平和構築は、なにも国連の〝専売特許〟ではない。むしろ、国際的な財団やNGO(非政府組織)などが、長期・多角的に関与することこそ、紛争を解決し和平を持続させるためには不可欠だ。笹川平和財団は、民間財団ならではの立場を生かした独自のアプローチを駆使し、主にアジアにおける紛争地域での平和構築に力を注いでいる。その活動の大きな柱のひとつが、「ピース・メディエーション・サポート」(和平仲介・調停支援)である。

複雑で多種多様な関与

「和平仲介・調停支援とは、対立する紛争当事者を対話の席に着くように説得し、紛争地の市民社会とともに平和を希求する声を拡大し、紛争当事者の意識改革を後押しするという一連の活動になります。先の見えない状況の中で、様々なレベルの関係者との信頼関係を構築しながら行う活動には、長期にわたるコミットメント(関与)が必要となります」

4月22日、都内の笹川平和財団ビルの11階にある国際会議場。財団が主催したシンポジウム「平和の探求―和平仲介支援の活動とは何か」の冒頭に、角南篤理事長が語ったこの言葉は、和平の仲介・調停支援の本質を端的に表している。

修正・笹川平和財団④
角南篤理事長

登壇者のひとりで、紛争解決に取り組む英国の非政府組織(NGO)「コンシリエーション・リソーシズ」のジョナサン・コーヘン代表理事も「和平協定が結ばれても、暴力と争いが戻ることがある。和平協定だけでは不十分で、和平を持続可能なものにするために、長期的に紛争地域に関与し、コミュニティーと一緒に取り組み、紛争を予防することが重要です」と訴えた。

この日登壇したのは、エチオピアやフィリピンのミンダナオ島、スリランカ、スペインのバスク地方、そしてタイ深南部などにおける紛争で、和平仲介・調停を支援してきた団体の代表などだ。多くの経験と知識に裏打ちされた彼らの言葉からうかがい知れたのは、和平仲介・調停のプロセスは複雑であり、紛争もそれに対する関与も多種多様であるということだろう。

和平の仲介・調停と聞くと、対立する紛争当事者の間に割って入り、対話の環境を醸成しながら和平協定調印に持ち込む――というイメージが先に立つ。それだけでも至難の業なのだが、例えば、紛争当事者に研修を施し和平プロセスや人権、法律などの知識と理解を植え付け、意識改革を促すことも重要な活動のひとつなのだ。

世界各地で和平仲介・調停活動を行っている民間団体は数多い。笹川平和財団の〝主戦場〟は、タイの「深南部」と呼ばれる地域である。

取り残された紛争

深南部は、首都バンコクから南へ1千㌔以上、マレー半島の中部に位置する(左地図)。仏教徒が全人口(約7180万人)のおよそ93%を占め、イスラム教徒は5%強にすぎない仏教国のタイにあって、深南部では住民の8割がマレー系イスラム教徒だ。

彼らはこの地域を「パタニ」と呼ぶ。もともと深南部と、マレーシアの一部の州を含めた地域は、14世紀後半に成立した「パタニ王国」であった。自らを「パタニ・マレー」と自負し、「タイ人」というアイデンティティーは持ち合わせていない。言葉が訛りのあるパタニ方言のマレー語なら、文字はマレー語をアラビア文字で表記する「ジャウィ」。極めて異質な土地柄なのだ。

0618修正_笹川平和財産_map

この地では、「パタニ」の分離・独立を求めるマレー系武装組織と、タイ政府・軍との紛争が長年にわたり続いており、これまでに極めて多くの死者を出している。だが、国際社会の関心は低く、「取り残された紛争」と揶揄される。

その要因は様々だがタイ政府が「内政干渉」を盾に他国の関与を頑なに拒絶してきたことが大きい。日本政府なども介入しづらい。和平協定締結への道筋は容易ではないが、このような地域こそ民間組織の活動が必要である。

笹川平和財団は2010年に深南部で活動を始め、かれこれ15年になろうとしている。では、どのような活動を展開しているのだろうか。

パタニの武装勢力、タイ政府双方との信頼関係を築き、マレーシアの関係者にも働きかけて、対話ができる環境を整えてきた。地元のメディアや市民社会、女性団体などとの対話も重ねて、人々が直面している問題やニーズを把握し、紛争解決のために反映させている。

コミュニティーのリーダーたちが、自らの紛争を分析し、暴力ではない方法で問題解決に取り組めるよう他国の事例から学ぶなどの研修を行ってもいる。武装勢力の幹部らもその対象だ。23年10月には彼らを、紛争地で知られたスペインのバスク地方に連れていき、停戦のプロセス、自治の在り方や独自の文化や言語の保護政策について学ぶ機会を提供した。こうした活動は「能力構築」と位置付けられている。

笹川平和財団の取り組みは、コミュニティーの声が反映されるボトムアップ型和平プロセスの構築だといえるだろう。

WPSと脱過激化、
日本が果たすべき役割

笹川平和財団は深南部での事業経験を踏まえ、22年に新設された「平和構築支援グループ」では「ピース・メディエーション・サポート」のほかに、「女性、平和、安全保障(WPS)アジェンダ」「暴力的過激主義と脱過激化」という平和構築事業にも取り組んでいる。

WPSアジェンダを推進するため、クーデター以降、軍と市民の衝突が絶えないミャンマーから、様々な民族出身の女性活動家をカンボジアのシェムリアップに招き、彼女たちの運動を振り返りながら新たなネットワークを築く機会とした。タイ深南部でも平和を求めて活動する女性リーダーの育成トレーニングなどを行っている。

修正・笹川平和財団②
修正・笹川平和財団①

また、WPS関連のイベントとして、ヒラリー・クリントン元米国務長官と中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表との対談や、上川陽子、インドネシアのルトノ・マルスディ両外務大臣の対談などを実現してきた。

脱過激化ではインドネシアとバングラデシュで、過去にテロ・暴力事件に関わった元受刑者の社会復帰などを目的に研修やカウンセリングを行っている。

日本の平和構築に関する事業の現状は、主に和平合意成立後の復興や開発にとどまっていると指摘されている。前出のシンポジウム「平和の探求―和平仲介支援の活動とは何か」では、笹川平和財団からもメッセージが発せられた。

世界、特にアジアの紛争地域において、日本はもっと積極的に関わり、長期的に平和を持続していくために、リーダーシップを発揮することが求められている――。

日本政府に向けられたものだが、民間として国際的なパートナーシップを推進する笹川平和財団が果たすべき役割は、ますます大きいといえそうだ。

笹川平和財団 Think, Do, and Innovate-Tank

 〒105-8524 東京都港区虎ノ門1-15-16 笹川平和財団ビル

0618修正_笹川平和財産_ロゴ