京都外国語大学(京都市右京区)の学生有志が企画し、取材、原稿作成、英訳まで担当する観光メディア「ALKOTTO(アルコット)」が注目されている。外国人観光客向けの英字フリーペーパー「ENJOY KYOTO」とコラボした特別版の発行をはじめ、YouTube、Instagram、文章配信サイト「note」でも情報を発信。「ENJOY KYOTO」のエディター・ライターからプロの視点を教わり、国際貢献学部の教員が伴走するなか、古都・京都の魅力を伝えようと試行錯誤しながら挑戦している。実践を通して成長する学生たちの軌跡を追った。

学生目線で魅力を発掘! フリーペーパーが鍛えてくれた

「PAX MUNDI PER LINGUAS(言語を通して世界の平和を)」を建学の精神に掲げる京都外国語大学は、1947年(昭和22年)に京都外国語学校として創立された歴史を持つ。

その京都外大で2018年夏、京都を訪れる外国人に英語で京都情報を紹介するフリーペーパー「ENJOY KYOTO」(タブロイド判)の紙面の一部を、学生が主体的に制作する取り組みが始まった。これまで「のれん」「漢字」「組みひも」など、身の回りに当たり前のようにある日本文化をテーマに、学生の目線で深掘りしてきた。

2022年、「SNSでも発信したい」という学生たちの思いから、オンライン観光メディア「ALKOTTO」が誕生した。「歩く」+「古都」=「歩こっと」が名前の由来。現在、留学生を含む国際貢献学部の学生25人ほどが参加している。

フリーペーパー
京都外大の学生とENJOY KYOTOがコラボレーションして2018年から制作してきたフリーペーパー

フリーペーパーは現在、「Kyoto University of Foreign Studies with ENJOY KYOTO」として年に一度発行している。2024年度は「道」をテーマに、京都で茶道、華道、香道を取材。完成した4ページの紙面は、今年5月14日に学内でお披露目された。

この香道チームのリーダーを、2年次に務めたのが大阪出身の吉田愛さん(3年、国際貢献学部グローバル観光学科)だ。リーダーの経験はもとより、香道体験も初めて。志野流香道第21世家元の蜂谷宗苾(そうひつ)さんにアポイントメントを取り、インタビューして記事を執筆する大役に挑んだ。

吉田愛さん
吉田愛さん=京都外大

「最初、香道はただ香りを楽しむものと思っていました。実際に体験してみると、長い年月をかけて作られた香木からのメッセージを“聞く”ことが香道だと知りました。蜂谷さんから直接、作法を習ったのですが、自分が香りを聞く時は次の方に『お先に』と声を掛けます。日本人が持つ他者をリスペクトする姿勢は、この香道に通じているように思えました」と振り返る。

記事執筆では、フリーペーパーの読み手である外国人を念頭に置き、香道とは何かが分かるように意識したという。

 「もともと人前に立つのは苦手でした。でも香道チームのリーダーになったことで率先して行動できるようになり、成長したと感じます。ALKOTTOではInstagramで発信するチームにも所属しているので、2025年度は内容に変化を持たせてオリジナリティーを出していきたいです」。そう意気込む。

華道を担当したのは、滋賀出身の畑佐瞳さん(4年、国際貢献学部グローバル観光学科)。YouTubeチームのリーダーも務めており、華道家元・池坊のいけばな展に赴いて動画を撮影。パソコンで編集し、日本語と英語の字幕をつけて公開した。

畑佐瞳さん
畑佐瞳さん=京都外大

次期家元の池坊専好さんの長男・池坊専宗(せんしゅう)さんにもインタビューして「いけばなとは何か」を取材、生け方を指導してもらった。「普段会うことが難しい一流の伝統の担い手の方から、直接お話を聞くことができるのがALKOTTOの魅力です」と畑佐さんは強調する。

YouTubeリーダーとして発信する上で大事にしているのは、メンバーの個性を大切にすることだという。「編集の仕方や字幕の付け方一つで、視聴者の印象は変わります。メンバーが作った動画をチェックしフィードバックするのが私の役割ですが、自分の考えと違う内容でも、まずその人の個性を認め、その後に『もっとこうしたら、さらに良くなると思うよ』と前向きなアドバイスをするように心がけました」と畑佐さん。

ALKOTTOに加わってから、「私にできるのかな?」と動画編集を恐る恐る始めた畑佐さんだったが、YouTubeリーダーとして活動を推進する力を磨き、卒業後は百貨店への就職が決まっている。将来は店のマネジメントや、他企業と提携しての商品作りに携わりたいという。ALKOTTOで培ったコミュニケーション力を発揮できそうだ。

メンバー全体を統括するのが、岐阜出身でチームリーダーの田中萌々花さん(4年、国際貢献学部グローバル観光学科)だ。チーム分けの際は、それぞれのメンバーがやりたいことや得意なことをできるよう分担し、媒体や取材テーマごとにリーダーを配置。自身は全体をマネジメントしてきた。

田中萌々花さん
田中萌々花さん=京都外大

「フリーペーパーを完成させるとともに、3つのネット媒体を同時に動かすことを目標に取り組みました。企画からアポイントメント、取材、原稿執筆、英訳、納品(発信)までのプロセスを逆算し、いつまでに何をすべきかを考えて行動することを意識しました。とはいえ、チームごとに組織化してリーダーを多く作ったので、一人で抱え込んだわけではありません。みんなが活躍し、和気あいあいと活動できたと思っています」と田中さん。

子どもの頃から京都が大好きで、京都の魅力を海外の人たちに伝えたいという思いから京都外大国際貢献学部グローバル観光学科に入学。同じ学科の先輩から、「ENJOY KYOTO」とのコラボの取り組みを聞き、「私のやりたいことそのもの!」とメンバーになった。

「なぜ私はこれほど京都が好きなのか。当初は明確な理由が分からず、そこを深掘りしたいという気持ちもありました。取材を通して、京都の伝統産業を引き継ぐ職人さんの思いをお聞きしたり、今回特集した『道』における日本人の精神性に触れたりするなかで、伝統や歴史が作り上げてきた本質が京都にあるから魅力を感じたのだと気づいたのです。ALKOTTOの活動を通じて本質を見抜く力がつき、ますます京都が好きになりました」と田中さんはほほえむ。

観光を通した地域活性化や地方創生に興味が湧き、希望する旅行会社への就職をかなえた。「京都の商店街の方々との会話から、お店の人とのたわいもない日常会話は素敵な観光資源になると思うようになりました。ALKOTTOで得た気づきは、これから社会に出て地方創生に関わるなかでも役立ちそうです。受験生のみなさんには『ALKOTTOで京都の魅力を深掘りし、共に世界へ発信していきましょう』と伝えたいですね」

「素朴な疑問に驚き」プロ編集者が目を見張る舞台裏

学生たちの制作活動を2018年からサポートしているのが、「ENJOY KYOTO」のエディター・ライターの松島直哉さん。取材マナーやインタビュー方法などを具体的に教えている。

学生たちは、訪問時間が予定時刻より早すぎて取材相手から叱られたり、ビジネスメールのマナーを知らずに取材先に失礼な対応をしたりしたことも、過去にはあったそうだ。「こうした経験を積むことで、大学では学べない礼儀作法が身についていく」という。

松島直哉さん
「ENJOY KYOTO」エディター・ライターの松島直哉さん=京都外大

「取材テーマについて、事前に最低限の知識をつけることも大事です。今回の『道』の特集でも、ネットで調べると何かしらの情報は出ますが、図書館に所蔵されている文献など第一次資料にあたるように伝えました」と松島さん。ネット記事を参考にする際もしっかり読み込ませ、また複数の記事を参照させる。「そうすることでより深い疑問が湧き、他のメディアには出ていないような独自のお話を引き出せるからです」

普段は教える側だが、学生たちから教わることもあるという。「動画編集アプリやSNSの活動についてはむしろ学生の方がよく知っています。また、京都に暮らす大人にとっては当たり前であえて聞かないようなことでも、学生たちは素朴に疑問を投げかけてくる。そこから新たな気づきを得られることがあります」

2024年度はロックバンド「くるり」へのインタビューや、老舗着物店や風呂敷専門店なども巻き込んで浴衣で京都を歩くイベントを開催するなど、多彩な活動を展開した。

浴衣イベント
2024年に企画した、浴衣姿で初夏の鴨川を散歩するイベント=ENJOY KYOTO提供

「流暢(りゅうちょう)に英語を話せても、肝心の話題がなければ会話は続きません。ALKOTTOという観光メディアに取り組み、京都の伝統文化を実践的に学ぶことで、外国の人たちに話せる話題を持って、世界に出て行ってほしいです」。松島さんは期待を込める。

伴走した教授が語る、京都の教育的価値

学生たちに教育者として伴走するのが、京都の祭礼について調査・研究を行っている国際貢献学部グローバル観光学科の村山弘太郎教授だ。「ENJOY KYOTO」とのコラボが始まった時から一緒に取材をしたり、調査の仕方をアドバイスしたりしている。

村山弘太郎教授
国際貢献学部グローバル観光学科の村山弘太郎教授=京都外大

「ENJOY KYOTOとの記事制作は、語学と観光を京都で学べる京都外大の教育がうまく合致した取り組みだと位置づけています」と村山教授は話す。

「取材交渉からスケジュール調整、現場での取材という実践的な学びには教育効果があります。取材して原稿を執筆することと、大学の授業で聞き取り調査をして卒業論文を書くプロセスは同じ。両方に取り組むことで知識が深まり、経験値が増え、相乗効果を生み出しています」

 京都は伝統工芸や祭り、寺社が身近にあり、「生きた教材」にあふれた地域。現場で実体験することが、比較的容易にできるという。

「ただし、伝統文化は残すものと思考停止せず、『なぜ伝統を残さないといけないのか』まで考えてほしい。そこでの気づきをALKOTTOで発信するのも、京都の奥深さを伝える上で意味があると思います」と村山教授。

「生の声を聞くのは面白いですよ。伝統工芸の職人さんの思わぬ一面を知ることもできます。今は高校で生徒が主体的に学びを深める『探究』の授業が進んでいますが、地域の課題解決に取り組んできた生徒なら、さらに洗練された活動ができるでしょう」。実際に高校で模擬授業を行う時にフリーペーパーを持っていくと、高校生はとても興味を持つそうだ。

生け花の指導
生け花の指導を受ける京都外大の学生=福森クニヒロ撮影、ENJOY KYOTO提供

京都外大ではこのほか、祇園祭での通訳ボランティアや西陣の今宮祭、湖国三大祭の大津祭の支援など、さまざまな行事に学生が関われるという。また、言語の障壁があるため公的なサービスにアクセスできない在留・訪日外国人らを支援する「コミュニティ通訳者」を育成するプログラムもスタート。同大によると、国内の大学で学部のカリキュラムに多言語による「コミュニティ通訳者育成プログラム」を組み込んでいるところは非常に珍しいという。

古都に伝わる伝統の今を知り、日本文化を世界の人々に伝える仲立ちとなることは、座学だけでは得られない実践的な学びを得るチャンスになるだろう。京都を舞台に成長する学生たちの活躍から、今後も目が離せない。

 

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