明治・大正期の実業家で大倉財閥の創設者、大倉喜八郎が1900年に創設した大倉商業学校を前身とする東京経済大学は、創立120年以上の歴史と伝統を誇る。「困難に出合ってもひるまずに、なお一層前に進む」ことを意味する「進一層」の気概を持ち、「責任と信用」を重んじる建学の精神のもと、「社会科学の総合大学」として「考え抜く実学。」を実践している。2026年4月1日、学長に就任した小川英治氏に、大学のさらなる発展に向けた取り組みについて聞いた。
「ゼミする東経大」。
実学重視の教育・研究をさらに発展
「明治の時代において、諸外国と対等に取引できる経済人を育成するためには、ビジネスのノウハウばかりではなく、相手から信用されることの重要性を大倉喜八郎は説いています。それが本学の教育や研究の原点です。経済学部、経営学部、コミュニケーション学部、現代法学部を擁する『社会科学の総合大学』として、その精神を受け継ぎ、実学重視の教育・研究をさらに発展させ、新たな社会課題に対してソリューションを提供できる大学にしたいと考えています」
小川英治学長は就任にあたってそう抱負を語る。
国際金融を専門とする小川学長は、学外では財務省関税・外国為替等審議会会長、ANAホールディングス社外監査役、日本生命保険相互会社評議員などを歴任してきた。
「学外で得た知見を本学の教育・研究活動に生かしていきたいと考えています」(小川学長、以下同)
東京経済大学の学びの特徴は「ゼミする東経大」と言われるほど、少人数クラスで教員や仲間とともに研究テーマを掘り下げていくゼミナール(演習)が充実している点にある。
「約6700人(2025年5月1日現在)の学部学生が学ぶ本学は小規模ではなく、また大規模でもない中規模の大学といえます。大きすぎない分、教員と学生の距離が近く、お互いの顔が見える学びの環境が特徴です。それを象徴しているのがゼミ活動です」
大学生として学ぶ技術と力を身につける1年次向けの「入門ゼミ」に始まり、2~4年次には教養教育科目を学ぶ「総合教育演習」や、学部学科の専門的な知識や技能を習得するための「専門ゼミ」といった多彩なゼミが用意されている。その数は139種類(2026年度)にも及ぶ。さらに特徴的なのは、経済学部の学生が経営学部の、経営学部の学生が経済学部のゼミを受講することも可能な点で、学部の垣根を越えてゼミが履修できるのは珍しい。
小川学長が2025年度に担当した経済学部の国際金融論のゼミでは、約20人の学生が四つのグループに分かれてグループワークを実施した。研究テーマは学生自らが決め、資料収集、議論、分析。12月に研究成果を発表、学生同士がディスカッションする研究発表会を経営学部のゼミと合同で行った。円安によって輸入品の価格が上昇し、国民生活に直結する物価高の現象を国際金融の観点から研究したグループもあった。
「学生は12月に開催されるゼミ研究発表会に向け、4月から自ら研究テーマの設定を始めます。資料集めなどの準備を手始めに、研究発表の内容をパワーポイントにまとめ、プレゼンの練習は繰り返し行いました。プレゼンでは私から難しい質問などもしましたが、学生は全員、『先生や学生同士で議論することができて鍛えられた。特に、4月から12月までの長い月日を費やし、自分たちで設定した経済の課題を分析し、その課題に対する対応策などのソリューションを仲間と一緒に考えて、達成感を味わえた。ゼミに参加してよかった。感動した』と喜んでくれています」
高校では2022年度から探究型学習(総合的な探究の時間)が必修化されている。東京経済大学でも、経済学部、経営学部の入試制度の一つとして、受験生が高校での探求型学習の成果を発表する「探究活動評価選抜」を行っている。
「高校の探究型学習は課題を見つける教育プログラムです。本学では課題発見にとどまらず、ゼミを通して課題に対してソリューションを提示できる能力を身につけ、社会の即戦力として活躍できる人材の育成を目指しています」
学部独自の多様な選抜制プログラムを展開
さらにより高い次元で専門性を高めたいと希望する学生に対しては、学部独自の選抜制のプログラムが用意されている。
経済学部には、金融業界の最先端を知り、学術的な理解の強化と実務スキルにつなげるための「金融選抜プログラム」がある。また、公務員、政府関係機関、商工団体、シンクタンクなどでの政策立案者としての能力を高める「公共選抜プログラム」もある。経営学部では2026年4月、将来的に起業を志す学生にアントレプレナーとして必要な知識やノウハウ、マインドを身につける機会と経験を提供する「アントレプレナーシップ養成プログラム」が始まった。コミュニケーション学部では2027年度、旅行会社や航空会社など国際観光分野において実践的な英語力と観光に関する専門性を備えた人材の育成を目的とした「国際観光プログラム」がスタートする。
「時代はどんどん変わっていきます。既存の選抜プログラムだけでなく、時代のニーズに合わせた新しいプログラムもつくっていきたいと考えています」
東京経済大学では、学生の卒業後の進路を支援するさまざまな制度も充実している。資格取得や語学力の習得を目指す学生に対する「アドバンストプログラム」は、公認会計士や税理士試験の在学中合格を目指す「会計プロフェッショナルプログラム」や、オーストラリアか中国に、休学不要、研修費は大学負担で約5カ月留学できる「グローバルキャリアプログラム」などで構成される。「キャリア・サポートコース(CSC)」は、資格試験対策に定評のある専門学校と提携。割安な受講料で「学内ダブルスクール」を実現できる資格取得を支援する講座だ。
経済的な支援制度も豊富だ。例えば、下記のような独自の奨学金制度(給付・返済不要)がある(条件等は2025年度参考)。
定員100人 学業成績が優秀で、家計困難な学生(募集対象2~4年生)
※年間36万円(月額3万円)
定員9人 学業成績が優秀で、家計困難な学生(募集対象2~4年生)
※年間42万円(月額3万5000円)
定員250人 家計支持者(父母、保証人等)が東京都(島しょ部を除く)、神奈川県、埼玉県及び千葉県以外に居住し、入学後は自宅外から通学する学生
※年額50万円×原則4年間
「東経大WOW!プロジェクト」で多様性を推進
東京経済大学では、キャンパスの多様性も推進している。その一例が2024年秋にスタートした女子学生、女性教職員を対象とする「東経大WOW!プロジェクト」だ。
「WOW!は英語で驚きや喜びを表す言葉ですが、もう一つ、Well-being Of Women(女性にとってよい状態)の意味があります。誰もが自分らしくいられる、居心地のいい毎日をつくるための取り組みを強化しているところです。本学では、例えば、金融機関に就職した卒業生が現役学生向けのイベントやシンポジウムでロールモデルを提示してくれています。WOW! プロジェクトにおいてもさまざまな業種におけるロールモデルを提示し、卒業後の自分の姿をイメージできるようと取り組んでいきたいと考えています」
2026年4月には、国分寺キャンパスの正門前に女子学生寮「葵レジデンス」(定員38人)が開設される。生活そのものが「学びの場」となることをコンセプトとし、セキュリティー対策や寮生サポートも重視した寮である。
東京経済大学のよさの一つは、学びの環境の素晴らしさだと小川学長は話す。
「国分寺キャンパスは緑豊かで、キャンパス南側には『東京の名湧水57選』に選定されている新次郎池を中心とする『東経の森』もあります。高校生や受験生にはぜひ一度、本学のキャンパスを見に来ていただきたいですね」
創立120周年記念事業「国分寺キャンパス第2期整備事業」の一環として新施設「葵テラス」の建設が進む。学生たちの自由な交流を促し、多様なキャンパスライフを支える施設だ。「葵テラスEAST」は2026年9月、「葵テラスWEST」は2028年9月の利用開始を予定している。
2026年、創立126年を迎える東京経済大学。教育・研究プログラムの高度化、「葵テラス」など施設面の充実。「社会科学の総合大学」としての基盤をさらに強固なものにし、変化の激しい時代においてソリューションを提案できる多くの人材を育成したい――。小川学長は東京経済大学の未来をそう思い描く。
取材・文/西島博之 撮影/小山幸佑 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部