気候変動や汚染の脅威にさらされている地球――。その影響を食い止めようと活動する人たちがいます。非営利団体「Coral Gardeners(コーラル・ガーデナーズ=サンゴの庭師)」の創設者・ティトゥアン・ベルニコさんもその一人。自身が育ったフランス領ポリネシアなどで、失われつつあるサンゴ礁を回復させようと、最新のテクノロジーを採り入れて取り組んでいます。地球保護活動を支援する「パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」の一環として、ロレックスは今回、米国の海洋生物学者であるシルビア・アールさんを迎えて、未来に向けて海を守るために何ができるかを語り合いました。
シルビア・アール(Sylvia Earle)
米国の海洋生物学者。「ロレックス パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」のパートナー。2009年に「ミッション・ブルー」を創設し、重要な海洋生物の生息域を認定し、保護を訴えてきた。2030年までに世界の海域の30%を保護するという目標に向けて活動している。
ティトゥアン・ベルニコ(Titouan Bernicot)
「コーラル・ガーデナーズ」の創設者、CEO。2022年から「ロレックス パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」のパートナー。2017年から、フランス領ポリネシアとフィジーにサンゴの苗床を設置。約2万6千個の新しいサンゴが育成され、移植される準備が進められている。「コーラル・ガーデナーズ」が運営するInstagramアカウントのフォロワー数は60万人を超える。
司会:ヘレン・チェルスキー(Helen Czerski)
物理学者・海洋学者・テレビ番組司会者。物理学や海洋に関するドキュメンタリー番組で司会を務めたり、ウォール・ストリート・ジャーナルにコラム「Everyday Physics」を執筆したりしている。
世界のサンゴ礁の半分が消失。今こそ海洋保護を
ヘレン・チェルスキー
私たちは地球の市民であり、その保護に責任を持っています。今日は海洋保護にたずさわる2人のパイオニアにお話をうかがいます。
シルビア・アール
私たちは今、地球の未来を守れるか、失うかの瀬戸際に立っています。もしすべての人が、この流れを回復させるためにはどうすればよいかを考えて行動し、まわりの人たちと協力しはじめたなら、未来において21世紀は「最高の機会を生かして行動した時代だった」と振り返ることができるでしょう。私たちが自然、特に海と共に生きる持続可能な生活システムを見つける時代なのです。
ティトゥアン・ベルニコ
今、エルニーニョ現象によって水温が非常に上昇しています。記録に残っている限りでは、人類史上4回目の大規模なサンゴの白化現象が起きています。私の家の前の「コーラル・ガーデン(サンゴの庭)」はすでに80%が死んでいます。フランス領ポリネシアの小さな島で起きていることです。
地球の70%は海で、私たちが呼吸する酸素の半分は海から来ています。健康な海で育つマングローブやサンゴ礁といった生態系の存在は、私たちが呼吸を維持できるひとつの指標なのです。サンゴ礁は地球上で最も生物多様性の高い生態系です。現在、知られている海洋生物の4分の1がすみかにしています。よい気候、適切な気温、そして必要な酸素を得るために、これまで以上に海を大切にしなければなりません。
私たちは希望と行動の世代です。シルビアさんの世代は新たな発見と調査を進めてきましたが、私たちは、それに加えて解決策も見つけなければなりません。私は7年前に当時14歳の弟と2人で「コーラル・ガーデンの再生」を始めました。今では世界中に70人のフルタイムで働く従業員がいます。
ヘレン・チェルスキー
まわりの人は、初めて「コーラル・ガーデン」を再生するアイデアを聞いたときどんな反応でしたか?
ティトゥアン・ベルニコ
私は16歳のとき、サーフィンをしていたフランス領ポリネシアの海でサンゴ礁が失われていることに気づきましたが、まわりは誰も保護活動をしていませんでした。そこで、友だちや弟に「私たちの遊び場を守るために何かしよう」と声をかけました。そして海洋生物学者に出会い、サンゴの養殖にひかれました。私はサンゴの保護活動に夢中になり、「コーラル・ガーデナーズ」を立ち上げました。博士号を持つ多くの研究者が私たちのチームに参加してくれています。
シルビア・アール
1964年のことを思い出します。当時、私はロレックスの協力を得て、初めてインド洋で探検ダイビングをしました。世界の海は今よりもはるかに健康的でした。現在では、世界のサンゴ礁の約半分が失われ、一部の地域では80~90%が消失しています。また、サメも90%がいなくなっている種類があります。とても心配です。絶望さえ感じますが、まだ10%のサメと半分のサンゴ礁が残っています。これが希望です。
ティトゥアン・ベルニコ
サンゴ礁は恐竜が生きていた時代よりも前、4億年前から存在しています。それがわずか30〜40年で半分を失ったのです。本当に警鐘を鳴らすべき事態です。海洋を保護するためには、地球を救うことがクールで意義深く、楽しいことである必要があります。私はフランス領ポリネシア、フィジー、タイなどで現地の人によるエコツーリズムを展開し、サンゴの苗の植え付けに参加できるようにしています。
自然を破壊してきた技術、自然を守る時代に
ヘレン・チェルスキー
ティトゥアンさん、今あなたが進めているチャレンジングなプロジェクトについて教えてください。
ティトゥアン・ベルニコ
私は今、半自動化された「コーラル・ファーム(サンゴ農場)」をつくるプロジェクトを進めています。ロボットアームがサンゴを掃除し、カメラがサンゴの写真を撮って病気を確認し、水温を測ります。
私は起業家的なアプローチで保護活動に取り組むのが好きです。5年前、大手電気自動車メーカーの自動運転システムを開発したエンジニアを雇いました。彼は私たちのチームの最高技術責任者となり、サンゴのガーデナーが必要とするツールを開発しています。私は創造的で才能のある人たちを集め、彼らが通信や車、宇宙探査のためではなく、海洋のために働くようにしたいのです。
シルビア・アール
サンゴ礁には数千種類の生き物たちが生息しています。健全なサンゴ礁を再生させるには、これらの海からやってくる小さな生き物たちを含めた海の保護活動が重要です。しかし、現在完全に保護されている海はわずか3%に過ぎません。97%は水産業のために開放されています。産業用の漁船が何トンもの海の生き物を捕っています。私たちは、サメの減少や他の生き物の減少を目の当たりにしてきました。
今、私たちは生物多様性条約や公海条約を通じて、少なくとも海の30%以上を厳重に保護する提案をしています。これは、すでに失われたものを回復させる源として重要です。
ヘレン・チェルスキー
ティトゥアンさん、かつて技術は自然を破壊するものでしたが、あなたは技術で自然を救おうとしています。
ティトゥアン・ベルニコ
技術は正しい使い方をすれば自然を回復させる助けになります。以前はサンゴ礁を監視するのに30日ほどかかっていましたが、現在は技術開発によって3日間で監視することができます。私たちはエンジニア、最高のスキルや才能を持つ人々に機会を与える必要があります。スキルや才能を生かして素晴らしい仕事をしてもらい、十分な給料を支払うことです。私にとって、それが保護活動の未来です。
自然を大切にすれば、回復が見えてくる
ヘレン・チェルスキー
個人として海を保護するために何ができるでしょうか?
ティトゥアン・ベルニコ
まずは、YouTubeやInstagramで動画を見て、サメやサンゴに愛情を持つことです。そして、人々に海のストーリーを伝えることが大切です。私が人々に伝えたいストーリーは、サンゴ礁のストーリーです。今日では、ニューヨーク、パリ、東京の自宅からでも人々に影響を与えることができるのです。
私たちは「コーラル・ファーム」で育っているサンゴを29ドルで「養子」にすると、その成長に関する情報を受け取れるというプログラムを用意しています。サンゴの収集やガーデニング、苗を植え付ける旅に参加したり、テレビでサンゴが成長している様子を確認できたりします。私たちは3Dマッピングなどの技術開発にも取り組んでいます。将来的には、これで世界中の人々がサンゴ礁とつながることができます。とてもワクワクします。
シルビア・アール
人々が自然を大切にし始めると、地球の回復が見えてきます。その恩恵は明らかです。今がそれに取り組む時なのです。私たちには知識や技術があります。これを破壊に使うのではなく、回復に向けて利用すべきです。良好な状態にある自然エリアは本当に保護されるべきです。この機会を失ってしまったら、私たちは長く続く惑星を維持するための最良のチャンスを失ってしまいます。
ヘレン・チェルスキー
人々に強い影響を与えることが大切ですね。お二人にエールを送ります。