旭硝子財団は、地球環境問題の解決に向けて貢献した人や組織に、毎年2件「ブループラネット賞」を贈呈しています。第34回となる今年の受賞者2人による記念講演が10月30日に東京大学で開催され、高校生や大学の若手研究者ら約200人が聴講しました。講演後には、「高校生記者」として豊島岡女子学園高校の生徒が受賞者へ英語でインタビューし、記事執筆にも挑戦しました。今回は、同校2年の秋山恵那さんが、米スタンフォード大のロバート・B・ジャクソン教授に行ったインタビュー内容をご紹介します。

二酸化炭素より強い温暖化効果、メタンの増加に危機感

――ジャクソン教授が研究されている「炭素循環とメタン」について分かりやすく説明していただけますか。

まず、「炭素循環」について説明しましょう。植物は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収します。植物が枯れると分解されますが、その一部は土の中に残り、炭素として蓄えられます。土に蓄えられた炭素の一部は川へ流れ込み、最終的に海へと運ばれていきます。海水や海底の堆積(たいせき)物も炭素をためることができます――。こうした自然の循環によって、大気中の炭素量のバランスは長い間保たれてきました。これが「炭素循環」です。

ところが、私たち人間が地中に埋められている石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を掘り出し、燃焼することで、何百万年もかけて地下や海底に蓄積されてきた炭素が一気に大気中に放出されるようになりました。車のガソリンなど、化石燃料は燃焼すると大量の二酸化炭素を排出します。これによって、炭素循環のバランスは大きく崩れてしまったのです。

そしてメタンは、二酸化炭素よりも強い温暖化効果をもつ気体です。湿地の微生物によって自然に生み出され、長らく排出と大気中での分解のバランスによって安定した濃度が保たれてきました。しかし、現在では化石燃料の採掘や利用、牛などの家畜による排出が増えたことによって、大気中のメタン量は産業革命前と比較して2倍以上にまで増えてしまっています。

旭硝子財団×高校生記者③
高校生記者のインタビューに応じるロバート・B・ジャクソン教授(右)

――今、世界が直面しているさまざまな環境問題の中で、ジャクソン教授が最も深刻だと思うものはなんですか。その理由も教えてください。

「気候変動」と「生物多様性の損失」が非常に深刻だと思っています。この二つは連動していて、複合的な問題だと思います。

すでに気候変動によって天候は乱され、人々に被害が及んでいますし、生き物の種の数は前例のない速さで減少しています。私たちはこれらの問題に同時に取り組む必要があります。

エンジニアから研究者の道へ。働きながら勉強も

――いつ研究の道へ進むことを心に決められたのでしょうか。そのきっかけは?

私は学部時代に化学工学を専攻していました。父が化学技師だったこともあり、就職のためにエンジニアになり、化学メーカーの「ダウ・ケミカル社」で約5年間働きました。とてもよい仕事だったのですが、次第に環境について研究することを仕事にしたいと思うようになり、働きながら夜間授業や地元のコミュニティカレッジで授業を受け始めました。カリフォルニアの山や砂漠を舞台とした、野外植物学の授業が心に残っています。その授業とそのときの先生が、私のキャリアを変えるきっかけを与えてくれました。

旭硝子財団×高校生記者①
高校生記者の秋山恵那さん

――ご自身の研究が人々の役に立っていると実感した経験があれば教えてください。

現在は低所得者のコミュニティでよく活動しています。カリフォルニア州ベーカーズフィールドという街は、米国の中でも最も大気汚染が深刻で、夏季の猛暑でも有名な街です。そこで私は人々と協力し、クリーンエネルギーを推進して大気汚染を改善したり、家庭内のガス供給を電気に変えたりする取り組みをしています。私はコミュニティグループやそこに住む人たちと協力するのが好きなので、そのようなときにやりがいを感じます。

科学はパズル。アイデアを生むカギは創造力

――科学は覚える知識が多く複雑なため、多くの生徒が学ぶのに苦労しています。科学を楽しく学ぶためのアドバイスがあれば教えてください。

私にとって科学は、なにかを解決したり、発見したりする「パズル」のようなものです。パズルを解くためには、創造的で斬新なやり方を考える必要があります。私はこのアイデアを考えているときが一番楽しいですし、科学にはこのような創造的な要素があるところが魅力的だと思います。でも私は芸術も好きで、科学はあくまで世界を理解する一つの方法にすぎません。科学も芸術も人文科学全て必要な学びなのです。

旭硝子財団×高校生記者②

――ジャクソン教授の研究における最終的な目標は。

私の研究の多くの目的は「理解すること」です。同時に、子どもたちのためにこの地球をよりよいものに変えたい、という思いもあります。私には、今後数十年のうちに、大気中のメタン濃度を産業革命前の水準に回復させたいという夢があります。それが実現すれば、地球の平均気温を下げることができ、オゾン汚染を減らすことで、多くの命を救うことができます。

あなたたち若い世代に伝えたいのは、「自分には変化を起こす力があると信じてほしい」ということです。たとえ状況が悪く見えるときでも、よりよい青い惑星(地球)をめざして努力する価値はあります。ですから、不安や悲しみ、迷いに負けず、よりよい環境づくりに向けて努力を続けてください。あなたにも、世界を変える力があります。

ロバート・B・ジャクソン
1961年生まれ。米スタンフォード大学 地球システム科学科の教授。森林・草原・湿原などの陸域生態系の炭素循環の専門家で、土壌、植生、土壌微生物群集の関係性を明らかにする研究を主導してきた。化石燃料の使用や自然の生態系から発生する二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素などの温室効果ガスの収支を定量化することで、気候変動の理解と対策に貢献。2017年からは、国際研究プロジェクトである「グローバルカーボンプロジェクト(GCP)」の議長として温室効果ガス排出量の監視と削減の国際的な取り組みに携わっている。

旭硝子財団×高校生記者⑨
第34回ブループラネット賞を受賞した米国スタンフォード大のロバート・B・ジャクソン教授(左)と英国の社会起業家ジェレミー・レゲット博士(右)、インタビューを担当した豊島岡女子学園高校の生徒たち(中央2人)

※この記事は、豊島岡女子学園高校の秋山恵那さん(2年生)が執筆も担当しました。

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旭硝子財団では、環境分野の学びを広げる啓発支援プログラムを実施しています。
未来を担う若者たちに地球環境問題への関心を高めてもらい、
その解決に向けた行動を促すため、
専門家による講演や学校での自由研究サポートなどを行います。