高校生に地元の企業を知ってもらうことで、将来の選択肢を広げたい。そんな思いから探究学習プログラム『Locus(ローカス)』は始まりました。マイナビが運営するこのプログラムは、現在では無償化され、自治体とも連携した地方創生の取り組みとして全国に広がっています。マイナビがなぜこのようなプログラムを展開しているのか。その意義や今後の展望について、『Locus』を立ち上げたマイナビの天本貴之さんに話を伺いました。

マイナビが『Locus』に込めた思いとは

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――そもそも『Locus』とはどのようなプログラムですか。

天本:『Locus』は主に進学希望の高校生を対象にした探究学習プログラムです。オンライン教材を使った学習や、地元企業の見学・担当者からの話を通じて、業界や企業の課題や解決策を学ぶ機会を提供しています。『Locus』という名前には「local(地域)」に「focus(焦点を当てる)」という意味を込めています。自治体と連携し、地元で活躍する若者を増やし、地方創生を目指しているところも大きな特色です。『Locus』は汎用性が高く、さまざまなアレンジができるため、現在、自治体と連携協定を結んだうえで地域に特化したプログラムも展開しています。

――マイナビが『Locus』を開発した理由、背景を教えてください。

天本:私はもともと進学情報サイト『マイナビ進学』の運営に携わっていました。日頃から高校の先生と接しているなか、2022年度から必修化する科目「総合的な探究の時間」に対し、多くの先生がどのように指導するかで悩まれているのを知りました。そこで私たちが教材となるプログラムを提供することで、お忙しい先生の負担を減らせると考えたんです。

もうひとつ、私たちは地方の高校生が地元の企業のことを知る機会、接点があまりにも少ない点に問題意識を抱いていました。進学を機に地元を離れた若者が、就職先として地元企業を選択肢に入れないことは多くあります。しかし、地元に魅力的な企業があることを知れば、大学卒業時に地元への就職を考える若者も増えると思ったんです。

若者の選択肢を広げ、就職のミスマッチをなくしたい

――新しい取り組みだけに、立ち上げ時は苦労したのではないですか。

天本:2020年に北海道で事業をスタートし、翌21年から全国展開したのですが、最初は有償だったこともあり、すぐには普及しませんでした。学校現場では高校生の企業見学は就職希望者が行うものとの意識が強かったため、「進学する生徒が地元企業を知る必要などないのでは?」との声もありました。企業側も、就職希望者ではない高校生を受け入れることに、抵抗を持つケースがありました。それでも『Locus』に関わるメンバーが情熱を持って、粘り強く『Locus』が目指す理念や意義を伝え続けた結果、少しずつ先生や企業の認識も変わっていったんです。

2025年からは、マイナビが社会貢献活動の一環として、『Locus』をCSR活動と位置付け、無償化しました。これによって参加いただける高校や企業、連携を希望する自治体が大幅に増加。現在、利用生徒数は約20万人、登録企業数は2,844社にのぼります。

フィールドスタディ画像②
高校生が企業を訪問するフィールドワークの様子

――無償化してまでマイナビが『Locus』を普及させるのはなぜですか。

天本:マイナビは「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える 世界をつくる」をパーパスに掲げています。「未来が見える世界」を実現するうえで、地方創生は欠かせません。とりわけマイナビは全国に50以上の拠点を展開し、地域密着型の営業活動を行っています。地域企業の人材獲得を直接的に支援するだけでなく、地元で働く若者を増やし、地域の課題を解決し、地方を活性化することも、私たちの重要なミッションだと考えています。

また人材サービスを全国で展開する私たちには、企業や就職希望者に関するさまざまなデータが集積しています。これらのデータを活用することで、就職のミスマッチをなくし、すべての人が可能性を発揮し、活き活きと働ける社会を目指しています。一方で、大学生の就職活動において、「聞いたことがある企業名だから受けてみよう」といったケースも多いことに懸念もありました。本当はその若者の可能性を大きく広げる企業が地元にあるかもしれません。多くの大学生に、地元企業も含めた幅広い選択肢のなかから自分にあった就職先を選んでほしい。そのためにも高校生のうちから地元の企業の存在や魅力を知っておいてほしい。そのような思いも『Locus』を無償化した背景にあります。

地元の課題や企業を知ることで進路もより明確に

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――プログラムを体験した生徒からはどのような反響がありますか。

天本:「地元にこんなすごい企業があるなんて知りませんでした」との声をたくさんいただいています。例えば日本には素材や部品などの分野で世界的に高い評価を受けている企業が各地に存在します。そのような会社を知ることで、地元への誇りが育まれるきっかけにもなります。地域の課題を解決するために地元で頑張っている大人の存在、ロールモデルを知ること自体にも意義があります。それによって将来的に、自分が地元で働くことをイメージしやすくなるからです。

『Locus』で地元の課題を知り、課題解決に取り組む企業を知ることで、自分の進路が明確になる効果もあります。自分が将来、解決したい課題がある程度明確になったうえで、『Locus』が提供する教材を使い、大学で学べる内容を知ったうえで、進学したい大学や学部を決める動きが少しずつ広がっています。とくに高校では2年で文系理系に分かれる学校が多いため、1年生の段階で自分が問題意識をもつ課題を見つけてもらうことはとても重要です。

『Locus』の企業訪問を通し、教科学習のモチベーションが向上するケースもあります。たとえばある生徒は生物の科目が好きでしたが、大学で生物学を学んだ後の仕事がイメージできなかったそうです。そんな生徒があるIT企業を訪問し、生物学とITを結びつけて絶滅危惧種などの生態系の把握に応用できるのではないかという社会や企業との繋がりを考えたそうです。その結果、社会と生物学の接点を考えながら生物系学部の関わる学問なども広く考えるようになりました。その結果、生物系の学部へ進むモチベーションも高まり、高校での生物の勉強にもさらに身が入るようになったと聞いています。

『Locus』の理念に共感し、参加する企業も年々増加

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――授業を行う先生の反響はいかがですか。

天本:普通科の先生は地元企業との接点をあまり持っていません。『Locus』を通じて、「地元企業の方から学ぶことが多くありがたい」との声をいただいています。先生自身が最新の業界や企業の動向を知ることで、より適切な進路指導ができる効果もあります。このように企業と学校を結ぶことも、私たちの大事な役割だと考えています。

――地元企業からの反響はいかがですか。

天本:『Locus』に参加された700社へのアンケートでは満足度が97%以上、「来年度も続けたい」との回答をいただいています。高校生のうちに地元の企業を知ることの重要性に気づき、『Locus』に賛同してくださる企業は年々増えています。『Locus』で学んだ生徒が、大学卒業後に地元の企業に就職してくれた、との嬉しい声もすでに届いています。

「新卒ですぐに地元に戻らなくても、一度、大都市の大企業で働いたり、海外に留学したりして、力をつけたうえでいつか地元で活躍してくれればいい」「地元で働かなくても、地元の産業や業界に興味をもち、企業が取り組んでいる課題解決に挑戦してくれる若者が増えればいい」そのような長期的、広い視点で『Locus』の理念に共感し、参加してくださる企業も増えています。

自治体やイベントと連携したプログラムが続々と

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――今年、三重県や岡山県と連携協定を結ばれたそうですね。

天本:三重県も岡山県も、進学で県外に流出した若者がそのまま戻ってこないという課題を抱えています。どちらも地元を離れる前の高校生の段階で、地元企業との接点をつくりたいとの強い思いをお持ちでした。そこで連携協定を締結し、それぞれの県が抱える課題に合わせた連携プログラムを展開することになりました。やはり県との取り組みとなると、学校や企業の意識、捉え方も大きく変わります。今後より公益性の高いプログラムを目指したいと思います。 

――10月9日から開催される「マイナビ ツール・ド・九州2025」と連携したプログラムも展開するそうですね。

天本:マイナビ ツール・ド・九州は開催各県と九州経済連合会が、サステナブルをテーマに地域創生を目指して実施している自動車レースです。このイベントにはマイナビも協賛しているため、『Locus』をマイナビ ツール・ド・九州プログラムにアレンジ、マイナビ ツール・ド・九州に関連した企業をアドバイザーに迎え、開催エリアの高校生が地元の課題について考え、探究学習を行うプログラムをつくりました。選ばれた学生が開催各県の知事へ成果を発表する機会なども用意しています。

福岡県では、県が主催する工場見学ツアーに参加する普通科の生徒を増やしたいとの要望を受け、『Locus』を通じて高校生がテクノロジー系の職場を見学する『テック事業』にも取り組んでいます。

目指すは、若者が地域で生き生きと働ける社会

――今後の展開、抱負を聞かせてください。

天本:なんといっても大学卒業とともに、地元に戻って活躍する若者をもっともっと増やしたいですね。私たちが理想としているのは『Locus』をベースに、地域で自走できる地方創生のエコシステムを確立することです。今後も全国の自治体、企業、学校と協力しながら、すべての若者が活き活きと働ける社会の実現を目指していきたいですね。

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天本 貴之(あまもと・たかゆき)
2008年毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に中途入社。主に大学・専門学校の広報支援業務、自治体連動型イベント企画、キャリア系雑誌などに従事。2018年、地域企業が高校生へ授業を行い、実社会と高校生を接続する学習プログラム 『Locus』が経済産業省「未来の教室」に採択され実証実験開始。2020年、経済産業省との2年間の実証実験を経て2021年に『Locus』を全国展開。2025年には、マイナビのCSR活動の一環として教材の無償提供を開始。三重県や岡山県をはじめとする全国の自治体と連携し、各エリア独自のプログラムを展開中。