野生ペンギンたちの姿を通して海洋保全に取り組む人たちがいます。ナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー番組『Secrets of the Penguins(ペンギンのひみつ)』の制作に携わってきた野生動物映像作家で探検家のバーティ・グレゴリーさんと、海洋生物学者のパブロ・ガルシア・ボルボログルさんです。2人はそれぞれの取り組みが評価され、2025年の「ロレックス ナショナル ジオグラフィック エクスプローラー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれました。今回ロレックスはこの2人を迎えて、ペンギンの知られざる生態や、私たちが環境を守るためにできることについて話を聞きました。(以下、敬称略)

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パブロ・ガルシア・ボルボログル (Pablo Garcia Borboroglu)
アルゼンチン出身の海洋生物学者、自然保護活動家。「グローバル・ペンギン・ソサエティ」の創設者・代表者。野生ペンギンとその生息地の保全に努める。広大な野生ペンギンの生息地を保護した功績が認められ、2019年にロレックス賞を受賞。科学に基づく自然保護への取り組みと、気候変動などに脅かされる、野生ペンギンの保護に関する世界の認識を高めた功績が高く評価されている。

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バーティ・グレゴリー (Bertie Gregory)
英国出身の野生動物映像作家、写真家、ナショナル ジオグラフィックの探検家。BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)賞とエミー賞の受賞歴がある。野生動物を動画で撮影しながら世界を旅するドキュメンタリー『バーティのハイテク・アドベンチャー』(ディズニープラス)は高い評価を得た。ドローンを駆使するなど、野生動物の知られざる生態を伝えるテクニックに定評がある。

司会:ヘレン・チェルスキー(Helen Czerski) 
物理学者・海洋学者・テレビ番組司会者。物理学や海洋に関するドキュメンタリー番組で司会を務めたり、ウォール・ストリート・ジャーナルにコラムなどを執筆したりしている。

ペンギンの生息地を守るため、法廷闘争も

ヘレン・チェルスキー
今日は、2025年のロレックス ナショナル ジオグラフィック エクスプローラー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた2人にお話をうかがいます。この賞は、環境問題に取り組むために、スキル、エネルギー、創造性を駆使している人々をたたえるために、2011年に創設されました。

まず、海洋生物学者のパブロさんを紹介します。彼は36年間にわたり、海洋保全の分野で「ペンギン」に焦点を当てて活動してきました。

パブロ・ガルシア・ボルボログル 
初めてペンギンのコロニー(群れ)を訪ねてから、私はペンギンを守ることが使命だと感じてきました。地球上には18種類のペンギンが生息していますが、半数が気候変動や環境汚染、乱獲などによって絶滅の危機にあります。

私が直面した最初の大きな問題は1980年代でした。当時、アルゼンチンのパタゴニア州で、年間4万羽のペンギンがタンカーから流出した石油の影響で死んでいました。私は10代でしたが、事態に対応するためレスキューセンターを設置しました。石油タンカーの航路を沖合に移すように促した結果、ペンギンの年間死亡数を20羽以下に減らすことができました。

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海洋生物学者であり、自然保護活動家でもあるパブロ・ボルボログルさん ©Luján Agusti/National Geographic

2022年には、私のキャリアの中で最大の難題に直面しました。パタゴニアにあるペンギンの生息地で、ある地主がブルドーザーで約2000平方メートルもの土地を破壊したのです。私たちは証拠を集め、法廷で証言し、闘い続けました。

そして、被害の6割はペンギンが卵を温めている時期に起きていたことが明らかになり、地主側は環境破壊や動物虐待などの罪で有罪判決を受けました。現在では、保護区域が拡張され、36万羽の繁殖ペンギンを守るエリアになりました。

私たちはペンギンの保護と海洋環境の健全化を目指す環境保護団体「グローバル・ペンギン・ソサエティ」の活動を通じて13万平方キロメートルものペンギンの生息地を保護してきました。ただ、ペンギンは生涯の大半を海の中で過ごすため、海に出ている間のペンギンをどう守るかが課題でもあります。

今年4月から私たちはマゼランペンギン25羽に衛星追跡装置を装着し、彼らの移動ルートを追跡しています。 彼らはパタゴニアを出発し、アルゼンチンを横断し、ブラジルまでの約12万800kmを往復しています。彼らの旅は、グローバル・ペンギン・ソサエティのウェブサイトで誰でもリアルタイムで追跡できます。ペンギンたちが泳いだ距離や現在地、平均速度などを確認できます。

迫れ!知られざる「ペンギンのひみつ」

ヘレン・チェルスキー
次にバーティ・グレゴリーさんを紹介します。18歳で「ヤング・アウトドア写真家賞」を受賞し、大学で動物学の学位を取得した後、世界中を旅し、困難な環境下で自然界や動物の行動を撮影してきました。彼の最新ドキュメンタリー『ペンギンのひみつ』では、ペンギンの知られざる行動や進化の瞬間が、驚くほど美しい映像で描かれています。

バーティ・グレゴリー
パブロさんと多くの時間を過ごして撮影したドキュメンタリー『ペンギンのひみつ』ですが、この撮影のオファーをもらったときは、正直少しためらいました。ペンギンのドキュメンタリーは名作が多くあり、撮影が難しい野生生物でもあるからです。

私たちは2カ月半、南極で24時間ペンギンの鳴き声を聞きながら撮影をしました。あるとき、キャンプをしていたテントが破れてしまい、緊急避難所のコンテナで6日間過ごしたことがありました。外は暴風で、ホワイトアウト状態。寒さと退屈に耐えているとき、ふと思ったのです。

ちょっと待てよ。 ペンギンたちは今まさにこの中にいるんだ!今の状況は彼らにとって珍しいことではない。こんな風にペンギンの一生の中で、あまり描かれてこなかった「ひみつ」の姿があるはずだ、と。

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野生動物の映像作家バーティ・グレゴリーさん ©Becca Skinner/National Geographic

そのひとつが、ヒナたちが独り立ちする瞬間です。親ペンギンたちはヒナが生後約5カ月になると去っていき、ヒナたちは自分たちだけで生きていくのですが、彼らはまさに「ペンギンのティーンエージャー」。羽根の生え変わりで見た目が変わったり、群れの中でどう振る舞えばいいのか迷ったりするのです。

ヒナたちは、生後約6カ月になると自信をつけ始め、 コロニーを離れて海へと向かいます。海に行ったことなんて一度もない。それでも、何かが彼らを突き動かすのです。

ペンギンのヒナたちにとって最初の泳ぎは、通常、海氷の縁から1〜2メートルほどの高さをジャンプすることから始まります。でも、私たちが現地にいたとき、とんでもないことが起きたのです!

ヒナのグループが海への道を間違えてしまい、高さ15メートルの巨大な氷の崖の上に迷い込んでしまったのです。海を見たことも、泳いだこともない。初めての水泳レッスンで、オリンピックの飛び込み台から飛び込まなきゃいけないような状況です。こんな高さから飛び降りて生き延びられるのか?と心配しました。嬉しいことに、彼らは無事に生き延びました。 水面にプカッと浮かび上がってきて、ちょっとびっくりした様子でした。そして彼らは、地平線の彼方へと旅立ち、すっかり大人の皇帝ペンギンに成長しました。この映像は公開されると1億5000万回以上の再生回数を記録するほどバズりました。

ペンギンは遠い存在に感じるかもしれませんが、海の健康状態を示す指標です。政府だけに自然を守る責任を任せておくことはできません。個人の行動と、ロレックスやナショナル ジオグラフィックのような組織の力で守っていく必要があります。

ペンギンと触れ合う教育機会を

ヘレン・チェルスキー
パブロさんは教育プログラムに関わっていますね。

パブロ・ガルシア・ボルボログル 
ペンギンの生息地の多くは発展途上国ですが、地元の子どもたちはペンギンについて知らないことが多いのです。私たちは子どもたちをコロニーに連れていくプログラムを立ち上げました。

アルゼンチンの小さな町にある寄宿学校の子どもたちをペンギンに会わせたとき、子どもたちは私たちをぎゅっと抱きしめて感謝を伝えてくれました。こんなとき、私はペンギンを紹介する喜びを感じるのです。子どもたちが大人になっても忘れられないような心に残る記憶を作る教育は、親にとっても野生動物にとっても、とても大切なことなのです。

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ペンギンに挨拶をするパブロ・ボルボログルさんら。アルゼンチンのバルデス半島にあるエスタンシア・サン・ロレンソは、世界最大のマゼランペンギンのコロニーがある ©Luján Agusti/National Geographic

ヘレン・チェルスキー
バーティさんは若いころからキャリアをスタートしましたが、これから野生動物について伝えていこうとする次世代の人たちにとって最大の課題は何ですか。

バーティ・グレゴリー

一番心配しているのは、 これまで以上に野生動物の数が減っているということです。また、私たちは季節のタイミングを正確に狙って大規模な探検を計画しますが、時計のように正確に機能していた季節のサイクルが、もはやその通りに動かなくなってきています。野生動物の行動は、これまで以上に予測しづらくなっています。

映像を通じて、自然界の課題を伝えたい

ヘレン・チェルスキー
過度な自然観光は問題になりますか。

パブロ・ガルシア・ボルボログル 
エコツーリズムは自然保護の力強い味方ですが、適切に管理されている場合に限ります。世界では296カ所のペンギンコロニーが観光客に開放されていますが、すべてが適切に運営されているとは限りません。現地に行く前に、運営体制やレビューを調べ、問題がないかを確認することが大切です。

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アルゼンチン、プンタ・ニンファスにあるマゼランペンギンのコロニー。ドキュメンタリー番組『ペンギンのひみつ』に登場した動物たち ©Luján Agusti/National Geographic

バーティ・グレゴリー
観光地として開放されているコロニーを数多く撮影してきました。ペンギンは野生動物としては珍しく人に寛容なのですが、だからといって、近づいてもいいという理由にはなりません。特にヒナを守らなければならないときに人が次々来ると大きなストレスになります。ですから、ペンギンを観に行くときは双眼鏡を使う、距離を取る、専門家の話を聞くなど、責任のある観察を心がけてほしい。私たちも撮影のときに日々心がけています。

ヘレン・チェルスキー
お二人は2025年のロレックス ナショナル ジオグラフィック エクスプローラー・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。いま、どんなことに期待していますか?

パブロ・ガルシア・ボルボログル 
ニュージーランドの南極周辺の島々や、南極を囲む多くの島々にいる、まだ何も知られていない何百羽ものペンギンを追跡したいと思っています。彼らを守るためには、冬にも夏にも追跡して彼らのことを知り、人間が彼らに及ぼす有害な活動とどのように重なっているかを調べる必要があります。

私たちは保護区域の創設を誇りに思っていますし、それは私たちのレガシー(遺産)でもあります。この地球を去った後も、永遠に残り続けるものだからです。

バーティ・グレゴリー
私がずっと望んでいるのは、 野生動物の映像を通して人々が自然界にもっと関心をもち、 登場する動物たちが直面している課題に気づいてもらうことです。新しいプロジェクトでは、長期的な自然ドキュメンタリーに取り組もうと思っています。世界中の人々に向けて、自然界の素晴らしさを発信し続けられることも嬉しく感じています。