えにくく、太りやすいとされています。基本的に基礎代謝量は年齢とともに低下しますので、基礎代謝のアップを意識したいものです。
体温の維持や血流、呼吸など基礎代謝に関わる動作をコントロールしているのが交感神経です。タンサ脂肪酸は腸から吸収されて血流に乗り、交感神経を活発にする働きがあることが分かってきました。交感神経が活発になると、体温や心拍数が上昇します。こういった基礎代謝が高まることで、脂肪を消費しやすくなるため、太りにくい体づくりの効果が期待できます。
タンサ脂肪酸のこうした働きによって基礎代謝を向上させ、太りにくい体をつくることは、生活習慣病や内臓疾患など、「肥満」が原因の一つになって起こりやすいとされる様々な病気のリスクを低減してくれる点も注目したいところです。
また、タンサ脂肪酸は脂肪細胞にも作用して脂肪の蓄積を抑制したり、身体と腸を隔てる「腸管」のバリア機能を強化するといった働きを通して、肥満を抑制してくれる効果も報告されています。
ビフィズス菌や食物繊維 オリゴ糖を意識して摂取
健康にとってメリットが大きいタンサ脂肪酸を増やすには、どんなことに気をつければ良いでしょうか。タンサ脂肪酸は、独特な匂いなどの特性から、そのまま直接口から摂取することは困難です。タンサ脂肪酸は主に大腸で腸内細菌により生み出されるので、大腸で活躍してくれるビフィズス菌や、腸内細菌のエサである食物繊維やオリゴ糖を意識して取り入れるのが良いでしょう。
腸内細菌によって効率的にタンサ脂肪酸を増やすには、エサとなる食物繊維やオリゴ糖の種類も重要です。食物繊維の一種である「イヌリン」と「ビフィズス菌」はタンサ脂肪酸を生み出しやすい組み合わせであることが分かっており、また「イヌリン」は元々日本人が腸内で多く持つ腸内細菌のエサにもなります。「イヌリン」はチコリやゴボウ、サトウキビなどに豊富に含まれている水溶性食物繊維で、おなかの中の「ビフィズス菌」を増やし、腸内環境を改善する効果もあります。これらを積極的に摂取することで、おなかの中のタンサ脂肪酸も増加します。
そもそも日本人の食物繊維の摂取量は世代を問わず絶対的に不足しているのが現状です。まずは日々の食生活の中でビフィズス菌とともに食物繊維やオリゴ糖の摂取量を積極的に増やすことを意識したいものです。
頼もしいタンサ脂肪酸で快適な毎日に第一歩を
健康づくりを考える場合は、タンサ脂肪酸を含めて腸内環境全体を意識することが重要です。例えば、良い「ぬか床」は発酵の状態も良く、おいしく健康に良い漬物ができます。人間と腸内細菌の関係もこれに似ていて、私たちの腸内では腸内細菌が常に発酵を行っています。食生活においても直接的な栄養価を意識するだけでなく、人間にとっての「ぬか床」である腸内環境を考慮することが、結果的に健康への効果も最大化してくれるのです。
タンサ脂肪酸は腸から全身に作用して健康をリードしてくれるとても頼もしい存在です。タンサ脂肪酸について知り、ビフィズス菌や腸内細菌を意識してそのエサである食物繊維やオリゴ糖を摂取することで、基礎代謝を向上させて太りにくい体、そして快適な毎日への第一歩を踏み出しましょう。
福田 真嗣氏
慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任教授
株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO
2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を修了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て12年から慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2019年から同特任教授。15年、第1回バイオサイエンスグランプリでビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内デザイン学。
タンサ[短鎖]脂肪酸を探査
基礎代謝を上げると、なぜ太りにくいの?
基礎代謝とは、人間が生命活動を維持するために必要な最低限のエネルギーです。基礎代謝は人間が一日で消費するエネルギーの60%に相当すると見積もられているため、基礎代謝が高くなるほど消費するエネルギーの量も増え、結果的に太りにくい体づくりにつながります。
基礎代謝を上げるためには運動によって筋肉量を増やすことが効果的ですが、腸内でつくられたタンサ脂肪酸は血流に乗って交感神経にも作用し、その働きを活性化させることで基礎代謝を高めてくれます。
タンサ[短鎖]脂肪酸には、他にどんな効果がある?
基礎代謝向上や肥満抑制といった効果以外にも、腸の内分泌細胞に作用してセロトニンの産生を促し、ぜん動運動(便を押し出す腸の動き)を活性化させて排便をスムーズにする「便通改善効果」が報告されています。
また「感染症抑制」や「アレルギー抑制」の他、最新の研究では人間の体内のエネルギーが枯渇した際に腸でつくられるタンサ脂肪酸を取り込もうとすることが明らかになり、結果として、長距離走などにおける「持久力向上」効果があることも実証されています。
水溶性食物繊維はどんな食品に含まれる?
食物繊維には「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」がありますが、タンサ脂肪酸を増やす上で意識的に摂取したいのは「水溶性食物繊維」です。アボカドやオクラ、山芋、明日葉、モロヘイヤといった野菜類のほか、大麦、海藻にも豊富に含まれています。
一方、キャベツやレタス、ホウレン草などには、不溶性食物繊維が多く含まれています。食物の特性を正しく知ることで、結果的にタンサ脂肪酸が増えやすい腸内環境づくりにつながります。