「音楽は勝ち負けを超えてゆく。その先に達成感と満足感、そして未来を考える希望があるのです」。元NHK交響楽団(N響)コンサートマスターの篠崎史紀さんはそう語ります。
子どものころ、心が震えるほど感動した体験は、大人になっても人生を支える「宝物」になります。デジタル化が進む今だからこそ、五感で感じる「本物の体験」は、より一層大切になっているのではないでしょうか。
トヨタ自動車は40年以上、音楽を通して子どもたちの未来を応援すると同時に、人々の心を豊かにする活動を支え続けてきました。世界トップクラスの演奏を届ける「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン(TOMAS)」と、国内外の若者が集う「トヨタ青少年オーケストラキャンプ(TYOC)」。本物の音楽体験が子どもにもたらすものとは――。
「N響の顔」として長く日本のクラシック界を牽引してきた篠崎さんと、この2つのプログラム体験が「一生の宝物」になる理由を探ってみました。
なぜ、トヨタが「音楽」なのか
自動車を中心としたモビリティカンパニーであるトヨタが、なぜ音楽活動の支援に力を注いでいるのか。その背景には、人々の暮らしをより豊かなものにしたいという想いがあります。トヨタが掲げるミッションは「幸せの量産」なのです。
それは、移動の価値を高めることにとどまらず、心を動かす体験を届けていくことでもあります。
音楽は、人の心に寄り添い、感動をもたらす力を持ちます。トヨタはその力を通じて、次世代を担う子どもたちの想いを大切にし、夢や希望へとつながる原体験を提供したいと考えています。子どもたちにとってかけがえのない体験を届けることが、未来の可能性を広げていく——その想いこそが、音楽を支援し続ける原動力となっているのです。
《 TOMAS 》
世界トップクラスの「音浴(おんよく)」
「TOMAS」は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーなど、世界トップクラスの演奏家による音楽を、子どもたちが生で体感できるプログラムです。録音とは違う、空気の震えや息づかいまで感じられる「生きた音楽」は、五感すべてで学ぶ貴重な体験になります。
「私たちがコンサートホールでオーケストラから浴びる音は、自然界に存在する生身の音。スピーカーから流れる音とはまったく異なるものです」と篠崎さん。この生身の音を全身で浴びることを、篠崎さんは「音浴」と表現します。
「この『音浴』は、演奏会場に行かないかぎり絶対に得ることができません。記録された媒体ではなく、体験としての記憶がもたらされる。子どもたちには、最初の体験として『本物』の音に触れてほしい」
そう語る篠崎さんが注目しているものこそ、トヨタの「TOMAS」です。
それは子どもたちに「世界にはこんな高みがある」と伝え、憧れを持つ大切さを教えてくれる。憧れはいつか高い目標へと変わり、希望につながっていく。「TOMASはそれを理解しているプログラムですね」と篠崎さんも太鼓判を押します。
(TOMAS)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とウィーン国立歌劇場のメンバーを中心に世界最高レベルの演奏家が集結した室内オーケストラ。2026年は「ウィーンの魔法に身をゆだねて」をテーマに、3月30日~4月9日に全国7都市にて8公演を予定。
《 TYOC 》
キャンプ形式は「あまり例がない」
一方、「TYOC」は国内外の中学生から大学生を中心とした若者が集まり、一緒に音楽を創り上げるキャンプ形式のプログラムです。
全国から見知らぬ子どもたちが集まり、寝食を共にしながら一つの音楽を作り上げる。同じ学校や組織に属していない若者たちが、音楽を通してつながり、同じゴールを目指す。「あまり例がないプログラムですよね」と篠崎さん。
「人間って、人種、言語、宗教、世代といった壁がありますよね。いったん壁ができてしまうと、取り除くのは難しい」
でも音楽は違うのだ、と篠崎さんは強調します。
「音・感情という共通言語が、あらゆる壁を取り払ってくれます。相手を思いやり、でも自分の主張も出す。オーケストラは80人とか100人が同時にしゃべっているようなものですから、やっていることは、すごい。それが想像以上の教育効果をもたらすのです」
TOMASの「聴く」と、TYOCの「奏(かな)でる」。この体験がつながることで、音楽が子どもたちの中に深く根づいていくのです。
(TYOC)
中学生から大学生を対象に、毎年1回開催されている合宿研修。第一線で活躍中の音楽家を講師として迎え、合宿形式でオーケストラ演奏練習を行います。2年で1クールとし、2年目の最終日にはその成果を発表する演奏会を開催します。
この春、「聴く」と「奏でる」が出会う
2026年3月、TYOCで学ぶ若者たちが、TOMASで来日した世界的な演奏家たちの公開リハーサルを見学できる特別な機会が設けられました。
まさに音楽が生まれる瞬間に立ち会う、貴重な体験です。篠崎さんは、その価値を料理にたとえて語ります。
「シェフを目指す人にとって、オープンキッチンはものすごく刺激になりますよね。リハーサルを公開するというのは、ふだんは見せない部分をあえて披露して、『みんなで盗んでいってね』ということ。これ以上の刺激や教えは、なかなかないですよ」
完成されたコンサートを聴くだけでなく、トッププロが音を創り上げていく過程を間近で見る。この体験は、武道や芸事で重んじられる「守・破・離」の「破」の段階に相当すると、篠崎さんは指摘します。
「先生に基本を習うのが『守』。そこから自分のアイデアで何かを作っていく『破』の段階で、別の刺激が必要になる。この公開リハーサルがその刺激を与えてくれるんです」
新しい刺激によって自分のアイデアが生まれ、考える力がつき、自分のスタイルを確立する――その先には自立である『離』が待っています。この貴重な機会は、音楽への理解を深め、子どもたちに大きな発見と、さらなる上達への意欲をもたらすでしょう。
勝ち負けを超えた、音楽の魅力
音楽の最大の魅力は「勝ち負けを超えたところにある」と篠崎さんは指摘し、次のように語りました。
「勝ち負けにこだわりすぎると、どうしても『戦い』になっちゃう。でも音楽はそれを超えていく。そこには、みんなで作り上げた達成感と満足感、そしてその先を考えることができる『希望』が生まれます」
「全員で同時に始めて、同時に終わる。時が過ぎれば消えてなくなり、後戻りはできない。その一瞬のために全員で協力する経験が、子どもたちの心に大きな記憶として刻まれるのです」
その記憶こそが、子どもの人生を豊かにし続ける「一生の宝物」になっていくのでしょう。
「答えがない」これからの時代に
篠崎さんは、音楽が持つ教育的な価値について、「答えがないこと」がもっとも大切だと指摘します。
「音楽には正しい答えがありません。人それぞれ答えが違う。大人は脳みそで理解してから物を考えようとしますが、子どもたちは何もない状態で本物の音を感じることで、『答えのない答え』を探すことができるんです」
この「答えのないものを考える時間」こそが、子どもたちの想像力を広げ、成長を促すのだといいます。AIが瞬時に「正解」を出すようになった現代において、この力はますます重要になっていると篠崎さんは考えています。
「これから先は、答えのないことを考えられる人間を育てていく必要がある。音楽にはその力があるんです。トヨタの『TOMAS』と『TYOC』は、この力を育む絶好のプログラムと言えるでしょう」
まさに「一生の宝物」に出会えるトヨタの「TOMAS」と「TYOC」。この大きな機会に、触れてみてはいかがでしょうか。
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)さん
北九州市出身。3歳より両親の手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサート・デビューを飾る。ヨーロッパの主要コンクールで数々の受賞を果たしソロ、室内楽と幅広く活動した。1997年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。以来28年にわたって「N響の顔」として「まろ」の愛称で親しまれてきた。2025年3月惜しまれながらもその任を退いた。