近年、ミドルエイジ層を中心に「これからの働き方」や「社会との関わり方」を考える中で、介護・福祉の仕事に関心を持つ人が増えています。キャリアアップやこれまでの経験をきっかけに「誰かのため・社会のために役立つ仕事に挑戦したい」、「自分の経験や体験を活かしたい」、そんな思いで再スタートを考える人もいます。そんな方々のために、介護の仕事の魅力を伝えるウェビナーが開催されました。 (司会:町亞聖さん、会場:朝日新聞東京本社)
子育てがひと段落したから、人生100年時代のキャリアを見直したいからなど様々な理由から「新たなキャリアの選択肢」として“介護の仕事”に関心が集まっています。そこで朝日新聞では介護・福祉の専門家と実際に現場で働く方から話を聞くことで、介護の仕事について広く、深く知ってもらうためウェビナーを開催しました。
ご登壇いただいたのは、介護・福祉の専門家で昭和女子大学教授の北本佳子さん、社会福祉法人ながよ光彩会特別養護老人ホームかがやき施設長の原田竜生さん、社会福祉法人長岡福祉協会介護老人保健施設新橋ばらの園所属の山﨑紀子さんです。ウェビナーでは、三つのテーマに沿ってそれぞれの立場から介護の仕事の魅力やこれからの可能性について語っていただきました。
<三つのテーマ>
- 介護の仕事になぜミドルエイジが求められているのか
- 介護職のキャリアアップと成長の機会
- 仕事復帰を考えているミドルエイジ層へのアドバイス
生涯続けられる、世の中が不安定でもなくならない仕事と考え、他業種からの転職を決めた山﨑さんは「毎日違う景色を見ることができる」とその魅力を語ります。さらに特別養護老人ホームの施設長を務める原田さんは「ミドルエイジの方は、それぞれが培ってきたスキルを現場で活かせるはず」とミドルエイジの方々が、介護の現場で必要とされていることを強調。介護・福祉の専門家である北本さんは「AIにとってかわられることなく、社会のためになる。様々な働き方の選択、キャリアアップや独立の可能性もあります」と「介護の仕事」の奥深さを語りました。
テーマ①介護の仕事になぜミドルエイジが求められているのか
——まずは、異なる職種から介護の仕事に転職し、現在も現場で活躍されている山﨑さんに、現在の仕事の内容や転職のきっかけについて教えていただければと思います。
山﨑:飲食や事務職など様々な業種で働いてきました。しかし、この先ずっと安定的に働いていくことを考えた時に、手に職をつけたいと思いました。そんなタイミングでハローワークへ相談に行くと、介護福祉士実務者研修の講習が申し込み期間中で、背中を押されるように申し込み、講習を受けて資格を取り、働き始めました。
——原田さんの施設にも他業種から転職されてきた方や子育て中の職員が多いと伺っています。
原田:ご家族の介護をきっかけに、介護の仕事に就く方もいれば、山﨑さんのようにハローワークを通じて入ってくる方もいます。介護の仕事は「難しそう」とか「経験がないと無理そう」と思う方も多いようですが、ミドルエイジの方々には、社会や家庭で培ってきた経験があり、コミュニケーションの能力や相手への気配りなど、それぞれの経験を生かせる職場だと考えていただければと思っています。
——ミドルエイジの方々の経験が生きる働き方ができるということですね。北本先生のお立場からはいかがでしょうか。
北本:コロナ禍の時、医療や福祉、介護の仕事について「エッセンシャルワーカー」という言葉がよく聞かれました。これは、社会の機能を維持し、人々の日常を支えるために不可欠な業務に従事する人を指す言葉です。実際にコロナ禍においてデイサービスが利用できない、ホームヘルパーの方が来られないとなると、利用者の方はもちろんですが、一緒に暮らすご家族の方が仕事に出られないということが起こりました。介護の現場で働く人は、「利用者さんのため」と思って働いていると思うのですが、実は家族のためでもあるし、社会のためでもある、社会経済に大きな影響を与える重要な仕事だということを実際に従事している人も国民の方も再確認して頂きたいと強く思っています。
——暮らしの当たり前を守る仕事ということですね。山﨑さんは介護の仕事に対して、どんなことがやりがいだと感じていますか。
山﨑:近しい距離感で利用者さんと接することができるのは、とても新鮮でした。あとは、毎日同じではないところですね。ルーティンの仕事ではなく、何かトラブルが起きる日もあれば、穏やかに過ぎる日もある。毎日に変化があるのは、この仕事の魅力かもしれません。
原田:働く人のやりがいや働きやすさについても私たちの施設では重視しています。例えば、我々の施設では子連れ出勤OKという制度を設けています。働く方にとっては、子どもが視界の中にいるので安心です。しかしそれだけではなく、子どもがいると、利用者さんもとても喜んで笑顔が増えます。また、お子さんにとっても、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんのような世代の方と接する機会はあまりないので、お互いのコミュニケーションを通じて、自然に福祉を学べるなど様々なメリットが生まれました。
北本:介護の仕事のやりがいとして山﨑さんが毎日の変化とおっしゃっていましたが、専門性の高さもやりがいにつながってくると思います。利用者の方への自立支援や自己決定と権利擁護、そして言いたいことを代弁する力、利用者の方の潜在能力や強み等を引き出すなどの専門性を発揮できる仕事です。様々な視点を持つと、いろいろな魅力ややりがいが見えてくる仕事だと思います。
テーマ②介護職のキャリアアップと成長の機会
——介護の仕事は、社会人経験や実務経験を生かせる専門性の高い仕事であり、キャリアの広がりが大きな仕事であることもおわかりいただけたと思います。ここからはキャリアの築き方と成長の機会についてお聞きしていきたいと思います。まずは山﨑さんのご自身のキャリアアップの体験について聞かせてください。
山﨑:介護の仕事を始めてから、3年の実務経験を積んで介護福祉士の資格を取得し、そのまま5年続けてケアマネジャーを取得しようと考えていました。3年勤めて介護福祉士を取得したあと、自分には現場の仕事がとても合っていたので、ケアマネジャーは取らなくてもいいかなと考えていました。ただ、将来のことを考えた時にこの仕事は体力勝負だし、年齢を重ねて体がつらくなったりした際には、ケアマネジャーの資格を取得しておけば長く働き続けることができるのではないかと考えました。職場から資格取得のための費用のサポートがあったことも大きかったです。
原田:私たちの施設では、資格取得者に対して手当をつけており、資格取得によって継続的に収入が安定するようにしています。介護の仕事は現場に入ってからでも資格取得によってキャリアアップしていける仕事です。ミドルエイジで介護や福祉の現場に携わったことがないという方でも、ハンディなく働けると思います。
北本:介護や福祉の世界には、キャリアアップやキャリアチェンジの可能性がたくさんあります。山﨑さんのように、他業種から介護職へと転職される方も多いですし、大学や専門学校で福祉を学び、資格を取ってから現場に入るというパターンもあるでしょう。また結婚や子育てなど、ライフステージの変化とともにキャリアチェンジする方もいらっしゃいます。40代、50代になって社会や地域に貢献できる仕事をしたいと介護や福祉にチャレンジする方もいます。副業という形でスタートするというパターンもあるでしょう。さらに、介護や福祉の仕事は、全国のどこでも必要とされています。つまりどこにいても、何歳からでもキャリアチェンジでき、キャリアアップをしていくことが可能なのです。
テーマ③仕事復帰を考えているミドルエイジ層へのアドバイス
山﨑:介護職に就いて10年ほどたちますが、手に職をつけたことは、これから働き続ける上での強みだと実感しています。ミドルエイジの方々が持つキャリアは、どんな経験でも介護の仕事に生かせるのではないでしょうか。いろいろな職場で働いてきたスキルが現場で生きているなというのは、実際に働いていて感じています。私の場合は、その時々の出会いやタイミングで深く考えずにこの業界に飛び込んだのですが、この通り仕事を続けることができています。もしも少しでも興味があったら、まずはどんな形からでもいいので飛び込んでみてほしいです。
原田:転職はとても勇気のいることだと思います。異業種からだったらなおさらのことです。入ったけれど続かなかったということが、働く人にとっても雇用する側にとってもデメリットになってしまいますので、転職の前にぜひ見学や体験をしてみてほしいと思っています。見学をするとその施設やホームの雰囲気がよくわかります。入居する方だけではなく、働く人にも見学や体験の機会を作ってほしいですね。
北本:「仕事に求めることは何か」というアンケートを実施すると、コロナ禍以降は「安定」を求めている人が多くなっています。また、AIが進化して人の仕事がなくなるかもしれないと言われている中、対話力や共感力、コミュニケーション力が問われる介護や福祉の仕事は、人間にしかできない部分が多いと言えます。介護や福祉の仕事は、安定しており、なくなるという心配がありません。さらに、施設やホームの利用者さんは、地域住民でもあります。介護の現場で必要とされていることは、地域のニーズでもあり、そのニーズを地域の方を巻き込んで解決することで、地域づくりの一翼を担うことができることを考えると、クリエイティブでとても魅力的な仕事なのです。
——みなさんのお話を伺い、人生100年時代、何歳になってもチャレンジすることができるのだということがわかりました。本ウェビナーが介護の仕事への理解を深めるだけではなく、ご視聴くださった方のキャリアを見直すきっかけとなれば幸いです。本日はありがとうございました。
本事業は、「令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)として実施しています。