毎日多くの人々が行き交う神奈川県のターミナル駅、横浜駅。地域の発展に貢献してきた相鉄グループは、人と人との出会いや交流からウェルビーイングを生み出す次世代の街づくりを進めている。そのコンセプトとして掲げるのが、「Well-Crossing」だ。心の豊かさを感じられる街を、どのようにつくっていくのか。2040年代の完成を目指し「横浜駅西口大改造構想」と題した再開発を推進する株式会社相鉄アーバンクリエイツ(以下、相鉄アーバンクリエイツ)横浜駅西口事業部長の福﨑努さんと、ウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司武蔵野大学教授が語り合った。ファシリテーターは、元テレビ朝日アナウンサーでフローリストの前田有紀さんが務めた。
横浜駅西口の魅力は「ターミナル性」と「繁華性」
前田有紀(以下、前田) 横浜駅西口の特徴や他の街とは違う魅力は、どんなところにあると思いますか?
福﨑努(以下、福﨑) 相模鉄道をはじめ、複数の鉄道会社の乗り入れがある横浜駅は、一日に何百万人もの人が行き交います。商業が盛んで、企業や学校も多く、いろいろな人が集まる多様性のある街です。「ターミナル性」と「繁華性」を兼ね備えているのが、横浜駅西口の魅力だと思います。
前野隆司(以下、前野) せっかく多くの人が行き交っているのですから、どうしたらそこに対話が生まれるかを考え、実践すれば、もっともっと人と人がつながっていくはずです。人と話すことから、多様な価値観が身につく。すると、いろんなアイデアが湧いてきて、面白い気づきもある。多様性が高いほど人は幸せを感じることができるし、自分の生き方が豊かになっていくでしょう。
前田 相鉄グループは1952年に横浜駅西口の土地を取得してから70年以上にわたって街づくりに携わり、2024年9月から「横浜駅西口大改造構想」と題した再開発に取り組んでいます。人と人とが行き交う上で、どんな可能性が広がるのでしょうか。
福﨑 今までの街づくりでは効率化と合理性を求めがちで、余白がありませんでした。次世代の街づくりは「脱・合理」。余白をつくり出すことをキーワードに、人が立ち止まれるような空間をつくり、幸せや豊かさを感じてもらうことを大事にしていきたいです。出会いや交流のきっかけをつくるためのデザインを、街の設計図に入れていこうと考えています。
前野 世の中は「人を集めて売り上げを増やす」などという効率的・合理的な価値観よりも、「人が幸せに生きることの方が大事」という考え方に変わりつつあります。開発を合理的に進めざるを得ない面があるとは思うものの、うまく折り合いをつけて、人と人が「偶然出会う」といった予期していないものを取り入れられるように、ぜひ進めていただきたいです。
福﨑 街の発展のために、事業性という観点は切り離せないところではありますが、余白をつくりながら、人との関わりも生み出していくことにチャレンジしていきたいと思います。
人と人が偶然出会う「クロス」から生まれるウェルビーイング
前田 横浜駅西口のようなターミナル性がある場所での「偶然の出会い」は、どんな意味があり、どのような豊かさにつながるのでしょうか?
前野 ウェルビーイングの研究から言えば、人は「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」という四つの因子を持つことにより、幸せを感じることができます。このうち、「ありがとう」因子の別名は「つながりと感謝」。人と人がつながって感謝の言葉が行き交い、互いに助け合う関係性があると、「やってみよう」とやる気が出て、「なんとかなる」とチャレンジしてみたくなる。「ありのまま」でいるための自分の個性も、他者と相対化して分かるものですよね。ですから、人と人との交わり、つまり「クロッシング」が、あらゆる幸せをつくるもとになるんです。
先ほど福﨑さんが「出会いや交流のきっかけをつくるためのデザイン」とおっしゃっていましたが、「ここは人と人が出会う場所」ときちんと設計してしまうと、人は型にはまってしまう。なんとなく出会いたくなる場所と、集中できる場所が共存していることが大切です。つまり、設計しすぎない設計が「偶然の出会い」を生むのにとてもいいきっかけになると思います。
福﨑 まさにそれが、私たちがこれから目指す街づくりの方向性です。例えば、相鉄線沿いから横浜駅西口近くには帷子川が流れているのですが、水辺でくつろげるような場所はほとんどありません。再開発では、これまで活用されてこなかった空間も生かしていきたいと考えています。また、横浜駅西口大改造構想の実現に向けた取り組みで、2026年から「Well-Crossing Hub」というイベントも始めました。ワークショップや音楽イベントなどを通じて、地域住民や来街者、学生、クリエイターなど、さまざまな分野の人たちに交流していただき、新しい発想につなげてもらうことを目指しています。イベントをきっかけに子育て世代にも遊びにきていただける可能性も広げていきたいですね。
前野 イベントってワクワクしますよね。日常と違う新しい体験は創造性を刺激し、仕事や学びにも良い影響を与えます。人と人が交わることは、多様な人が仲良くなること。今、社会は分断の時代とも言われますが、これを止めるのが「クロッシング」と言えますし、個人も社会も、世界も幸せになれると思います。
「Well-Crossing」の要素をちりばめた、未来志向の街づくり
前田 個人もワクワクしながら、社会の活力も上げていけるということですね。先ほど「Well-Crossing Hub」というイベント名をうかがいました。ここで、相鉄グループが次世代の街づくりのコンセプトとして掲げている「Well-Crossing」について教えてください。
福﨑 私たちは、横浜駅西口の従来の魅力である「ターミナル性」と「繁華性」に、ウェルビーイングの要素を加え、街づくりを進めていきたいと考えています。ウェルビーイングにつながる行動や手段という価値を提供していきたいという思いから作ったのが、「Well-Crossing」というコンセプトです。街で生まれる「出会い」「交流」「創造」「追求」という四つのステップと、「働く」「暮らす」「遊ぶ」「学ぶ」という四つの営み、これらを掛け合わせた16個の要素(ファクター)がちりばめられている街づくりを目指しています。
前野 例えば、「学ぶ」×「創造」といった要素をクロスさせて自由な発想をつくる、といったウェルビーイングを実現していくんですね。さまざまな要素を掛け合わせ、出会いをつくりながら街を設計するという考え方は非常に新しいと思います。
前田 「Well-Crossing」の要素がちりばめられた街では、どんな風景が広がっているでしょうか。
福﨑 例えば水辺では、川でSUP(サップ)を楽しむ人がいて、その両岸では家族連れがくつろいでいる。駅前には芝生やマルシェが広がり、歩行者中心のショッピングストリートでは食べ歩きを楽しめる――。2025年、横浜駅西口の駅前広場に人工芝を敷いて、居心地のいい滞留空間をつくったらどんな効果があるのか社会実験をしたところ、利用者から非常に好意的なコメントが多かったんです。余白をつくることが街の魅力につながると実感したので、そういった風景をもっと増やしていけたらと考えています。
相鉄グループだけでは達成できないかもしれませんが、今、バスやタクシーが多く停車する駅前の空間を歩行者中心のものに変えていきたい。もちろん、地域のみなさまと一緒につくり上げていくものですから、しっかり対話し、横浜駅西口以外の地域とも連携しつつ、地元企業、行政、大学・研究機関とも共創しながら進めていきたいです。
前野 私は横浜市内に住んでいるので、横浜駅をよく利用しますが、駅の西口はごちゃごちゃしているところときれいなところが入り交じっていて、すごく人間味がありますよね。それらをうまく残しながら、地域の方々と開発を進めていくコツはありますか?
福﨑 確かに、ちょっとした路地があって込み入っているところも、横浜駅西口の魅力です。きれいな碁盤の目のような開発だけでなく、そういったものも残しながら、ライフスタイルの変化や建物の老朽化といった社会課題を解決していきたいです。
前田 私も横浜出身です。これまでは眺めるくらいしか川との関わりを持てなかったので、お茶をしたり、子どもたちとアクティビティができたりするようになるなんて、とてもワクワクします。自然とのつながりも、人が街に愛着を持つきっかけになりますか?
前野 もちろんそうだと思います。街に思い出に残る風景や場所があると、愛着も湧きやすくなりますよね。川や海が見える景色といった横浜らしさを生かしていけば、もっと愛着の持てる街になっていくでしょう。
そこにいるだけで幸せを感じられる「Well-Crossing」な都市へ
前田 横浜駅西口はこれから2040年代に向けて開発が進みます。具体的にどんな街になっていくのでしょうか。
福﨑 2026年の9月30日をもって、みなさまに愛されてきた映画館「相鉄ムービル(相鉄南幸第2ビル)」が閉館し、いよいよ本格的な開発のフェーズに入ります。その中で、地域の方々の願い、余白といったキーワードを一つひとつ丁寧に体現していければと思っています。長い年月をかけて、横浜駅西口をウェルビーイングあふれる「Well-Crossing」な都市へ生まれ変わらせていきたいです。
前野 ウェルビーイングをかなえるための計画と枠組みはきちんと設計するけれども、できた余白をどう使うかは自由で、みんなでつくっていくという新しい街にとても期待しています。みんなが幸せになる街づくりの見本になっていただきたいですね。
前田 私は子どもの頃から横浜駅西口を利用していて、両親、子どもたちと、三世代にわたって訪れているのですが、いろいろな過ごし方ができる街になるのはとてもうれしいです。日本のさまざまな街で再開発が進んでいる今、横浜駅西口の変化は、他の地域にどんな影響を与えますか?
前野 横浜はもともと港町で、国際的な交流があった街です。その横浜を起点に、それぞれの街が地域の特徴を活かした未来型の「クロッシング」をやっていくようになったら、より豊かさを体感できる場面が増えるようになるでしょう。
福﨑 商いをする人たちや買い物を楽しむ人たちが今も多くいる中で街を更新していくのは非常に難しい面もありますが、開発に伴い一時的にお店が閉まったとしても、新たな価値としてウェルビーイングの要素を加えることで、違う形で未来へと街の魅力をつないでいきたいと思っています。
そこにいるだけで幸せになる、何も目的がなくても、横浜駅西口に来たら幸せになって帰れる。実は、横浜駅西口エリアには北幸、南幸という町名があるんです。「ここが幸せを感じる場所にならずして何がある」という思いで、ウェルビーイングを体現する街づくりを進めていきたいです。
福﨑努
ふくざき・つとむ。1977年、神奈川県生まれ。幼少期から相鉄沿線の横浜市泉区で育つ。2001年に横浜地下街株式会社(現 相鉄アーバンクリエイツ)に入社し、商業・オフィス・住宅の各分野で経験を重ね、2024年に横浜駅西口事業部に着任。地域の方々や行政との対話を大切に、横浜駅西口の未来を形にする街づくりに取り組む。
前野隆司
まえの・たかし。1962年、山口県生まれ、広島県育ち。東京工業大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。キヤノン勤務、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学教授などを経て、2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長。慶應義塾大学名誉教授。ウェルビーイング学会代表理事。著書に『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント社)、『ウェルビーイング』(日経文庫)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など多数。
前田有紀
まえだ・ゆき。1981年、神奈川県生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして活躍。2013年に退職後、イギリス留学を経て東京都内のフラワーショップで経験を積み、2018年に独立。フラワーブランド「gui」を立ち上げ、21年に東京・神宮前に「NUR flower」、25年に鎌倉に「gui flower kamakura」をオープン。フローリストとして幅広く活動している。