先天的な代謝異常症の一つ、フェニルケトン尿症(PKU)。出生後すぐの診断・治療開始によって、乳児期から小児期の経過は良好であるものの、成人になって治療を継続できなくなると様々な症状があらわれていることが懸念されています。治療の選択肢が増えている中、当事者や周囲の人は、 この病気とどのように向き合っていくべきなのでしょうか。 専門家による病気の解説や当事者とのトークセッションなど、様々な角度から理解を深めるオンラインセミナーが開催されました。 (6月22日・朝日新聞東京本社から配信)

基調講演
「フェニルケトン尿症のこれまでとこれから 〜治療継続の意義〜」
石毛美夏先生(日本大学医学部小児科学系小児科学分野 准教授)

先天的な代謝の病気で生涯にわたる治療が必要

フェニルケトン尿症は、約7万人に1人の割合で生じる※1先天的な代謝の病気です。たんぱく質を構成するアミノ酸の一種であるフェニルアラニンが体内で代謝できず、血液中に多量にたまることで、幼少期には発達の遅れやけいれん、髪色が薄くなるなど様々な症状が生じます。神経は一度ダメージを受けるとなかなか元に戻すことが難しいため、症状が出る前に発見して治療することが大切です。現在では1977年にスタートした新生児マススクリーニングで発見され、産まれてからすぐに治療が開始されるために、乳幼児期からそれらの症状が出ることはまずありません。しかし、その先に、この病気の課題があるのです。

治療は食事療法と薬物療法がありますが、それを「いつまで行うのか」が問題になります。かつては脳の発達に重要な6歳ぐらいまででよいのではないかと言われた時代がありました。しかし中断すると知能指数が下がり、10歳以上でもMRIで脳の変化が見て取れるようになります。さらに年齢を重ねた成人患者さんのMRI比較画像(下部)をみてみましょう。フェニルアラニンの値が高い状態にある人のほうが白いエリアが多く、脳内の神経に変化が生じていることを示しています。これに加え、成人でも認知機能への影響、抑うつや不安など精神・神経への影響が報告されている※2ことから、生涯にわたる治療が必要な病気だと言えます。

図

治療の継続が大変重要で、仮に一度治療をやめてしまっても、再開すれば生活の質や全身状態が改善して精神的に安定します。そしてMRIでみても脳の状態がよくなるとわかっています。

食事療法はたんぱく質と栄養の取り方を工夫

石毛美夏先生
石毛美夏先生

自然たんぱく質でフェニルアラニンだけを含まないものはありません。そのため、食事療法では食事から摂取するたんぱく質の量を抑えることでフェニルアラニンが身体にたまるのを防ぎます。成人女性なら、摂取できるフェニルアラニンの量は1日500mgほど。たんぱく質に換算すると1日10gぐらいで、健康成人女性に推奨されるたんぱく質摂取量の5分の1ほどになります。肉や魚はなるべく食べないで、茶わん1杯でたんぱく質5gほどになってしまうお米は「低たんぱく米」に置き換えるなどして3食を組み立てていきます。

とはいえ、たんぱく質は必要な栄養素であり単に5分の1にまで減らした食事では日々の生活に耐えうる体を維持できませんし、子どもが成長するのも難しくなります。そこで、1日2〜3回にわけて食後などに医療用食品の特殊治療ミルクを飲んでたんぱく質を補います。この特殊治療ミルクのたんぱく質は、フェニルアラニンのみが除かれています。ただ、ほとんどの食品にたんぱく質は含まれており、外食ではサラダやポテトくらいしか食べられるものがありません。「友人や同僚との付き合いで外食が増えた」「子どもの頃は親が管理してくれていたが、成人になって親元から離れるとたんぱく質制限を緩めてしまっている」といった理由から、治療の継続が長年の課題でした。

患者さんのデータとして、血中フェニルアラニンの濃度が目標範囲内に収まっている人は、年齢と共に減少します。生活範囲が広がるにつれて、食事療法が不十分になってしまうのです。完璧に続けるのは非常に難しいと言わざるをえない、という状況があります。

近年は薬物療法も登場している

そんな中、薬物療法による選択肢が増えています。薬物による治療は、顆粒の内服製剤と注射の二種類です。内服薬は30年近く前から、注射薬は数年前から導入されています。食事療法だけでの対処が難しい場合、状況に合わせてこれらを用いた薬物療法を併用できるようになってきました。

内服薬はフェニルアラニンを分解する酵素の働きを後押しするもので、服用開始から1週間ぐらいで効果があらわれるとされています。一方の注射薬は効果の発現に時間がかかり、早くて数カ月から半年、それ以上の場合もあります。加えて妊娠出産などにどう影響するかの情報がまだ少ないため、利点と留意点があります。

患者さんの症状の重さは人それぞれで、治療は未治療時のフェニルアラニンの血中濃度の数値に応じて検討します。ただし、注射は15歳以上が条件です。いずれの薬物治療でも副作用がどの程度出るかは予測できないため、当人と家族がきちんと理解し、納得した上で始めていくことが大切です。

最後にあらためて、ポイントをお伝えします。フェニルケトン尿症は生涯にわたる治療が必要な病気です。年齢・性別・重症度・社会状況によって薬物療法の併用も検討し、成人後も血中のフェニルアラニンの濃度をよりよい状態にコントロールし続ける必要があります。たとえ治療を中断していたとしても、再開すれば良い効果が期待できます。ぜひ、かつての主治医や近隣の専門医に相談してください。

トークセッション「フェニルケトン尿症とともに生きる」

石毛美夏先生(日本大学医学部小児科学系小児科学分野 准教授)
村山 圭先生(順天堂大学大学院医学研究科小児科学講座 難治性疾患診断・治療学 教授)
萌恵さん(フェニルケトン尿症 当事者)
夏希さん(フェニルケトン尿症 当事者)
進行:鈴木彩子(朝日新聞アピタル編集長)

――ここからは石毛先生と共に、日々診療に携わられている村山圭先生にも登壇していただきます。そして、先生方が長く診察してこられた夏希さんと萌恵さんにも参加していただきます。まずは当事者のお二人、幼少期の食事制限などをお聞かせください。

夏希 村山先生にいつも親身になって話を聞いていただいています。自分の体験としては、周囲にこの病気の人はいないので、両親は周りを巻き込んで私を教育していたようです。近所の人にあえて私が食べられないようなお菓子を渡してもらい、受け取った私がそれを食べずにきちんと持ち帰れるかをテストをしていました。あとは、スーパーに行って一緒に成分表を見るとか。私が自分で判断できるよう、色々と努力してくれました。

――小さい頃から自身の体と向き合ってこられたと。萌恵さんは石毛先生の患者さんですね。

萌恵 はい、石毛先生とは小学生ぐらいからのお付き合いです。食事で苦労したことと言えば、ずっとお弁当生活なことです。小学校では、みんなは給食なのに私だけ違うので、人だかりができて質問攻めにあうこともあって。

石毛 今では宗教やアレルギーなど様々な事情への理解が広がっていますが、当時はそうとは言えませんでした。毎日お弁当をつくる保護者も大変ですが、持っていくお子さん自身も大変だったと思います。

フェニルケトン尿症の当事者である(左から)萌恵さんと夏希さん
フェニルケトン尿症の当事者である(左から)萌恵さんと夏希さん

――苦労が伺えます。村山先生、あらためて食事制限についてご説明をお願いします。

村山 患者さんたちは、フェニルアラニンが含まれるたんぱく質、肉や魚などの摂取を、かなり厳しく制限されています。主食も普通のお米だと食べられる量が非常に少なくなってしまうので、低たんぱく米などです。あとは先ほど特殊ミルクの話がありましたが、これはフェニルアラニンが除かれたミルクです。一人ひとり置かれている状況が違うので、治療の進め方はそれに合わせて一緒に考えていくことが大事だと思っています。そして、しっかり決められた食事制限をする、ということですね。

――萌恵さんは、治療を続けていたのですか。

萌恵 病院には通い続けていたものの、低たんぱくではないものを食べていた時期がありました。するとフェニルアラニンの数値が上がって物忘れが出て※3、とても落ち込みました。低たんぱくの食事だと体力が続かず、「職場では体力が必要だから」とたんぱく質を取って、その結果、頭がモヤモヤするという状態でしたね。仕事を休むべきかと思っても、物忘れは休む理由にならないですし、職場への説明が難しかったです。

夏希 私も友達と食事に行って「これは食べられないな」と思っても、言えなかったことがありました。そして、実は高校から短大あたりの時期は治療をいったんやめていました。当時フェニルケトン尿症は指定難病ではなく、20歳になると治療費の負担が増えてしまう、ということで。それに、通院のために学校を休むと単位は取れないし、学校にいるとミルクも飲みにくいし、なかなか大変でした。そして病院にも通いにくくなったというか、足が遠のいてしまいました。

フェニルケトン尿症の治療に長く携わる石毛美夏先生(中)、村山圭先生(右)
フェニルケトン尿症の治療に長く携わる石毛美夏先生(中)、村山圭先生(右)

村山 フェニルケトン尿症が指定難病になったのが2015年です。それ以前には20歳で医療費の助成が切れてしまっていました。成人をきっかけに、積極的に治療しなくなってしまう人もいましたね。

石毛 食事療法だけではなく内服薬や注射薬が使えるようになって、患者さんの社会生活も含めた状況に応じた併用療法ができるようになってきました。今の患者さんには「生活を大きく変えることなく、血中フェニルアラニン値を下げられる」という治療の広がりがあります。中断している人には食事療法しかないと思っている人もいるかもしれません。ぜひ、それを知っていただきたいです。

――萌恵さんは、こうした薬物治療の広がりを体験して生活が変わったと感じますか。

萌恵 物忘れが減りました※3。ひどい時には仕事に行く時にバッグを持たず、家に鍵もかけず、駅の改札を通り抜けている、という感じでしたが、そういうことはなくなりましたね。あとはたんぱく質を普通の食事から食べられるようになって、体力にゆとりが出てきたことで、帰宅後に料理や入浴ができるようにもなりました。

――ありがとうございます。夏希さんは治療を再開されたわけですが、その背景には、どんな理由があるのでしょうか。

村山 それもまさに、治療の広がりですよね。治療の状況が変わってきたこともあり、病院の事務員に来られなくなった患者さんを電子カルテからリストアップしてもらいました。そしてお一人ずつ連絡していった、という感じです。

夏希 連絡を受けた時、ドギマギしたのを覚えています。ちょうど結婚が決まって、将来は子どもを持ちたいと考えていたので、治療に向き合うことにしました。今では数値もかなり落ち着いてきましたね。パートナーや友人に病気を知ってもらって、協力してもらうことがとても大事だなと思います。

――なるほど、理解者の存在が大切だと。石毛先生、このあたりはいかがですか。

石毛 おっしゃる通りだと思います。この病気はフェニルアラニンの値が高ければ、大人になってからも精神神経症状が出るとわかっています。例えば、怒りっぽさや落ち込みやすさは症状の一つですが、それらは自分で自覚しにくい傾向があります。この点で「本人よりも周囲が気づいていることが多い」というデータがあります。治療を再開すると症状が和らいで楽になってくると思いますので、ぜひ治療の継続・再開をしていただきたいです。

石毛美夏先生

村山 治療しやすい環境、治療を受けやすい環境ができつつあるということですね。指定難病になって色々な医療サポートができるようになりましたし、以前に比べれば世の中が多様性を認めるようになってきているので。そんな環境の変化を治療再開につなげようと考えていただくと、非常にいいと思います。

 ――妊娠出産や治療費なども気になるところです。

石毛 妊娠出産にあたってはフェニルアラニンの血中濃度を安定させることが特に重要です。フェニルアラニンの血中濃度の数値が高いと胎児に影響が出るため、妊娠前からコントロールをした上での計画妊娠をお願いしています。費用については指定難病の医療費の制度ができたことで、主治医に診断書をもらい、ご本人が役所に申請すれば医療費の助成が受けられます。特殊治療ミルク、内服薬や注射薬などが助成対象です。低たんぱく米などの食品は高額ですが、自己負担です。

――ありがとうございます。ここからは事前に寄せていただいた質問にいくつかお答えいただければと思います。まず村山先生、「家族や同僚、友人が治療をしている場合、どのような食事や生活の支援が必要でしょうか」。

村山 難病全般に言えることですが、病気について積極的に知ってほしいと思います。この病気は食事療法が一つの柱です。多様性の時代、それぞれが抱える問題に合わせて食事療法に取り組めるような、さりげないサポートが重要ですね。

村山圭先生

――続いて「通院を再開する場合、どんな診療科を受診すればよいですか」という質問、石毛先生お願いします。

石毛 成人がいきなり小児科にかかるのはなかなか難しいので、初診では代謝内科や神経内科が候補にあがることが多いです。受診先に迷ったら、都道府県や指定都市に設置されている難病の相談支援センターや「PKU親の会」などのホームページで確認・相談されるのもいいでしょう。病院探しの過程で紹介状が必要だと言われた場合、元の主治医の紹介状がベストですが、難しい場合は近隣のかかりつけの先生に書いていただくのでも大丈夫だと思います。

――最後に、ご覧の皆さんに一言ずつメッセージをお願いします。

萌恵 治療がうまくいかなくて食べてしまって罪悪感があった時、話せる人がいたら心が楽だっただろうなと感じます。同じ病気で気軽に話せる人とのつながりをつくっていけたらいいと思います。

夏希 最近になって、高校時代の友人にこの病気のことをカミングアウトしました。「そんなふうに見えなかった」と言ってもらいましたが、外見だけではわからないことがたくさんある、ということだと思います。治療には色々な方法があるので、まず周りの人に知ってもらいながら、一歩を踏み出してほしいです。

石毛 今治療を頑張っている人はぜひ、いいレベルの治療を維持してください。残念ながら中断されている人は、少しでも早くフェニルアラニンの値を下げるような治療を、主治医と共に考えていただきたいです。

村山 私たち医療者側から見たら、病院に来られなくなった患者さんのことはすごく心配で、覚えています。ぜひ一歩踏み出すことにちゅうちょせず、連絡していただくのがいいと思います。

※1 日本先天代謝異常学会編;新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン 2019:診断と治療社.2019.
※2 .Jahja R, et al. Neuropsychology. 2017;31(4):437-447.  Bilder DA, et al. Dev Neuropsychol. 2016;41(4):245-260.
※3 こちらは当該患者さんの個人の症状であり、すべての患者さんに見られるものではありません。