AI時代、子どもの“探究する力”はどこで育つ?
急速に進化するAIを前に、今の子どもたちが社会に出る頃には、単なる「知識の量」の価値は下がり、「AIを使いこなし、自ら問いを立てる力(探究心)」の重要性が高まると考えられています。記憶力や情報収集能力では、今や人間はAIには勝てません。では、探究心はどのように育まれるのでしょうか。
高校生が夢中になった、これまでにない「探究学習」
教育現場では「探究学習」へのニーズが高まり、高校では2022年度から「総合的な探究の時間」が必修化されました。こうした流れを受け、朝日新聞社と博報堂は共同で、無料で利用できるオンライン完結型の探究学習プログラム「探究インターン」を開発。普段の授業では出会えない「実社会のプロフェッショナル」が直接指導し、企業が抱える課題や最先端テーマに生徒が「インターン」として挑むプログラムを運営しています。
2025年12月上旬〜2026年2月下旬には、「株式会社エスアイイー(以下、SIE)」によるプログラムを実施。SIEはITスクール「システムアーキテクチュアナレッジ」の運営を軸に、ITソリューション、人材コンサルティング、Webマーケティングなどを展開する企業(東証上場)で、「これからの時代に求められるAIとの向き合い方・関係性とは?」をテーマに授業を行いました。
生徒たちはAIの基礎知識や社会課題を学んだ上で、実際にAIコンパニオンアプリを制作。オンラインながら講師とライブでやり取りし、実践的なアドバイスや感想を受けながら、自ら設定した課題に取り組みました。この授業を担当したのが、SIEが運営する「英国国立エセックス大学公認国際教育提携校 SAK University(以下、SAK University)」のコンピュータサイエンス×AIエンジニアリング専攻学科の専門講師です。
実務直結型の高等教育機関「SAK University」とは
「SAK University」は2025年9月に開校した、英国国立エセックス大学の教育プログラムを日本で学べる私立の高等教育機関。授業はすべて日本語で行われ、日本国内にいながら3年でイギリスエセックス大学の学士号、4年目で大学院課程修了資格(ポストグラデュエイト・ディプロマ)を正式に取得することができます。日本にいながら世界水準のIT教育を実現します。さらに、AIやサイバーセキュリティなど最先端のIT技術を学びながら、CCNA(※)などの国際資格取得も目指せる、実務重視の教育を行っています。
※Cisco Certified Network Associateの略。シスコシステムズ社が提供する世界的に認められたITネットワーク認定資格
土橋学部長に聞く「AI時代に通用する教育」の中身
20年以上ITスクールを運営してきたSIEが新たに開校した「SAK University」。そこではどのような教育が行われ、学ぶことでどんなメリットが生まれるのか。土橋直樹学部長に話を聞きました。
――まず、「SAK University」ではどのようなことが学べるのか教えてください。
土橋直樹(以下、土橋):昨年9月に「SAK University」を開校しましたが、実は社会人の生徒さんも多いです。大手の企業にお勤めの方や、医師や弁護士などの資格を持った方もいらっしゃいます。それはなぜかと言うと、やはり従来の大学ではなかなか実践的な技術を学ぶことが難しいからでしょう。ITにおける世界的な技術者資格は、3年に1回改訂があるものなど、数年で常識が一変します。ですから、現場の最新の技術を教えるには、現場理解が欠かせません。
「SAK University」は、22年の実績を持つITスクールとシステム企業を母体に持つため、現場で今まさに必要とされている技術(ベンダー資格やAI実装スキル)を即座に教育に反映できます。「卒業後に学び直す」のではなく、「4年間で実務直結の技術を身につける」という考え方が根本にあります。
探究心を持つ学生に求める資質とは
――高校から進学する生徒にはどのような方が多いのでしょうか。またどんな人に入学してもらえたらいいと思っていますか。
土橋:ITというとインドアな印象があると思うのですが、意外にも部活動などでスポーツを頑張ってきた子たちも多いです。一つのことを極めた経験がある人は、ITという新しい武器を手に入れた瞬間に爆発的な成長を見せます。現在の出願者の在籍高校の偏差値を見ると、おおむね60前後の層がボリュームゾーンとなっており、非常に意欲の高い生徒が集まっています。男女比も「男6:女4」と、従来のIT系学部に比べて女性の比率が高いのも特徴です。求める資質としては、「学校で教わるから勉強する」のではなく、「この技術を使って世の中を面白くしたい」「自分の価値を高めたい」と考える探究心のある人です。
AI教育で重視する「正解のない問い」
――今回参加された「探求インターン」では、どのような手応えを得ましたか。
土橋:高校生たちが挑んだのは、自分自身の「AIコンパニオン」を設計することです。「社会に何が足りないか」を問い、技術で解決策を形にするという、エンジニアの本質的プロセスを体験してもらいました。
AIの仕組みだけでなく、「気をつけなければいけないこと(倫理)」も学んだからこそ、アウトプットには、単なるアイデア以上の「責任感」と「深み」が宿っていました。AIは「正解がまだない」テーマです。だからこそ、生徒たちは「正解を探す」のではなく、「自分はどう考えるか」を突き詰めることができたのではないかと思います。
――SIEはもともとITスクールを運営されていたので、技術を教えるという点ではそれで十分だという考え方もあると思います。そこからなぜ「学士号(海外大学卒業資格)」を取得できる高等教育機関、「SAK University」へと進化させたのでしょうか。
土橋:ITエンジニアとして現場で通用するレベル(CCNA/CCNP(※)等の高度資格取得や実務演習)になるには、真面目に取り組んでも3〜4年の歳月がかかります。ただ、民間のスクールでは、 3年学んでも、得られるのは「技術」と「資格」のみです。私は同じ時間を使うなら、学位も取得できるべきだと考えました。
教育をする者は、その時間が、教える人間や何らかの座組みの違い、もしくは国の法制度の違いによって差が出るということは本質的にあってはならないと考えています。 海外で働く際やビザ取得時、学位の有無は大きな壁になります。18歳で学んだ技術は3年で古くなりますが、「英国国立大学の学位」という事実は、50年後も、たとえ日本がどのような状況になっても、世界中で「高等教育を受けたエンジニア」であることを証明し続けることができるのです。
※Cisco Certified Network Professionalの略。シスコシステムズ社が認定する中・上級のネットワークエンジニア資格。
英国国立大学との提携に込めた狙い
――その提携先として「英国国立エセックス大学」を選ばれた理由を教えてください。
土橋:「世界的な評価を得ている大学」でありながら、「実務に直結する教育」を重視し、さらに「日本語で学ぶことの効率性」を理解してくれた、唯一の大学だったからです。実は、エセックス大学側から「日本の優れたIT人材育成の基盤を持ったSIEと提携したい」というオファーをいただいたことがきっかけでした。イギリスでは、国費を投じる国立大学である以上、社会や産業に役立つ教育を提供すべきだという考え方が根底にあります。中でもエセックス大学は、「理論」だけでなく「産業界でどう生きるか」を重視する風土があり、ITのように変化の激しい分野を柔軟に取り入れる土壌が整っていました。
また、提携先を探す際、多くの海外大学は「英語で授業を行うこと」を条件としていましたが、それではIT技術を深く理解する前に語学の壁にぶつかってしまいます。その点、エセックス大学は「技術の本質を学ぶのであれば、母国語(日本語)で学ぶことが効率的である」というSIE側の考え方に理解を示してくれました。さらに、英国の大学評価(Teaching Excellence Framework:TEF)で最高評価の「Gold」を獲得するなど、国際的にも高い評価を受けており、コンピュータサイエンス分野においても高い研究力を有しています。
――選択肢としてオンラインで学ぶこともできますが、そこにはどのようなメリットがあると考えていますか。
土橋:場所の制約をなくすことで、どこにいても優秀な講師とつながれる点は大きなメリットだと思います。またコスト面でも、地方出身者が都市部の大学に通う場合、仕送りや家賃などで数百万円規模の負担が生じることがありますし、本国のエセックス大学に留学するとなると学費もさらに高額になります。オンライン学習は、そうした経済的負担を抑えられる選択肢にもなります。
――「SAK University」の卒業生は、社会でどのような活躍ができると考えていますか。
土橋: 4年間、現役エンジニアから実務に即した教育を受けるため、履歴書上は「英国国立エセックス大卒」でありながら、中身は「3〜4年の実務経験者」に近い働きができると思います。また、学位取得と並行してCCNAやCCNPなどの国際資格の取得を目指せるため、企業の採用担当者が即戦力性を客観的に判断しやすくなります。さらに、エセックス大学の学位は海外で働こうと考えている方にとっては、非常に有利に働く可能性があります。世界標準の学位とITスキルを備えることで、国内外で幅広いキャリアの選択肢が広がるでしょう。具体的には、最先端の「AIエンジニア」はもちろん、サイバー攻撃から組織を守る「ホワイトハッカー」、あるいは最新技術を駆使した「次世代ゲーム開発者」など、これからのデジタル社会の最前線で主役となる職種での活躍を想定しています。
AI時代に求められる人材像とは
――未来に求められる人材はどのような人だと思いますか。
土橋:AIがコードを書く現代において、「単に手を動かす力」よりも「全体を理解し、統合する力」が重要になると思います。AIを単体で学ぶのではなく、システム全体の構造を理解した上で、AIをどこにどう組み込むかを判断できる能力が、これからのエンジニアにとって重要なスキルになるでしょう。
かつては掲示板づくりやゲーム開発がエンジニアの入り口でしたが、今はAIがその入り口になりつつあります。そこをきっかけに、裏側にあるコンピュータサイエンスの本質に興味を持ち、自ら学び続けられる人材を「SAK University」でも育てていきたいと考えています。