地震や水害など自然災害の多い日本だが、自信を持って、十分に備えができていると答えられる人は、そう多くないのではないか。日常時と非常時との垣根なく、モノやサービスを使えるようにしようという「フェーズフリー」の概念は、そうした事情と合致したのか、今熱い視線を集めている。商品を選ぶ消費者だけでなく、企業や行政関係者もフェーズフリーの考え方を取り入れるケースが増えてきた。
さまざまなフェーズフリーの商品の中でもわかりやすい例が、家電製品やスマホなどに給電できる「ポータブル電源」だ。日常時はアウトドアなどの用途で、非常時には生活を支える電源として活躍する。
フェーズフリーを提唱した佐藤唯行さんと、ポータブル電源市場をけん引しているJackery (ジャクリ)のマーケティングを担当する鈴木広介さんに、フェーズフリーが求められる社会背景などについて語ってもらった。
備えるのは難しいからこそ、
「いつも」と「もしも」の垣根をなくす
「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉は、101年前の関東大震災以降、日本において防災意識を高める趣旨で用いられてきた。近年はその言葉が当てはまらないほど、毎年全国のどこかで災害が起きている。能登半島では、2024年元日の地震からの復興がままならない中、9月には豪雨に襲われて二重の被害に遭った。他の地域でも8月に南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)が発表され、いつ大きな地震が起こってもおかしくないことを再認識させられる。
それでも、普段から防災の意識を持って生活するということは非常に難しい。特に最近では物価の上昇が続き、「もしも」の時にしか使わないような防災用品を購入するどころではない人も多いだろう。「いつも」の生活に必要な分を優先するのは当然だ。
フェーズフリーとは、「いつも」を豊かにするものが「もしも」においても暮らしや命を支えてくれるようにデザインする考え方であると、佐藤さんは説明する。「日常時(いつも)」と「非常時(もしも)」の二つの社会状況(フェーズ)のかきねをなくして、安心して暮らせる豊かな社会を目指そうというものだ。
「みんな防災はするべきだと思っているし、大切な家族や生活を失っていいと思っている人はいない。その気持ちと『備える』ということは、必ずしもイコールにならないのが、防災の難しさ。普段使わないものを家に置いておけないなどの理由で、多くの人は備えることに参加できないから、『備える』を前提に安心安全な社会をつくるのは難しい。だから、普段は備えられないことを前提に、この社会をデザインしていく必要があると思ったのです」
佐藤さんがフェーズフリーを提唱したのは2014年。建築分野などのアカデミックな活動からスタートし、徐々にフェーズフリーの考え方が浸透していった。18年にはフェーズフリー協会が発足し、認証制度や顕彰イベントもスタートした。
これまでは、日常で使う製品と防災用品は完全に切り分けられていることが多かったが、約10年の間にフェーズフリーに取り組む企業や団体が増えた。たとえば東京都豊島区では、普段は池袋の施設や公園を周遊するEVバスが、災害時には移動式の非常用電源として活用できるようにデザインされた「IKEBUS(イケバス)」が運行されている。
さらに消費者の認知も高まっている。「フェーズフリーな商品は、同じコストもしくは少しコストがかかっても、日常時と非常時の両方のベネフィットがあるわけです。費用対効果の面でお得な感じがして、機能的にも良いだろうということで、購買が進んでいるのだと思います」と佐藤さんは語る。
ポータブル電源がフェーズフリーで評価される理由
フェーズフリーが商品のあり方を大きく変えたというケースもある。たとえば、熊本地震以降に普及した乳児用の液体ミルクは、非常時の備蓄品として認識されていた。それを日常時にも使えば、育児や家事の負担を減らし、男性や他の家族も育児に参加しやすくなる。フェーズフリーな商品であることを企業がアピールすることで支持を広げ、液体ミルクの市場は大きく成長したという。
逆に「日常時」の商品と認識されていたものが「非常時」にも用途が広がりつつあるのが、Jackery に代表される「ポータブル電源」だ。Jackery Japanの鈴木さんは「当社のポータブル電源は、屋外でも簡単に電気を使えるとキャンパーの方たちの注目を浴び、アウトドアブームと相まって普及していきました。それが大容量化していく中で、電気のバックアップとして防災としても役立つと、さらに広まっていったのがここ数年の流れです」と説明する。
Jackeryはポータブル電源メーカーの中でも、早い段階から防災の用途でのプロモーションを実行してきた。フェーズフリー協会にも賛同し、2022年からアクションパートナーとして活動。24年4月に「Jackery ポータブル電源 600 Plus」及びソーラーパネルとのセット商品「Jackery Solar Generator 600 Plus」がフェーズフリー認証を取得した。そして9月には、ほぼすべての家電製品を充電できるJackeryの新定番モデル「Jackery Solar Generator 1000 New」が「フェーズフリーアワード2024」のオーディエンス賞を受賞した。
フェーズフリーの認証やアワードにおいて重視されるのは、日常時および非常時での利用シーンの多さを示す「汎用性」と、日常時および非常時でいかに役立つかを示す「有効性」の二つ。有効性をさらにひも解くと、フェーズフリーの五つの原則とされる「常活性」「日常性」「普及性」「直感性」「触発性」が挙げられる。
ポータブル電源がフェーズフリー認証を取得したのは、Jackeryが初めてだが、佐藤さんによると、Jackeryの製品は特に「直感性」と「触発性」の評価が高かったとのこと。使い方を誰かに聞かなくても直感的に扱いやすいデザインがなされている点と、防災への意識や気づきに触発を与える点は、Jackeryならではのアドバンテージが見られた。
ソーラーパネルとの併用で、より豊かで安心できる生活へ
フェーズフリーの観点でJackeryの製品が際立っているのは、ソーラーパネルとの併用を推奨していることも大きい。鈴木さんは「昼間はソーラーパネルで電気をつくって、夜はその電気で暮らすと、電気代もかからないし、いざという時も使えます。当社は『ソーラージェネレーター』として、ソーラーパネルと電源をセットで動かす提案をしているのがポイント」と話す。
佐藤さんも「その点も高く評価されたんですよ。電気代が高騰して、少しでも節約したいところに、普通の家庭でもお手軽な手段で発電ができる。その電気を使ってお得に日常生活をするというのは、豊かさを感じられると思います。台風などによる長時間の停電時にもソーラーパネルがあればひとまず安心して避難生活を過ごせます」と補足した。
鈴木さんはJackery Japanが能登半島地震の被災地支援を行った際に、ソーラーパネルを求める現地の声を痛感したという。同社は地震の2日後の1月3日から被災地支援を開始し、これまでに計260台のポータブル電源とソーラーパネルを無償で提供した。日照時間の短い冬ということもあってポータブル電源だけを先行して送るつもりだったが、「必ずセットで送ってほしい」という要望を受けた。たとえ夏に比べて発電できる量が少なくても、その希少な電気を毎日供給し続けることで、人々の生活を支えているのだ。
「日本人は災害とうまく付き合いながら暮らしていくしかないというのは、誰もがなんとなく意識していると思います。でも、完璧に備えることはやっぱり難しい。だからこそ、いろんなものが普段も使えて災害時に使える社会になればいいですし、当社の製品はどちらにも使えることを今後も打ち出していこうと意識しています」と鈴木さんは語る。
アウトドアのイメージが強いポータブル電源だが、普段使いの一例として鈴木さんが提案するのは、電気代を下げるための活用法だ。Jackeryのポータブル電源に家電製品などをつなぐと消費電力がディスプレイに表示され、どの家電がどれだけ電力を使っているかを見直すきっかけになる。あるユーザーは、冬場のオイルヒーターが電力を大きく消費していたことを知り、オイルヒーターだけをポータブル電源につなぎ、ソーラーパネルで作った電力に切り替えた。すると、月2万円も電気代を節約することができて驚いたそうだ。
佐藤さんは「Jackeryが非常時の提案だけでなく、普段の生活で使える電気のソリューションでもあることも考え続けると聞いて、とても安心しました。フェーズフリーが大事にしているのは、私たちの暮らしを豊かにしているかどうかの視点です。では、豊かとは何かと考えると、お得であるとか、楽しいとか、面白いことだと思うんです。ポータブル電源という製品がどんどん進歩していく中で、新しい豊かさを生み出していってほしいと思います」と期待を寄せた。
フェーズフリーアワードを受賞した「Jackery Solar Generator 1000 New」は、ほとんどの家電を動かせる1500Wの定格出力を持ちながら、約10.8kgと軽量化を実現。全体の体積は約20%コンパクトになった。UPS機能(無停電電源装置)や常時コンセントと挿したまま家電が使える「パススルー機能」にも対応しているため、普段から冷蔵庫などの家電に接続しておくことで、いつでも停電対策ができる。日常時も非常時もより使いやすく、よりフェーズフリーになったポータブル電源。以前の製品を知る人は、その進化に驚くはずだ。
「ポータブル電源+ソーラーパネル」の普段使いが
もしもの時も役に立つ
Jackeryの豊富な製品ラインアップのなかでも、一般社団法人フェーズフリー協会が主催する「フェーズフリーアワード2024」の『オーディエンス賞』に輝いたのが「Jackery Solar Generator 1000 New」。
2024年7月に発売を開始し、バッテリー内部構造の設計などを見直すことで、従来の同モデルよりも全体のサイズを20%削減し持ち運びやすくなったことに加え、定格出力は50%アップ。高い出力が必要な調理家電なども動かせるため、アウトドアから日常まで幅広いシーンで活用できる。