ウェルビーイングな生き方を実現するために、私たちにできることはなにか――。一人ひとりの生き方に寄り添うことを目指す住友生命保険相互会社の高田幸徳 取締役 代表執行役社長と、ウェルビーイングについて研究する前野隆司 武蔵野大学ウェルビーイング学部長、そして今回は武蔵野大学ウェルビーイング学部3年生の2人を交えて座談会を開いた。世代を超えた対話から見えてきたのは、一人ひとりが夢を語り、挑戦できる社会のあり方だった。

この半世紀、幸せのかたちはどう変わったか

――まずはみなさんと「幸せとはなにか」から考えていきたいと思います。高田社長や前野教授は、学生のお二人のようなお若い頃には、どんなことに幸せを感じていましたか?

高田 私は1964年生まれです。日本全体が成長に向かっていた時代でしたが、今と大きく違うのは連絡手段です。電話はありましたがインターネットやSNSはなく、手紙や駅に設置された伝言板も使っていました。「待つ時間」の過ごし方を工夫したり、相手に思いを巡らしたり。情報を集めるときは、図書館や本屋に行ったり、人に聞いて回ったりしました。今ほど便利な時代ではありませんでしたが、仲間と同じ時間を過ごし、気持ちを分かち合う機会は多かったように思います。そうしたつながりの中に幸せを感じておりました。

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 「限られた選択肢の中に夢を詰め込み、自分で膨らませていく。そんな時代だったように思います」と学生時代を振り返る住友生命の高田幸徳 取締役 代表執行役社長

前野確かに今と比べると不自由でしたよね。渋谷のハチ公前で待ち合わせをして、結局会えずに帰ることもありました。でも、当時は景気が良く、「未来は明るい」という希望に満ちていた気がします。

最近は失われた30年を経て低成長となり、「未来に夢がない」と感じる若い世代も少なくないようです。だからこそ、幸せとはなにか、自分らしく生きるとはなにかを探究する場として、武蔵野大学にウェルビーイング学部を設立しました。誰もが未来に希望を持てる社会にしていきたいですね。

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「私も若い頃の夢は大きくて、総理大臣にでも社長にでもなれる。そんな気がしていました」と話す前野隆司 武蔵野大学ウェルビーイング学部長

――一方で、情報にすぐアクセスできる環境で育った岩田未衣菜さんと秦宇宙さんは、いまの時代の幸せをどう捉えていますか?

岩田私たちは誰かのSNSを通じて「こんな生き方もできるんだ」という事例を目にする機会が多いように思います。一つの正解にとらわれず、自分に合った生き方を選べるようになったことは、今の時代ならではの魅力です。自分らしく人生を“カスタム”していけることが、私たち世代にとっての幸せの一つではないでしょうか。

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「ウェルビーイング学部には大きな夢を持っている人が多いと感じます」と話す岩田未衣菜さん

秦僕にとっての幸せは「目の前の人と向き合って過ごす時間」かもしれません。スマホを触っていると、つい時間を無駄にしてしまうことが多くて……。だからこそ、スマホを触っていない時間を大事にしたいと思っています。大学ではよくみんなで夢について語ったり、学んだことを話し合ったりします。そんな風に、目の前の人にしっかり向き合える時間が好きですね。最近はSNSを通じて関心を持った社会人の方に、どういう生き方をしているのか聞いてみたくて、連絡を取ることもあります。スマホに時間を奪われるのではなく、人との出会いや学びにつながる使い方を見つけていきたいと思っています。

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「フィールドワークに出かけると、『この場所をもっと良くしたい』という話で盛り上がるんです」と普段の学習の様子も紹介してくれた秦宇宙さん

自分が幸せになれば、まわりも幸せにしたくなる

――そもそも、お二人はなぜウェルビーイングを学ぼうと思ったのでしょうか。学ぶ中で見えてきた「幸せ」のかたちについても教えてください。

岩田  私は高校時代、海外のインターナショナルスクールに通っていたのですが、コロナ禍がきっかけで日本に帰国しました。進路を断たれたような気がして、心身のバランスを崩してしまって……。これからの生き方を考える中で、「やっぱり幸せに生きていきたい。それなら具体的に幸せになる方法を学ぼう」と思ってウェルビーイング学部に入りました。

最初はどうすれば自分を満たせるのかを考えていました。でも学ぶうちに、まわりの人が幸せでなければ自分も幸せにはなれないと気づいたのです。今は、自分だけでなくまわりの人も幸せにしたいと思うようになりました。私が幸せを感じるのは、家族とお茶をしたり、親しい友人と他愛もない話をしたりする時間です。ほっとできるひとときを過ごしていると、「生きていてよかったな」と感じます。

高田  なるほど。「生きていて良かった」と感じる瞬間があるというのは、とてもすばらしいことですね。

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「ウェルビーイングレンジャーとしてウェルビーイングな世界を作っていく仲間が増えていくといいなと思います」と会話を盛り上げてくれた学生たち

 秦  僕は将来の夢を「世界平和」と表現しているのですが、戦争や紛争をなくすというより、まずは目の前にいる人や大切な人たち一人ひとりが、生き生きと暮らせる社会をつくりたいと思っています。ウェルビーイング学部に入る前は、「世界を変えるには自分が頑張らなければいけない」と考えていました。でも学ぶ中で、誰かのために行動したり、みんなで何かに取り組んだりすることが、巡り巡って自分の幸せにもつながるのだと気づきました。僕は仲間と久しぶりに会うときに幸せを感じます。災害などによって日常が突然失われることもあります。だからこそ、何気ない毎日を大切な人たちと一緒に過ごせることは、決して当たり前ではないと実感しています。  

変わる保険。人生100年時代の伴走者に

――時代とともに幸せのかたちも変わっているように感じます。そうした中で、生命保険会社にはどんな役割が求められているのでしょうか。

高田 生命保険会社の役割は、いざというときに経済的な保障を提供することです。仏教には人間の苦しみを表す「生老病死」という言葉がありますが、生命保険はこれまで、亡くなったときの保障から始まり、病気やケガへの備えと進化してきました。そして人生100年時代を迎えた今は、老後をどう支えるかも大きなテーマになっています。  

さらに私たちは、いま「生きること」そのものに目を向けています。人生を送るなかで何をリスクと感じ、何に喜びや楽しみを感じるのか。その一人ひとりの人生に寄り添うために、保険の概念を広げる「拡・保険」という考え方を提唱しています。  

その一例が、当社が2018年に発売した健康増進型保険“住友生命「Vitality(バイタリティ)」”です。健康になることで保険料が下がるだけでなく、より健やかに、より豊かに人生を送っていただくことを目指した仕組みです。保険の形が変わるなかで、私たちはウェルビーイングを支える生命保険会社でありたいと考えています。

前野  これは非常に画期的な取り組みだと思います。健康や幸せに気を配ることで、結果として長く豊かな人生につながるわけです。住友生命さんは保険を販売するだけでなく、ウェルビーイングを広げる存在になろうとしている。人の幸せをデザインするという意味で、まさに「ウェルビーイングデザイナー」の先駆例だと思いますね。

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  「仕事のとらえ方として、例えばモノづくりを、幸せをつくっていると思えば、見え方が変わってくるのではないでしょうか」と前野教授

――今、高田社長から新しい生命保険の形についてお話がありましたが、学生のお二人はどんなことを感じましたか?

岩田  よく寝て、栄養のあるものを食べることが健康につながることは知られていますが、どうしたら幸せになれるのかは意外と知られていません。保険を通じて、自分はどうしたら幸せになれるのかを考えるきっかけが生まれる。その仕組みがすごいなと思いました。

秦  120年近い歴史がある会社の中で、それまでの保険の概念を変えるような取り組みを浸透させるのは簡単ではなかったと思います。どのように社内で広がっていったのでしょうか。

高田  病気になるリスクに備えるのが生命保険なのに、「健康になってもらおう」という発想は、一見すると生命保険の役割と逆に見えます。最初は社内でもかなり抵抗がありました。そこで私たちは、「Vitality」発祥の地で、広く普及している南アフリカの現場を役員に見てもらい、粘り強く対話を重ねてきました。ウェルビーイングは目に見えにくく、自分ごととして捉えるには時間もかかります。それでも少しずつ理解が広がり、今では社員一人ひとりがウェルビーイングについて考える組織へと変わりつつあります。

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「モノやサービスだけでなく、その先の人や社会を考えると、よりウェルビーイングが広がるのではないでしょうか」と高田社長

 見えない幸せを、どう「見える化」するか

――ステークホルダーとともにウェルビーイングを可視化する「ウェルビーイング共創価値」についてうかがわせてください。

高田  ウェルビーイングは漠然としていて目に見えにくいものです。だからこそ私たちは、その価値をできるだけ「見える化」できないかと取り組んでおります。例えば、「Vitality」の根底にあるのは、日本人の健康寿命を延ばしたいという思いです。平均寿命は延び続けていますが、健康寿命との間には依然として大きな差があります。その差を縮めるために、住友生命では健康寿命を独自に計測し、企業や自治体単位で「見える化」する取り組みも進めています。これに加えて、お客さま自身が人生や日常をどう感じているのかという「ウェルビーイング実感」についても測定し、私たちの取り組みがどのような変化につながっているのかを捉えていきたいと考えています。

また、私たちはお預かりした資金を運用する際も、単に収益だけでなく、SDGsやCO2削減など、社会に生み出す価値を計測している投資先を増やすよう努めています。自社だけでなく、社会や世界にどう貢献できるか。ウェルビーイングは、私たちだけで生み出せるものではありません。お客さま自身の行動があり、地域や自治体、パートナー企業など、さまざまな人や組織と一緒につくっていくものです。そうして生まれた価値を可視化し、社会に示していこうという考え方が『ウェルビーイング共創価値』です。

前野  「共創価値」はウェルビーイングの本質そのものだと思います。誰かとともに価値をつくること自体が幸せですし、その中で自分らしさや創造性を発揮することにも幸せがあります。 また、可視化には大きな意味があります。見えると目指せる。目指せるから前に進める。私たちも学生のウェルビーイングを毎学期測っていますが、測ることで変化や成長が見えてきます。

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昭和と令和、異なる時代に学生時代を過ごす4人が、幸せと夢のあり方を熱く語り合った

夢を語れる社会をつくるために

――最後に、住友生命が目指す未来について教えてください。

高田  先ほど、夢や挑戦のお話がありましたが、人が夢に向かって一歩踏み出すためには、その土台となる安心も必要だと思っています。だからこそ、人生100年時代を迎え、生命保険会社の役割はこれまで以上に広がっていると考えています。年齢を重ねるにつれて、人生にはさまざまな楽しみや挑戦がある一方、悩みやリスクも増えていきます。私たちは、そうした人生のペインポイントをどう見える化し、減らし、備えていくかを考えています。

その実現に向けた取り組みが「スミセイWX」です。これは「ウェルビーイング・トランスフォーメーション(変革)」と「ウェルビーイング・エクスペリエンス(体験)」を掛け合わせたもので、商品やサービスを通じて、一人ひとりの暮らしの中にウェルビーイングを体験価値として届けていこうという考え方です。私たちは自らの役割を「人生の伴走者」と捉え、WXを経営の中枢に据えながら、その具体化に取り組んでいます。

――学生のお二人は、今日の対話を通じてどう感じられましたか。

岩田  未来が見えにくい時代だからこそ、さまざまな選択肢があり、困ったときに相談できる人や知識を得る場所があり、未来を少しずつ自分の力で変えていけることが大切なのだと思います。私たちが今、生き生きと学べているのも、そう信じられる社会があるからです。保険会社は、もしものときに支えてくれる存在だと思っていましたが、そうした社会そのものを支える役割も担っているのだと感じました。

秦  僕も保険会社は、何か大きなことが起きてから関わるものだと思っていたので、人生に寄り添うという姿勢で取り組んでいるとわかり、身近に感じられるようになった気がします。 

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「若い人たちには健全な野望を持ってほしい」とエールを送る高田社長

――最後に、お二人と同じ若い世代のみなさんに向けて、メッセージをお願いします。

高田  若い世代が何を考え、何を求めているのかを知ることは、私たちにとってとても大切なことです。本日の座談会もそうですが、世代を超えてつながり、対話を重ねることが未来をつくる第一歩だと思います。若い世代が幸せを感じられない社会にしてはいけません。夢を持ち、その夢に挑戦できる社会をつくることは、私たち大人の責任でもあります。私はよく「健全な野望」と言うのですが、これは、誰かの役に立ちたい、新しい価値をつくりたい、社会を少しでもよくしたいという志です。お二人のように健全な野望を持ち、自分らしく挑戦を続けていただきたいですし、それを応援していきたいと思っております。

前野  ウェルビーイングを中心に据えると、人は前向きなエネルギーを持ち、社会をより良くするために動き出せるのだと改めて感じました。高田社長は生命保険を通して、私はウェルビーイング教育を通して、そして学生の二人もそれぞれの立場から、より良い未来をつくろうとしている。その根っこには同じ思いがあるのだと思います。ウェルビーイングを通じて、誰もが夢や希望を持てる社会をつくる。その輪をこれからも広げていきたいですね。 

高田幸徳
たかだ・ゆきのり。1964年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒。1988年住友生命保険相互会社に入社、営業企画部長、企画部長、執行役常務などを経て、2021年より取締役 代表執行役社長。住友生命が力を入れる健康増進型保険“住友生命「Vitality」”を準備段階から担当した。

前野隆司
まえの・たかし。1962年、山口県生まれ、広島県育ち。東工大修士課程修了。キヤノンやハーバード大学客員教授などを歴任。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長。慶應義塾大学名誉教授。著書に『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント社)、『ウェルビーイング』(日経文庫)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など多数。