ウクライナやガザ地区をはじめ、世界各地では今も紛争が絶えません。故郷を追われ、避難民として暮らす大勢の人々のいのちと健康、尊厳を守るために、日本赤十字社(JRCS)は人道支援活動を続けています。その中でもバングラデシュやスーダンで避難民たちが置かれている過酷な状況を、現地の担当者とともにお伝えします。また、俳優のサヘル・ローズさんから、「人道支援の空白地帯をつくらない」をテーマに動画のメッセージをいただきました。

診療所を運営、「こころのケア活動」も
バングラデシュ

ミャンマーのラカイン州での暴力行為から逃れるため、バングラデシュ南部へ避難民の流入が始まって8年になります。日本赤十字社のバングラデシュ代表部首席代表として、現場で支援にあたってきた藤﨑文子(ふじさき ゆきこ)さんに現状をうかがいました。

――どんな支援をされているのかを教えてください。

2017年8月に避難民が大量流入を始めた翌月から、日本赤十字社は医師、看護師らによるチームを派遣して、医療支援活動を行いました。事態の長期化に伴い、2018年5月以降は日本赤十字社の職員が中心となって活動するのではなく、現地のバングラデシュ赤新月社の職員やボランティアを側面から支援しています。私たちの活動と避難民をつなぐ役割の大半を、現地のボランティアが担っています。

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避難民キャンプで家族計画について話す地域保健ボランティア=2023年、©JRCS

――現在はどんな活動をしているのでしょうか。

主に三つの活動をしています。一つめは、「ジャパンクリニック」と呼ばれ親しまれている診療所の運営です。当初は竹でつくった診療所でしたが、2019年9月にプレハブになり、外来診療で毎月2700人から3000人が利用しています。妊婦健診や家族計画の支援もしており、「ジャパンクリニックなら安心」という声をよく聞きます。二つめは、ボランティアが避難民を訪ねて健康の知識などを伝える「地域保健活動」です。三つめは、避難民キャンプでの生活が長期化する中で、「こころのケア活動」を行う「心理社会的支援」です。

家族を失った女性もボランティアに

――世界的に援助資金が削減されている影響は出ていますか。

避難民キャンプでは多くの医療施設が閉鎖され、食料配給も綱渡りが続いています。教育やジェンダーといった人命の保護に直結しないと見なされる活動などの予算は大きく削られ、教育施設の多くが今年6月に一時閉鎖されるなど大きな影響がありました。ミャンマー側の戦闘激化で新たに推計20万人が流入しているともいわれており、さらに負荷がかかっています。そんな中で、「ジャパンクリニック」で働く医療従事者、そして赤新月のベストを着たボランティアの存在は大きな意味を持っています。避難民やバングラデシュの人たちにとって、「忘れられていない」「日本はそばにいてくれる」というメッセージになっているからです。

――現場で印象に残っていることはありますか。

3年ほど前に支援施設で、ボランティアの女性と話したときのことです。夫を失った後で自分が家族を支えてきたことを少しずつ語ってくれたのですが、途中から涙を流していました。おそらく、みんな同じような経験をしてきているのでしょう。つらいことを抱えていても、それを見せずに自分のコミュニティのために働いている姿が本当に尊い、と感じました。

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避難民キャンプの「こころのケア活動」を行う部屋で、藤﨑文子さん(左)とボランティア=2023年、©JRCS

――日本で暮らす人たちに伝えたいことはありますか。

避難民を「かわいそうな支援対象」として見るのではなく、対等な人として見て欲しいと願います。たまたま置かれた状況が、彼女、彼らを避難民にしているだけであって、私たちと変わらない人間です。その人たちが困っているならば、支援できる人が助けるのは普通のことだと思います。厳しい状況に置かれている人たちが世界には無数にいること、その人たちを支える努力が行われていることをまず知ってもらえたら幸いです。

過酷な人道危機、追いつかぬ支援
スーダン

2023年4月にスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊」の間で紛争が始まってから、2年半が過ぎました。国内では今も2500万人以上が支援を必要としていて、約37万5千人が「飢饉(ききん)」の状態にあるといわれています。日本赤十字社と協力関係にある赤十字国際委員会(ICRC)の、スーダン・アルジャネイナ副代表部で保護次席調整官を務める淡路愛(あわじ あい)さんに、現地の状況をうかがいました。

――スーダンの現状を教えてください。

1990年代から紛争が繰り返されてきましたが、2023年4月からは国を二分する戦闘が続いています。市民が巻き添えになって死傷したり、民家や病院、モスクが破壊されたりする被害が連日報告されています。1200万人ともいわれる人々が故郷を追われて国内外に避難しており、多くの人たちが家族と生き別れたまま、何カ月も安全を求めて移動を続ける過酷な状況に置かれています。

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北ダルフール州ジャベルマラ山岳地域のフィールドに向かうICRCの車両=2025年、©ICRC

――どのような支援をしているのでしょうか。

ICRCは戦争のルールを定めたジュネーブ諸条約に基づき、紛争の犠牲者を中立的な立場で保護し、支援するのが任務です。スーダンにはおよそ100人の国際職員と約570人の現地職員がおり、市民の被害状況の調査や紛争当事者との対話、離ればなれになった家族の追跡調査や連絡回復、再会支援などをしています。ただ、人道危機の規模があまりに大きく、支援が追いついていません。私が勤務するダルフールでは携帯電話のネットワークが遮断されていて、離ればなれになった家族が連絡を取り合うのも難しい状況です。

逆境を乗り越える強さに感嘆

――支援にはどのような意義があるとお考えですか。

世界では100以上の紛争が続いていますが、激しい戦闘地域には人道支援組織も入ることができず、食料や医療などへのアクセスを絶たれ、非常に過酷な暮らしを強いられている人々が少なくありません。人道危機を黙認することなく、被害に遭っている人たちを支援するのは、意義というより人道上の義務だと思います。

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北ダルフール州タウィラで支援対象者にICRCの任務や活動内容を説明する職員(右端が淡路愛さん)=2025年、©ICRC

――活動を通じてどのようなことを感じていますか。

スーダンの人々の明るさ、礼儀正しさ、逆境を乗り越える強さに感嘆しています。できることが限られる中で、同僚と知恵を絞って考えた支援を伝えたときのスーダンの人たちの安堵(あんど)の涙や笑顔を見たとき、「寄り添うことができたな」と実感します。一方で、空爆や戦闘で家族を失った体験や性暴力の被害といった、つらい話を聞かなければならないこともあります。

――日本の人たちに伝えたいことはありますか。

日本は戦後80年を迎えましたが、世界では各地で武力紛争の火種が尽きず、市民が犠牲になる状況が続いています。遠いアフリカや中東の紛争でも、他人事ととらえず、目を背けず、まずは関心を持っていただきたいと思います。私たち一人ひとりにできることはわずかかもしれませんが、自分の行動に誰かの人生を変える力があることを知っていただきたいです。

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ICRCが改修支援した西ダルフール州の病院で、中央が淡路愛さん=2025年、©ICRC

「NHK海外たすけあい」、今年も12月に

日本赤十字社は、毎年12月に募金キャンペーン「NHK海外たすけあい」を展開しています。1983年に始まり、昨年2024年までに世界171の国と地域に支援を届けてきました。いただいたご寄付は、バングラデシュやスーダンを含めて世界各地の避難民、紛争や自然災害といった人道危機、病気などで苦しむ人々を支援する活動のほか、自ら対応し、立ち上がる力(レジリエンス)を高める活動にも役立てられます。43回目の今年も、12月1日から25日まで行われます。

「NHK海外たすけあい」の詳細は、日本赤十字社の特設寄付サイトをご覧ください。

※「NHK海外たすけあい」の申し込みは終了いたしました。

  

担当者プロフィール

藤﨑 文子(ふじさき ゆきこ)さん
日本赤十字社(以下、日赤)バングラデシュ現地代表部 首席代表
1997年から日本のNGOで南アジアの支援に携わり、女性や子ども、障がい者、先住民族など社会的に厳しい立場に置かれた人々が奪われた力と声を取り戻すための支援を、現地のNGOとともに行う。2022年2月、日赤に入社。2023年5月に日赤バングラデシュ代表部首席代表として赴任。

淡路 愛(あわじ あい)さん
赤十字国際委員会(ICRC)スーダン・アルジャネイナ副代表部 保護次席調整官
1994年から2012年まで時事通信社の記者として国際報道に携わり、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員などを担当。2014年からICRCの国際職員としてフィリピン、南スーダン、アフガニスタン、バングラデシュ、ナイジェリア、イラク、イエメン、ロシア、レバノンの紛争地で活動。2025年4月にスーダン・ダルフール地方の保護活動を統括する保護次席調整官として赴任。