労働人口の低下、求職者とポジション数のミスマッチ、生産性の低さなどが社会課題となっています。その解決には、多様な「はたらきがい」を認め、一人ひとりの労働者を大切にすることで、はたらく人のエンゲージメントと生産性を高める「はたらく人ファースト」な企業を増やすことが必要です。ミイダス株式会社と株式会社朝日新聞社は今回、多様なはたらきがいを尊重する企業を応援する「はたらく人ファーストアワード」(後援:経済産業省)を初開催しました。応募した全国1009社のうち、Gold、Silverを受賞した10社の具体的な取り組みから「はたらく人ファースト」を実現し、エンゲージメントと生産性を高めるためのヒントを探ります。
※本文では紹介しきれなかった、受賞企業上位30社の「はたらく人ファースト」の実例について、このページの最後にあるリンクから更に詳しくご覧いただけます。是非ご一読ください。
「はたらきがい」を高める組織を支援
2019年に働き方改革推進法、22年に改正育児・介護休業法が施行され、労働環境の改善に向けて、労働時間の短縮、男性育休の推進、時短勤務の周知拡大など、企業側に課せられる責任は重くなりました。また、コロナ禍をきっかけに、リモートワークやワ―ケーションが広がるなど、一人ひとりが求める「はたらきがい」も多様化が加速しています。
一方で、少子高齢化に伴う労働人口の減少や労働生産性の低さといった社会課題に、有効な決め手は見いだせていないのが現状です。
こうしたなかで創設された「はたらく人ファーストアワード」は、多様なはたらきがいを認めて、はたらく人一人ひとりを大切にする企業を表彰し、その具体的な取り組みを発信することで、はたらく人のエンゲージメントを高め、生産性の向上や労働の効率化、はたらきやすくなる人が増えることによる労働力の拡大などの課題解決に寄与することを目指しています。
ミイダス代表取締役社長の後藤喜悦さんは、アワード創設の趣旨を次のように語ります。
「企業やはたらく人の成長にとって、はたらきがいは絶対条件である一方、近年多様化したはたらきがいを向上させるのは簡単ではありません。はたらきがいを分析するには手間や費用もかかります。はたらきがいを高めたいと考えるすべての人と組織を支援したいという思いでアワードを作らせていただきました」
初回となる2023年度は、中小の企業・団体を中心に1009社から応募がありました。後藤さんは「はたらきがいを高める意思表示をした企業にスポットライトをあてて取り組みを発信し、多くのはたらきがいを創造したい」と語りました。
新規事業ではたらきがいを高める
アワード応募1009社の中から、Goldに選ばれたのは、社会医療法人三宝会(大阪市住之江区)、株式会社7Reasons(東京都渋谷区)、株式会社エコノワ(岐阜市)の3社です。多様なはたらきがいを引き出す各社の取り組みには、労働環境を巡る社会課題の解決につながるヒントが詰まっていました。
はたらきがいを尊重できない環境では、従業員のエンゲージメントが高まらず、なかなか人材が定着しません。
そんななか、大阪市内で病院を運営する三宝会は、医療法人の枠にとどまらない数々の施策で、従業員一人ひとりの個性を生かせる職場作りを行い、多様なはたらきがいを創出しています。
三宝会理事長の三木康彰さんは「我々の理念は『笑顔ですばらしい対応と優しさ』です。得体のしれない新型コロナウイルスに私たちも恐怖を感じました。それでも、医療者として責任を持つと決め、早くから発熱外来と入院の受け入れをスタートしました。仕事に誇りと喜びを持つには、地域と強いつながりを持つことが大事だと気づきました」と話します。
取り組みの代表例が、犬や猫と介護利用者が一緒に生活する「コンパニオンアニマル」です。三木さんは「コンパニオンアニマルでは高齢者だけでなく、一緒に過ごすスタッフもいやされています」
新規事業にも積極的で、廃業危機だった地域の銭湯を引き継ぎ、職員が運営しています。奈良県葛城市で古民家も購入して発達障害の子どもをサポートし、農福連携を進めるプロジェクトを立ち上げました。医療福祉以外への挑戦で、職員一人ひとりの才能を広げ、やりがいを生んでいるといいます。
フランスの高齢者介護のケア技法「ユマニチュード」を採り入れ、患者だけでなく職員同士のコミュニケーションにも生かしています。子育て中の職員も多く、病児保育ができる保育園を作りました。
医療福祉業界は人材定着が課題となっています。一方、同会では多様なはたらきがいを尊重する取り組みによって、離職率を抑えています。三木さんは「医療や介護の仕事はストレスの連続です。町をデザインする新規事業で、スタッフの誇りと喜びを高め、活躍の場を作っていきたいです」と力を込めました。
審査員の森本千賀子さん(株式会社morich代表取締役)は「古民家での農業支援、温泉ビジネス、病児保育の保育園などが斬新で、地域と成長するお手本になっています。離職率の低下も実現し、はたらきやすさとはたらきがいを両立させたエビデンスになっています。業界のロールモデルになってほしいです」と話しました。
フルリモートで追求するはたらきがい
コロナ禍によって、急速にリモートでも仕事ができる環境が広まり、企業と従業員との向き合い方も大きく変化しました。
ウェブ広告関係のバックオフィスのバーチャル支援や、全国の自動車整備士の人材採用支援などを手がける7Reasonsは、コロナ禍前だった18年の創業以来、フルリモートで作業しています。
従業員との距離が離れている分、はたらきがいの創出には工夫を凝らしています。従業員と週1回の個別面談を行い、オンライン上の仮想オフィスを設け、声をかけやすい環境を作りました。
リゾート地でのワ―ケーションも推奨し、業務委託スタッフも含めて費用を補助。会社主催の食事会も定期的に企画し、直接顔を合わせる機会も作っています。
クライアントとの食事会や相手先の社員総会に参加してもらい、直接感謝の言葉に触れることで、はたらきがいを高めました。業績は右肩上がりで、前期は前々期の2倍弱の成長を遂げました。
7Reasons代表取締役副社長の石川規貴さんは「小さな会社ですが、どんな方でもどのような場所でも活躍いただける環境を作ろうとしています。フルリモートなので、働きすぎを抑え、気づかないうちにストレスをためないようにすることを心がけています」と話しました。
23年はレギュラーで業務に関わる人数を1.5倍にしました。クライアントとワ―ケーションに行ったり、現役レーサーとしてレース用のマシンを作るために米国に渡ったり、オンラインでの仕事が未経験だったり、スタッフの多様なはたらきがいを応援しています。
石川さんは「従業員が発言しやすい環境をつくり、どういったはたらき方をしたいのか、日々向き合いながら環境を整えていきたい」と言いました。
審査員の永島寛之さん(トイトイ合同会社CEO)は「コロナ禍の前からフルリモートの環境を基盤にして、個別面談やオンラインの仮想オフィスでコミュニケーションを取っており、新規性を高く評価しました。社員も業務委託の方も分け隔てなく成長を支援しており、参考になる事例だと感じました」と講評しました。
「給与会議」でマインドを醸成
多様なはたらきがいを尊重するには、従業員一人ひとりの裁量を増やす取り組みが有効です。
化粧品販売と美容室運営を手がけるエコノワは、社長不在でも従業員が自律自走できる「指示ゼロ経営」を掲げます。はたらきがいを高めているのは年2回の「給与会議」です。従業員がチームごとに経営計画を策定し、人件費と利益をもとに、経営幹部と一緒に経費や自身の給与を逆算して決める取り組みになります。
以前は、経営層のトップダウンで社員に指示を出していましたが、人材が定着しませんでした。このため、仕事のスキルだけでなく、社員のマインドを醸成する必要を感じ、「給与会議」を始めました。
ほかにも、個人と会社のビジョンを定期的にすり合わせるなど、自分で意思決定できる環境をつくり、はたらきがいを高めた結果、従業員の定着率が高まり、コロナ禍でも業績を伸ばしました。
エコノワ代表取締役社長の幸村龍さんは「エコノワが目指すのは利益ではなく、はたらく人の幸せ度の最大化です。給与や賞与をどうでもいいと思っている人はいません。はたらく人から利益を出す意欲が生まれたら最高ですし、幸せ度を追求することで利益が出ると考えています」と話します。
幸村さんは「指示ゼロ経営」のポイントについて、給与会議に加え、会社の利益構造を理解するMQ会計、チームビルディング、従業員がフラットな立場になるホラクラシー型組織を挙げました。
「給料を自分たちで決めるには、経営知識が必要になります。本質的に人と向き合わなければいけないし、上司の指示がないからまとまらずに、大変なこともありました。でも、利益構造を知ることで計画が立てられ、従業員同士が本音を言い合える関係を築き、色々なことを自分たちで選択できます」
審査員の杉本亜美奈さん(fermata株式会社CEO)は「給与会議で社員が自分の給与を決める取り組みをしているのが素晴らしいです。男女の賃金格差が変わらないことが課題になる中で、その差を埋めるための実証をしていると感じました。日本社会にとって意義のある取り組みです」とたたえました。
Silver企業も数々のアイデア
Silverに選ばれた7社も、多様なはたらきがいを生み出すための取り組みが光ります。
タカセ不動産株式会社(大阪市中央区)は年1回、社長に伝えたい意見などを全従業員が手紙で郵送する「直接レター制度」や、個人プレーになりがちな不動産業界の中でチームワークを重視する「チームインセンティブ制度」を採り入れています。
株式会社クロダハウス(金沢市)は、従業員の声を収集・可視化してコミュニケーションを促進するアプリの活用とコーチング型の朝礼を行っています。アプリ上で従業員からの優れた提案には表彰を行うことでモチベーションを高めています。
株式会社トラスト山倖(岐阜県可児市)は、専属業務をつくらないチーム制導入やタブレット支給による効率化を進めています。子育て中の女性が多い職場で中抜けや遅刻を許容し、家庭事情を考慮した柔軟なはたらき方を尊重しています。
株式会社大和工務店(宮城県栗原市)は、若手育成を仕組み化するため、技能承継を支援するシステムを整備。作業着は2種類用意し、会社ロゴ入りのポロシャツやTシャツは好きな色を選択できます。共有アプリの活用によるDX促進で効率化も進めています。
可児建設株式会社(愛知県小牧市)は、高度外国人材活用や建設IoT研究所の設立、週間工程会議、リモートモニタリングカメラの導入によるDX推進などで、従業員数が少ない企業ながらも、新しいはたらき方の可能性を示しています。
社会福祉法人独歩(さいたま市西区)は、「障害者の方が運営するハワイアンカフェ」、「ソーセージ工場を併設したデイサービス」など、家庭と仕事の両立を支援する施策で、従業員のはたらきがいや愛着を高めています。
社会福祉法人大東会(静岡県御殿場市、※表彰式は欠席)は、新人保育士の教育のために「寺子屋制度」を導入。複数人の新人保育士がベテラン保育士からOJTを受けることで、保育士の精神的安定と職員同士の結束、離職防止に寄与しています。
地域や規模を問わず広がる先進事例
表彰式で各社の取り組みを聞いたミイダス社長の後藤さんは、次のように総評を述べました。
「みなさんのプレゼンテーションや受賞理由に、たくさんの学びがありました。正直、大企業や都心の企業に受賞が偏るのではという心配もありましたが、地域や企業規模に関係なく、日本中の企業が最先端の取り組みをしていることに感動しました。はたらく人ファーストな企業として、地域におけるブランドの確立と浸透に貢献することが、良い人材の採用力や企業の成長につながると信じています」
「はたらく人ファーストアワード」では、地域や規模を問わず、多様なはたらきがいを尊重する企業が少なくないことが分かり、労働環境の改善を巡る社会課題の解決に力強い一歩を踏み出す結果になりました。
「はたらく人ファーストアワード」は24年度も継続する予定で、応募社数の拡大を目指しています。各社の先進事例を集めて広めることで、「はたらく人ファースト」な企業が、さらに増えていくことを期待しています。
受賞企業の「はたらく人ファースト」な取り組みは、こちらからご覧になれます。